境界のない、寛容な世界を体感する
静岡県浜松市から少し離れた都田に、衣食住丸ごと北欧の暮らしを体感できる「ドロフィーズキャンパス」はある。約1万坪の敷地には、北欧の名作家具が置かれた居心地の良いカフェや本屋、ギャラリーなど30以上もの施設が点在し、北欧好きにはたまらない。
現地に辿りつくと、初めて見る光景に少し驚く。キャンパスという名から独立した敷地を想像するが、実際には塀も囲いもなく、エントランスと思しきものもない。ドロフィーズキャンパスのカフェやショップは町の中に点在し、隣り合う住民の家とのどかに交じり合っているのだ。
現地に辿りつくと、初めて見る光景に少し驚く。キャンパスという名から独立した敷地を想像するが、実際には塀も囲いもなく、エントランスと思しきものもない。ドロフィーズキャンパスのカフェやショップは町の中に点在し、隣り合う住民の家とのどかに交じり合っているのだ。
「今、私たちがこの場所で伝えたいメッセージは、境界のない、寛容な世界の素晴らしさです」と、同施設を率いる都田建設の代表取締役、蓬台浩明氏は語る。
聞けば、ドロフィーズキャンパスの敷地や施設はほぼ全て、住民から無償で提供されているという。譲り受けた土地や空き家を活かしているので、住民との隔たりはない。
「都田は10年ほど前まで、猫も歩かないといわれるほど過疎化した町でした。若い人は都会に出て行ってしまい、高齢のお年寄りばかりが取り残されていたんです」
それが今では、この小さな町に全国から多くの人々が訪ねてくる。この場所でしか体感することができない、穏やかなスローライフに魅了されて。
聞けば、ドロフィーズキャンパスの敷地や施設はほぼ全て、住民から無償で提供されているという。譲り受けた土地や空き家を活かしているので、住民との隔たりはない。
「都田は10年ほど前まで、猫も歩かないといわれるほど過疎化した町でした。若い人は都会に出て行ってしまい、高齢のお年寄りばかりが取り残されていたんです」
それが今では、この小さな町に全国から多くの人々が訪ねてくる。この場所でしか体感することができない、穏やかなスローライフに魅了されて。
「現在の国際問題もそうですが、世の中を見渡すと、境界線があることによって争いが生まれています。そうではなくて、少し境界線をはみ出しても許し合えるような世界、お互いが寛容であることから生まれる心地よさ、温かさを、この場所で感じ取っていただけたらうれしいです」
住民との信頼関係から始まった町づくり
創業者と1名の事務員だけで営まれていた小さな工務店、現都田建設に蓬台氏が入社したのは27年前のこと。以来少しずつ、自らが思い描く理想を形にしてきた。
当時の事務所は創業者の家の2階のロフト。3人は向かい合って仕事をしていた。しかし仕事が忙しくなると日を追うごとに社員も増え、人が出入りする騒音や明かりが、地域に迷惑をかけているのではないかと気がかりだったという。と同時に、日に日に空き家が増え、過疎化していく町の様子も目の当たりにしていた。
「お年寄りが多いので、事あるごとにごあいさつに伺い、困っていれば助けに行くように心掛けていました」
当時の事務所は創業者の家の2階のロフト。3人は向かい合って仕事をしていた。しかし仕事が忙しくなると日を追うごとに社員も増え、人が出入りする騒音や明かりが、地域に迷惑をかけているのではないかと気がかりだったという。と同時に、日に日に空き家が増え、過疎化していく町の様子も目の当たりにしていた。
「お年寄りが多いので、事あるごとにごあいさつに伺い、困っていれば助けに行くように心掛けていました」
そんなある日、注文住宅を手がけていた顧客から、家づくりだけではなく家具や雑貨、庭などもトータルで提案してほしいと要望された。それをきっかけに、ライフスタイルそのものを提案する店をこの町につくろうと、まずは空き家を借りてインテリアショップをオープンした。
するとしばらくして、「建物の前の土地を好きに使っていいよ」と、持ち主から無償の提供を受けたという。
するとしばらくして、「建物の前の土地を好きに使っていいよ」と、持ち主から無償の提供を受けたという。
「そこで庭を造らせていただいたら、こんなに奇麗にしてくれるのなら、うちの土地と建物も使っていいよ、と隣近所のおばあさんが言ってくださって」
そうして続いた「使っていいよ」という連鎖。蓬台氏の誠実な様子を、地域の人々は長年見続けていたのだろう。蓬台氏の考えや想いに賛同する輪は少しずつ広がって、今ではその数が32世帯にも及ぶという。
そうして続いた「使っていいよ」という連鎖。蓬台氏の誠実な様子を、地域の人々は長年見続けていたのだろう。蓬台氏の考えや想いに賛同する輪は少しずつ広がって、今ではその数が32世帯にも及ぶという。
土地や建物を買い上げて所有し、一方的に自分たちの思惑で町づくりをしていこうとする施策は数多くあるだろう。だが、ドロフィーズキャンパスは長年育んできた信頼関係の上に成り立っていて、地域の人たちと共生しながら発展してきたのだ。
「貸すことも売ることもできる建物や土地を、こうして無償で使わせていただけるのは本当にありがたいことです」と、蓬台氏は感慨深げに話す。
「貸すことも売ることもできる建物や土地を、こうして無償で使わせていただけるのは本当にありがたいことです」と、蓬台氏は感慨深げに話す。
しかしながら、ここは田んぼに囲まれた小さな田舎町。人が集まるはずもない。今のような活気が生まれるまでには5年以上の歳月がかかり、苦労も多かったと振り返る。経営者としてスピードを重視する立場でもある蓬台氏。悩み、それでも耐えて、この町に居続けることにこだわった。
「やはり創業の地ですし、住民の困り事にも応えながら地域に恩返しをしたいという思いがありました」
「やはり創業の地ですし、住民の困り事にも応えながら地域に恩返しをしたいという思いがありました」
オープンから10年余りが経ち、今では全国から訪れる人が後を絶たない。
「最初はお洒落そうだからと訪ねてくる人たちも、この場所に流れる時間や温もりが気に入って再訪してくれます。優しい、境界のない空気感を心地よく感じていただけているのかな、と思っています」
そんなドロフィーズキャンパスは今日、地域活性化の成功例として注目されている。
「最初はお洒落そうだからと訪ねてくる人たちも、この場所に流れる時間や温もりが気に入って再訪してくれます。優しい、境界のない空気感を心地よく感じていただけているのかな、と思っています」
そんなドロフィーズキャンパスは今日、地域活性化の成功例として注目されている。
社員の夢を叶えるために
実は蓬台氏にはもう一つ、大切な思いがある。この場所で社員たちの夢をかなえることだ。
「2007年に社長になったときに、社員全員に子どもの頃の夢を聞きました。すると学校の先生や陶芸教室、カフェなどいろいろありました。そこでみんなの夢を詰め込んだ町の絵を描いて、その絵をみんなでかなえようと事務所の壁に張りました。ドロフィーズキャンパスは、そのビジョンが形になったものでもあるんです」
「2007年に社長になったときに、社員全員に子どもの頃の夢を聞きました。すると学校の先生や陶芸教室、カフェなどいろいろありました。そこでみんなの夢を詰め込んだ町の絵を描いて、その絵をみんなでかなえようと事務所の壁に張りました。ドロフィーズキャンパスは、そのビジョンが形になったものでもあるんです」
今もそんな社員の夢を一つひとつかなえていきたいと目を細める蓬台氏。ドロフィーズキャンパスのDlofre’sは、Dream、Love、Freedomを掛け合わせた造語で、’sは携わる人々を複数形で表している。
ふと、蓬台氏の首からかかっている名札に目をやると、そこには「だいちゃん」と書かれていた。
「社員には、私のことをだいちゃんと呼んでもらっているんですよ。現在80名の社員がいますが、みんながお互いをニックネームで呼び合っています」
理由を聞くと、目上だからと萎縮することなく、自分の思いを誰にでも素直に伝えられる風土をつくりたいからだという。
ふと、蓬台氏の首からかかっている名札に目をやると、そこには「だいちゃん」と書かれていた。
「社員には、私のことをだいちゃんと呼んでもらっているんですよ。現在80名の社員がいますが、みんながお互いをニックネームで呼び合っています」
理由を聞くと、目上だからと萎縮することなく、自分の思いを誰にでも素直に伝えられる風土をつくりたいからだという。
その答えを聞きながら、「境界のない世界」という言葉を再び思い出す。こうした蓬台氏の一貫した姿勢が、信頼と優しさを生み、町の人々や社員、ひいては全国のドロフィーズキャンパスのファンを引きつけているのだろう。
そう伝えると、少し照れた笑みをたたえながら、自身の夢を告げてくれた。
「昨今のAIやテクノロジーとは異なるベクトルで未来の町をつくりたいな、と。人の心や、本来の私たちに合った大切なものを融合しながら、みんながそれぞれの夢をかなえて共生する町をつくっていきたいと考えています」
そう伝えると、少し照れた笑みをたたえながら、自身の夢を告げてくれた。
「昨今のAIやテクノロジーとは異なるベクトルで未来の町をつくりたいな、と。人の心や、本来の私たちに合った大切なものを融合しながら、みんながそれぞれの夢をかなえて共生する町をつくっていきたいと考えています」
多様性を受け入れる北欧のスローライフ
ところで、ドロフィーズキャンパスは北欧のスローライフをテーマにしている。心と体、環境に良い家造りを心がけていた都田建設が、同じ視点から雑貨や家具を仕入れていると、ある日北欧のものが多いことに気がついたという。
「自分たちが目指しているものと、北欧的な感性が合うことを知りました」
「自分たちが目指しているものと、北欧的な感性が合うことを知りました」
以来、積極的に北欧との交流を深めて、蓬台氏自身は日本フィンランド協会の理事となり、浜松フィンランド協会も立ち上げた。2019年には、国交樹立100周年を記念しておみこしをフィンランドへ贈呈している。
そんな蓬台氏に、北欧のスローライフを通じて伝えたいことは何かと聞いた。
「スローライフとは、ただのんびりと暮らすということだけではありません。自分がやりたいことを見つけ、人生を丁寧に生きることです」
「例えばフィンランドでは就職してからまたいつでも辞めて、1年ボーッとすることが許されています。日本では悪いレッテルを貼られかねませんが、フィンランドでは自分を見つめ直す時間が与えられるのです。その間、国からのサポートがありますし、大学に通い直す人も多くいます。そうすることを周囲が許容している社会なんですね。フィンランド型の自由はアメリカ型の自由とも少し違う。自分がやりたいことを見つけるまで周りが待ってくれる自由があり、相手を許し、受け入れていける多様性があるのです」
そんな蓬台氏に、北欧のスローライフを通じて伝えたいことは何かと聞いた。
「スローライフとは、ただのんびりと暮らすということだけではありません。自分がやりたいことを見つけ、人生を丁寧に生きることです」
「例えばフィンランドでは就職してからまたいつでも辞めて、1年ボーッとすることが許されています。日本では悪いレッテルを貼られかねませんが、フィンランドでは自分を見つめ直す時間が与えられるのです。その間、国からのサポートがありますし、大学に通い直す人も多くいます。そうすることを周囲が許容している社会なんですね。フィンランド型の自由はアメリカ型の自由とも少し違う。自分がやりたいことを見つけるまで周りが待ってくれる自由があり、相手を許し、受け入れていける多様性があるのです」
教育費は大学も含め基本的に無料で、社会福祉が充実している国であるからこそのゆとりなのかもしれないが、そうした考え方や生き方は、私たちも人生観の中に取り入れることができるのではないか。
「自分と向き合う時間の大切さを、この場所で少しでも感じていただきたい」と蓬台氏。敷地内にはあちらこちらに椅子が置かれていて、自然豊かな町の穏やかな風情を眺めながら、自分自身と向き合うことができる。
そうした価値観を伝えるために、「白のMINKA」という宿泊施設もつくった。実は日本の民家に由来するMINKAは、親日の北欧の人々にも宿泊してもらい、日本の良さを体感してもらう場でもあるという。互いの文化を知り、尊重し合う交流の場なのだ。
「自分と向き合う時間の大切さを、この場所で少しでも感じていただきたい」と蓬台氏。敷地内にはあちらこちらに椅子が置かれていて、自然豊かな町の穏やかな風情を眺めながら、自分自身と向き合うことができる。
そうした価値観を伝えるために、「白のMINKA」という宿泊施設もつくった。実は日本の民家に由来するMINKAは、親日の北欧の人々にも宿泊してもらい、日本の良さを体感してもらう場でもあるという。互いの文化を知り、尊重し合う交流の場なのだ。
人と自然が共生する社会へ
さて、この日の取材にはカーボンニュートラル社会の実現を目指し、電動化技術による走りの楽しさを追求するLEXUS初のBEV(電気自動車)UX300eで訪れていた。
排気ガスを排出せず、エンジンノイズもない静粛性が、この場所のクリーンな環境と静けさ、穏やかさを邪魔することなく心地よい。町中をゆっくりと走りながら、未来の社会の姿を少し垣間見たような気がした。
排気ガスを排出せず、エンジンノイズもない静粛性が、この場所のクリーンな環境と静けさ、穏やかさを邪魔することなく心地よい。町中をゆっくりと走りながら、未来の社会の姿を少し垣間見たような気がした。
ドロフィーズキャンパスは人のみならず、自然との共生を理念として掲げている。都田建設は2006年から環境問題に取り組み、地球環境に負荷をかけない企業基準「エコアクション21」を2008年に取得した。翌年には社内で使う電力をはじめ、家づくりでかかる電力の100%をグリーン電力化。ドロフィーズキャンパスの施設も、全てグリーン電力でまかなわれているという。
2014年には環境省より「カーボン・ニュートラル認証」を得て、以来毎年連続して認証を取り続けている優良企業。2015年には国連のオフィシャルサイト「ナスカ・ポータル」で、同社の環境活動の取り組みが世界に紹介された。
「自然と人が共存し、スローライフを通じて一人一人がやりたいことに目覚め、境界のない、多様性を受容する優しい社会のあり方を発信していきたいです」と、静かに語る蓬台氏。
その願いは、知人のアーティストに依頼したという壁面のアートにも込められていた。
「作品の先で羽ばたいている鳥は、この場所から世界へとメッセージを届けているイメージなんですよ」
そう言って指差す蓬台氏の視線は、さらにその先の未来を見ているようだった。
今後も広がり続けていくであろうドロフィーズキャンパスのスローライフな世界。これからもたびたび訪ねて、その心地よさに身を委ねてみたい。
その願いは、知人のアーティストに依頼したという壁面のアートにも込められていた。
「作品の先で羽ばたいている鳥は、この場所から世界へとメッセージを届けているイメージなんですよ」
そう言って指差す蓬台氏の視線は、さらにその先の未来を見ているようだった。
今後も広がり続けていくであろうドロフィーズキャンパスのスローライフな世界。これからもたびたび訪ねて、その心地よさに身を委ねてみたい。
ドロフィーズキャンパス
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