TECHNOLOGY

薄れゆく現実と映像の境目

2019.10.07 MON
TECHNOLOGY

薄れゆく現実と映像の境目

2019.10.07 MON
薄れゆく現実と映像の境目
薄れゆく現実と映像の境目

昨今、AI(人工知能)技術の進化により、映像表現に革命が起きている。人間の目で現実と区別がつかない、コンピューターグラフィックスによるリアルな映像が、さまざまなシーンで活用され始めているのだ。本記事では、その事例を紹介すると同時に、そうしたテクノロジーがもたらす未来について考える。

Text by Nobuyuki Hayashi
Photograph by Dmytro Aksonov / getty images

インテル社のTrueViewが生み出す驚異的なスポーツ中継映像

最近、海外のサッカーやアメリカンフットボール、バスケットボールのテレビ中継で驚く映像が流れることがある。ファウルやスコアをした直後のリプレイ映像で、カメラがある選手にズームインした後、その選手の視点からゴールや相手選手がどのように見えていたかを映し出すものだ。

この映像はintel(インテル)社のTrueViewという映像技術によるもので、2018年1月に発表されて以来、さまざまなスポーツ中継で活用されるようになった。

不思議な映像体験は、スタジアムをぐるりと取り囲むように設置された約40台の超高精細5K画質のカメラにより同時撮影することで実現している。

TrueViewのシステムでは、この約40台のカメラから送られてきた映像を瞬時に解析して、競技場内のボールや選手たちの様子を3Dデーターに変換している。

最近、3Dプリンターで人間のミニチュアを作るサービスがあるが、その際にも、最初にモデルの周囲をぐるりとカメラで取り囲む3Dスキャナー(ボディースキャナー)という装置で3D撮影するところから始まる。

モデルをさまざまな角度から同時に撮影することで、コンピューターはその人の立体的な形状を正確に把握し3Dデーターに変換。一度、3Dデーターに変換できると、カメラが撮影できないアングルでも、3Dデーターをベースに実際に見えるものと同様の画像を合成できる。インテル社のTrueViewは、これを静止画ではなく動画で行うシステムと言える。

その映像があまりにもリアルなので、我々はまるで魔法のカメラで撮影した映像を見せられているかのような印象を受けるが、実際に見ているのはカメラが映し出したものではなく、限りなくリアルに見えるコンピューターグラフィックスの映像なのだ。

インテル社は、同じ技術を使って映画などを撮影できるスタジオも作っており、今後、こうした映像表現が映画などでも使われる機会が増えそうだ。

社会問題になりつつあるDeepFake

昨今、AI技術の発展により、コンピューターが作り出す現実と区別がつかない映像は、我々に脅威を与えるレベルにまで達し始めている。

2019年6月、突如、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが、まるで自分がすべての人々のデーターを保持し、人類の未来を掌握しているかのような発言をする映像が公開され話題となった。実はこのザッカーバーグ氏が話す映像は偽映像だったのだ。

ザッカーバーグ氏の口や身振りを、あらかじめ用意されたセリフに合わせて動かすよう、AIによって合成されたものだ。これはイギリスで開催された展示会で披露された映像なのだが、そのあまりのリアルさに来場者は驚かされた。ザッカーバーグ氏以外にも、自社の下着ブランドを「Kimono」と名付けて話題になったキム・カーダシアン氏や俳優のモーガン・フリーマン氏、そしてドナルド・トランプ大統領の映像も公開されている。

こうしたAIのDeep Neural Network(深層畳み込みニューラルネットワーク)という技術で作られた映像は「DeepFake」と呼ばれており、今や大きな社会問題になり始めている。

ザッカーバーグ氏の映像は、我々を騙すためではなく、あくまでそのポテンシャルを見せることが目的だったため、声に関しては聞けば明らかに他者のものだと分かるものだったが、ワシントン大学はアドビ社の協力のもと、一度、人の声を学習させると、その声色で好きなセリフを語らせることができる技術を開発済みだ。

ワシントン大学では、この音声技術と映像のDeepFakeの技術を組み合わせて、実際はバラク・オバマ元大統領が言っていないセリフを本人の声で話す映像を2017年に公開し、世界に衝撃を与えている。

最近では、こうしたDeepFakeの映像をさまざまな方法で「偽映像」と判定するAIも出てきた。しかし、AI技術は常に学習し進化を重ねるもの。いずれは、その「偽映像判定AI」を上回る偽映像も作れるようになり、イタチゴッコが始まることは目に見えている。

「百聞は一見に如かず」を英語では「Seeing is Believing(見ることは信じること)」と言うが、我々は「見たことを素直には信じられない」時代に突入し始めているのだ。

この記事はいかがでしたか?

ご回答いただきありがとうございました。

RECOMMEND

LATEST