ENGINEERED TO PERFECTION九州の地で珠玉のエンジニアリングの世界を旅する
流線形のプロポーションが心地よいドライブフィールを想起させる LEXUS RC F を駆って SUPER GT 第 7 戦が行われる九州へと“エンジニアリングの旅”に出かける。道中訪れた、宇宙工学に不可欠とされる精巧さを備えたコーヒーマシン開発の現場から見えてきたデザインエンジニアリングの妙。そしてサーキットで磨かれる LEXUS のエンジニアリングが導く勝利を目撃した。
「形式は機能に従う」。あまりにも有名なこの格言の主は、ルイス・サリバン。旧帝国ホテルの建築で知られるフランク・ロイド・ライトと並び称される、アメリカの代表的建築家だ。
「機能を極限まで追求していけば、造形的な美はごく自然に成り立つ」とエンジニアリングの妙を根底にした見識だが、同様の哲学は建築のみならずプロダクトデザイン一般にも通用する。
たとえばクルマ、なかでも走行性能を追求するハイパフォーマンスモデルもその代表的な一例だろう。実際、LEXUS のハイパフォーマンスモデル「RC F」を前にすると、そのサリバンが説いた言葉の意味が立体的なボリュームをもって、見るものに語りかけてくる。
「すべてのデザインは走りの性能を極めるために」というテーマのもとつくられたRC Fには、クーペ形状の全体フォルムからエアダクト、エアアウトレット、エアロスタビライジングフィンのディテールにいたるまで、エンジニアリングを極めた走りの美が詰まっているのだ。
今回は、このRC Fを駆って風光明媚な九州の大地を走破した。最初の目的地は、宇宙工学に匹敵する精度をもったコーヒーマシンを開発・製造するスタートアップ企業のスタジオだ。
アップルの元エンジニアがつくるコーヒーミル
九州の地に降りたち、RC F を駆ってまず向かったのは、福岡県糸島市の山あいにスタジオを構えるリン・ウェバー・ワークショップス(LWW)。ここでアップル社の初代 iPod nano をはじめ、エポックメイキングなプロダクトを次々と手がけたデザインエンジニアが、尽きないコーヒー愛のために独立してコーヒーミルなど最新鋭のコーヒーマシン開発を行なっている。真っ赤な RC F で訪れた我われを迎えてくれたのは、アメリカ人のダグラス・ウェバー氏。九州大学に留学した経験もあり日本語を流暢に話すウェバー氏は、スタンフォード大学でエンジニアリングを学び、その後アップル社に籍を置いた。「成長期のアップルで特にデザインエンジニアリングの要職を任されとてもラッキーでした」と語るウェバー氏。13年のアップル社在職中も市販のコーヒーマシンを購入しては解体して研究・開発を続けていたが、自身が描く理想のコーヒーマシンを具現化するには「独立する」しか選択肢はないと決意したという。
運命の出会いから生まれたリン・ウェバー・ワークショップス
運命は、ときに望むべくもない数奇なマッチメイキングを生むこともあるが、ウェバー氏にとってのそれは、映画の都・ハリウッドでビジュアルエフェクトの権威として活躍するグレイグ・リン氏との出会いだった。リン氏もウェバー氏に負けず劣らずのコーヒー愛好家で、余暇にコーヒーマシンを解体・改造するのを趣味としていた点までウェバー氏と同一だ。この二人が出会い、2014 年夏、お互いの名字からその名をとったリン・ウェバー・ワークショップス(LWW)を立ち上げた。日本をベースとするウェバー氏に対して、リン氏はロサンゼルスを拠点とするため、24 時間体制でデザイン&開発できるのが彼らの強みだという。そんな LWW は現在、プロのバリスタ向け電動グラインダー(豆挽き機)「EG-1」、家庭でも使える手動グラインダー「HG-1」を筆頭とする主力プロダクトのほか、コーヒー豆の保存容器「セラー」や、豆を挽いた後にかく拌する「シェイカー」などのアクセサリーも揃えている。
ミクロの世界でコーヒー豆を挽く
LWW が誇るラインナップのなかでも現在のフラッグシップモデルが EG-1。高性能の電子顕微鏡を想起させる次世代的な形状をもち、5 ミクロン単位というミクロの世界で、コーヒー豆の挽き目を調整できる精巧さを実現している。「開発は心臓部でもあるグラインダーの刃から始めました。コーヒーの味を劣化させる使用済みの豆のカスが溜まらないよう、豆が自重でグラインダー内部に降りて、挽いた豆もまた自重でグラインダーの外に出る構造になっています。豆の挽き残りが全くないので、複数のシングルオリジンのコーヒーも、このグラインダーひとつでつくれます」コーヒー豆を思い通りの精度で挽くことは極めて重要だが、同様に重要なのがメインテナンスだ。通常のコーヒーミルだと、このメインテナンス部分がデザインから欠落しているという。その点 EG-1 は、グラインダーのカバー部分を強力な磁石のパーツによって設置しているため、工具を使うことなく掃除することができる。メインテナンスが終われば、磁力でカバーが元の位置に一寸違わず戻るため、メインテナンスを繰り返しても味の再現性は全く変わらないという。
革新的なプロダクトのリリースはさらに続く
まさに経験と革新的発想に裏打ちされたデザインエンジニリングの粋が詰め込まれた LWW のプロダクトだが、インタビューに熱心に答えてくれるウェバー氏の横にはエスプレッソマシンのプロトタイプらしきものが見える。「これまでのアイデアや知見をもとに全自動のエスプレッソマシンを現在開発しているところです。開発を始めてからすでに 1 年半ほど経っていますが、2019 年には発売する予定です」とウェバー氏。デザインエンジニリングを極める LWW が目指す理想のコーヒーを探求する旅は、またひとつステップアップして次なる章を迎えつつある。
ウェバー氏は、母国に住む父親が元 LEXUS オーナーであり、また自身の愛車も赤系のボディカラーが多いという偶然も重なり、スタジオの外に停まる RC F への興味を隠せない様子。結局、クルマに乗り込みスタジオ周辺の道をテストドライブしたほどだ。そんなウェバー氏と LWW のスタジオを後にした我われは、高地に広がる無垢の自然が絶景を織りなす熊本・阿蘇を抜けてオートポリスへと向かった。
九州随一のワインディングをRC Fで堪能しサーキットへ
リン・ウェバー・ワークショップスのスタジオを出発すると、今度はRC Fを南へと向ける。今回のドライブの最終目的地は、2018 シーズンの SUPER GT 第 7 戦「AUTOPOLIS GT 300km RACE」が行われるインターナショナルサーキット、オートポリスだ。国内最高峰の一角を占める SUPER GT。このシリーズの終盤戦が大分・日田市にあるこのサーキットで開催された10 月 20 〜 21 日の週末には季節もグンと進み、緑、黄、赤とさまざまな色の木々が、まるで色彩のカーペットのようにウインドウ越しに見える。また道中には、日本百名道にも名を連ねる「やまなみハイウェイ」や「ミルクロード」といった阿蘇外輪山の頂を東西南北に貫くワインディングが続き、RC F の小気味良いステアリングを確実に両手に感じとることができるので一興だ。またコーナーの立ち上がりや長めのストレートでアクセルを踏み込んだ際には、加速とエキゾーストノートで「Wow!」と運転する者のココロを一気に高揚させる RC F のユーザーエクスペリエンスも十二分に体感できる。間違いなく九州随一のドライブルートといえるだろう。
LEXUS 陣の躍動が際立った、快晴の決勝レース
文字どおり“天空の道”と喩えられそうな雄大な景色の中を進む。360 度広がる大パノラマに息を呑むことは間違いない。そして、この絶景に抱かれるように佇むのがオートポリスだ。初めてこのサーキットを訪れる人ならば、ここまでのワインディングロードが、そのままサーキットトラックに繋がっているかのような格別のロケーションに、必ずや驚くことだろう。決勝を前にガレージを覗くと、大勢のスタッフが 1 台のクルマを取り囲むように熱心に作業をしていた。現代のレースでは、データエンジニアと呼ばれる専門家が膨大なトラックデータを解析して、各サーキットに適したベストなセットアップを弾き出す。そしてメカニックたちはレース毎に最適化されたそのセットアップで車両を組み上げ、さらには決勝当日のコンディションを見極めたうえで、ドライバーも交えてウィング角度や重量バランスなど細部の調整をミリ単位で重ねていくのだ。すべてコンマ1秒を削るための緻密な作業である。なお、レーシングカーも、先のコーヒーグラインダーと同じく、メインテナンスがしやすい設計が前提となる。レースが終わればレースカーはすべて解体され、各パーツが徹底的にメインテナンスされて、再び組み上げられるからである。
レース戦術が功を奏し、首位へと踊り出る
朝から好天に恵まれ、気温も 17 度と穏やかな日差しがサーキットを包み込んだオートポリスでのレース本番を最終リザルトから総括すると、世界中の数多くの自動車メーカーの GT3 マシンがエントリーする GT300 クラスで、RC F GT3 が記憶に残る素晴らしいパフォーマンスを披露した。第 3 戦の鈴鹿で初優勝を獲得した K-tunes RC F GT3 が土曜日の予選では 10 位に留まったものの、翌日の決勝では鮮やかなオーバーテイクショーを展開。ファーストスティントでステアリングを握った中山雄一選手は、オープニングラップで 8 位に浮上すると続く 3 周目で 7 位へ浮上。セーフティカーが入った 20 周目には 6 位へとまたひとつ順位をあげ、着実にトップ勢とのギャップを狭めていく。再スタート後は、ライバルチームが次々とピットインするなか、K-tunes RC F GT3 はコンスタントな走りを継続して 34 周目に首位へと一気にジャンプアップした。「みんながピットに入ってから(さらに)プッシュした」と中山選手がレース後に語るように、K-tunes RC F GT3 は後続を引き離した 40 周目にようやくピットインし、ベテランの新田守男選手へとドライバーチェンジした。
好レースの余韻に浸りながら帰路に就く
「(オートポリスは)RC F GT3 にとって苦手なコースだと思っていたけれど、中山選手のペースが良かったし、ピットワークも早かった。マージンがあったので、他車とクラッシュしないように細心の注意を払って走った」と、セカンドスティントを担当した新田選手が語るように、中山選手が奪取した首位のポジションをそのままキープしてチェッカーフラッグを受けた。鮮やかな逆転劇をみせた K-tunes RC F GT3 が今季 2 勝目を獲得した瞬間だった。歓喜の終わりを告げた SUPER GT レースの舞台を後にした我々は、福岡へ向けてふたたび RC F のステアリングを握る。LEXUS 勢が躍進した余韻に浸りながら旅路を進めると、今回のドライブの終わりもすぐそこだ。振り返ると LWW での対話と体験は格別だった。クルマとコーヒーマシン。それぞれのサイズ、パーツの数、機能など、工学的・構造的な違いは言わずもがなだが、作り手が手向ける情熱と知見に優劣はないことが改めて明白となった。そしてその先にあるユーザーに唯一無二の「Wow!」をもたらすことの意義。真正なるエンジニアリングの真髄を垣間見た旅でもあった。
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