UX “Cross” Session

Vol.1

暮らしに「きっかけ」を
生み出すクリエイション

UX チーフエンジニア

加古 慈

Takram ディレクター /
マネージングパートナー

渡邉 康太郎

2018年3月のジュネーブモーターショーでデビューした新ジャンルのクロスオーバー、LEXUS UXの開発陣と、時代に先駆けるモノづくりの実践者たちがトークを繰り広げる全6回の“クロス”セッション。第1回には、同モデルの開発を指揮した加古慈チーフエンジニアと、東京とロンドンを拠点にするデザイン・イノベーション・ファーム「Takram」のディレクター/マネージングパートナー、渡邉康太郎氏が登場。プライベートとビジネスにおいて、それぞれ大切にしているアイテムを持ち寄りながら、互いの価値観やものづくりにおける思想を語る。

  • UX チーフエンジニア かこ ちか 加古 慈

    奈良女子大家政学部卒業。1989年トヨタ自動車入社。2001年より3年間、トヨタモーターヨーロッパに出向。2012年、レクサス「CT」のチーフエンジニアを担当。18年1月から常務役員とLEXUS INTERNATIONAL EXECUTIVE VICE PRESIDENTを兼務。愛知県出身。

  • Takram ディレクター/
    マネージングパートナー
    わたなべ こうたろう 渡邉康太郎

    1985年生まれ。慶應SFC卒業。東京とロンドンを拠点にするデザイン・イノベーション・ファーム「Takram」にて、サービスデザインから企業ブランディングまで取り組む。テーマは、個人の小さな「ものがたり」が生まれる「ものづくり」。主な仕事に日本経済新聞社のブランディング、ISSEY MIYAKEの花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」、一冊だけの書店「森岡書店」、Yahoo! JAPANと文芸誌・新潮とのプロジェクト「q」など。

一見普通のことに感動を
見いだす目を
持てるかということが大切

出張先での心を
リセット
してくれる
「言葉のおかき」

― 加古
はじめまして。LEXUS UXのチーフエンジニアを務めておりますLEXUS INTERNATIONALの加古です。今日はよろしくお願いします。

― 渡邉
はじめまして。Takramの渡邉です。実は僕、日頃からレクサスは気になっていて、先日もLSに試乗したんです。さっそくですが、UXはどのようなモデルなんですか?

― 加古
今年3月のジュネーブモーターショーでお披露目した新しいジャンルのクロスオーバーです。力強いスタイリングを大事にしながらも、ボディサイズは比較的コンパクトで扱いやすく、走りもハッチバック車のようにキビキビと楽しい、というのが特長です。

― 渡邉
確かにSUVにしては車高が低めですし、デザインもクーペのようにスポーティですね。

― 加古
力強さと躍動感を感じさせる凝縮された造形を実現しました。開発に込めた想いとしては、このUXが幅広いお客様にとって新たな暮らしのきっかけとなるような、そんなクルマをめざしました。

― 渡邉
僕たちの世代にもぴったりはまりそうですね。

― 加古
いわゆるミレニアルズといわれる(1980年代から2000年初頭までに生まれた)世代の価値観も企画上、参考にしました。ですので、今日は渡邉さんとお話しできるのを楽しみにしていました。

― 渡邉
それは光栄です。

― 加古
さっそくですが、渡邉さんがお持ちになったものについてお話を聞かせていただけますか?

― 渡邉
これはいろいろな本のコピーなんです。例えば吉田健一のエッセーだとか、西脇順三郎の詩だとか。僕は海外出張が多くて、特にロンドンには1、2ヵ月に1回は行くんですが、その際に妻が「言葉のおかき」という詰め合わせを作ってくれるんです。

― 加古
言葉のおかき?

― 渡邉
詰め合わせの箱にいろいろなおかきが入っているイメージです。季節に合わせたものや、ふと目に留まった文章のコピーを、出張に行くたびにフォルダーに入れて持たせてくれます。

― 加古
それはとても素敵ですね。

― 渡邉
詩や随筆もあれば、美術や音楽の評論もある。ジャンルはバラバラなんですが、読んでもいいし、読まなくてもいい。食べてもいいし、食べかけのまま放ってもいい、と気楽に渡してくれるので、それがすごくうれしいんです。

― 加古
遠く海外にいても、それらの文章を読むことで奥様の存在を感じられるのかもしれませんね。

― 渡邉
確かに文章を介して日本にいる妻と会話している気分になれるというか、僕自身の錨が常に東京に下りていて、出張先での心をリセットしてくれるというか。

― 加古
とてもうらやましいです。私が出張するときに持参するものといえば、プレゼンの資料くらいですから。

UXが目指した、
新しい時代の
ラグジュアリーカー像

― 渡邉
加古さんがご持参されたこの陶器はどういうものなんですか?

― 加古
これは茶道の先生からいただいたお道具のひとつで、振出といいます。その名の通り金平糖のような小さなお菓子を中に入れ、振り出して使います。福岡県で400年続く高取焼のひとつの流れを汲む鬼丸雪山さんの窯元のもので、美しい飴色と手になじむ可愛らしい形が好きです。

― 渡邉
特徴的なナリですね。実は、僕もお茶をやっているんです。

― 加古
それは奇遇ですね。どういうきっかけで始められたんですか?

― 渡邉
以前、ブリュッセルにしばらく滞在していたことがあるんですが、そのときに、日本について知識を持っている領域が一つあったほうがいいなと思って。デザインの仕事をしていたので、デザインに関係する茶道を選びました。もともと岡倉天心の『茶の本』が好きだったというのもあります。茶道って、いわば総合芸術ですよね。

― 渡邉
茶道はお茶自体から、懐石料理や和菓子まで、五感をフルに使って体験するもの。そこには精神性があり、お軸や建築、造園といった日本ならではの要素が無数に詰まっている。勉強するのにものすごく時間が必要なことも含めて、魅力を感じています。

― 加古
ほんとうに。勉強することが無限にありますよね。私は20歳の頃に茶道を始めたのですが、きっかけはシンプルで、所作が多少なりともきれいになればいいなという、ダンスを習うような気持ちでした。

少し前まで月に一度ではありましたが、着物を着て嵐山の先生のお宅へ伺っていました。日常生活と切り離された特別な空間で、長年ご一緒させていただいている先輩方とお茶を習い、楽しむ時間は、得難いものでした。現在はお稽古の機会がなく残念ですが、忙しいときほど努めてお茶の時間をつくることで、気持ちの切り替えができますし、仕事へのモチベーションも高まります。渡邉さんはいかがですか?

― 渡邉
まったく同じですね。どんなに仕事が忙しくて悩み事を抱えていても、茶室で点前座に座ると、1杯のお茶をおいしくたてることしか頭になくなります。集中の度合いが高まるというのは、もしかしたらヨガとか瞑想に近い体験なのかもしれない。

― 加古
例えば冬の寒い日に、お釜の湯が沸く音がこんなに心地良いものだったのかと気づいたり、そこから立ち上る湯気が柄杓に移っていく様の美しさだとか、お香の香りだとか……お茶席にいると五感が研ぎ澄まされていく感じがするんです。そういう時間を持てるのは本当にぜいたくなことですし、それこそ、真のラグジュアリーなのだと思うんです。道のりはまだまだ長いですが、LEXUSは“豊かな時間”という意味でのラグジュアリーを感じていただけるブランドを目指しています。

― 渡邉
そういう意味では、UXも新しい時代のラグジュアリーカーなのかもしれないですね。

― 加古
渡邉さんのような世代の方々に、そういうクルマとして受け入れていただけたらうれしいです。ところで、つねに新しい気づきをあたえてくれるのも茶道の魅力ですね。道具の扱いであったり、所作であったり、それら一つひとつに意味があることとか。

― 渡邉
茶道には、突き詰めれば突き詰めるほど、知っていると思っていたことが分からなくなる新発見、再発見がありますね。

― 加古
長い間お稽古に通っていても、自分がなかなか熟練していかないので、これで終わりというところにたどり着かないんですよね。

― 渡邉
既知の未知化と言いますか、分かっていることこそ、何かの拍子に新しい解釈の糸口が見つかるんです。例えば、そもそも茶道は、「日常茶飯の芸術」というだけあって、普段の所作とか、料理とか、お茶を飲むとか、いわば私たち日本人にとってごく日常的な行為です。それを芸術化してしまうわけですから、逆にいうと、今回のトークのテーマである「暮らしに“きっかけ”を生み出すクリエイション」にも通じていますね。普通のことに感動を見いだす目を持てるかどうか。それが新しい価値を生み出す人たちにとって特に大切なんだと思います。

(Vol.2へつづく)

Special thanks to NAGAHORI