GAME CHANGERの思考法 Vol.1

井手直行は
「ビールで
ノーベル平和賞を
獲りたい」と語った
井手 直行NAOYUKI IDE

株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長・プロピッカー
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株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長
プロピッカー
1967生まれ、福岡県出身。久留米高専を卒業後、大手電機メーカーや広告代理店などを経て、97年ヤッホーブルーイングの創業時に営業担当として入社。2004年に楽天市場担当としてネット業務を推進し、看板ビール「よなよなエール」を武器に業績をⅤ字回復させた。08年から現職。

井手直行は
「ビールでノーベル平和賞を獲りたい」
と語った

 地ビールブーム真っただ中の1997年に創業した、ヤッホーブルーイング。
爽快な味わいが特徴の“ピルスナー”が大半を占める日本のビール市場に、
深いコクとはなやかな香りの“エールビール”である「よなよなエール」を投入し、
新たなニーズを開拓したことで知られる。

 同社の代表取締役社長・井手直行は、
既存のビール業界の常識を打ち破る「ゲームチェンジャー」として挑戦を続けてきた。
井手の野望は、日本人にはなじみのなかったクラフトビールを、
ブームではなく文化として日本に根づかせることだ。
その異端の思考について、本人が語った。

社員総出で
ビールを排水溝に捨てた

ビール業界という巨大産業のなかで、既存のルールという“壁”を感じたことは?

井手 いや、もうそれはずっと感じてきましたよ。何度心が折れそうになったことかわからない。創業当初こそ地ビールブームのおかげでそこそこ売れましたが、それでも創業から8年間、ずっと赤字でしたから。

 特にブームが終わってからの5年間は、本当に厳しかった。製品がまったく売れず、造ったビールの在庫が倉庫からあふれ出し、野ざらしにせざるを得なかったビールを社員総出で排水溝にあけたこともあります。手が腱鞘(けんしょう)炎になって、痛みで動かなくなりました。

そんなことが。

そんな絶望的な状態ではありましたが、ひとつだけ希望があった。地ビールブームが去った後も、よなよなエールには少数ながら熱狂的なファンがいたんです。

「最近、見かけないけどどこで売っていますか」「ひさしぶりに見つけて飲んだけどやっぱりおいしい。頑張って」と、ファンの方から電話や手紙をいただくこともあった。

それだけがよりどころで、こういう人たちを1人ずつ増やしていく方法を考えることだけが、僕に残された唯一の道でした。

アメリカのビール市場の情報も支えになりました。当時、日本より10年早くクラフトビールがはやったアメリカでは、個性的なビールがたくさん登場し、ファンを獲得していました。いつか日本もきっとそうなるはずだ、と信じるしかなかった。

2004年から本格的に始めた楽天市場でのインターネット販売が、起死回生の一手になりました。

通販を始めた時点での売り上げは大したことありませんでしたが、日本中に散らばっている“個性的なビールを好む人たち”の支持を集めれば、やっていけるという感触を得られましたね。

そこから業績回復が始まり、現在まで13年連続増収増益。今では全国のスーパーやコンビニで、「よなよなエール」をはじめとした個性的なビールを手軽に入手できる状況になっています。

ただ、その前に8年連続の赤字がありますからね。13勝8敗ですから、これからが本当の勝負です。でも今は、僕らなら日本のビール文化を変えられるという確信があります。

ビール市場のシェア1%を獲る

業界の常識の壁を打ち破ってきた裏で、井手さんが心がけている経営哲学はありますか。

井手 まずは、前例のないものをいくら言葉で説明してもお客さんはわからない、という認識を忘れないことです。スティーブ・ジョブズも言ってたじゃないですか。「人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」と。

 iPhoneの概念だけ説明されても、それを欲しいかどうか消費者はわからない。ところが実際にiPhoneが登場したら、みんな熱狂的に歓迎したわけです。

 ビールも同じです。「こんな味のビール、どうですか」と言っても消費者は飲んだことがないからわからない。それでも、表には出てこない水面下のニーズがあり、そこに可能性があるんだったら僕らは大胆にチャレンジしようじゃないか、と。形にして見せるしかないんです。

井手さんの「ゲームチェンジ」は、具体的にどんな状況を目指しているのでしょうか。

井手 飲みの席の1杯目に必ずある「とりあえず生(ビール)」という常識、いわば思考停止をなくしたいんです。日本のビール文化をもっと多様性のある豊かなものにしたい。

 もう少し具体的にいえば、ヤッホーで日本のビール市場の1%を獲ることです。僕らが中心となって日本にある二百数十社のクラフトビールメーカーで、“個性的なビール”の一大マーケットをつくり上げたい。

 日本のビール市場で、沖縄のオリオンビールさんのマーケットシェアは約0.8%です。ビールを飲む人ならオリオンビールを知ってるし、常飲していなくても飲んだことがありますよね?

 よなよなエールも同じぐらいのシェアと認知度になれたら、ビール業界に影響を与える存在になれるはず。100人に1人が僕らの熱狂的なファンになってくれれば、日本の市場の1%は獲れると踏んでいます。

99人には好かれなくてもいい

そのためには何が必要でしょうか?

井手 賛否両論を恐れないことです。難しいんですよ。100人に1人の熱狂的なファンがいればいいとはいうものの、僕らだって多くの人に支持されたい。だからちょっとネガティブなことをお客さんから言われたり、社員から反対意見が出ると、「やっぱりやめておこうか」という気持ちが出てくる。

 でも、そこで流されず、原点に立ち戻る。100人に1人の熱狂的なファンがいればいいという原点です。99人には好かれなくてもいいというのなら、賛否両輪は当たり前じゃないかと絶えずみんなで確認する。

 僕らは味、プロモーション、製品名、すべてにおいて業界の常識から外れたことにチャレンジしてきました。だからこそ、イノベーションを生み出すこともできる。だから賛否両論あっていいんだよ、と。

よなよなエールの人気、認知度は上がり、扱う店は増えている一方で、現在は大手メーカーもクラフトビールに参入してきています。ニッチ市場のなかで、どんな生存戦略を考えていますか。

井手 今はクラフトビールが「ブーム」ですが、よなよなエールの立ち位置は20年不変です。名前も値段も基本的な味の方向性も、20年間変えていない。僕らは相変わらず既存のラガービールの対極にいて、ここ4、5年で大手メーカーがクラフトビールのほうに歩み寄ってきたという状況です。

 結果的に大手メーカーと同じフィールドで戦っているように見えるかもしれませんが、「真っ向勝負」はしていないんです。取扱店はこだわりの品ぞろえのスーパーやコンビニが中心ですし、東京では7割のスーパーに置いていただいていますが、全国的な知名度はまだまだです。

 今も他社がまねできない要素をもっとブランドに込めようとしています。味、製品名、缶のデザイン、プロモーションまで、独自性を際立たせていく。味は似せられても、ブランドは容易にはまねできないものです。大手には決してまねできない、「近づいたらやばいオーラ」をもっと出していきたいと思っています。

トップ自ら「常識」を疑い続ける

井手 そして、いつも社員に言っているのは、「今ある常識は今日までのルール。明日には変わっている可能性もある」ということです。

 ビール業界には大手4社が長年かけて形成してきた自主ルールがあります。ただ、僕らまでそれに追従することはない。エッジの立ったビールをつくるために不要なルールはどんどん僕らで打ち破ることが必要だと思っています。

 たとえば大手4社には、「製品にキャラクターを使わない」という自主ルールがあります。未成年が誤って買ったり、飲んだりすることを防止するためです。

 でも僕らは「水曜日のネコ」というビールでネコのキャラクターを使っている。そこに以前、大手4社の組合から「未成年の飲酒防止のためにキャラクターを使わないで」と指摘がありました。

 僕らはその組合には入っていない。それに、このビールを1000万本以上も売ってきたなかで、消費者からクレームがきたことは一度もありません。もちろん未成年の飲酒は絶対にダメです。ただ、それとキャラクターを製品に使う使わないは別の話です。

現在はアルコール類の販売時に年齢確認が義務付けられており、時代とともに市場環境も変わっています。

井手 世の中を混乱させたり、法に触れたりしなければ、おかしな不文律は破っていい。こういうルールは今日までは有効かもしれないけれど、明日には変わるかもしれない。法律は順守しながらも、世の中が変わって古くなってしまったルールや常識は問い直すべきと思っています。

 尻込みする社員もいますよ。ただ、そこでトーンダウンしたら、ブランドそのものが揺らいでしまう。大手が打ち破れないものにチャレンジしてこその僕らだし、日本のビール文化を豊かなものにするためなら、一度ルールを破ってみようと言い続けています。

 ルールや常識を疑い続けないと、業界に「風穴」は開けられませんから。

「ビールでノーベル平和賞を獲る」

今後、ヤッホーがめざすものは。

井手 世界で最も熱狂的なビールファンを抱えているビールメーカーと呼ばれるようになる。それが目標です。そのためには、よなよなエールをただの飲み物ではなく、飲む人にとっての特別な友人、親友、パートナーのような存在にする必要があります。

いま僕がすごくワクワクしているのは、全国から熱狂的なファンの方々が集まる「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)」という大規模イベント。2015年から開催しているんですが、去年は過去最大規模で4000人ものファンが集まってくれました。

お酒のイベントなのにけんかになったり、ひどく酔っ払ったりする人もなく、みなさんほどよく飲んで、和気あいあいと毎年盛り上がっている。そこに僕はすごい希望を感じるんですね。

実際、よなよなエールのファン同士で飲んで仲良くなった、結婚したという話もよく聞きます。結婚指輪によなよなエールの月のマークをあしらったという人もいるほどです。そんなビールは、きっと他にはないと思うんです。

ヤッホーのミッションは「ビールに味を! 人生に幸せを!」です。よなよなエールは人生を豊かにして人を幸せにするビールなんだとつくづく感じます。

 2020年には全国縦断ドームツアーイベントをスタートさせようとしています。全国のファンにヤッホーのビールで幸せを届けたい。

最終的にはよなよなエールで、ノーベル平和賞を獲りたいなと思って(笑)。少なくとも、僕らのビールを飲んでいる間は争いごとがないんですよ。よなよなエールが全世界に進出したら、世界を平和にできるんじゃないかと、実は結構、本気で思っているんです。

(取材・編集:
呉琢磨
構成:
横山瑠美
撮影:
菅野勝男)
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