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カーボンニュートラルにこだわるROV CONCEPTの挑戦

2023.10.17 TUE
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カーボンニュートラルにこだわるROV CONCEPTの挑戦

2023.10.17 TUE
カーボンニュートラルにこだわるROV CONCEPTの挑戦
カーボンニュートラルにこだわるROV CONCEPTの挑戦

LEXUSのオフロードバギーROV CONCEPT(以下、ROV)。このクルマは水素エンジン以外にもカーボンニュートラルにこだわるクルマづくりの実証実験が詰まっていた。

2023年に発表された新型車とコンセプトカーが勢ぞろいしたメディア向けの体験説明会「LEXUS SHOWCASE」。このオフロードコースで紹介されていたカーボンニュートラルに挑戦するROVのクルマづくりとその仲間について取材した。

さらなる自然との共生を目指して

LEXUSはカーボンニュートラル社会の実現に向け電動化をリードするブランドとして、2035年のバッテリーEV(BEV)販売100%を目指すとともに多様化するラグジュアリーとお客様のニーズや地域に寄り添ったクルマづくりを推進している。

そのなかでCO2を排出することなく自然と共存しながらエンジンの音や振動を楽しみ、力強くパワフルな走りでオフロードを駆け巡ることができるクルマの開発も行われている。

それが2022年の東京オートサロンで初披露された四輪バギーのROV CONCEPTである。
2022年の東京オートサロンで初展示されたROV
2022年の東京オートサロンで初展示されたROV
車名のROVはRecreational Off-highway Vehicleの略で乗用車では踏み込めないオフピスト(道なき道)を自然との共生をしながらより深く自然を楽しむこと、そして走りを楽しむライフスタイルの実現を目指したコンセプトモデル。

LEXUSがYAMAHAのYXZ1000Rをベースに水素エンジン化(ヤマハ発動機と共同開発)したクルマだ。

水素エンジンはスーパー耐久選手権(S耐)で走るROOKIE Racing 32号車のGRカローラが2022年まで使用していた気体水素燃料(32号車は2023年より液体水素を使用)と同じ方式を使用している。

水素エンジンはガソリン車のようなCO2の排出はなく、きれいな水しか出さない。2023年の5月には豊田章男会長もこのROVに試乗している。

新しい素材や技術の実験場として

ROVでは使用するパーツにもこだわり、環境負荷を減らすため使用済みの資源でまた同じ製品をつくる水平リサイクルなどを考えた実証実験が行われている。
この取り組みについて、ROV開発主査の秋田昌也はこう話す。
秋田主査
この車両は協力会社の皆様とカーボンニュートラル技術や低環境負荷技術要素を一緒に開発をしていくという想いで、さまざまな場所に新素材や技術を取り入れ、将来のクルマづくりに活かしていきます。
まず、ROVの乗員を泥や飛び石などから守るウインドシールドは、「低炭素 樹脂ウインドウ(Plastic Glazing)」というガラスより軽いポリカーボネートを採用している。
通常のポリカーボネートは石油由来原料を利用しており、製造の際にCO2を多く排出してしまう。

この課題解決のため、原材料としてCO2排出量が実質ゼロとなるコベストロ社のMakrolon® REを採用したという。

Makrolon® REはマスバランス方式(特性の異なる原料が混合される場合に、ある特性を持つ原料の投入量に応じて生産する製品の一部にその特性を割り当てる手法)のバイオ資源由来のポリカーボネート製品で製造工程においても再生可能エネルギーを使用する。

この成形加工にはタキロンシーアイ社が持つ低歪押出成形技術の使用しており、さらにタキロンシーアイ社と豊田自動織機の協業で製造時に発生した端材や使用済みのシールドもリサイクルできるスキームを構築した。

コーティングに関しても自動車の運転視界窓に要求される耐傷付き性(国際規格UN-R43 クラスL)を満たすために従来必要だった3層の加工を豊田自動織機のハードコート材料技術により1層で達成している。

3社の技術により、製造時に発生するCO2排出量を無機ガラスと比較して約7割低減が可能になったという。そして、グリルとボンネットフードには廃車のバンパーを再利用した豊田合成の樹脂リサイクル技術が使われている。
通常、粉砕した廃車のバンパーは物性(物質の性質)が落ちるため焼却処分されてしまうことが多く、燃やしたときに発生する熱の利用しかできなかったという。

しかし、豊田合成の独自材料をつくる技術では、廃車の樹脂とゴムに植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)を配合し、剛性や耐熱性が再生前と同等のCNF強化プラスチックへ再生できるようにした。

リサイクルした樹脂は廃車回収樹脂と植物由来のCNFを使用するため、製造時のCO2排出量もバージン樹脂と比較して約半分に押さえることが可能となった。

このCNF強化プラスチックはESUXRXNXを生産するトヨタ自動車九州が性能評価し、バージン樹脂とほぼ同等性能であることを確認した。

三次元網状繊維構造体を使用したシートバックサポーター

インテリアに目を移すとシートにもユニークな素材が使われている。大自然を走るROVは泥はねや悪天候などによってシートが汚れることがある。

汚れたシートを洗ったときや雨に濡れたときにすぐに乾くように採用された素材が東洋紡エムシーのブレスエアー®というクッション材である。
このブレスエアー®はマカロニ状の中空繊維がたくさんのループを描きながら三次元方向につながった構造体で通気性を持ち、さらに振動の緩和効果もあるので快適性にも優れる。そしてクッション部は保水しないため、すぐに乾かすことができるという。
それだけではなく、このブレスエアー®は製造工程で発生する端材や規格外品をリサイクルし、プラスチック廃棄量削減に取り組む。さらに使用済みの製品をリサイクルするシステムの構築も目指す。

水素タンクの炭素繊維(CF)残糸を活用した内装パネル

ROVの燃料となる気体水素を入れるタンクは燃料電池自動車(FCEV)MIRAIにも搭載されている豊田合成がつくるタンクが使用されている。
このタンクには水素の透過を防ぐためナイロン樹脂でつくられたライナーに70MPa(700気圧)という高圧に対応するため外側から炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で包み、さらに外側にはCFRPを保護するためにガラス繊維強化プラスチック(GFRP)を使用する。

エポキシ樹脂により固められたCFRP、GFRPはリサイクルが難しいが、ROVでは内装のセンターパネルにこの水素タンク製造時に巻き残しで出たCFの残糸をリサイクルしているという。


CF残糸はまず数mmの長さに切断され、次にコーティングされたエポキシ樹脂を除去し、リサイクルCFが取り出される。

このCFを粉砕して樹脂繊維とともに液体に浸し、和紙をつくるときのような紙抄き(かみすき)を応用した抄造(しょうぞう)工法という技術で不織布を作り、さらに熱プレス成型によってリサイクルCFRPとして内装パネルに生まれ変わる。
リサイクルCFRPを使用した内装パネルで覆われるモリゾウのサイン
リサイクルCFRPを使用した内装パネル
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パネルを固定するファスナーにも環境に優しい素材が使われている。ROVのような激しい動きをするクルマでは、振動や破損などによりファスナーが外れてしまう可能性もある。そこで採用したのがNIFCOの生分解性ファスナーだ。
生分解性ファスナーで固定される運転席正面のパネル
生分解性ファスナーで固定される運転席正面のパネル
このファスナーは木材や綿花などの非可食植物由来のセルロースと酢酸から得られる酢酸セルロースなどを配合してつくられているため、生産時のCO2も少ない。
そして、万が一ファスナーが脱落した場合でも水と二酸化炭素に分解され自然に還るという。

ROVでのLEXUSらしい乗り心地のショックアブソーバー

ROVはバギーでもLEXUSらしい操縦安定性と乗り心地を実現している。この乗り心地を実現したのがカヤバの「サステナルブ」という新開発のオイルを採用したショックアブソーバーだ。

このショックアブソーバーは乗り心地だけではなく、作動油に天然由来の原材料を使用するため環境にも優しい。
従来の石油由来の作動油は廃棄後に助燃材として燃やされCO2排出の原因となる。しかしROVで使用している植物由来の作動油は植物原料が成長過程でCO2を吸収するため持続可能で環境と調和する未来をつくる。

さらに、万が一の破損で漏洩してしまったとしてもバクテリアによる生分解により大自然を汚すことがない。

これらのさまざまなパーツで徹底的にカーボンニュートラルを追求したROVのクルマづくり、そこには水素エンジンの実証実験だけではなく、クルマの未来を変えるためのさまざまな挑戦が行われていた。
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