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LEXUSのもっといいクルマづくりから生まれた「ステアバイワイヤ」とは

2022.10.24 MON
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LEXUSのもっといいクルマづくりから生まれた「ステアバイワイヤ」とは

2022.10.24 MON

カーボンニュートラル社会の実現と、多様化するお客様のニーズに寄り添うクルマづくりを加速させる次世代LEXUS。「NEXT CHAPTER(ネクスト・チャプター)」における第3弾モデルとして発表されたLEXUS初のBEV(電気自動車)専用モデル「RZ」には、開発陣の「もっといいクルマづくり」への想いがかたちとなった最新のステアリングシステム「ステアバイワイヤ」を搭載するモデルが設定される。開発陣が、LEXUSならではの走りの味である『Lexus Driving Signature』を進化させるために大切な技術であると語る同システムの真価に迫る。

Photographs by Takayuki Kikuchi

Lexus Driving Signatureを進化させるために重要な技術

2022年4月20日にオンラインで発表された「レクサスRZ」。LEXUS初のBEV(電気自動車)専用モデルであり、モーターを使って4輪の駆動力を最適制御する「DIRECT4」システム搭載。そしてもうひとつ、「ステアバイワイヤシステム」採用モデルも設定された。

以前からLEXUSが重要視していた技術であるステアバイワイヤ。“ステア(操舵) by ワイヤ(電線)”という名称の通り、ドライバーの操作が電気信号として、ワイヤを介して前輪を操舵するモーターへと送られる仕組みだ。従来のクルマのように、ステアリングホイールとタイヤを動かすステアリングラックとが物理的に結合していないため、たとえば低速時にはクイックに、高速時にはスローにというように、電子制御でステアリングギア比を自在に変えることができるのが最大の特徴である。
ステアバイワイヤ(左)ではワイヤを介して送られた電気信号がモーターを駆動することにより操舵を行う
ステアバイワイヤシステムを搭載したRZ(プロトタイプ)
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ステアリングシステムとタイヤのあいだで電気信号を介した操舵情報や路面情報のやりとりを行うのが、ステアバイワイヤシステム。目指したのは、走行状態に応じてステアリングギア比を最適化することで、車両の取り回し性に加え、ワインディングロードでの軽快かつ俊敏な操縦性や、高速域での安定性を実現させることである。
ステアバイワイヤシステム搭載モデルでは、従来のような円形ではなく、航空機の操縦桿のようなステアリングホイールが採用される
ドライバーはUターンのようなシチュエーションでもステアリングホイールを持ちかえる必要がない
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一言でいうと、従来のように円形のステアリングホイール(ハンドル)をぐるぐる回さず、中立付近から左右に150度切れば、それだけで車両の取り回しができてしまう。

新しい。しかし、ドライバーと車両がダイレクトにつながった操作性は、従来のシステムから引き継いでいる。そのうえで「NEXT CHAPTERにつながる、エンジニアとしては理想の操縦感覚を目指した」と、RZの開発の総指揮を担当したチーフエンジニア(CE)の渡辺剛は語る。
RZの開発をとりまとめたチーフエンジニアの渡辺剛
RZの開発をとりまとめたチーフエンジニアの渡辺剛
電動化テクノロジーで、LEXUS車の走りのポテンシャルを拡張していくのが、Lexus Electrified(レクサス・エレクトリファイド)。BEV(電気自動車)はつまらない、のではく、BEV(電気自動車)だからこそ面白い、と感じてもらいたい。その想いが開発陣の心中にあった。

ステアバイワイヤシステムは、運転に不要な振動は遮断し、ロードインフォメーションなど運転に必要な情報のみをドライバーに伝達できる。加えて、操舵速度など、いわゆる味つけも、クルマに応じて変えられる。気持よく安心して走れるクルマのための技術ゆえ、価値がある。

「LEXUSは電動化を牽引していくブランドです。LEXUSならではの走りの味である『Lexus Driving Signature』を進化させるためには、DIRECT4とともに、ステアバイワイヤの技術が重要だと考えました」

前出の渡辺CEは、開発がスタートした5年前をそう振り返る。ステアバイワイヤシステムは競合と差別化するためのものではない、という。バッテリー駆動のBEV(電気自動車)の操縦性をひとつ上の段階に上げる大事な技術だと考えた。
ステアバイワイヤシステムは、Lexus Driving  Signatureの進化において重要なテクノロジーだ
ステアバイワイヤシステムはDIRECT4とともに、Lexus Driving Signatureの進化において重要なテクノロジーだという確信のもと、開発に取り組んだ
「e-AXLE(イーアクスル)」という前後の電気モーターを使って、四輪のトルクを最適制御し、ドライバーの意図に忠実なリニアな応答性を実現するための「DIRECT4」。これらの技術をフルに活かすには「ステアバイワイヤシステムが有効」だという確信があったという。

重要なのはドライバーが対話するように運転できるクルマであること

社内で企画が通ったものの、本当にLEXUS車にとっていい技術なのか。その価値基準を核に置いて、技術を煮詰めていくべきだとしたのが、マスタードライバーの豊田章男だった。

「社内と社外の一部の専門家に開発中のシステムを体験してもらったのが、2019年。そのとき、乗った面々からは、持ちかえなしで(ぐるぐるステアリングホイールを回さず)車両の取り回しが可能なことに、期待以上に高い評価をもらいました」
開発陣はマスタードライバーからのフィードバックを胸に刻み、ステアバイワイヤシステムの開発に勤しんだ
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ところが、そこで満足してはいけない、と言ったのが、マスタードライバーだった。

「最初に乗ってもらったときは、握っているハンドルに車両の状態が十分に伝わってこないんじゃないか、と指摘を受けました。ドライバーが対話するように運転できるクルマでなくてはいけない、と」

そう語るのは、ステアバイワイヤシステムの開発主担当の山口武成だ。

「いかなるシステムをステアリング機構に使っていようと、重要なのは、ドライバーがクルマの状態をつねに正しく把握できること。そして、ドライバーが操作したときに、クルマが意図通りに動くことも大切。この感覚が薄いと、ドライバーは自信をもってクルマを操れないのだと、(マスタードライバーに)強く言われました」
ステアバイワイヤシステムの開発を担当した山口武成
ステアバイワイヤシステムの開発を担当した山口武成
渡辺や山口をはじめとする開発陣は、マスタードライバーの言葉を胸に刻み込み、従来のステアリングシステムと並行して、ステアバイワイヤシステムの煮詰めに没頭した。

はたして、完成したステアバイワイヤシステム。変型ハンドルの形状は、入力感覚、コントロール性、操舵性の観点から、「TAKUMI」という役割で、車両各部の使い勝手などを評価するテストドライバーの尾崎修一が提案した。
尾崎がTAKUMIとして形状をつくり込んでいったステアバイワイヤの変形ハンドル
尾崎がTAKUMIとして形状をつくり込んでいったステアバイワイヤの変形ハンドル
「従来とは一線を画すシステムなので、円形ステアリングホイールからイメージを離すことが肝要と思いました。円形のステアリングホイールだと、操舵イコール回すこと、なのですが、ステアバイワイヤシステムでは、手を動かす角度がすなわち操舵角に結びつくという、大きな違いがあります」

もうひとつ、円形から離れたのは、持ちかえなしの操作が可能なため、と尾崎。円形のステアリングホイールをぐるぐると回すとなると、時として、握る手を持ちかえなくてはならない。ステアバイワイヤシステムではその必要がない。
LEXUS-TAKUMIの尾崎修一
LEXUS-TAKUMIの尾崎修一
車速やハンドルを操作する速度などをパラメターにし、モーターが適切な舵角を与えるため、たとえば、きつめのカーブだろうと、約90度切るだけで曲がりきってしまう。

複雑で凝った断面形状のグリップを握っただけでも、いままでと違う、まったく新しい感覚。その根底にあるのは、Lexus Driving Signatureを核にしたクルマづくりなのだ。

走りのよさと、ダイレクトな操舵感覚と、しなやかな身のこなし──「もっといいクルマづくり」への想いのもと開発されたクルマならではの素性のよさがRZにはある。そんな“素性を鍛える”クルマづくりと新世代の技術を融合させたRZが、BEV(電気自動車)を軸とするブランドへの変革への起点であるゆえんなのだ。
RZのステアバイワイヤシステムは、「トヨタテクニカルセンター下山」のテストコースで日々チューニングが進められている
RZのステアバイワイヤシステムは、「トヨタテクニカルセンター下山」のテストコースで日々チューニングが進められている
ドライバーの意思に寄り添う気持のよい走りを実現することを目指したLEXUSの電動化戦略「Lexus Electrified」。BEV(電気自動車)だからといって、コモディティティ(単なる移動の道具の意)化するのではなく、電動化技術によりクルマの可能性を最大限引き出し、LEXUSならではの走りの味を追求していく──マスタードライバー以下、開発陣全員のそんな想いが、Lexus Electrifiedには込められている。
RZのステアバイワイヤシステムは、市場導入ギリギリまで、もっといいハンドリングを目指して、チューニングが続いていく。

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