JOURNEY

日本海に沈む夕陽を堪能し、

泊まれるワイナリー「カーブドッチ」へ

2022.09.09 FRI
JOURNEY

日本海に沈む夕陽を堪能し、

泊まれるワイナリー「カーブドッチ」へ

2022.09.09 FRI

約337kmにわたって美しい夕景が楽しめる“日本海夕日ライン”で、視界がブルーからオレンジへ染まっていく至福のひとときを堪能。その後は高揚した気分のまま「カーブドッチワイナリー」に併設されるオーベルジュ「トラヴィーニュ」に向かい、バラエティに富むワインで乾杯。新潟のコーストラインには、常に感性が刺激される旅路がある。

Text & Edit by Takashi Osanai
Photograps by Shuichi Okawara

海を視野に走り続ける“日本海夕日ライン”

日本海に面する新潟の海岸線では、カリフォルニアのように海に沈んでいく夕陽が見られる。日々、その絶景が姿を現す“日本海夕日ライン”は、山形県境にある村上市から富山県と隣接する糸魚川市まで、海沿いを走る約337kmのドライブルートだ。
緑と青の天然色が織りなす爽やかな日本海のオーシャンロード
緑と青の天然色が織りなす爽やかな日本海のオーシャンロード
新潟市内を起点にすれば海岸線までは10分ほどのドライブ。そこから東に行けば村上や山形に続き、西へ行けば柏崎や上越へ。今回は市内から40分ほどで着く「カーブドッチワイナリー」のオーベルジュが目的地のため進路を西へ。角田浜、角田岬灯台、天然温泉がわく港町の寺泊を通り、「にいがた景勝100選」の一つ「良寛と夕日の丘公園」までのオーシャンロードをLEXUS RC Fで快走。真っ青な日本海による開放感が心地よい、スポーティなドライブタイムとなった。

最初に立ち寄ったのは角田浜。夏の間は海水浴場となるビーチは、年間を通して登山客が訪れる角田山の麓に広がっていた。開けた海の先には佐渡島の姿をわずかながら望め、背後には白い角田岬灯台が立っている。高台にある灯台から望む日本海のパノラマは、遮るものが何もなく美しい。

さらに灯台の裏にある角田山の頂上へとつながる登山道を登ると、灯台を見下ろすダイナミックなランドスケープが目に飛び込んだ。そこで目にした“断崖の先は大海原”というスケール大きな光景は、ユーラシア大陸最西端にあるポルトガルのロカ岬の美観を思わせ、“海の先にある大陸へ”という旅情をかき立てた。
水平線の向こうに思いを馳せたくなる角田岬灯台のランドスケープ
水平線の向こうに思いを馳せたくなる角田岬灯台のランドスケープ
角田岬灯台から先は海を右手に見ながらのドライブ。江戸時代に北国街道の要所として栄えた寺泊では、港で取れた新鮮な魚介を買える市場や味わえる食堂が並ぶ「魚の市場通り」の賑わいを眺め、その先の出雲崎町にある「良寛と夕日の丘公園」へ。

江戸時代を代表する禅僧で、詩人、歌人、書家でもある良寛の記念館がある同公園は小高い丘の上にあり、一望できる海景色が魅力の場所として知られる。喧騒とは無縁の場所にあって、穏やかな心持ちで海を見つめていると、あっという間に日が傾くほどの素早さで時間が流れていった。

絶景は美しく、時は静かに流れる「良寛と夕日の丘公園」
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ドライブの最後は、角田浜へ戻ってのサンセットタイム。太陽は水平線に向かってゆっくり沈んでいき、そして沈んでいくたびに、海岸線には一人、二人と“観客”が増えていった。

観光客か、地元の人か。素性はわからないものの、その光景はカリフォルニアやヨーロッパの大西洋岸沿いの町で見られるものに似ている。海に太陽がゆっくりと沈む様子を目にしながら1日を終える。そのぜいたくさを知る人たちによって生み出される光景だった。
刻々と色彩が変わる夕景色。幻想的なマジックアワーには、ただ見惚れてしまう
刻々と色彩が変わる夕景色。幻想的なマジックアワーには、ただ見惚れてしまう

日本では稀少なワイナリーステイ

1日を美しい光景とともに締めくくれた角田浜から5分ほどの場所に「カーブドッチワイナリー」はあった。ワイナリーは宿泊施設も併設。滞在しながら数多のワインや地産のグルメに舌鼓を打つワイナリーステイがかなう場所である。
ヨーロッパの片田舎に迷いこんだような錯覚に陥る「カーブドッチワイナリー」
ヨーロッパの片田舎に迷いこんだような錯覚に陥る「カーブドッチワイナリー」
ワイナリーステイは、ワインが日常にあるヨーロッパではよく見られる滞在スタイルだが、日本ではまだ稀少。貴重な体験がかなう“滞在するワイナリー”の「トラヴィーニュ」では、敷地内に広がるブドウ畑に臨む10の客室を用意する。

タイプは4つ。1Fと2Fにあるデラックスルームは天井が高くリゾート感あふれる客室。1Fの客室では窓を開けると44㎡の洋室がテラスとゆるやかにつながり、大きく外に開いた開放感ある空間へ。角田山とブドウ畑が一望できることで、緑豊かな光景に癒やされながらくつろぎのステイを楽しむことができる。

ブドウ畑と角田山の眺望が心地いい「トラヴィーニュ」のデラックスルーム
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また館内の1階にはバーカウンターのあるラウンジがあり、3階には眺望の開けた共有スペースを備える。そのため、読書をしながらラウンジで、晴れた日には共有スペースで海を見ながら、といった具合に、施設内で気分を変えながらグラスを傾けることが可能となる。
「トラヴィーニュ」3階からは美しい眺望が楽しめる。
1階のラウンジは採光たっぷりでコンフォートな空間
客室名はすべてここで造られるワインの“動物シリーズ”から採用
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また先述した通り「トラヴィーニュ」はオーベルジュ。イングリッシュローズが奇麗に咲くガーデンレストランでの本格フレンチも滞在の大きな楽しみだ。ディナーは約9皿の構成。日本海の間瀬漁港であがる魚介や、近隣の農家から仕入れた野菜や果物といった地産の食材によって調理される。多様なワインでグラスを満たしつつ、肩肘張らずに過ごせるカジュアルな雰囲気でディナータイムを。ワインは、なんとも楽しい——。その意味を、ここでは体験を通して理解することができる。

取材で訪れた5月のコース。
十日町の猟師から仕入れた鹿を使ったジビエ。猪なども食材として使われることが多い
近隣の果樹園が手がけたジャムが並ぶボリュームたっぷりの朝食
料理長の川上誠氏は新潟出身。旬の新鮮食材にこだわりながら、リゾートらしい“分かりやすい料理”を心がけている。
天候不良の日が続いた昨年は不作のシーズン
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宿泊ゲストの楽しみはまだ終わらず、温泉施設「ヴィネスパ」もぜひトライしたい。日帰りユースもできる「ヴィネスパ」には、露天、内湯、遠赤外線サウナやジェットバスが備わり、角田山・粟ヶ岳・巻機山などの越後山系を望みながら湯に浸かることで、旅路で疲れた体が芯から癒やされる。さらに22年3月にはブックラウンジがオープン。ブックディレクター、幅允孝氏が10のテーマで約4000冊の本をそろえ、さらに豊かな時間を提供してくれている。
絵本から専門書までが揃うブックラウンジではスマホを手にする人が見当たらない
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ワインに造り手の“ジタバタ”する様子が透けて見える

ホテルの部屋やワイナリー、レストラン、ブックラウンジなど多くの場所で豊かな時間を過ごせる「カーブドッチワイナリー」。だが滞在の核となるのは、もちろんワインだ。
新潟の自然の営みの中でワインは生まれる。その味はその年だけのものという一期一会の世界なのだ
新潟の自然の営みの中でワインは生まれる。その味はその年だけのものという一期一会の世界なのだ
「カーブドッチワイナリー」は1992年に創業。今でこそ国内の主なワインの産地は北海道、山形、山梨、長野といわれるが、当時はほとんどが山梨産。そもそも新潟はワイン未開の地だった。それでも(株)欧州ぶどう栽培研究所(当時。現カーブドッチ社)は角田山エリアを開拓していくことを決定。「カーブドッチワイナリー」を創業した。

大きな理由はテロワール。つまりワイン造りを行う環境で、海から近く土壌が砂地であることや、砂地はワイン用ブドウの栽培に適している土壌の一つであり、緻密なワインが生まれるといわれること。さらに新潟は基本的に冷涼で、夏が短く冬は寒いといった気候もブドウ栽培に良いとされていたことにある。

「創業時、そもそもワイナリーが自分たちの畑を持つこと自体が異例だったのです。通常ブドウは農家から仕入れるもの。しかしワイン造りの全てを行おうと考えました。そして新しいことをやるときは誰もいないところでやろうと。そのような想いからワイナリーがまだない場所を探し、かつブドウを栽培するためにかなりの広さの土地が必要だったことから北海道と新潟を候補に。けれどその頃の北海道は今と違って寒すぎるために無理だろうと判断し、経済圏も重視して新潟に決めたのです。新潟は東京からのアクセスも良い日本海最大の都市ですから」

そう教えてくれたのは、2006年、26歳の若さで醸造責任者に就いた掛川史人氏。さらに早い段階からワインを“売りにいく”のではなく、“買いに来てもらう”ことを事業のコンセプトに掲げていたというところも興味深い。場所選びにおいて、アクセスの良さは重要事項の一つだったのだ。
醸造責任者の掛川史人氏
砂質土壌であることが一目瞭然。掛川氏の手のひらからサラサラと土がこぼれていく
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そうして新潟の地で造られるワインは、自分たちで育てた欧州系のワイン専用ブドウ100%を使った国産自家製造の“日本ワイン”。そこには「日本のワインはおいしい」ことを伝えていきたいという想いがある。

「土地は変わりませんから、変わる必要があるのは私たちです。土地への理解度を深めることで扱う品種は変わり、ワインの味は改良されます。弊社の転機は2005年、スペイン原産のアルバリーニョという白品種を植えた時でした。砂質土壌の特性に適する品種を求める過程でさまざまなブドウ品種に挑戦し、出合うことができたのです。フラッグシップワインの『サブル』もアルバリーニョがあって生まれたもの。ただ自然は一様ではなく、創業時と30年が経過した今とで新潟の気候は大きく異なります。今後、扱う品種が変わることは自然の流れでしょう。かつてドイツの品種を使っていましたが、スペイン品種が主になったように今後も南下する可能性は大いにあります」

約2万本のブドウの木を所有し、約30種類のワインを年に計10万本ほど生産する
記念すべき“カーブドッチ1本目”のボトルもワイン蔵にあった
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そうして土地や気候という自然と向き合い、常に“ジタバタ”としている様子が人間くさいのだという。

「土地によって味わいも変わりますし、天候不良でブドウが不作になる年もあります。しかしその不作のブドウで造ったものがおいしくなったりもする。なぜかといえば、造り手が最善手を求め思考を巡らせるからです。そのような試行錯誤が見え隠れして人間くささを感じるところが、私にとってのワインの魅力。それに果物を原料としている時点で味は毎年変わり、その変化は人間の手の及ばないところで起こる。その上でワインには、その変化を受け入れ楽しむ文化がある。クオリティを一様に保つことのできる他のお酒とは大きく異なるところです」

ワインへの愛がとめどもなくあふれる掛川氏。「だからワインは面倒くさいといわれるんですよね」と笑うが、しかし近年、自然派ワインが都会の若い女性を中心に人気を集めている。その様子に「今までとは全く異なる層の人たちが楽しんでいるように見えて、ワインの間口が広がった気がします。ワイン自体の存在も味わいも、より自由になりましたよね」と好印象を抱く。
奇麗な花々も各所で咲き、ガーデンの中に滞在しているかのようでもある
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その掛川氏も「カーブドッチワイナリー」の醸造長としてクラシカルなワイン造りに情熱を注ぐ一方、自身の表現として動物シリーズを手がける。「くま」「みつばち」「ぺんぎん」といった動物のイラストがエチケットに描かれたシリーズで、サラリとしたオレンジワインや、澱の残った微発泡もの、樹齢20年以上のピノ・ノワールを使用した華やかな香りの赤など、いずれも味わいが楽しい仕上がり。“ワインとは自由でいいのだな”と思えるシリーズになっている。

ショップでは動物シリーズをはじめ多くのワインがそろう。卸はほぼしていないこともあり、ワイナリーならではの品ぞろえは稀少だ
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そして「ワインとは自由なのだ」というメッセージは、敷地内にあるショップでも表現されていた。「サブル」などの王道ワイン、自然派ワインも含む動物シリーズ、食用ブドウを使い“ハッピーな味わい”を追求するファンピーシリーズが並び、いろいろな人が自分好みの味と出合える多様性に溢れる空間となっていたのだ。

自国のワインを日常的に愛飲する人が多い本場ヨーロッパのように、“日本ワイン”を味わいながら楽しく暮らす人が増えていくといい。そのような想いに満ちた空間となっていたのである。


カーブドッチワイナリー
www.docci.com

トラヴィーニュ
https://travigne.jp

ヴィネスパ
https://vinespa.jp

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