ART / DESIGN

日本の夏の風物詩、浴衣の老舗「竺仙」がこだわる「らしさ」とは

2022.07.06 WED
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日本の夏の風物詩、浴衣の老舗「竺仙」がこだわる「らしさ」とは

2022.07.06 WED
日本の夏の風物詩、浴衣の老舗「竺仙」がこだわる「らしさ」とは
日本の夏の風物詩、浴衣の老舗「竺仙」がこだわる「らしさ」とは

天保13年(1842年)に創業した「竺仙」は、「浴衣を誂えるなら竺仙」といわれるほどの浴衣の老舗。日本橋にある本店でものづくりへのこだわりを聞き、「竺仙」の生地を100年以上染めてきた注染工房「伊勢保染工所」に、LEXUS LS 500hで訪れた。

Text & Edit by Tamako Naoe (lefthands)
Photographs by Takao Ohta

「竺仙らしさ」を探る

東京都の日本橋に本店を構える、老舗呉服屋の「竺仙」。江戸時代から続く江戸小紋、浴衣をメインに扱う。浅草で創業し、三代目の時代に有名百貨店、高級呉服専門店から声をかけられたことから日本橋に移転した。LSのために開発された銀影ラスターの奥行きのあるシルバーの陰影が引き立たせる、歴史を感じさせるのれんや引き戸とのコントラストが印象的だ。
年季を感じさせるのれんの奥には、手ぬぐいや風呂敷などの小物が並ぶ棚と昔ながらの急な階段が見える
竺仙オリジナルの手ぬぐいは、昔ながらの目の荒い専用の生地を使っている
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竺仙の浴衣は全国の百貨店や呉服店で仕立てることもできるが、予約を取って本店で反物を選ぶぜいたくを楽しむ顧客も多い。今回は、その本店にて「竺仙らしさ」を探ってみた。

昔から変わらないもの

今回、本店にお邪魔し、よく磨かれ飴色になった急な階段を上がり、2階の部屋へ。

この部屋の入り口上にも東都のれん会の加盟店リストが飾られているが、店内にはさまざまな形で掲示されている。東都のれん会とは、昭和26年(1951年)に設立され、「江戸・東京で三代、100年以上、同業で継続し、現在も盛業」の条件を満たす53店舗が参加している。竺仙は発会当時からの会員だ。
東都のれん会の加盟店リスト
東都のれん会の加盟店リスト
木枠の窓には螺子(ねじ)式の鍵がついていて、タイムスリップしたかのような感覚に。足元には、部屋の壁に沿ってたくさんの反物が組み木のように積まれていた。これはその夏のために厳選され、染め上げられた色、柄、素材だけが並んでいるのだ。竺仙のオリジナルの柄は1万を超え、その中から毎年厳選し提案しているという。江戸時代につくられた図柄を活かし、今でも昔ながらの伊勢型紙を使って染め上げられている反物もまた、連綿と続く老舗がこだわる、変わらない商品だ。
厳選された反物が揃う竺仙本店において完全予約制で浴衣を誂えることが大人の嗜みといわれている
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昔から変わらず、この部屋で、浴衣を誂えるために顧客を迎え入れてきたのだ。

「竺仙らしさ」を最優先するものづくり

株式会社 竺仙の常務取締役の小川茂之氏は「すべての指針は『竺仙らしさ』です」と語る。

「現在の経営の仕事に従事するまでに、商品部や営業部で働いてきました。毎年の柄を決めるときも、工房の職人さんたちと反物について話し合うときも、接客のときも常に『竺仙らしさ』を意識しています。竺仙の社員はもちろん、竺仙の反物を染めている職人の皆さん、何よりも竺仙の浴衣をご愛用いただいている顧客の皆様が『竺仙の浴衣は他とは違う』『見れば竺仙だとわかる』とおっしゃっていただけることが、すべてを物語っていると思います」
株式会社 竺仙で常務取締役を務める小川茂之氏は、五代目当主、小川文男氏の甥にあたる
2022年の浴衣地見本帖
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毎年の色、柄、素材は、商品部と経営陣が決めているが、洋服のようにその年のトレンドや前年の売り上げ状況を重視することはない。「竺仙らしさ」を最優先し、江戸の頃より引き継がれている図案帖や柄見本をもとに、反物をつくり続けている。同じ柄でも柄を大きく配置したり、柄のバランスを変えて重ねてみたりと、その時代に合わせて変化させていても「竺仙らしさ」が失われることはない。百貨店や呉服屋だけでなく、顧客からも「見れば分かる」と声が上がるのは、老舗だからこその「歴史」と「信頼」が伝わるエピソードだろう。
小川氏に男物の浴衣に薦めたい柄を並べてもらった
浴衣の生地には、コーマ・縮・紬・綿芭蕉・麻・絹紅梅・綿紅梅・奥州絣・綿絽などがある
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男物の浴衣は、シンプルな柄が好まれる傾向があるようだが、小川氏は「浴衣だからこそ大きな柄や色遊びを楽しんでほしいです」と話す。実際に反物を体にあててみると印象が変わるので、遠慮なく気になった反物は広げて試してみるべき。シンプルな形の浴衣だからこそ、洋服よりも大胆な色柄が着こなせることもある。
「CHIKUSEN DRESS(チクセン ドレス)」は、3型のサマードレスとボレロの4アイテム
「CHIKUSEN DRESS(チクセン ドレス)」は、3型のサマードレスとボレロの4アイテム
その「竺仙」が新しい取り組みとして動き出しているのが「CHIKUSEN DRESS(チクセン ドレス)」。浴衣の反物からサマードレスを誂えるコレクションだ。夏に着る浴衣の生地の特性を一番に活かせるアイテムということはもちろん、浴衣を着る機会が少ない層にも職人技が詰まった素材を手に取ってもらう機会を増やすことが目的だという。

「職人が作る工芸品でもある浴衣生地を、気軽に手に触れ、身近に感じ、着てもらって伝えることも老舗呉服店の使命でしょう」

「竺仙」のものづくりは、歴史があるからこそ変えられない点もあり、また変えるべき点もある。その連続が「竺仙」をつくり、これからもつくっていくのだと感じた。その歴史の一端を担う注染の工房へ移動し、話を聞いてきた。

伊勢保染工所

「竺仙」の浴衣を象徴する染めの一つが注染である。注染は日本独自の技法で、他の染め方では1日に数反しか生産できなかったところを、80反ほど生産できるようになった画期的な方法だといわれている。また染料を流し込み、下から空気を吸引し重なった生地を染めるため、裏表のない染め上がりになる。

江戸川区にある伊勢保染工所は、現在東京の注染工場は4軒、主に浴衣を染色している工場は2軒まで減ってしまった注染工房の一つ。創業には「竺仙」からの後押しもあったという。
生地を代の上に型紙の大きさに合わせて屏風だたみで置き、型紙を使い、防染糊をヘラでのせていく型置き作業
生地を代の上に型紙の大きさに合わせて屏風だたみで置き、型紙を使い、防染糊をヘラでのせていく型置き作業
伊勢保染工所の三代目である伊藤爲久氏(東京都伝統工芸士)は、職人としての考え方として、「ものづくりにおいて、これで良いというものはない」という言葉を挙げた。常に完全なものはない、次はもっと良いものをつくるために何をすべきかを考えて作業してきたという。その伊藤氏に大変だったことがあるかを聞くと、「『竺仙』で使われるコーマという反物は糸が細く織り目が詰まっているため、注染の高い技術が求められること」だと、教えてくれた。
染め上がったばかりの「竺仙」の浴衣の反物の前に並ぶ三代目伊藤爲久氏、「竺仙」小川茂之氏、四代目伊藤匠氏
伊勢保染工所内にかけられた、染め上がったばかりの「竺仙」の浴衣の反物の前に並ぶ三代目伊藤爲久氏、「竺仙」小川茂之氏、四代目伊藤匠氏
伊勢保染工所では、技法を守りつつ新しい商品をつくることを、多様性に満ちた豊かな社会への取り組みとして進めている。この工房には男女問わず、若い職人が働いており、後継者不足の問題はなさそうだ。伊藤氏は、四代目となる息子の伊藤匠氏や職人がやりたいということに反対せず、あえて挑戦させ、すべての可能性を活かしている。「昔は柄や色に男女の区別があるものもあったが、今は性別で分ける意味はない」とも話す。
子ども用の浴衣のそそぎ染め工程。この柄は小川氏が子どもの頃に着ていたものと同じだ
「竺仙」の人気柄「金魚」。白い枠のように塗られているものは、色が混ざらないように塗られた糊
染め終わった反物から、防染糊や余分な染料を流す「水洗い」工程。
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日本の職人が共感するLSに搭載された技術と美意識

小川氏は、LSを見た際に、「頬擦りをしてみたくなるような柔らかい光沢感」と銀影ラスターを表した。

伊藤親子は、微妙なシルバーのグラデーションが美しい西陣織(※)の内装に興味津々。色のトーンから読み取れる「侘寂(わびさび)」の表現、日本人の心にある和の美意識が活かされたデザインが気持ちを落ち着かせるのではと楽しそうに話していた。

小川氏は「竺仙」とLEXUSのものづくりについて、共通点を感じていた。LEXUSのデザインや機能性から、乗り手の感覚や目線を意識してつくられていることが分かる。「竺仙」も、常にお客様目線でのものづくりにこだわっているからこそ、感じられる共通点だろう。その小川氏が今後のLEXUSに期待することも聞いてみた。

「トップを走るブランドとして、これからも日本の工芸と協業する姿を見てみたいです。このLSの取り組みは、クルマ業界の常識を変えるでしょう。各国のメーカーが、それぞれの国の工芸を工業製品に使用するようになることが実現すれば、世界中の職人の技術が残っていく可能性が高まります」


若い世代へ受け継がれていく、日本の夏を鮮やかにする「竺仙」の浴衣を着て街へ出かけたい。大人だから楽しめる誂えの浴衣という嗜みを、いつの日か自分へのご褒美にしてもよいだろう。

※ 西陣織は西陣織工業組合の商標です

竺仙
https://www.chikusen.co.jp

伊勢保染工所
https://iseyasu-some.jp

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