ART / DESIGN

注目を集め続ける
老舗西陣織

「HOSOO」
12代目
細尾真孝氏の挑戦

2022.06.15 WED
ART / DESIGN

注目を集め続ける
老舗西陣織

「HOSOO」
12代目
細尾真孝氏の挑戦

2022.06.15 WED
注目を集め続ける老舗西陣織「HOSOO」12代目 細尾真孝氏の挑戦
注目を集め続ける老舗西陣織「HOSOO」12代目 細尾真孝氏の挑戦

LEXUS LS 500hのドアトリムに採用されている西陣織。※
実装は不可能と思われていたコラボレーションを実現させた細尾真孝氏に、LEXUSとの協業や開発プロセス、また今後の挑戦について聞いた。

Text & Edit by Tamako Naoe (lefthands)
Photographs by Maruo Kono

協業と革新で受け継がれる西陣織の伝統

日本が世界に誇る伝統工芸品の一つである西陣織。「HOSOO」は元禄元年(1688年)創業の老舗であり、12代目当主の細尾真孝氏の幅広い活躍は注目を集め続けている。特にインテリア、ファッション、アート、テクノロジーなど、さまざまな分野での素材開発をはじめ、ラグジュアリーブランドやファイブスターホテルの内装にも使われることで知られる。LEXUS LSのドアトリムとしても特別な印象を残す西陣織(*メーカーオプション)について、またLEXUSとの取り組み、今後のものづくりを通じた挑戦についてたっぷりと語ってもらった。

そもそも西陣とは京都市街北西部に位置する地域の呼称で、その地域で生産される先染の織物が「西陣織」と呼ばれる。1200年余りの歴史を持つ西陣織は、平安時代から貴族や武士階級、さらには裕福な町人たちの支持を受け、日本の代表的な織物のブランドとして発展してきた。

老舗西陣織「HOSOO」は、圧倒的な美を生む高い技術と芸術性を求め、新たな可能性を探り、きもの文化を未来につなげていくことを使命としている。
「HOSOO FLAGSHIP STORE」の店内
「HOSOO FLAGSHIP STORE」の店内
西陣織は協業と革新の連続によって受け継がれる伝統工芸品である。西陣織を完成させるのに必要な工程は20以上あり、それぞれに異なる専門性を持った職人や技術者が担う高度な分業によって成り立っている。西陣織に関わるすべての人が圧倒的な美を追求しているからこそ、類いまれなる職人技として継承されてきたのだ。

また常に革新を求め、挑戦し続けてきた。明治時代には量産性を高めるために、フランスのリヨンへ3名の留学生を派遣し、ジャカード織について学ばせた。当時の最先端技術であったジャカード織機など数十に及ぶ機器装置を輸入し、新しい技術を取り入れて発展してきた。
自然光を取り入れたエリアで、さまざまなテキスタイルの美しさを手に取って確認することができる
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海外の展示会に参加するようになり、1年がかりで世界標準である150cm幅の織機も開発。現在はインテリアやファッションのみならず、テキスタイルを活用した外壁素材、新しいものづくりに取り組んでいる。その技術を活かし、きものや帯などの和装文化とはまったく違うと思われる分野の企業やアーティストとプロジェクトを多数実施してきた。

「多くの方から驚かれることも多く、伝統の捉え方に対してはさまざまな意見もあります。しかし西陣織の新しい技術を取り入れ、今までにない表現を求め、究極の美を生み出してきた歴史を踏襲しているにすぎないのです」と細尾氏は語る。
「HOSOO」12代目 細尾真孝氏
「HOSOO」12代目 細尾真孝氏
細尾氏は好きな言葉として、ウィンストン・チャーチルの「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう」という名言を挙げる。

「この言葉の通りであるならば、西陣織は1200年の歴史があるので、1200年先まで見渡せるはずです。未来の人に伝えるべきことは何か、残すべきものは何かを考え、挑戦を続けています」
西陣織のアートパネルとソファ
西陣織のアートパネルとソファ

LEXUSとともに挑戦した日本の美意識

2016年に東京の表参道で開催された、映画監督で画家のデヴィット・リンチとコラボレーションした個展「デヴィッド・リンチ ミーツ ホソオ(DAVID LYNCH meets HOSOO)」の会場で、LEXUSのデザイナーを紹介されたことが、協業の始まりだった。
LEXUS LS 500h
LEXUS LS 500h
コンセプトカーではなく、販売するクルマに西陣織を実装するのは非現実的だと思っていたからこそ、挑戦しがいがあるとワクワクした細尾氏。西陣織に欠かせない箔については、耐久性や不燃性などの基準を超える素材を一から開発した。4年かけて完成させた新素材は、西陣織として認められる品質に仕上がった。工業製品に求められる統一性は、工芸でつくられる一つひとつ違うものと相反する。最終的には、優先すべきものは機能性よりも「究極の美」であるという共通認識を持つことで、お互いに変化を受け入れ、実車搭載できる立体感を持つ西陣織が完成した。
LEXUSとの協業について振り返る細尾氏
LEXUSとの協業について振り返る細尾氏
月が海を照らす様子を表現した西陣織は、数色のグレーと箔を織り重ねた立体的かつ陰影のあるテクスチャーを持つ。光が当たる角度によって表情が変わり、水面が揺れているかのように見える。夜は間接照明が当たり、昼間とは違う趣となる。
素材の開発から取り組み、実装されたLSを初めて見たときの感想を聞いてみた。

「ただただ感動しました。世界で初めて工業製品である乗用車に、西陣織の美しさと素材感を表現できた喜び、うれしさでいっぱいでした」

LEXUSは日本を代表するブランドであり、日本の美意識を持って挑戦し続ける姿勢と覚悟を感じると語る細尾氏。自身も方向性に賛同する仲間として、挑戦から生まれる革新をつくり続けていきたいと話す。
インテリア : プラチナ箔&西陣®(ブラック)
コンセプト「月の道」イメージ
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このLSに採用された内装「プラチナ箔&西陣」は、外装色「銀影ラスター」とともに、一般社団法人 日本流行色協会(JAFCA)が主催する優れたモビリティのカラーデザインを顕彰する制度「オートカラーアウォード2021」のグランプリを受賞した。光のようなエクステリアに、インテリアに西陣織や箔などを使い、日本の伝統工芸とクルマを融合した点が評価されたのだ。

未来につなげたい工芸が持つ可能性

2023年3月にグランドオープンする東京ミッドタウン八重洲のエントランスに、高さ15m、幅8mの西陣織を使ったアートピースが飾られる。素材は、「HOSOO FLAGSHIP STORE」の建物最上階の外壁にも使われている「西陣織FRPガラス(NISHIJIN reflected)」を進化させたもの。「西陣織FRPガラス」自体が4年の歳月をかけて開発された素材で、西陣織が持つ美的特徴を活かし、光や見る角度によってさまざまな表情を見せる。
「HOSOO FLAGSHIP STORE」の外観は4色の土壁と墨しっくいで仕上げられており、職人の技術力と素材感が際立つ
「HOSOO FLAGSHIP STORE」の外観は4色の土壁と墨しっくいで仕上げられており、職人の技術力と素材感が際立つ
東京ミッドタウン八重洲で飾られるアートピースでは、「西陣織FRPガラス」にクラックを発生させ、偶然が生み出す新しい美の概念を形にすることができたと、細尾氏はうれしそうに話す。バックライトがついた時だけクラックが透けて見える、特別な照明構造となる。新しい日本の玄関口に飾られる、そのアートピースを早く見たいものである。
細尾氏が個人的に実現したいことは西陣織の建築物をつくること。モンゴルのゲルのように布を使った家をつくることは、構造と機能を与えれば可能だと考えている。すでに紫外線を3秒当てることで硬化する素材の開発に取り組んでおり、西陣織の家(漫画「ドラゴンボール」に出てくるホイポイカプセルのイメージ)を実現させるために、さまざまな研究開発を続けていくという。

とっぴなアイデアのように思えるが、伝統工芸の持つ強さがあるからこそできる……ちゅうちょなく、楽しそうに話してくれた細尾氏の夢がかなうのを見届けたいと思う。きっとそう遠くない未来に実現してくれるはずだ。

「常に固定観念を崩し、変化を求め、すでにあるものを壊そうとしても、それさえものみ込んで伝統は続いていくのです。本能として、人は美を求めていく。その力は工芸が歴史をつくる後押しをしてくれます。だから安心して前に進んでいきます」
HOSOO FLAGSHIP STOREには、西陣織を使用した家具や小物が並ぶ
西陣織のテーブルウエア「HOSOOスタイリングマット」は、その場で購入することもできる
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今回取材した「HOSOO FLAGSHIP STORE」では、西陣織を使ったホームコレクションが展示販売されており、100を超える西陣織の生地見本からのオーダーも可能だ。細尾氏と西陣織の職人たちがつくり出した美しいテキスタイルを堪能したい。1階奥にはカフェラウンジ「HOSOO LOUNGE」があり、1秒に1滴ずつ抽出する水出し緑茶を、伝統工芸の器で楽しむこともできる。2階のギャラリーでは、多角的な視点から染織を扱う企画展示を不定期に開催している。
この記事をきっかけに、細尾氏の飽くなき挑戦を、多くの人に注目してもらえたらと願っている。

※西陣、西陣織は西陣織工業組合の商標です。

■HOSOO
https://www.hosoo.co.jp

■HOSOO FLAGSHIP STORE
https://www.hosoo.co.jp/flagship/

関連記事:西陣織「HOSOO」12代目 細尾真孝氏と LS で巡る京都

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