CAR

「NEXT CHAPTER」の

“走りの味磨き”とは? LX開発インサイドストーリー(前編)

2022.06.10 FRI
CAR

「NEXT CHAPTER」の

“走りの味磨き”とは? LX開発インサイドストーリー(前編)

2022.06.10 FRI
「NEXT CHAPTER」の“走りの味磨き”とは?LX開発インサイドストーリー(前編)
「NEXT CHAPTER」の“走りの味磨き”とは?LX開発インサイドストーリー(前編)

カーボンニュートラル社会の実現と、多様化するお客様のニーズに寄り添うクルマづくりを加速させる次世代LEXUS。NEXT CHAPTERとして、NXに続き投入した最新のフラッグシップSUVの走りはいかに磨き上げられたのか。開発を指揮した横尾貴己チーフエンジニアと、同車の“走りの味”を追求したTAKUMI(匠)と呼ばれる二人の開発ドライバーに、「もっといいクルマづくり」として取り組んだLX600の走りの味磨きについて、聞いた。特にオンロード性能についての開発インサイドストーリーをお届けする。

後編はこちら

Photographs by Takayuki Kikuchi

「LEXUSらしい走りの味」の追求に尽力した二人のTAKUMI

2021年10月に次世代LEXUS第2弾としてワールドプレミアされた「LEXUS LX」。「LX600」として、22年1月に発売されたこのモデルにも、LEXUSらしい走りの味をつくるべく、開発を指揮した横尾貴己チーフエンジニアとともに、LEXUS-TAKUMI(匠)が深く関わっている。

一人は、オンロードでの走りの味を磨いた伊藤好章(よしあき)。もう一人は、オフロード性能を手掛ける、やはりLEXUS-TAKUMIの上野和幸だ。
向かって左から、LEXUS-TAKUMIの伊藤好章、横尾貴己チーフエンジニア、そして同じくLEXUS-TAKUMIの上野和幸。
向かって左から、LEXUS-TAKUMIの伊藤好章、横尾貴己チーフエンジニア、そして同じくLEXUS-TAKUMIの上野和幸。
それぞれのエキスパートたちが、どんなふうに協力し合って、LEXUSのフラッグシップSUV「LX」の走りの味を磨き上げたのか。そのインサイドストーリーを、全2回でお届けする。
今回は、横尾と伊藤の会話を中心に、オンロードにおいて、質の高い乗り心地の実現へと至る開発の道のりについて聞いた。

横尾によると、「LEXUS LX600を開発するに当たって考えたのは、世界中のどんな道も楽に・上質に走れるクルマにしよう」ということだったという。
開発を指揮した横尾貴己。
開発を指揮した横尾貴己。LEXUS LX470(1998年発売)におけるデファレンシャルギアの改良を担当して以来、LEXUS車の開発に関わってきた
このクルマでいう「どんな道」とは、オンロードとオフロードだ。LXはデビュー以来、類いまれといえるオフロード性能を誇ってきた。それをさらに進化させるように、今回は、「“LEXUSの走りの味”を磨き、LEXUSらしい走り」を目指したそうだ。

走りの味を磨いたのは、前述したように伊藤、上野という二人のTAKUMIだ。

横尾「オンロードとオフロードのTAKUMIが、二人そろって開発に関わるというのは、非常にまれです。通常は、ある程度まで一方の開発が進んでから、もう一方のTAKUMIに“この状態でLEXUS(車)といえるか?”と意見を求める程度ですが、今回は、二人に開発の初期段階から関わってもらいました」

「伊藤には、LEXUSの走りの味をオンロードで体現できるようにしたいと頼み、上野には、オフロードでも上質さを感じる走りを相談しました」と横尾。そこで、上記の上野と伊藤が顔を合わせた。伊藤がそのときのことを振り返る。
伊藤はLEXUS-TAKUMIとしてすべてのLEXUS車の“走りの味磨き”に携わる
伊藤はLEXUS-TAKUMIとしてすべてのLEXUS車の“走りの味磨き”に携わる
伊藤「まず、横尾と上野と集まりました。操作系や品質の作り込みを担当しているTAKUMIの尾崎修一もいましたね。そのとき横尾が、『ゼロからLXを作っていきます』と言ったのを強烈に覚えています。個人的には、ジャーマンスリーといわれるドイツのプレミアムブランドは乗り味の統一ができている中、LEXUS としてもしっかり統一感を出さなければ、と決意を新たにしました。」

伊藤は、レーンチェンジのときの車両の“姿勢”や、コーナリング時に外側のサスペンションが伸びようとする“ジャッキアップ”を修正して、LEXUS車独自の走りの味「Lexus Driving Signature」の実現に努めた。

伊藤「難しかったところは、ステアリングを操作したときの動きの統一性でした。私は“姿勢を寄せる”と表現をしていますが、オンロードでもオフロードでも同じような感覚をもって運転していただくことを追求しました。」

伊藤は、「都度、上野と連絡を取っていた」という。「どこに手を入れると、オフロード走行性能に影響出るかと、私は頻繁に(上野に) 聞いていました」
オフロード性能とオンロード性能の両立を目指して、伊藤と連携をとりながらオフロードでの走り込みを行ったという上野
オフロード性能とオンロード性能の両立を目指して、伊藤と連携をとりながらオフロードでの走り込みを行ったという上野
一方、上野にも多少の戸惑いはあったとか。「ボディのロールをとにかく抑えるようにサスペンションシステムを設定すると、乗り心地のしなやかさが失われてしまったりと、二律背反しそうな要素をうまく両立させなくてはいけなかった」からだ。

上野「LXはオフロードを走り込むことで、車両を仕立て、最後の味付けを伊藤が担当してくれました。そこで、私は、オフロードでここまでやると、目指すところに背反してしまわないか、と思いながら取り組んでいたんです。それをよく覚えています。私が担当するオフロードでの性能と、伊藤が手掛けてくれるオンロードでの性能が、背反した結果を生まないようにと、気をつけました」

「次世代LEXUS」の流れをくむ「FUN TO DRIVE」性

「Lexus Driving Signature」がオンロード、オフロードを問わず追求された
LX600では、LEXUSならではの走りの味である「Lexus Driving Signature」がオンロード、オフロードを問わず追求された
LX600のキャラクターを決めるために、Lexus International内の各ディビジョンの長と全チーフエンジニアが集まり、討議した。次世代LEXUSにおける乗り味の方向性を決定し、それに従うかたちで、LXも作られていくというのだ。

横尾「思い出すのは、開発の初期段階で、こちらの考える性能をある程度盛り込んだ先行車という試験車両を作って、伊藤に乗ってもらったときのことです。特に意識したのは、舵(ステアリング)を切ったときの応答性で、次世代LEXUSとして目指す方向をそこに込めたと思っていました。ところが、伊藤の反応は期待と全然違い、ショッキングなものでした……」

伊藤「(苦笑)初期の段階だったので、仕方ないですよね」

横尾と話し合いながら伊藤が心掛けたのは、例えば、ステアリングを操作したときの操舵感。切った角度と車体が縦の軸を中心に回り(動き)だすヨーレートとの関係性など、LEXUS車らしさとはどういうものか、方向性が出ていたという。
ステアリングを操作した際のLEXUS車らしい挙動を追求すべく、開発チームは走り込みを行った。
ステアリングを操作した際のLEXUS車らしい挙動を追求すべく、開発チームは走り込みを行った。
横尾「ステアリングを操作したときに、いきなり車体がグラッとロールしないのも、LX600では大事だと思ったポイントです。操舵感というのは、運転しての安心感とともに、上質さにとって非常に重要です」

オンロード性能とオフロード性能が、実は緊密に関係し合っていたという、伊藤と上野は振り返る。

伊藤「悪路や急勾配の道を走るLXだけに対転覆性もオフロード性能の重要課題。それを高めていくと、オンロードでの走りにもいい影響が出ます」

上野もうなずく。

LX600の開発においては、オフロードでの走破性とオンロードでの操縦安定性とを高次元で両立させるのが目標。そのため、サスペンションシステムの設計に気を使った、と横尾は語る。
横尾「特にリヤサスペンションにおいては、サスペンションアームとダンパーの配置と特性を作り込んでいます。車軸の動きをコントロールしやすくすることで、車両安定性と乗り心地をともに追求しました。新しくなったAHC(アクティブ・ハイトコントロール・サスペンション)とAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンションシステム)をうまく使って、サスペンションのストローク(動き)をできるだけ大きくとって、LXにとって重要なオフロードでの走破性を確保しつつ、オンロードでの高い車両コントロール性と優れた乗り心地を追求しました」
タイトコーナーでも身のこなしは極めて自然な印象だ
タイトコーナーでも身のこなしは極めて自然な印象だ

「世界中のどんな道でも楽に・上質に」を実現するための徹底したこだわり

「もっといいクルマづくり」を目指したLX600が開発コンセプト「世界中のどんな道でも楽に・上質に」を追求するため、目をつけたのが「フレーム車特有のブルブルの解消」だったというエピソードがある。

伊藤「横尾がさかんに言っていたのが、ボディオンフレームというLXのボディ構造ゆえ、路面がやや荒れていると、ボディがブルブルッと震えてしまう。それを直していきたい、ということでした」


横尾「ブルブルがあると、いまひとつ、上質感が得られないと考えました。原因は、キャブマウントというLXのボディ構造に由来しています。(ボディとシャシーが一体化した)通常のモノコック構造と違い、エンジンを含 めたドライブトレインを搭載したフレームと、人が乗るキャビンとが分離した構造のため、ボディとフレームを合体させるときは、キャブマウントという衝撃吸収のための緩衝機構を間に入れます。この構造を採ると、路面からの入力によってキャビンが揺れやすくなります」

伊藤「そこをなんとかしようと。そこで、テスト走行を繰り返して、キャブマウントのブッシュに使うワッシャーをいろいろ変更してみました。プレート径はコンマ0.5mm単位で、その厚みは0.1mm単位で変えていって、ブルブルを消すためにどれが最適か探りました」
本格的なオフロード性能を誇りながら、乗用車感覚の操縦性を実現したのがLX600の特徴
本格的なオフロード性能を誇りながら、乗用車感覚の操縦性を実現したのがLX600の特徴
LX600は「背の高いリムジンのように思っていただける方もいるかもしれない」という考えから、乗用車感覚を身につけた。そこは、もっといいクルマづくりを追求する次世代LEXUSのこだわりがある。

伊藤「LEXUS車の開発に当たっては、『すっきりと奥深い味わい』というキーワードを基に進めています。それはLXでも同じことです。LEXUS味磨き活動を通して、乗り味の統一を図っています」
静粛性や乗り心地などの快適性も向上した
静粛性や乗り心地などの快適性も向上した
横尾「低重心化と軽量化という“素性のよさ”が、今回のLXのハードウエアにおける特長。それをベースに、伊藤と上野が走りを磨き上げ、ドライバーがクルマと対話できる操作性と、操縦安定性が実現したことで、すっきり、しっかりしたクルマになりました」

ワインディングロードとかオフロードでなくても、LX600の走りのよさは分かってもらえる、そう横尾は語った。

後編では、オフロードでの走りを中心に、引き続きLXの開発におけるLEXUSならではの走りの味づくりについて話を聞いていく。

デザイン部長と4人のチーフエンジニアが語る、LEXUSのNEXT CHAPTERとは?

この記事はいかがでしたか?

ご回答いただきありがとうございました。

RECOMMEND

LATEST