JOURNEY

ジョン金谷鮮治のスピリットが宿る箱根の森の別邸
「KANAYA RESORT HAKONE」

2022.05.24 TUE
JOURNEY

ジョン金谷鮮治のスピリットが宿る箱根の森の別邸
「KANAYA RESORT HAKONE」

2022.05.24 TUE
ジョン金谷鮮治のスピリットが宿る箱根の森の別邸「KANAYA RESORT HAKONE」
ジョン金谷鮮治のスピリットが宿る箱根の森の別邸「KANAYA RESORT HAKONE」

秘密にしておきたい、とっておきの宿とは、「KANAYA RESORT HAKONE」のような場所をいうのだろう。日本最古のリゾートホテルをルーツに持つ鬼怒川金谷ホテルの“別邸”は、箱根・仙石原の奥深くに広がる森の中で静かに客を迎える。

Text & Edit by Mari Maeda (lefthands)
Photographs by Maruo Kono

箱根の森深くで、ジョン金谷鮮治の美学と出会う

モダンなエントランスの前で、その日走らせたLEXUS ES300h“F SPORT”の流麗、かつ構築的なデザインが美しく映えた。LEXUS最初のラインアップとして誕生し、進化を遂げながらブランドのエモーショナルな世界観を伝え続けるES。積み重ねてきた時間から生まれる本物の上質感が、この日泊まる宿にふさわしく感じられた。
宿へと至る箱根の山中を走るLEXUS ES300h “F SPORT”
白い外観に赤いレザー張りの内装が洒落ている
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辺り一帯には清澄な空気が漂う。山の上の、人里離れた場所にあるからだろう。歴史をさかのぼるとかつては宮家が所有していた土地だったという。目に映るのは雄大な自然ばかり。東京からクルマを走らせることわずか1時間半で、世の喧騒から切り離されることのぜいたくさ。旅路もES300hならではの静粛性のおかげで至極快適、かつ上質な乗り心地がこの宿へと連動するかのようだった。

訪れたのはまだ芽吹く前。それはそれで風情があり、枯れ枝の合間から遥か遠くに連なる山々を眺めていると心が洗われた。木々が新緑に覆われはじめると、まさに広大な森の中で過ごす感覚に包まれることだろう。
森には新芽を求めて子鹿が訪れていた
6500坪もある森の中のガーデンテラス。
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老舗の鬼怒川金谷ホテルがこの宿をオープンしたのは、4年前のこと。創業者であるジョン金谷鮮治(ジョン・カナヤ)の美意識に彩られた宿は、わずか14室のみを擁して、あたかも森の中の私邸を訪れたかのような心地よさに包まれている。

ほのかな明かりがともるエントランスでは、ガブリエール・ロアール作のスカルプチャードグラスが客を迎える。ロアールは優美なバラ窓で知られるシャルトル大聖堂を擁する街に生まれた、フランスの著名なステンドグラス作家だ。素朴さの中に輝くような生命を宿す彼の作品に、ジョン・カナヤは瞬く間に引かれたという。ジャポネスクの影響を受けていたロアールの作品が、ジョンの経営哲学でもあった「和敬洋讃」のスピリットに重なったこともあるのだろう。世界でも有数のコレクターとなり、受注を重ねた。

今日国内でロアール作品を見ることができる場所は限られている。そんな希少な作品に出迎えられることも、この宿を訪れる喜びの一つ。作品からは、昭和の時代に西洋と東洋の美の融合を試みたジョンの残り香が漂う。
薄明かりのエントランスで浮かび上がるガブリエル・ロアールの作品
床のタイルには「KANAYA 1931」と刻まれ、鬼怒川温泉ホテルの創業年が記されている
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ここで少し、ジョン・カナヤについて述べておこう。ジョンとはクリスチャンネームで、本名は金谷鮮治。 かの日光金谷ホテルを創業した金谷善一郎の孫で、今日の鬼怒川金谷ホテルを築いた伝説の人物だ。西洋的な暮らしの中で育ち、昭和初期にヨーロッパを繰り返し訪れていたジョンは、紳士としての類いまれな品格を漂わせていた。仕立ての良いスーツに身を包み、白いリンカーン・コンチネンタルから颯爽と降り立つ姿はダンディそのもので、誰もが魅了されずにはいられなかったという。
在りし日のジョン金谷鮮治。シガーをこよなく愛した
在りし日のジョン金谷鮮治。シガーをこよなく愛した
そんなジョンの名を冠したJOHN KANAYA Suite(ジョン・カナヤ・スイート)は、全14室の中でも特別な1室。重厚な扉を開くと130㎡余りの空間が広がり、リビングとダイニングは開放感に満ちて、大きな窓越しに森との一体感に包まれる。
箱根の自然とスタイリッシュに響き合うウッド&ストーンのインテリア
すべてが優美な極上のコンセプトスイートルーム
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空間はモダンでありながら、ジョンが遺した西欧アンティークやロアールの絵画などが点在し、洒落た邸宅に招かれたかのような趣。どこか懐かしい温かみを感じさせる。
室内に置かれたアンティーク家具などが邸宅を訪れたかのような趣を醸し出す
壁にはガブリエル・ロアールの絵画が
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広々とした外のテラスには十和田石造りの浴槽があり、大涌谷の源泉かけ流しの湯が渾々と溢れていた。

早速荷物を解いた後に、心ゆくまで湯にゆったりと漬かる。柔らかな湯が、心身を浄化していくようだった。

その後しばしカウチで寛ぎ、時を忘れて過ごす。視界の先には山々が連なり、風に吹かれて擦れ合う木の葉の音が耳元を過ぎてゆく。

ふと、フランス第一帝政皇帝となったナポレオン・ボナパルトに私淑していたジョンが愛飲していたという銘シャンパン「ナポレオン」を開けてみたくなった。ナポレオンの名を冠することを唯一許され、同ホテルが、ジョンの思い出を記念して今日もサーブし続けるシャンパンだ。
森の風景を独り占めできる広いテラスは右奥にも続き、ソファがもう1台置かれている。
ジョン金谷鮮治が愛飲し、数々の賞を受賞したCh. & A.プリユール「シャンパーニュ ナポレオン」
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グラスに注ぐと、黄金色がきらめき美しい。洋ナシやはちみつ、アーモンドなどのアロマが華やかで、口に含むとすっきりと力強い。繊細な泡も心地よく、話によれば今宵食する「和敬洋讃」をコンセプトとする金谷流の料理になくてはならないシャンパンなのだという。

自然に抱かれながら、優雅な空間に身を委ねて心身解ける中、ジョンが愛したシャンパンを味わい、晩餐を待つ至福。この宿の真骨頂はこれからなのだと思うと、心が高鳴った。
各部屋趣が異なるがシックな内装で統一され、大きな窓は森に面して自然と一体化する
「美肌の湯」として名高い白調のにごり湯は柔らかな湯触り
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伝説の「西洋膳所ジョンカナヤ麻布」を継承するダイニング

待ちに待った夕食の時間が訪れる。

ホテルのメインダイニング「西洋膳所 JOHN KANAYA」は、今からさかのぼること50年前の1971年に東京の西麻布にオープンした「西洋膳所ジョンカナヤ麻布」を継承する。2004年に閉店したが、のちにヌーベル・キュイジーヌと称される“懐石料理のようなフレンチ”を生み出したことで知られる名店だった。
メインダイニング「西洋膳所 JOHN KANAYA」の入り口にも、ロアールのステンドグラスが
メインダイニング「西洋膳所 JOHN KANAYA」の入り口にも、ロアールのステンドグラスが
本来伝統的なフランス料理というものは、ソースが濃厚で量もたっぷり、日本人の胃袋には至極重たい。そこでジョンは、固定観念のない当時まだ30歳にも満たなかった坂井宏行氏を起用し、日本の懐石料理を学ぶ機会を与えて、全く新しいスタイルのフランス料理を生み出した。今でこそ盛り付けが美しく、繊細なフレンチが当たり前のように提供されるようになったが、その先駆けとなったのが「西洋膳所ジョンカナヤ麻布」だったのである。

「日本人には日本人に好まれる、日本人にあったフランス料理があってもいい。そこで、四季折々の食材を使った懐石料理を取り入れて、新しいフランス料理を創れないかと思っているんですよ。」(著書『西洋膳所ジョンカナヤ麻布ものがたり』より)

ジョンが一貫して貫いた経営哲学「和敬洋讃」のアプローチは、今日の鬼怒川金谷ホテル、そしてここ、KANAYA RESORT HAKONEにおいても、色濃く、誠実に継承されている。料理はその最たるもので、一度味わったことがある者であれば称賛せずにはいられないであろう。今日的な口コミを見れば、疑う余地がない。

和洋融合した繊細な食材の饗宴と、気品あるプレゼテーションは、細部に至るまで日本的な美意識に彩られている。この日は特別に色をテーマにしたメニューだったが、皿の上はさながらモダンアートのような様相をまとい、目にも美しく美味な料理はサプライズの連続だった。

滞りのないサーブも心配りに溢れ、老舗ならではの優雅なもてなしが心地よい。前述のシャンパンから始まり、料理に合わせて注がれるワインも秀逸だった。

ジョンがこの場にいたのであれば、きっと目を細めていたことだろう。
ジョン・カナヤが探求した「箸で食べられるフレンチ」のコンセプトのもと、今日も箸が置かれている
写真は6月からスタートするメニュー。爽やかで軽やかな色彩が初夏らしい ©️KANAYA RESORTS
©️KANAYA RESORTS
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ジョンの「和敬洋讃」が今日もこうして軽やかに、かつモダンに受け継がれて、私たちの舌を存分に楽しませてくれることに喜びを感じたひととき。十分にその世界観を堪能した後にはバーに立ち寄り、あえてジョニーウォーカーをオーダーする。

今でこそ世界中に流通し最もポピュラーなスコッチだが、戦後の日本ではボトル1本の価格がサラリーマンの平均月給の3分の1に相当し、知る人ぞ知る高根の花だったジョニーウォーカー。そんな自分と同じ愛称を持つスコッチをジョン・カナヤは深く愛し、日本の紳士淑女にもこの本場の酒を知ってほしいと、英国酒場「ジョンカナヤ」をオープン。「ロンドンのオーセンティックなクラブサロンの空気が漂っていた」とかつてを知る者はいう。

そんな逸話に敬意を払いながら、タンブラーを片手に宵が豊かに過ぎていった。
コロナ禍ゆえに現在バーの利用は制限されているが、カクテルをオーダーして部屋に届けてもらうことができる
バーには象徴的にジョニーウォーカーが置かれ、ジョン・カナヤへの敬意からあえてオーダーする客も
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戦後の日本に、西欧の紳士の遊び心と嗜みを日本の暮らしにもたらし、和と洋の融合を試みたジョン・カナヤ。その美意識の片りんを感じることができるKANAYA RESORT HAKONEは、現代的な進化を遂げながらもどこか懐かしく、懐の深さを感じさせる。それは受け継ぐものがあるがゆえの豊かさなのだろう。

聞くところによれば、ジョン・カナヤはヨーロッパから帰国すると従業員たちに当時貴重だったチョコレートを配って歩き、働く女性たちのためには託児所も設けていたそうだ。そんな心配りが、今日の客へのもてなしにも反映されている。

ロアールの大作を所蔵する「彫刻の森美術館」へ

さて、箱根の山の森の奥深くで心からの寛ぎの時を過ごした翌日は、後ろ髪を引かれつつ宿を後にし、ジョンが敬愛したロアールの大作を所蔵する「彫刻の森美術館」を訪れた。
箱根・ニノ平の「彫刻の森美術館」
箱根・ニノ平の「彫刻の森美術館」
高さが18mにも及ぶ「幸せをよぶシンフォニー彫刻」は、美術館の屋外展示場にそびえ立つ。制作年が1975年であることから、ジョンもこの作品を見たのではないだろうか。

光が降り注ぐ中、万華鏡のようにきらめくステンドグラスの美しさは圧巻。春夏秋冬を描くガラスのモチーフの色彩が光と戯れて、まさに壮大なシンフォニーを奏でているかのようだ。この作品は今日館内で最も人気があるというが、光の彫刻家と称されたロアールの芸術に心酔したジョンの感性に改めて共鳴せずにはいられない。
「幸せを呼ぶシンフォニー彫刻」ガブリエル・ロアール(1904-1996)作
春夏秋冬を描いたモチーフを、らせん階段を上がりながら鑑賞することができる
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KANAYA RESORT HAKONEに宿泊した際には、ぜひ訪れてみてはいかがだろう。ひと際印象に残る旅となるはずだ。


■KANAYA RESORT HAKONE
https://hakonekanaya.com

■彫刻の森美術館
https://www.hakone-oam.or.jp

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