西伊豆スカイラインの絶景
「東京からでしたら、ぜひ西伊豆スカイランを通っていらしてください。絶景ドライブをお楽しみいただけると思います」
その言葉のとおり、静岡県伊豆半島の修善寺から戸田峠と船原峠をつなぐ道は、想像の域をはるかに超える景色が続いた。都内からわずか2時間走らせただけで、ここが日本であることを忘れるほどのダイナミックな見晴らしが広がり、バリエーションに富んだカーブとアップダウンは、ワインディングロードを走ることが好きなドライバーにはたまらない。
その言葉のとおり、静岡県伊豆半島の修善寺から戸田峠と船原峠をつなぐ道は、想像の域をはるかに超える景色が続いた。都内からわずか2時間走らせただけで、ここが日本であることを忘れるほどのダイナミックな見晴らしが広がり、バリエーションに富んだカーブとアップダウンは、ワインディングロードを走ることが好きなドライバーにはたまらない。
この日、旅の友に選んだのは、オープントップならではの爽快な走りと、エレガンスを兼ね備えた内外装が魅力のLC500コンバーチブル。大小さまざまなコーナーが続く絶景のワインディングロードで、屈指のパフォーマンスを操る気持ちよさはこの上なく、アクセルペダルを踏み込むたびに耳に届く、5リッターV8ユニットが奏でるエンジンサウンドの美しさにも心をくすぐられた。
壮大な富士山の姿と駿河湾を見渡し、走る喜びに満たされた後は、目的地であるロクワット西伊豆へ。クルマを止めて開かれた門の奥をのぞくと、立派な古民家がたたずんでいる。敷地内に足を踏み入れると、すぐさま副支配人の三浦崇聡氏が出迎えてくれた。事前に西伊豆スカイラインを勧めてくれたのが三浦氏で、思いがけない絶景に感激したことを伝えると、明るい笑顔を浮かべた。
「西伊豆は魅力の宝庫です」
その表情にはすがすがしいほどの誇りが感じられて、ロクワット西伊豆が掲げる使命がこの地の魅力を伝えることであることを思い出す。そして実にここ土肥での滞在は、西伊豆の魅力に目覚める素晴らしいひと時となった。
「西伊豆は魅力の宝庫です」
その表情にはすがすがしいほどの誇りが感じられて、ロクワット西伊豆が掲げる使命がこの地の魅力を伝えることであることを思い出す。そして実にここ土肥での滞在は、西伊豆の魅力に目覚める素晴らしいひと時となった。
江戸時代から続いた名主の美学を受け継ぐ
2021年に西伊豆の土肥にオープンしたロクワット西伊豆は、江⼾時代からこの地の名主として代々続いた鈴木家の邸宅を受け継ぐ。建物も植栽も可能な限り元の姿を活かしたといい、時を超えて残る巧みな職人の技と、鈴木家の長きにわたる歴史を感じさせる改装は見事だった。
地域に貢献し、⼈々から愛されていたという鈴⽊家。その邸宅を継承するに当たり、ロクワット西伊豆にはこの敷地で紡がれてきた豊かな文化を絶やすことなく引き継いでいきたいとの想いがある。
地域に貢献し、⼈々から愛されていたという鈴⽊家。その邸宅を継承するに当たり、ロクワット西伊豆にはこの敷地で紡がれてきた豊かな文化を絶やすことなく引き継いでいきたいとの想いがある。
敷地内の屋敷にはメインのレストランに加えて日常の暮らしを彩るベーカリーやジェラテリアが併設され、どれも宿泊客以外の人々にも開放されているのだが、それもそうした心意気からだ。これまでもそうであったように、この場所が末長く地元の人々に親しまれ、何かしらこの町に貢献し続けていく場所となるよう努めていきたいと冨田秀一支配人は語る。
そうした真摯な想いは訪れる人々への優しさや温もりとなってこの場所を彩り、旅人への心配りにおいても一貫していた。
そうした真摯な想いは訪れる人々への優しさや温もりとなってこの場所を彩り、旅人への心配りにおいても一貫していた。
宿泊客はチェックインの前に、まずは入り口にあるジェラテリアで好みのジェラートを選ぶ。到着早々に勧められるそのワンステップが楽しく、どれを選ぶか迷ううちに心はほどけ、懐かしい場所を訪れたかのような気分に包まれる。ジェラートは季節の移ろいを感じさせる旬の素材を大切にしていて、少し口にすると繊細でなめらかな味わいが後を引いた。
手渡されたカップを片手に、庭の威厳ある松の老木や枝垂れ梅を眺め、その日泊まる蔵へと案内される。蔵は敷地奥の、宿泊者だけが立ち入ることができる静けさの中にある。重厚な蔵戸を開いて中へ入ると、天井の立派な梁、趣のある土壁、鈴木家が所有していたという貴重なアンティークの家具などに目が奪われた。
手渡されたカップを片手に、庭の威厳ある松の老木や枝垂れ梅を眺め、その日泊まる蔵へと案内される。蔵は敷地奥の、宿泊者だけが立ち入ることができる静けさの中にある。重厚な蔵戸を開いて中へ入ると、天井の立派な梁、趣のある土壁、鈴木家が所有していたという貴重なアンティークの家具などに目が奪われた。
話によると、この蔵には以前、裏庭にある枇杷(びわ)の木の実を収穫する際に使ったかごや、屋敷で行われていた餅つきの臼などが保管されていたという。
「このテーブルも、実はその臼をリメイクしたものです。歴史を尊重して、できる限りのものを残すようにしました。天井の梁はもちろんですが、この土壁も海藻のりと石灰を混ぜた本しっくいで塗り直しています。今では国内でもできる職人が少なくなってしまった技ですね」
そんな話を聞いていると、取材スタッフの一人が「この天井の木の文字は何ですか?」と問いかける。
「このテーブルも、実はその臼をリメイクしたものです。歴史を尊重して、できる限りのものを残すようにしました。天井の梁はもちろんですが、この土壁も海藻のりと石灰を混ぜた本しっくいで塗り直しています。今では国内でもできる職人が少なくなってしまった技ですね」
そんな話を聞いていると、取材スタッフの一人が「この天井の木の文字は何ですか?」と問いかける。
「よく気づかれましたね! かつては大工仕事を終えると、自分が手がけた印に柱に名前を書き残したそうなんです」
柱に書かれた名に目を留める人はなかなかいないようだが、もしも泊まることがあればその場所を探してみるのも一興だ。
部屋に用意されたウエルカムシャンパンを開けてくつろぎ、会話を楽しみながらチェックインを済ませると、「ぜひ西伊豆の夕日をご覧いただきたいので、後ほどお連れしますね。それまでどうぞ時間を忘れてゆっくりとお過ごしください」と告げて三浦氏は部屋を後にした。
室内を見渡すと、コーナーにはレコードプレーヤーや良書が置かれていて、忙しない日常から離れて静かなひと時を味わうのにいい。屋外には露天風呂があり、源泉掛け流しの湯がひたひたとあふれている。
柱に書かれた名に目を留める人はなかなかいないようだが、もしも泊まることがあればその場所を探してみるのも一興だ。
部屋に用意されたウエルカムシャンパンを開けてくつろぎ、会話を楽しみながらチェックインを済ませると、「ぜひ西伊豆の夕日をご覧いただきたいので、後ほどお連れしますね。それまでどうぞ時間を忘れてゆっくりとお過ごしください」と告げて三浦氏は部屋を後にした。
室内を見渡すと、コーナーにはレコードプレーヤーや良書が置かれていて、忙しない日常から離れて静かなひと時を味わうのにいい。屋外には露天風呂があり、源泉掛け流しの湯がひたひたとあふれている。
予約時にお願いすれば、「幻の白枇杷」の葉を原料にしたオイルを使ったトリートメントプログラムを受けることもできる。枇杷の葉には疲労回復、アレルギーの改善など優れた薬効があり古来珍重されてきた。
実は施設名のロクワットとは、枇杷のことだ。初夏の限られた時季だけに果実が成る「⽩枇杷」は、全国でも土肥にしかないという。柔らかく扱いが難しいために土肥から外にはなかなか出回らず、ゆえに「幻の白枇杷」と称される。ロクワットと名付けたのも、そうしたこの土地の人々の誇りをシンボルにしたかったからだという。
しばらくゆるりと過ごし、日が傾き始めたのを感じると、三浦氏からそろそろ夕日を見に行きましょうと声がかかる。クルマに乗り込み、近くの海岸へ。刻々と水平線に沈んでいく夕日は、言葉に尽くせないほど荘厳だった。
実は施設名のロクワットとは、枇杷のことだ。初夏の限られた時季だけに果実が成る「⽩枇杷」は、全国でも土肥にしかないという。柔らかく扱いが難しいために土肥から外にはなかなか出回らず、ゆえに「幻の白枇杷」と称される。ロクワットと名付けたのも、そうしたこの土地の人々の誇りをシンボルにしたかったからだという。
しばらくゆるりと過ごし、日が傾き始めたのを感じると、三浦氏からそろそろ夕日を見に行きましょうと声がかかる。クルマに乗り込み、近くの海岸へ。刻々と水平線に沈んでいく夕日は、言葉に尽くせないほど荘厳だった。
日本一とも称される西伊豆の夕陽を目に焼き付けて、心を震わせながらロクワットへと戻ると、タケル クインディチでの夕食が待っていた。腕を振るうのは、かつてアロマフレスカの料理長を歴任した大関淳士氏。ここにたどり着いた理由を問うと、以前から自ら生産者の元へと通い食材を選ぶことを夢見ていたのだという。それはなかなか東京ではかなわないことで、今こうして週に数度生産者の元を訪れ、豊かな伊豆の土壌に触れて、自ら選んだ新鮮な食材を使い料理できることは幸せだと語る。
「シンプルな料理は、新鮮な食材があってこそですので」
「シンプルな料理は、新鮮な食材があってこそですので」
そう控えめに語っていた大関氏の料理は、皿が運ばれてくるたびに驚きと感動の連続だった。素材の組み合わせが絶妙で、それぞれの良さを引き出しながら香りと食感が織り成すハーモニーが五感を刺激する。メニューには素材名だけが書かれており想像をかき立てるのだが、その想像を軽々と超える美味に笑みがこぼれる。
シンプルでありながら味わい深く、この日のメインの天城黒豚は3時間かけてゆっくりと調理され、その火入れの加減は比類なかった。そしてまた感心したのは、サーブするスタッフの熱量だ。丁寧な料理の説明とともに地元の食材を紹介したいとの思いが、弾むような声からひしひしと伝わってくる。
シンプルでありながら味わい深く、この日のメインの天城黒豚は3時間かけてゆっくりと調理され、その火入れの加減は比類なかった。そしてまた感心したのは、サーブするスタッフの熱量だ。丁寧な料理の説明とともに地元の食材を紹介したいとの思いが、弾むような声からひしひしと伝わってくる。
夕食を満喫した後は宿泊者専用の蔵バーへ。地元の原木シイタケを漬けたというオリジナルのリキュールで作ったブラディメアリーを味わい、またここでもスタッフとの会話を軽やかに楽しむ。これほど親しみを感じながら接することができるのも、この宿が2組限定であり、その2組のために彼らが一心に尽くしてくれるからだろう。会話の端々から客のニーズを察知し、さりげなく心を配る。
ロクワット西伊豆の多々ある魅力の中でも、支配人、副支配人をはじめ、全てのスタッフのもてなしの素晴らしさには心をつかまれる。皆一人ひとりが生き生きとしていて、土肥への愛と、客の望みに全力で応えていこうとする想いにあふれているのだ。つまらないマニュアルなどはきっとないのだろう。この心地よさは、この宿を皆でつくり上げていくのだという一人ひとりの覚悟と情熱から生まれ、若々しく、能動的な接客がもたらすものだ。
繰り返し訪れたくなる場所
翌朝は窓から差し込む穏やかな光の中、地元の野菜が彩るセンスあふれる朝食をたっぷりといただいた。併設するベーカリーから焼き立てのブレッドが運ばれてくるのもうれしい。27層にもなるというパンオショコラは絶品だった。
朝食後はお願いしていた電動自転車に乗り、町中を思うままにサイクリングして遊ぶ。風に吹かれて海辺にたどり着く頃には、素朴な土肥の町がとても好きになっていた。
自然豊かな土地、歴史が色濃く残る屋敷、スタッフのあたたかな心遣い、料理の素晴らしさ……。並べきれないほどの魅力に満ち、全てが心地よく調和するロクワット西伊豆。古き良きものを守りながら、フレッシュな感覚にもあふれるこの場所が、オープンからわずか1年にしてすでにリピーターに愛されていることを疑う余地はない。
ぜひ一度ロクワット西伊豆を訪れ、未知なる西伊豆への旅に目覚めてみてはいかがだろう。再訪せずにはいられない、とっておきのデスティネーションになるはずだ。
ぜひ一度ロクワット西伊豆を訪れ、未知なる西伊豆への旅に目覚めてみてはいかがだろう。再訪せずにはいられない、とっておきのデスティネーションになるはずだ。
ロクワット西伊豆
https://loquat-nishiizu.jp/
https://loquat-nishiizu.jp/