JOURNEY

自然の中にあるものを活かし、無駄にしない

サステナブルライフを実践する「Brown’s Field」へ

2022.02.28 MON
JOURNEY

自然の中にあるものを活かし、無駄にしない

サステナブルライフを実践する「Brown’s Field」へ

2022.02.28 MON
自然の中にあるものを活かし、無駄にしないサステナブルライフを実践する「Brown’s Field」へ
自然の中にあるものを活かし、無駄にしないサステナブルライフを実践する「Brown’s Field」へ

千葉県いすみ市にある「Brown’s Field」(ブラウンズフィールド)は、マクロビオティック料理家の中島デコ氏が家族で東京から移住して立ち上げたコミュニティスペースだ。自然豊かな里山の一角で自給自足に近い暮らしを送りながら、住み込みで働くスタッフとともにカフェや宿泊施設などを運営している。今回はデコ氏へのインタビューから、サステナブルな暮らし方・生き方の根底に息づく思想をひも解く。

※緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の解除後の外出をお願いします。

Text by Kaori Kawake(lefthands)
Photographs by Maruo Kono

里山、里海の原風景が残る千葉県いすみ市へ

12月上旬、都内からLEXUS NX250に乗り込み向かったのは、千葉県いすみ市。1時間ちょっとの快適なドライブののちに到着したのは、海と山に囲まれた房総半島最東端の地。せっかくここまで来たのなら、太平洋を一望しないわけにはいかない。立ち寄ったのは、九十九里浜の断崖に立つ太東崎灯台だ。
日の出スポットとしても知られる太東崎灯台
日の出スポットとしても知られる太東崎灯台
途中、くねくねと曲がった細道を抜けたが、NX250は適度なサイズ感と高い操縦性が身上。その感覚は、SUVというよりもむしろスポーツセダンに近い。キビキビとターンを決めるスポーティな走りは、積極的に走る喜びを与えてくれる。
断崖の端まで進むと、背後には灯台、眼下にはどこまでも大海原が広がる絶景が待ち受けていた。ひんやりとした潮風も、むしろ心地よく感じられる。このエリアの海はバラエティに富んだ良質な波が1年を通してあることから、多くのサーファーが訪れるのだとか。里海と里山の両方を同時に楽しめるのもいすみ市の魅力だ。
今回の目的地である「ブラウンズフィールド」は、そんな海岸線からクルマで15分ほど。軽やかな鳥のさえずりが聞こえる静かな里山にある。
広々とした敷地には古民家がひっそりと立ち並ぶ。木々に囲まれていながらもぽっかりと開けたその場所は、空が広く、風が吹き抜け、日差しが燦々と降り注ぐ。

豊かな自然に囲まれたサステナブルな施設

ここブラウンズフィールドは、実にユニークな施設だ。

10人以上のスタッフが衣食住を共にしながら野菜や米を栽培し、自分たちでリノベーションを手がけたカフェ「ライステラスカフェ」や「コテージ」、宿泊施設「慈慈の邸」、イベントスペース「サクラダコミンカ」を運営しているほか、長期にわたって持続的な暮らしを学べる「サステナブルスクール」も開催している。

特にカフェがオープンする週末(金・土・日・祝日)は、地元の人のみならず、各地から多くの人が集まりにぎわいを見せる。
週替わりのランチプレートやヴィーガンスイーツ、ドリンクを提供するライステラスカフェ
外の緑を見ながらゆっくりとした時間を過ごせるくつろぎの空間
オリジナルのクッキーや調味料はお土産にも
羽釜で炊いた自家製無農薬玄米や自家製のみそ汁をベースにしたライステラスカフェのランチプレート。
心も体も喜ぶ、白砂糖、卵、乳製品を使わないデザート
カジュアルなスタイルで泊まれるコテージ。目の前には田畑が広がる
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手がけているのは、マクロビオティック料理家として、その名を広く知られる中島デコ氏。1999年に東京からこの地に移住し、ブラウンズフィールドをスタートして今年で23年になるという。
「ブラウンズフィールド」代表の中島デコ氏
「ブラウンズフィールド」代表の中島デコ氏
野菜や米を育て、調味料までを手作りし、自給自足に近い循環型の暮らしを送っている。

今でこそサステナブルな暮らしや移住に目を向ける人が増えているものの、デコ氏がこのような暮らしを始めたのは20年以上も前のこと。なぜ料理家として活躍していたデコ氏は移住を決め、サステナブルな暮らしをスタートしたのだろうか。そのきっかけや想いを聞いた。

心地よい場所で、心地よいことを

東京生まれ、東京育ちのデコ氏。もともとは都内でマクロビオティックを教えながら、夫と子ども5人、犬2匹と暮らしていた。しかし、大家族での都会暮らしは家もキッチンも狭い。そのうえ新鮮な食材は手に入りにくく、かつ非常に割高で、クオリティの高い食生活を維持するには、子どもとの時間を減らしてあくせく働くほかない。そんな暮らしにストレスを感じていたという。

そんなある日、地方に住む友人宅に遊びに行ったデコ氏は、思いもよらなかった光景を目の当たりにする。その日の料理に使う大根や小松菜を庭で採っていたのだ。

「いまでこそ当たり前になっていますが、当時の私には目からうろこでした。まさか、新鮮な無農薬野菜がタダ同然で手に入るなんて。これまで一体何をやっていたんだろうと、目が覚める思いでした」
その経験をきっかけに、本当に自分がしたかったことは何なのかを自問自答し始めたという。

「人生はそんなに長くない。心地よい場所で心地よいことをして、お金に縛られない生活ができないものだろうか」

そんな折、偶然にも知人から千葉の古民家に空きが出るから見にこないかと連絡があった。何を隠そう、それこそがブラウンズフィールドのある場所だ。はじめはあまり乗り気ではなかったものの、いざ来てみたら海も山も近くにあるいすみ市が気に入ったという。

「里山は美しいし、日当たりも非常にいい。しかも近所では産地直売の野菜が安く出回っていて、千葉っていいかもと思いました。よくよく場所を確認したら、なかなか行けていなかった父親のお墓も近いことが分かり、鳥肌が立ちましたね」

そうして運命に導かれるように、いすみ市への移住を決めたのだ。とはいえ、当初はカフェや宿泊施設を運営しようとは考えていなかったという。

「あまりにも広い場所だったので、いずれは自分たちだけではなく、さまざまな人が集う風通しのよい場所にしたいなと思ってとりあえず名前だけつけたんです。ただ、はじめの頃は子育てをしながら、田舎暮らしについての記事やレシピ、エッセイを雑誌に寄稿しながらゆっくり暮らしていました」

自然発生的に始まったカフェや宿泊施設

「流れるまま、思いつくまま、必要とされるままに、いろんなことを始めちゃったんです」。カフェや宿泊施設を始めた経緯について、デコ氏はやわらかな笑顔でそう語った。

「記事でブラウンズフィールドのことを書いたら、興味を持った人が見学しに訪れるようになったんです。来てくれた人たちにお茶やお昼ご飯を振る舞っていたので、どうせならカフェにしようと納屋を改装して。そうしたら、今度は遠方からカフェに人が集まるようになって、宿泊もできるようにしようと蔵を奇麗に整えてコテージにしたんです。そうこうしているうちに、近くの民家が空くというので、本格的な宿泊施設『慈慈の邸』を造ったり、イベントスペース『サクラダコミンカ』を作ったり……気がついたらいろいろなことを始めていました」
ブラウンズフィールドの敷地から徒歩3分ほどの場所にある宿泊施設「慈慈の邸」
開放感あふれる吹き抜けが印象的な土間。ダイニングスペースとして使われている
土壁には田んぼから採取した粘土に無農薬のわらを混ぜたものが使われ、温かみのある空間に仕上がっている
築250年のかやぶき屋根の古民家を再生したイベントスペース「サクラダコミンカ」
各種イベントやワークショップを開催している
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当初は田畑も本格的にやるつもりはなかったという。

「庭の畑で大根を作ろうくらいに思っていたんです。でも、いろいろなご縁につながって、田んぼを初めて以来ずっと続けています」と笑うデコ氏。

最初のうちは家族だけで運営していたが、そのうちにやりきれなくなり「WWOOF」(ウーフ:金銭のやりとりなしで労働力と食事・宿泊場所とを交換する仕組みのこと)を利用して、共同生活が始まっていったという。今では住み込みで働くスタッフとともに、一つ屋根の下10人以上で生活している。
「慈慈の邸」の暖簾の隙間からのぞくのは、中央に大きなテーブルが据えられた広々としたキッチン
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「本当にここ何十年、どれだけの人に助けられ、どれだけすてきな人に出会ったことか」と楽しそうに話すデコ氏。

「昔の言葉でいう『結』のように、みんなができることを提供し合って、助け合いながら生活ができたらいいなと思っています」

マクロビオティックの神髄は「身土不二」

流れのままに今の生活スタイルを確立していったデコ氏。田舎暮らしを始めてから、改めてマクロビオティックの神髄に触れたという。

「マクロビオティックの大きな柱に身土不二(しんどふじ)という言葉があります。体と土は2つに分けられない。要は、自分が健康であるためには、自分の住んでいる環境、場所、土で育ったものをいただくといいよということです。都会で料理教室をやっていたときは、レシピに合わせてさまざまな材料を各地から集めて料理していました。でも、田舎暮らしを始めて、それは発想が逆だということに気がついたのです。土地にできているものを採り、その中でおいしいものを作る。これこそがマクロビオティックの神髄ではないかと思っています」
マクロビオティックは、先に土があってのこと。追求した先には田畑があったのだ。いまブラウンズフィールドでは、大豆と米からみそを、大豆と麦から醤油を、梅から梅干しを、柿から柿酢を作り、調味料もすべて自家製のものを使っているという。
「慈慈の邸」で腕を振るうのは、マクロビオティック料理家であり、デコ氏の次女 舞宙音さん
柿酢で和えたサラダ、梅ジャムを添えた玄米のワッフルなど、どれも優しい味付けながら深みがあり驚くほどおいしい
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普段スーパーで買っている調味料も、実はすべて自分で作れるもの。そういう昔ながらの日本の知識を残したいし、伝えていきたいとデコ氏は話す。

「やはり持続可能な生活でなければ意味がないですよね。すべては健康ありき。健康だからこそおいしいものを食べられるし、働けて、遊ぶことができる。できる限り元気で長く生きたいという想いが、今の生活を作り上げています」

大切なのは足るを知ること

最後に、持続可能な生活を送る上で大切にするべきことは何かと尋ねると、デコ氏は次のように答えてくれた。

「こういう暮らしをしていると、自然の恵みのなかで生かされていると感じます。欲張らずに足るを知ること。自分の生活を見直して、自然が与えてくれたものを、ありがたくいただくことが大切だと思います」
ブラウンズフィールドで飼育しているヤギのおきぬちゃん
ブラウンズフィールドで飼育しているヤギのおきぬちゃん
持続可能を考える「サステナブルスクール」や体験イベントなど、地域の人々と一緒に、多岐に及ぶ活動をしてきたブラウンズフィールドは、多くの人にポジティブなインパクトを与えている。
新たにブラウンズフィールド内にオープンした「ACOUSTIC Bread and Coffee」。
新たにブラウンズフィールド内にオープンした「ACOUSTIC Bread and Coffee」。天然酵母のパンと自家焙煎のスペシャルコーヒーなどを提供する
デコ氏の夢は、生まれてから死ぬまでを地域のコミュニティで循環していけるようにすることだという。「助産所や老人ホームを造り、みんなで支え合っていきたい」と言葉を添えた。

今後どんなふうにブラウンズフィールドが進化していくのか楽しみだ。

「おいしいご飯が食べたい」。そんな理由でもいいので、ぜひ一度ブラウンズフィールドに足を運んでみてほしい。自然の中にあるものを活かしながら、無駄にしない生活を送る彼女たちの生き方は、マクロビオティックやサステナブルな生活に対して抱く心のハードルを下げ、新たなライフスタイルのヒントを与えてくれるはずだ。
Brown’s Field
https://brownsfield-jp.com

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