JOURNEY

食と芸術の発信拠点へ、生まれ変わり進化する富山県・岩瀬町

2022.02.08 TUE
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食と芸術の発信拠点へ、生まれ変わり進化する富山県・岩瀬町

2022.02.08 TUE
食と芸術の発信拠点へ、生まれ変わり進化する富山県・岩瀬町
食と芸術の発信拠点へ、生まれ変わり進化する富山県・岩瀬町

富山県富山市岩瀬町は、かつて北前船の寄港地として繁栄し、独自の「東岩瀬回船問屋型」家屋が並ぶ。近年、修復再生された町並みが、歴史的資源を活かした魅力ある地域再生の成功例として注目されている。進化し続ける岩瀬町をLEXUS ES300hで訪れた。

※緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の解除後の外出をお願いします。

Text & Edit by Tamako Naoe (lefthands)
Photographs by Shu Okawara

江戸時代の町並みを修復再生する

富山県の岩瀬町は、927年に完成奏上された延喜式にも登場するほど長い歴史を持つ。室町時代には廻船式目(日本最古の海法)によって三津七湊の一つに数えられる北国廻船の重要な湊であり、江戸時代には北前船が寄港する交易地として、回船問屋五大家である宮城家、馬場家、米田家、森家、畠山家が栄えた。明治6年(1873年)の大火で、約1000戸あった家屋のうち650戸が焼失し、江戸時代の伝統的建築は失われた。その頃、最盛期だった五大家を中心とした回船問屋により、岩瀬独自の「東岩瀬回船問屋型」家屋として再建されたのが、現在修復再生が進む町並みだ。
酒屋、フレンチレストラン、ガラス工房、陶芸工房が入る「森家土蔵群」
酒屋、フレンチレストラン、ガラス工房、陶芸工房が入る「森家土蔵群」
時代は流れ、近代化する交通網の発達により過疎化が進み、空き家が増えた岩瀬町。地元の造り酒屋「桝田酒造店」5代目当主の桝田隆一郎氏(当時は専務)は、寂れてしまった岩瀬を、歴史的資源を活かした魅力ある町にしたいと動き出した。最初は個人で、2004年には「岩瀬まちづくり株式会社」を設立し、町の再生・保全に取り組むとともに若手芸術家の拠点づくりをサポートしている。
歴史を感じる岩瀬の町並みにLEXUS ES300hのエレガントでモダンなデザインが映える
歴史を感じる岩瀬の町並みにLEXUS ES300hのエレガントでモダンなデザインが映える
桝田氏に誘われ移住したガラス工芸家の安田泰三氏、陶芸家の釋永岳氏、木彫作家の岩崎努氏などが岩瀬町でものづくりをしている。彼らが作る器や作品を目当てに、多くの料理人や器好きがギャラリーだけでなく、作品が使われている店舗にも訪れる。出格子や板塀の美しい商家が並ぶ岩瀬エリアは、江戸時代の町並みによってだけでなく、芸術村としても国内外から注目される人気の観光地なのだ。

歴史を感じる町並みを、モダンなデザインのLEXUS ES300hで走り抜ける。今回は、車窓からの眺めを楽しんだ後、宿泊する「つりや東岩瀬」にクルマを停めて町歩きに出かける。富山観光の途中で立ち寄る場合でも、岩瀬カナル会館、富山港展望台、岩瀬中央公園などに駐車場があるので、ゆっくり食事や散策を楽しんでもらいたい。

お酒好きにはたまらない「酒商 田尻本店」と「沙石」

重要文化財である北前船廻船問屋「森家」のすぐそばにある、蔵として利用されていた「森家土蔵群」の土壁は、伝統的工法で竹や縄を使って修復されている。その「森家土蔵群」の中には「酒商 田尻本店」や完全予約制の「カーヴ・ユノキ」、さらにはガラス作家の安田泰三氏と陶芸作家の釋永岳氏の工房もある。岩瀬の新しい文化発信拠点の一つだ。
「森家土蔵群」にかかる青いのれんは「酒商 田尻本店」、白いのれんは「カーヴ・ユノキ」の入り口
北陸の地酒をメインにこだわりの日本酒、焼酎、ワインが並び、眺めるだけでも楽しめる
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通りに面している「酒商 田尻本店」には、地元岩瀬の造り酒屋「桝田酒造店」を代表する「満寿泉」をはじめ、各地から直接仕入れた日本酒や焼酎、世界のワインが揃う。店舗の半分を占めるほどのセラーは、紫外線カット加工されたガラス張りで、懐かしい木札の棚に手荷物を預けて中に入ることもできる。天井まで届く棚に並ぶ、北陸の地酒のラインナップは一見の価値ありだ。王道の清酒だけでなく、デザインボトルや、ワインの醸造家と一緒に造った日本酒、季節限定品など、気になるものばかり。利酒師とワインアドバイザーの資格を有する店主の犬島唯司氏に相談しながら選ぶのも楽しい。

同じ土蔵群に工房を構える釋永氏が作る、口当たりがよく酒の味をそのまま楽しめる酒器などもあり、ギフトとしてお薦めできる。

酒商 田尻本店
http://www.tajirisaketen.co.jp
1階の出格子「簾虫籠(すむしこ)」が美しい「東岩瀬廻船問屋型」の家屋に入っている「沙石」
店の奥から回廊へ抜けられる 
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お酒好きなら立ち寄るべきもう一軒は、日本酒立ち飲みバー「沙石」。回船問屋として栄えた宮城家を改築した店内には、歴史を感じる外観とは対照的に、開放的でモダンな空間が広がる。表通りから入ると、岩瀬町で作品を生み出している安田氏と釋永氏の作品に迎えられ、ギャラリーに迷い込んだ感覚に。店の中央にある杉の柱にも圧倒される。
釋永岳氏の作品が並ぶ店内
釋永岳氏の作品が並ぶ店内
この店は、桝田酒造店が経営している人気店で、富山を代表する「満寿泉」の全種類(約100種類)を有料で試飲することができ、平日でも客足は絶えない。木枡を購入して1杯毎に有料試飲するスタイルか、30分の唎酒コースから選べ、どちらにするか悩んでしまう。ここでしか味わえない日本酒やデザインボトル、またオリジナルのTシャツなどもあり、試飲して気に入ったボトルと一緒に購入することができる。
冷蔵庫に入る全てのボトルが試飲できる。カウンターに並ぶアテと一緒に楽しむこともできる
冷蔵庫に入る全てのボトルが試飲できる。カウンターに並ぶアテと一緒に楽しむこともできる
店の奥は中庭に通じていて、「御料理 ふじ居」(日本料理)、「ビアット スズキ チンクエ」(イタリアンレストラン)も同じ建物に入居している。ぜひ回廊を歩いて、その独特な空間を体感してほしい。

沙石
https://www.instagram.com/sh.ashi8445/

土蔵のブルーワリー「KOBO Brew Pub」

国登録有形文化財に登録されている「旧馬場家住宅」の旧米蔵の中にあるのは、釜や発酵タンクといった醸造装置を構える「KOBO Brew Pub(コボ ブルー パブ)」だ。チェコ出身の醸造家コティネック・ジリ氏と、スロバキア出身の店長、プリエソル・ボリス氏により立ち上げられたオリジナルビールブランド「KOBO」のクラフトビールや、北陸のクラフトビールが揃う。タップから注がれるクラフトビールは9種類。ビールに合うメッツゲライ・イケダのソーセージやフライドポテトなどのオリジナルフードに加え、ソフトドリンクもあるので、家族や友達と訪れたい。
土蔵を改修した「KOBO Brew Pub」
創立者であるプリエソル・ボリス氏とコティネック・ジリ氏
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歴史ある土蔵を生かした店内には、発酵タンクを囲むように、10メートルを超える長さのスギの一枚板を利用したテーブルが2つ。カウンターでオーダーしたビールを持って、好きなところに陣取ってゆっくりと過ごしたくなる。タイミングが合えば、仕込み作業を眺めながらクラフトビールを楽しめるのも魅力だ。
ガラス張りの醸造設備は四方から見ることができる
立派な一枚板のテーブル
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富山を代表するワイナリー「セイズファーム」のぶどうの搾り粕を使用した「セイズラガー」や、「セイズファーム」のブドウ酵母を使った「セイズIPA」、富山名産の呉羽梨で作られた「馬場ヴァイツェン」、富山の地酒を扱う満寿泉(桝田酒造店)の酒粕を使用した「ドラゴンエール」など、その時期お薦めのオリジナルビール4種を試すことができるテイスティングセットは、ほとんどの来店者が注文するという。
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KOBO Brew Pub
https://www.instagram.com/kobobrewpub/

岩瀬町を満喫するために宿泊するなら「つりや東岩瀬」

富山県の氷見漁港で江戸の頃より魚商を営む「釣屋魚問屋」が、富山の魚食文化をはじめさまざまな食の楽しさを発信する場所としてオープンした「つりや東岩瀬」。明治時代に建てられ、昭和初期には診療所として使われていた建物が改修されて、1階が物販・喫茶スペース、2階は1日1組限定の宿泊施設となっている。
「つりや東岩瀬」の1階は店舗、2階は貸し切りの宿泊施設になっている
入り口ののれんは「右肩上がり」という縁起を担ぐスタイル
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1階の店舗では、「釣屋魚問屋」のオリジナルブランド「つりや」の魚介保存食をはじめ、国内外でこだわりを持って作られている調味料や保存食が並ぶ。セイズファームのワインや満寿泉のお酒、富山の陶芸家やガラス作家などの器も購入できる。店の奥はイートインスペースとなっており、物販スペースで販売している食品や酒、こだわりのコーヒー、紅茶などを、店舗で取り扱う作家の器で楽しみながらゆっくり過ごせる。お土産にする加工された魚介類や保存食はここから発送もできるので、富山の海の幸を届けたい。
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エントランス横の隠れ扉を開け、階段を上ると和の趣があるモダンな部屋が迎えてくれる。2つのベッドルームの間にリビングルームがあり、広いオープンスペースとなっている。引き戸を閉めれば個室として使えるレイアウトで、家族や友人と一緒に泊まるのにちょうどいい。割烹、フレンチ、イタリアンなど、富山を代表する名店で夕食を済ませ、部屋に用意されている富山の地酒やワインを飲みながら過ごす時間ほどぜいたくなものはないだろう。
ゆっくりと語り合ってもらいたいという思いからテレビは設置されていない
朝食用に揃っている調理器具の数々。ランプはピーター・アイビー氏の作品
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朝食はオプションとなるが、食材を用意してもらい、自炊するスタイル。富山の有機棚田米を満寿泉の仕込み水を使ってバーミキュラの炊飯器で炊き、氷見産天然ぶりを2年間熟成させ漬け込んだ「糠ぶり」をご飯にのせ、「御料理 ふじ居」の一番出汁を南部鉄器で温めて注ぐお茶漬けがおいしくないはずはない。宿泊予約の際は忘れずに朝食オプションをつけてほしい。

つりや東岩瀬
https://tsuriya-iwase.com

「桝田酒造」5代目当主が見据える岩瀬町の未来

「満寿泉」の麹造りの真っ最中だった。作業は深夜まで続く
「桝田酒造店」5代目当主の桝田隆一郎氏
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今回訪れた岩瀬町の修復再生に尽力し続けている桝田酒造店5代目当主の桝田隆一郎氏。町づくりの成功例といわれ、全国から視察に来る岩瀬の立役者に話を聞いた。

最初から明確なビジョンがあったわけではなく、岩瀬町に移住したいと手を挙げた芸術家や料理人の相談窓口になった。それぞれが岩瀬で活動するにあたって、どの家を改装すれば彼らが幸せに暮らせるのか、どこに工房を構えれば最適なのか、一緒に何をしたいのかを考え、実現させていった。「GEJO」や「御料理 ふじ居」「KOBO Brew Pub」も同様に、それぞれにとって最高の環境を作り上げたという。
大きな杉玉が目印の「桝田酒造店」の奥には、酒蔵に立つ煙突が見える
大きな杉玉が目印の「桝田酒造店」の奥には、酒蔵に立つ煙突が見える
桝田氏は、海外へ出かけたり、来日するさまざまな職種の人たちと話をしたりするうちに、海外からも認められるためにはクラフトと食が欠かせないと気づく。町のブランディングが必要だと。気づかぬうちに、それは桝田氏が岩瀬でサポートしていることとつながっていたのだ。それぞれが点で始まり、あっという間に線となり、広い面になろうとしている。

現在、岩瀬町で建築中の建物は3軒あり、そのうちの2軒は同じつくりだという。そこには桝田氏が懇願して岩瀬に移ってもらう蕎麦屋「酒蕎楽くちいわ」と、食通や料理人が通う店として名高い割烹「ねんじり亭」が入る。開店すれば、北陸のミシュラン掲載店の7軒が岩瀬に揃うことになる。「その店で食事をするためだけに訪れる町としても面白くなるはず」と楽しげに話す。

岩瀬へ移住してきた芸術家や、店舗を構えた料理人に、桝田氏が期待することは一つ。

「岩瀬で作られる作品や料理で、僕が連れてくるお客様に自慢させてほしい」

その期待に応えるべく、切磋琢磨している岩瀬はどこよりも活気づいている。これからも古い町並みがもっと広がり、食や芸術の文化発信拠点が増えていく町。その変化を感じる旅に訪れてみてはいかがだろうか。

桝田酒造店
http://www.masuizumi.co.jp

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