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室屋義秀選手と自動車メーカー3社による、スペシャルパフォーマンスに込められた想い

2021.11.29 MON
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室屋義秀選手と自動車メーカー3社による、スペシャルパフォーマンスに込められた想い

2021.11.29 MON
室屋義秀選手と自動車メーカー3社による、スペシャルパフォーマンスに込められた想い
室屋義秀選手と自動車メーカー3社による、スペシャルパフォーマンスに込められた想い

モータースポーツにおいても困難な状況がつづく中、11月28日、SUPER GTは無事に最終戦決勝を迎えた。当日、会場となった富士スピードウェイでは、エアレース・パイロット室屋義秀選手によるフライトと共にトヨタ、ホンダ、日産によるパレードランも行われた。このスペシャルパフォーマンスに込められた想いとは。

Text by Kazuhiro Nanyo
Photographs by Noriaki Mitsuhashi / Kunihisa Kobayashi

モータースポーツに関わるすべての人に感謝と敬意を表すために

この日が最後のレースとなる星野一樹選手を乗せ、先に引退を表明していた中嶋一貴選手がステアリングを握る青いLEXUS LCコンバーチブルが現れると、「Wカズキ」の登場にグランドスタンドがさざめいた。SUPER GT2021年シーズン最終戦決勝レースのスタートに先だって行われた、トラック&フライトによるスペシャルパフォーマンス、「“Challenge for the future” Yoshi MUROYA × LEXUS Special Flight@ FUJI SPEEDWAY”」でのことだ。
中嶋一貴選手(左)と星野一樹選手(右)がLEXUS LCコンバーチブルで登場
日本のモータースポーツ界を盛り上げてきた中嶋一貴選手(左)と星野一樹選手(右)がLEXUS LCコンバーチブルで登場 ©三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY
F1をはじめ国内外のトップカテゴリーに挑み、ル・マン24時間で2018年のトヨタ初優勝を含む3連勝を記録した中嶋選手は、今シーズンをもってトヨタGRレーシングのレギュラードライバーから退く。その彼が、ホームである富士スピードウェイで、ドライバーとしてLEXUS LCコンバーチブルでパレードの先導を務めるのだ。SUPER GTを主催するGTアソシエーションの坂東正明代表が、去りゆく2人の功績を称えるとともに、観客への感謝と来シーズンへの希望をスピーチし、3人を乗せた青いLCコンバーチブルが走り出した。
坂東正明代表(中央)はグランドスタンドを埋め尽くした観客へのスピーチで、中嶋一貴、星野一樹両選手の功績を称えた
GTアソシエーションの坂東正明代表(中央)はグランドスタンドを埋め尽くした観客へのスピーチで、中嶋一貴、星野一樹両選手の功績を称えた ©三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY
今回のスペシャルパフォーマンスは、前年から続く新型コロナウイルス感染拡大の影響でレース開催の延期・中止など、モータースポーツ業界にとっても難しいシーズンだったからこそ、支え続けてくれたファンたち、開催に尽力してきたオーガナイザーやチーム関係者、そしてアスリートとして競技に向き合うドライバーまで、モータースポーツに関わるすべての人に、これまでの感謝と敬意を表すために行われた。だからこそ、通常のレース前セレモニーとしてではなく、SUPER GT500にワークスとして参戦している、トヨタ、ホンダ、日産という3社が、垣根を超えて力を合わせ、未来へ向けてそれぞれの挑戦を示すという、スペシャルなパフォーマンスとなったのだ。

パレードランを先導するLCコンバーチブルの鮮やかなブルーは、構造発色の原理で、青い素材を用いることなく青く見せるというストラクチュラルブルーだ。この技術開発には15年以上の時間がかけられ、LEXUSにとっては息の長いチャレンジと忍耐の結晶、そのものといえる。
LCコンバーチブル、ORC ROOKIE カローラH2コンセプト、ホンダNSX、NISSAN LEAF NISMO RC
メインストレートを一列になって走るLCコンバーチブル、ORC ROOKIE カローラH2コンセプト、ホンダNSX、NISSAN LEAF NISMO RC ©三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY
コーストラック上、LCコンバーチブルの後には、Super 耐久シリーズに水素エンジンで挑戦したORC ROOKIE カローラH2コンセプト、今年のSUPER GTにも参戦しているホンダNSX、ゼロ・エミッションのEVレーシングカーであるNISSAN LEAF NISMO RCの3台が続いた。カーボンニュートラル社会実現をはじめ、3社それぞれの未来へのチャレンジを象徴する、異なるカテゴリーのレーシングカーやスーパースポーツカーが、一つのフォーメーションを組んで走ったのだ。

パレードランに込められたそれぞれの想い

水素カローラが、実際に走行したことに対する想いとして、トヨタは次のように述べた。

「カーボンニュートラル実現のために選択肢を増やす挑戦、意志ある情熱と行動により、ガソリンの代わりに水素を燃焼させて走る水素エンジン車でSuper耐久シリーズへ参戦しました。そして共感いただいた多くの仲間と共にシリーズを走り切ることが出来ました。これまで支えていただき、応援していただいた多くの方への感謝の気持ちを込めて走りました」
パレードランにてORC ROOKIE カローラH2コンセプトのステアリングを握った佐々木雅弘選手
パレードランにてORC ROOKIE カローラH2コンセプトのステアリングを握った佐々木雅弘選手 ©三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY
エンジンとモーター、異なるフィールと出力特性による2種類のパワーソースの特性を活かしたハイブリッドスーパースポーツカー、ホンダNSX。そのNSXが走行した想いとして、HONDAは以下のように語ってくれた。

「フラッグシップモデルとして、我々のチャレンジスピリッツの象徴としての役割を、NSXは担ってきました。そして、SUPER GTにはNSXで特別な想いをもって挑み続けてきましたから、今回の走行には感慨深いですね」
ホンダNSXのステアリングを握ったのは2013年GT300クラス チャンピオン武藤英紀選手
ホンダNSXのステアリングを握ったのは2013年GT300クラス チャンピオン武藤英紀選手 ©三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY
そして、エキサイティングなゼロ・エミッションを目指し、次世代のEV レーシングをコンセプトに開発した、NISSAN LEAF NISMO RC。走行した想いとして日産/NISMOは、以下のコメントを寄せてくれた。

「『ニッサン インテリジェント モビリティ』の取り組みを、最もエキサイティングに表現するために開発したマシンです。次世代への挑戦の象徴として、今回のSUPER GT最終戦にて、皆様の前で走行を披露することができたことは大変うれしく思います」
GT500クラスのチャンピオンに輝いたミハエル・クルム選手は、NISSAN LEAF NISMO RCにてパレードランに参加
1997年と2003年にGT500クラスのチャンピオンに輝いたミハエル・クルム選手は、NISSAN LEAF NISMO RCにてパレードランに参加 ©三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY
SUPER GTではGTアソシエーションが、トヨタ、ホンダ、日産と協力し、2023年シーズンからカーボンニュートラル・フューエルの全車導入を目指している。カーボンニュートラル社会という一つの目標に向かって、モータースポーツそのものが新たな挑戦を、参戦する各社とともに挑んでいくのだ。同じビジョンを共有する多様な仲間でありライバル同士が、互いに異なるアプローチと可能性を認め合っているからこそ、この日のパレードランが実現できたといえる。

新たに世界に挑む室屋選手のフライトに誰もが賞賛を送った

コースを走行しながら、コースサイドの観客たちに向かって、日本を代表するレーシングドライバーたちが手を振り返す。その上空に、GTマシンとは異なるエキゾーストノートを伴って、エアレース・パイロットの室屋義秀選手が操るエクストラ330SCが現れた。室屋選手もまた、地上のカテゴリーでこそないが、新たな挑戦を掲げる日本のモータースポーツ界の一員として、このスペシャルパフォーマンスの一翼を担うことに賛同したのだ。
スタンドの最上段からは見下ろすほどの低い高度でストレートを飛び抜けて行く
スタンドの最上段からは見下ろすほどの低い高度でストレートを飛び抜けて行く ©三橋仁明 / N-RAK PHOTO AGENCY
2017年、「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」においてアジア人として初めてワールドチャンピオンに輝いた彼は、2022年より新たな体制で再開される「ジ・エアレース ワールドチャンピオンシップ(TARWC :The Air Race World Championship)」に、「LEXUS / PATHFINDER AIR RACING」として挑む。これまで培ってきた関係をさらに加速させ、さらに一歩踏み込んでチームパートナーとして完全にワンチームで戦う。

さらに、ジ・エアレース・ワールド・チャンピオンシップでも2022年早々から「ゼロ・ネット・カーボン・フューエル」を使用するというコミットメントを示しており、空と陸という舞台で、同じくカーボンニュートラル社会をターゲットとしたチャレンジが始まるのだ。
観客から表情が確認できるほどの至近距離を飛ぶ室屋選手
観客から表情が確認できるほどの至近距離を飛ぶ室屋選手
最終コーナーからメインストレートへ、グランドスタンドの屋根よりも低く、シグナルやタワーすれすれのところを通過してストレートを駆け上がるパフォーマンス。新しくLEXUS / PATHFINDER AIR RACINGのブルーをまとった機体に、釘付けになった観客たちの視線が動く。

富士スピードウェイのコースを空からスモークでなぞるように、ときに高高度へ急上昇。サーキットの上空で繰り広げられる華麗なアクロバット飛行に、観客やカメラマンだけではなく、コースマーシャルやメカニック、レースクイーンやチーム関係者、決勝レースを控えたレーシングドライバーまで、すべての人が空を見上げていた。しかも富士山の頂さえも待ち構えていたかのような、快晴だ。
急上昇から上死点に達したかのように、きりもみ状態で急降下
急上昇から上死点に達したかのように、きりもみ状態で急降下
驚くような挙動のアクロバットの数々を、たっぷりのサービス精神とともに披露した後、室屋機がイベント広場上空を通って、再びグランドスタンドの高度まで降りてきた。最初はハイスピードパス、続いてサイドスリップによる低速度のパスを披露した室屋機に、誰もが惜しみない賞賛を送った。LEXUSのホームコースで室屋選手がアクロバット・フライトを披露した今回のパフォーマンスの印象を、彼はこう述べた。

「モータースポーツにとっても、コロナ禍でもどかしい状況が続いていましたが、上空から眺めた富士スピードウェイはたくさんのクルマと観客で埋め尽くされていました。メーカー同士の戦いを越えて、みんなでモータースポーツの文化をつないできた結果でしょう。富士スピードウェイでは何度かフライトしていますが、今日も観客のみなさんがざわめいているのが、楽しんでもらっているのが、分かりました。僕自身、新たなる挑戦に向けて元気をもらった気がしました」
今回のスペシャルフライトに込めた想いについて語ってくれた室屋義秀選手
今回のスペシャルフライトに込めた想いについて語ってくれた室屋義秀選手
それは確かに、普段はタイムを競い合うはずのサーキットで、一人と一機の描く軌跡に、誰もが魅入って時が流れているのを忘れたような、不思議な時間だった。サーキットはただのクローズド・コースではなく、つねに新たな挑戦に開かれた場であり、そこで続いていくチャレンジの尊さを、モータースポーツを軸に多様な人々が一つになれることを、その場にいた誰もが経験した瞬間だったのだ。

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