ART / DESIGN

東南アジアの骨董店で手に入れたオピウムウエイト

2021.10.27 WED
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東南アジアの骨董店で手に入れたオピウムウエイト

2021.10.27 WED
東南アジアの骨董店で手に入れたオピウムウエイト
東南アジアの骨董店で手に入れたオピウムウエイト

旅先でのさまざまな逸品との出合いを大切にしているという中村孝則氏。本コラムでは、取材で訪れたミャンマーやラオス、カンボジアなど東南アジアの骨董店で入手した小さな置物、オピウムウエイトについてつづる。

Text by Takanori Nakamura
Photographs by Masahiro Okamura

旅の思い出やお土産に最適

これらの小さな置物は、通称オピウムウエイト(Opium Weight)と呼ばれるものである。日本では骨董店でも滅多にお目にかからないうえ、日本語の文献もないので、その存在はほとんど知られていないが、欧州ではアンティークのジャンルとして確立されていて、コレクターも多い。

英語でウェブ検索すると、専門店やオークションサイトを多数見つけることができるだろう。これは、その名前が示す通りに解釈すると、オピウムを量る重りである。オピウムとは日本語で阿片のことをいう。そもそも阿片とはなんだろうか。呉智英先生の著書『言葉につける薬』(双葉社)の「阿片」と「オピウム」の項目を抜粋すると
──阿片は、罌粟(けし)の実の未成熟なものに傷をつけ、にじみ出た乳液を乾燥させて作る。そのままのものは生阿片といって、タバコのようにキセルにつめ、火をつけて煙を吸う──とある。

この阿片を巡り清朝政府とイギリスの間で起こったのがアヘン戦争(1840〜1842)である。これに勝利したイギリスは、その後約150年間にわたり植民地支配をすることになる。香港がそれである。昨今、香港問題がニュースで盛んだが、そもそもこの植民地問題や侵略問題は阿片が発端であり、香港の話を語るときに、このことをしばしば忘れがちだが、阿片は一国をむしばんだ歴史とつながっていると、呉智英先生は同書で指摘する。この本のオピウムの語源についての深い洞察がとても面白いので、ぜひともご一読を強くお薦めしておく。

話を戻すと、このオピウムウエイトは阿片の取引に使われていた可能性もあるのだが、それは神話的に語られているにすぎなく、実際は薬や金属など、さまざまな生活物資の重さを量るために用いられていたという。オピウムウエイトがいつ頃生まれたかは諸説あるのだが、現在アンティークマーケットに流通するものは、13〜19世紀にかけて、と幅が広い。私の知る限り、16〜17世紀にかけてのものが比較的多く出回っていて、入手もしやすいように思う。
オピウムウエイトは、広くアジア全域で使われていて、東南アジアの骨董屋の棚の片隅を、注意深く物色すると見つけることができるだろう。私のコレクションは、取材で訪れたミャンマーやラオス、カンボジアやタイやベトナムの骨董店で入手したものがほとんどである。小さくてモティーフがかわいらしく、手のひらに収まるので、旅の思い出やお土産に最適である。欧州のマーケットでは、1個数万円〜数十万円で取引されているようだが、ヤンゴンのスコットマーケットあたりでは、1個数千円で買ったと記憶している。

文鎮や書鎮として重宝している

オピウムウエイトはさまざまな動物がモティーフになっているが、ご覧のような鳥が圧倒的に多い。これは、サンスクリット語でハンサ(hansha)と呼ばれるヒンドゥー教の神鳥である。鳥類のことは明るくないので恐縮だが、赤筑紫鴨(アカツクシガモ)のような鴨類や、白鳥や大鶴といった、アジアに飛来する水辺の鳥がモデルとなっているのではないだろうか。

骨董店ではしばしば、同じ顔や形の鳥たちが、大きさ違いの5、6個のセットで売られていて、分銅本来の役目があったことをうかがわせる。大抵は、八角形や六角形の台座に鎮座していて、そのデフォルメされた姿や顔は個性豊かで、とてもユーモラスである。重さも1個30グラムくらいから、大きいもので700グラムくらいのものまである。

置物として飾ってもいいが、私はこれを文鎮や書鎮として使っている。茶会のときの寄り付で、文献や会記を押さえたりするのにも重宝する。タイのバンコクにあるラグジュアリーホテル「ザ・サイアム」のロビーの飾り棚には、このオピウムウエイトが美しく並べられていたのが印象的であった。

モティーフはこのハンサ以外にも、像や犬、クモや魚などもまれに見かけることがある。もしもアジア方面に旅して見かけたら、お土産に連れて帰ってみてはいかがだろう。偽物というかリプロダクトも散見されるのだが、本物の骨董の見極めは、伝来の茶碗の高台と同じで、長年の手擦れで角がすべすべになっていることが目安のひとつだ。オピウムウエイトの材料は、ブロンズや真鍮であるが、銅色が強い方が古いといわれるのだが、まあポケットマネーのお土産であれば神経質にならず、出合いで買えばいいと割り切っている。
ウエイトということでいえば、かつてベトナムでオピウムウエイトを物色した夜、ホテルのテレビで「目方でドーン!」という番組を放映していて驚いた。先輩読者方は、ご存じかもしれないが、「目方でドーン!」は、1970年代中盤〜80年代はじめに日本テレビ系列で放映された番組名である。レツゴー三匹が司会で新婚カップルを招くバラエティ番組で、詳細は忘れたが、スタジオ内に巨大な天秤があり、片方に新妻を座らせて、旦那さんはスタジオ内にところ狭しと並ぶ家電などの重さを推測し、その総重量が奥さまの体重と同じくらいなら持ち帰れる、というような内容だったか。今なら考えられないような設定だが、商品の価値を重さで量るという、プリミティブな欲望の原点をゲームに持ち込んだことが人気の理由だったのだろう。

後に知ったが、私がベトナムで観た「目方でドーン!」は、ベトナムのテレビ局が版権を入手してリメイクしたベトナム版だったのである。テレビに映るベトナム人の旦那さんが、手に取った商品の重さを真剣に推察するのに、思わず懐かしくも楽しく見入ってしまった。

この便利な時代、自分のカンで物の重さを推察するなんてことは滅多にないと思うが、それでも私は旅にまつわる行程では、しばしばトランクの取っ手を握って、その重さを推測する。仕事柄、飛行機やクラスを自分で選べないことも多いので、常に国際線の無料預け手荷物の23キロという最低基準を、お土産で超えないように注意している。23キロの重さは、持っただけで感覚的にあまり誤差なく分かったのが自慢であったが、このコロナ禍で海外渡航も久しく、すっかり鈍ってしまったに違いない。再び、想い入れが大きく詰まった小さなオピウムウエイトを買いに、ミャンマーあたりに行ける日を願うばかりなのである。

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