JOURNEY

人々の生活をつなぐデザインがある町
雲仙市小浜温泉

2021.07.28 WED
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人々の生活をつなぐデザインがある町
雲仙市小浜温泉

2021.07.28 WED
人々の生活をつなぐデザインがある町 雲仙市小浜温泉
人々の生活をつなぐデザインがある町 雲仙市小浜温泉

魅力的な被写体との出合いを求め、世界中を飛び回り続けている写真家、在本彌生氏。彼女が印象深い出合いを自らの作品と文章で綴る連載。今回は、20年来の旧友だったデザイナーの故城谷耕生氏の故郷であり、氏が町の人々と再生に尽力した長崎県雲仙市小浜町の旅をお届けする。

※緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の解除後の外出をお願いします

Text & Photographs by Yayoi Arimoto

自然がエネルギーを放出するさまを目から肌から感じる

真っ青な空とぎらぎらと輝く海が眩しい。町のあちこちで勢いよく立ち上る湯煙が、もくもくと雲を描いては消えていく。連日雨ばかりだった東京から来ると、太陽から届く光の強さで体が目覚めるようだ。
源泉から立ち上る湯煙
源泉から立ち上る湯煙
小浜温泉の源泉温度は日本一熱く、なんと105℃もあるそうで、町を歩いていると熱気が上がってくるのを足元にしばしば感じるほど。自然がエネルギーを放出するさまを目から肌から日常的に感じ取れるのは実に面白く、おのずと気持ちが高揚するようだ。
脇浜共同温泉(通称おたっしゃん湯)の様子
脇浜共同温泉(通称おたっしゃん湯)の様子
源泉が熱いので入浴前に必ず湯温をチェック
源泉が熱いので入浴前に必ず湯温をチェック
小浜名物のちゃんぽんはあっさり味
小浜名物のちゃんぽんはあっさり味
ここにきたら魚三昧
ここにきたら魚三昧
雲仙市小浜は20年来の旧友だったデザイナーの城谷耕生さん(http://www.koseishirotani.com/)の故郷で、彼が暮らして、働いた町だ。これまでにも複数回彼のスタジオを訪ねて小浜に遊びに来てはいるのだが、思い起こすと最後に訪れてから10年以上の時間が経っていた。
温泉街から刈水地区に向かう道
温泉街から刈水地区に向かう道
刈水地区から小浜温泉を見下ろす
刈水地区から小浜温泉を見下ろす

デザイナーの城谷耕生さんが町の人々と再生させた刈水地区

2020年末、耕生さんは急に逝ってしまったのだが、まだ自分の中で確かにそれを実感できずにいる。彼がデザインしたグラスだのカップだの、照明までも自分の家で日々の時間にあまりにもなじんでいるものだから、ますます不思議な気持ちだ。「またいつでも遊びに来てよ、刈水庵を見てもらいたいから」。東京で会うたびそう言われていた。だから今回の小浜再訪では、耕生さんが彼のアシスタントたちや町の人々と力を寄せ集めて再生させた刈水地区をまずは見なければ。
刈水庵の入り口、透き通る刈水の湧き水
刈水庵の入り口、透き通る刈水の湧き水
海沿いの温泉街から少し山側に上り、クルマが通れない急勾配の細い路地の坂道をくねくねと登って行くと刈水地区にたどり着く。歩きながら後ろを振り向けば家並みと広い海が眼下に広がり、映画のワンシーンに出てきそうなくらいに情緒的な風景を堪能できるのだが、毎日暮らすとなると、なかなか大変なことは多いはずで、過疎化が進んだ原因はそういった不便さにもあったに違いない。
立派な石垣があちこちに見掛けられる
立派な石垣があちこちに見掛けられる
刈水庵の中庭から。2棟の建物にショップ、カフェ、展示スペース、スタジオがある
刈水庵の中庭から。2棟の建物にショップ、カフェ、展示スペース、スタジオがある
耕生さんは生活者の激減したこの地区を再生し、人々がまた暮らして集えるようにと計画し、空き家を住める状態にし(それでも決して手を入れ過ぎずに)、土地に人の営みを吹き込んだ。自らの仕事場「Studio Shirotani」も、海辺から刈水地区の元棟梁(とうりょう)が建てて住んだ立派な家(現時点で築90年)に移転させた。一度は人が離れてしまった地区に、再び人が住んだり、通って来たりという流れを先頭をきって作り、始めていったのだ。散歩しに来た人が立ち寄って、ちょっと休んだり、お茶を飲んだりできる所もあったらいいだろうと、食器や雑貨などのプロダクトを扱うショップとカフェも、スタジオの敷地内の建物の中に作った。新しいものを買ってしつらえずに、既にあるが使われていないものを使い、建物の補修はするが、修復を過剰にしない。城谷耕生スタイルの古民家の使い方、見せ方を「刈水庵」と名付けられたこの家で実践した。耕生さんが仕事した机からは湯煙の揺らめく小浜の町と広い海が家々の屋根の向こうに見える。この環境ならとびきりの閃きも自然と湧いてきたことだろう、なんとも心地の良い眺めだ。
プロダクトを販売するショップ
プロダクトを販売するショップ
ちょっと一息つけるカフェ
ちょっと一息つけるカフェ
耕生さんのデスクからの眺め
耕生さんのデスクからの眺め
感心したのは、歴代のアシスタントの面々がこの小浜に住み着いて、それぞれが独立し、デザイナーとして活動して、この町の立役者となっていることだ。今回の短い滞在中にも彼らの手掛けた仕事を複数見掛けた。

東京から小浜に移った「BEARD」の店舗は2代目アシスタントの山﨑超崇さんのデザインだし、アイスソルベが人気の洋菓子店 「R CINQ FAMILLE 」のパッケージデザインなどは三代目アシスタントの古庄悠泰さん(http://keshikidesign.com/)が手掛けたものだった。お二人とも、地元や他の地域で、広範囲なデザインの仕事を多数されている。こうして小浜の町に、この場所らしい成り立ち方でデザインコミュニティーができたのだから素晴らしい。暮らし方のスタイルにまでデザインの枠組みを広げたと言ってもよいのではないか。
新生BEARDは元美容室の店舗を改築
新生BEARDは元美容室の店舗を改築
R CINQ FAMILLEのアイスソルベ。野菜味もおいしい
R CINQ FAMILLEのアイスソルベ。野菜味もおいしい
小浜の町も刈水地区も、新しく力強い芽生えを遂げたところ。これからも頼もしい人々の営みを糧にじっくりと育まれていくのだろう。ここで私は地に足の着いた本当の意味での豊かな生活を、今後の町の在りようを捉えにおりおり通い撮影したい、耕生さんがこの土地で見せてくれたデザインのかたちを私なりのやり方で見据えよう、そう思った。独り勝手に決めた私の新しいデザインプロジェクトだけれど、耕生さん、これからもどうぞよろしく、見守ってくださいね。
夜も絶え間なく立ち上る湯煙が町明かりと溶け合う
夜も絶え間なく立ち上る湯煙が町明かりと溶け合う
刈水庵
https://www.karimizuan.com/

BEARD
https://www.b-e-a-r-d.com/

R CINQ FAMILLE
http://shimashima.adthink.net/feature/newopen/20180929rcinqfamille/Posts.html

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ご回答いただきありがとうございました。

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