VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

CRAFTSMANSHIP

独自開発の銀糸で抗菌力を備えた
気品ある西陣織のマスク

2021.07.09 FRI
独自開発の銀糸で抗菌力を備えた気品ある西陣織のマスク

呉服司「さゝや」は、銀糸がもつ抗菌性を活かそうと、西陣織の帯から着想を得た独自の抗菌糸を考案してマスク用生地を開発。その背景には、日本の優れた職人の技を伝えたいとの想いがあった。

Text & Edit by Mari Maeda(lefthands)
Photographs courtesy of SASAYA

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創業から160年余り。呉服商として育んだものづくりへの想い

島根県の南西部と山口県との県境に位置する津和野町は、穏やかな山間にある美しい隠れ里のような町だ。鎌倉時代末期に津和野盆地を一望する霊亀山に城が築かれ、江戸時代には津和野藩として山陰と山陽を結ぶ街道の要となり栄えた。山の麓に広がる町並みは今日も往時の面影を残し、山深くにたたずむ古都の風情は「山陰の小京都」とも呼ばれている。
安政元年(1854年)に創業した「さゝや」
安政元年(1854年)に創業した「さゝや」
中でも町の中心部にある殿町通りは、城下町時代の風情を色濃く残す。その殿町通りに店を構え、160余年の歴史を誇るのが呉服司「さゝや(以下、ささや)」だ。現当主の岡崎陽一氏はいう。

「遡ること数百年も前から、つまり呉服商として創業する以前より、ささやの祖先はここ津和野に当時最も洗練を極めた京の文化を持ち帰り、人々に伝えていた痕跡があるのです」

今日に受け継がれる店が数寄屋造りであることも、当時京都から職人を呼び寄せていたことの証なのだろう。京都との関わりを長年にわたり深めてきたささやは、顧客のために帯や着物を一から仕立て、古くから伝わる日本の文化と伝統を守ってきた。そしてまた、今日の日常の暮らしの中で、古き良き文化が少しでも次世代に受け継がれていくようにと、新たな提案やものづくりを試みてきた。
今に伝承する美しき和の世界を伝えるささやの店内
今に伝承する美しき和の世界を伝えるささやの店内
ささやは今日も、顧客のオーダーに応じて着物や帯を誂える伝統を継承している
ささやは今日も、顧客のオーダーに応じて着物や帯を誂える伝統を継承している

いにしえより人々の暮らしに寄り添ってきた銀の抗菌作用に着目

そんな折に、昨年の春、ある病院を経営する顧客と銀糸がもつ抗菌力について話し合う機会があった。いにしえより人々の暮らしに寄り添い、活用されてきた銀。人体への影響が少ないばかりか、水分に触れると銀イオンを発生し、優れた抗菌作用が働くことでも知られている。

「今日の状況下で、銀糸がもつ抗菌作用を活かしたマスクを提案できないものか。そう考えを巡らしておりましたら、ある日手元にあった帯を眺めながら、この金銀糸を織り込んだ織物をマスクにしたら美しいのではないかとひらめいたのです」

それから始まった、試行錯誤の日々。こだわったのは、西陣織の美しさと、銀糸の抗菌性を融合させたオリジナル生地の開発。機能性と美しさを共にかなえるのは予想以上に困難を極めたというが、たとえ小さなマスクであっても、妥協のないものづくりに努めることがささやの矜持だった。
金銀糸織りの帯から発想して生まれ、銀糸の抗菌効果を備える「銀艶マスク」
金銀糸織りの帯から発想して生まれ、銀糸の抗菌効果を備える「銀艶マスク」
そうして約1年もの月日をかけて生まれたマスクは、世界屈指の織りの技を誇る西陣織の優雅さと、優れた抗菌性を備えている。

驚くことに、ささやは銀糸がもつ抗菌効果を最大限に活かそうと、独自の抗菌糸を考案したという。

ここで、銀による抗菌の仕組みについて触れておこう。銀は水分に触れると銀イオン(Ag+)を発生させるが、プラス電荷を帯びた銀イオン(Ag+)は不安定な状態にあるために、マイナス電荷を帯びたウイルスやバクテリア等の菌と結合しようとする。そうして銀イオン(Ag+)が菌に付着すると、菌は銀イオンに包み込まれて活性化を阻害され、繁殖が阻まれ破壊されてしまうのだ。

この銀の抗菌作用を活かした純度99%の銀イオン(Ag+)抗菌糸「プレミアム抗菌銀糸」を考案した岡崎氏はいう。

「西陣織の帯のために日本が開発してきた金属糸は、世界でも最高峰です」
銀糸の抗菌効果を最大限に発揮する、ささやオリジナルの「プレミアム抗菌銀糸」
銀糸の抗菌効果を最大限に発揮する、ささやオリジナルの「プレミアム抗菌銀糸」

機能性と美の融合をかなえた西陣織の高度な技術

その「プレミアム抗菌銀糸」を京の純銀糸、絹糸とともに西陣織の技を用いて織り込み、職人たちの精緻な手技から「銀艶マスク」は生み出された。

「息に含まれる水分が縦横に織り込まれた銀糸に触れると、銀イオン(Ag+)が多量に発生し、マスクの抗菌作用が高まります。つまり、息をするほどに、銀糸の抗菌力が高まるのです」

織物の美しさと銀イオンの効果。そのどちらにも、生地の透け感が関わっているのだと岡崎氏は説明する。

「銀は水分に触れるほどに銀イオンを発して抗菌威力を発揮しますが、生地は透けているほどに息が銀糸に触れる絶対量が増えます。透かすことで、縦横の糸面積が広くなるためです。しかし、生地は透かせば透かすほどに糸と糸の間に隙間が生じて緩み、生地の目が割れてしまう難しさがあるのです」
呼吸するほどに、息に含まれる水分が生地に織り込まれた銀糸に触れて銀イオンが多量に発生する ©Kevin Chan
相反する機能性と美の追求。そこに、西陣織の高度な織りのテクニックが活かされたと岡崎氏はいう。

「世界に誇る西陣織の職人技があればこそ、そうした技術的な難しさをクリアすることができたのです。最終的に、薄く透かして織ることにより、通常の10倍以上もの銀糸面積を作る織りを実現することができました」

「さらに生地には浮かび上がるような文様を施しており、透けた生地に織物ならではの立体感が生まれて光をはらみます。この光こそが美しさの源であり、生地に奥行きと品格を与えているのです」
  • 光を通すほどに薄く繊細な生地は、その薄さゆえに楽に呼吸ができることも優れた特徴だ
さまざまな糸の太さを試み、糸の撚り方、織り方にも工夫を重ねて、試作した生地は50種にも及んだという。生地が出来上がるたびに検査機関へと送り、抗菌性の結果を待った。世界にも類のない西陣織の美しさを活かしながらも、抗菌効果を最大限に保つことこそが、医療現場をはじめとするコロナ禍において不可欠だと考えたからだ。

織屋との積み重ねてきた信頼関係があってこそ

そうして完成した「銀艶マスク」は、高機能でありながら西陣織の奥ゆかしい輝きを湛えて、ささやらしい美意識が宿るオリジナル商品となった。このマスク一枚に、ささやの想いが結実している。
  • 公家に愛された伝統的な菱文様が浮かび上がり、銀糸と絹糸が織り成す気品ある艶が美しいマスク用生地
  • きめ細やかな凹凸に、光が慎ましくきらめく梨地の生地も用意されている。マスクは全て手縫いだ
京都の織屋に何度も足を運び、職人たちと直接話し合いを重ねてきた岡崎氏の娘、岡崎りえ氏はいう。

「『銀艶マスク』を完成させることができましたのも、ひとえに西陣の幾多もの織屋さんと長年にわたり関係を深めてきた歴史があるからこそです。私たちはお客様お一人お一人のご希望に応じて着物や帯をお誂えしてきましたが、そのためには職人の方々との信頼関係が欠かせません。そうしたこれまでの積み重ねが、マスク作りにも活かされました」
京都・西陣の中でも高度な技を持つ職人たちが、このマスクだけのために考案した生地を織り上げている
京都・西陣の中でも高度な技を持つ職人たちが、このマスクだけのために考案した生地を織り上げている
りえ氏は色出しにも苦労したと語る。抗菌力を求めて必要以上にプレミアム抗菌銀糸を織り込むと、その鈍い色味が西陣織ならではの美しい発色を邪魔してしまうためだ。気品ある、日本人の肌色に合う色味を追い求めて、りえ氏は職人たちと試作を重ねた。

そうして生まれた色は現在、「白銀」「薄桜」「銀鼠」「真珠」「薄桃」「すみ色」「八重桜」の7色が揃う。新たに加わった新色「真珠」からは艶やかでありながら控えめな清楚さが、「薄桃」「八重桜」からははんなりとした色香が、「すみ色」からはモダンな品性が感じられる。
  • 男女兼用の「すみ色」はシックな趣で、カジュアルな着こなしにもフォーマルな装いにもふさわしい
  • 新色の「八重桜」の柔らかな色調が顔まわりを明るく彩り、日常のみならず祝いの席にも映える
西陣織の技とささやの美意識が宿る「銀艶マスク」。マスクに表現される織物の奥行きのある美しさは、数百年と続いた京都の公家文化に育まれ、練磨された西陣織の賜物なのだと岡崎氏はいう。その言葉をりえ氏がつないだ。

「ハレの日にも、日常の暮らしの中でも、美しく身を守るご自身の一部として、末長くご愛用いただけたらと思います。そしてこの一枚のマスクが、普段着物をお召しにならない方でも、日本が誇る西陣織に親しんでいただくきっかけになればと、切に願っているのです」

洗って使い続けることができるマスクは、さりげない心遣いとして、ギフトにも喜ばれることだろう。パッケージには、着物を包む際に使用するたとう紙が使われている。

マスクがエチケットアイテムとして必需品となった今、ささやは今後、国内のみならず海外への販売も検討しているという。「山陰の小京都」津和野から、京都の伝統美と日本の技を伝える小さなマスクが、いずれ海外へと旅立ち、人々の暮らしを守ることがあるのかもしれない。
(左)八重桜4400円(中央上)真珠4180円 (中央下)薄桃4180円 (右)すみ色4400円
(左)八重桜4400円(中央上)真珠4180円 (中央下)薄桃4180円 (右)すみ色4400円 ©Kevin Chan
呉服司さゝや
https://sasaya-kimono.com

ささやオンラインショップ
https://shop.sasaya-kimono.com

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