JOURNEY

江戸と令和がシンクロする唐津のニューランドスケープ「KARAE」へ

2021.05.21 FRI
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江戸と令和がシンクロする唐津のニューランドスケープ「KARAE」へ

2021.05.21 FRI
江戸と令和がシンクロする唐津のニューランドスケープ「KARAE」へ
江戸と令和がシンクロする唐津のニューランドスケープ「KARAE」へ

佐賀県唐津にある商店街の一角で、骨組みだけが残され、朽ちかけていた築100年の酒蔵。この場所が2019年、ホテルや映画館、カフェレストランを擁する複合商業施設「KARAE:カラエ」としてオープンした。その再生のストーリーは、地域活性における一つの解ともいえるもの。伝統文化を抱きながら新しい時代へと軽やかにステップする試みと施設を紹介する。

Text by Mitsuharu Yamamura
Photographs by Yoshikazu Shiraki

再生へと推し進めたのは、伝統の祭りの町という矜持

「歴史ある城下町」と掲げる地は日本に数多あれど、これほどまでその魂ごと継がれ、しかと生活文化に根付いている町は、そう多くないだろう。焼きものの「唐津焼」や伝統の祭り「唐津くんち」などで知られる佐賀県唐津。この地を形容するとき、たびたび耳にするセリフがある。「ここは佐賀県の一地域というより、唐津という一つの文化圏である」。そう、彼らは旧唐津藩としての揺るぎない誇りを、今もなお携えているのだ。

そんな町の玄関口に2019年、ホテルや映画館、カフェレストランなどが入った複合商業施設「KARAE:カラエ」が誕生した。唐津駅からほど近くにある、商店街の一角。まさに新しい町中のランドマークにふさわしい立地だ。

「もともとここは、大正15年に建てられた酒蔵でした。老朽化が進み、最後は大きな幽霊屋敷のようになっていたんです」と教えてくれたのは、甲斐田晴子氏。官民合同のまちづくり企業「いきいき唐津」の専務取締役を務め、KARAEのプロデュースを手がけた。「大きくリノベーションしないといけない状態でしたが資本はなく、地権者の高齢化も進んでおり、駐車場にするという話が進んでいました」
甲斐田氏は唐津出身。国内外で法律や地方創生を学び、Uターン。約10年間、地域のまちづくりに携わる
ただそれではあまりにも寂しいという声が、住民からこだまのように響いた。「町のみなさんにとってここはただの商店街ではなく、くんちのアイデンティティの残る町人町なんですね」。勇ましくも華麗な飾り物を据えた14台の曳山(ひきやま)が町中を練り歩く「唐津くんち」。かつては、各町内が年に一度、商売繁盛を神前にて報告し感謝する祭りだったが、その町のありようをとどめているのは、現在の商店街だけだという。「祭りのアイデンティティに関わる分、いろんな人たちがいろんな思い入れをもっています」

ゆえに活用と再生については、何十年にも渡りさまざまな議論が繰り返された。そして約3年前、ようやく国の援助を得ながら、開発に着手。決め手となったコンセプトは、“共存共栄”だ。「近きもの喜び、遠きもの来たる。住民の方に喜んでもらえて、観光客にも来ていただける。それを実現できる施設にしたいと掲げました」

施設の目玉となるのは「HOTEL KARAE」。もともと唐津で泊まるところといえば、リゾートホテルか高級旅館、ビジネスホテルか民宿と限られていた。「もっと多様な旅行者が、いろんなかたちで唐津を楽しめる旅の拠点となるような宿泊施設を目指しました」

施設内でとりわけ目を奪うのは、アーティストたちの手によって作品として蘇った、酒蔵の建材や建具。インテリアデザイナー高橋紀人氏とインテリアスタイリストの神林千夏氏により設立された「ジャモアソシエイツ」とのタッグにより実現した。「梁を使ってビッグテーブルにしたり、欄間をアレンジして壁に飾ったり。場所の記憶を伝えるため当時の材をできるだけ活かすようにしました」
唐津くんちの絵巻図を背景にしたインフォメーション。KARAE建設に携わった唐津焼陶芸家の作品も
唐津くんちの絵巻図を背景にしたインフォメーション。KARAE建設に携わった唐津焼陶芸家の作品も
3階のホテルフロント。酒蔵の看板が、アーティストYuji Mizutaの手によって作品に昇華
3階のホテルフロント。酒蔵の看板が、アーティストYuji Mizutaの手によって作品に昇華
当初は2、3階をすべてホテルにする予定だったが、「町を活性化させるには、いい人材が集う場所が必要」と、2階をコワーキングスペースとする案がにわかにもちあがった。そこで、クリエイターが多く集まる東京のシェアオフィス「みどり荘」とのコラボレーションにより「MEME KARATSU:ミーム唐津」が誕生。直後、コロナ禍によりリモートワークが推進されたことで、ワーケーションや多拠点居住の需要が増加。以前よりもドミトリーの稼働率は上がっているという。

「東京などで活躍する唐津出身の人も多くいますし、都市部から実力のある方々がやって来ることで、いい刺激になればと思っています」

そして1階の奥にあるのは映画館「THEATER ENYA」。前身となった「唐津シネマの会」は、大林宣彦監督とともにオール唐津ロケ作品『花筐/HANAGATAMI』を製作するなど、長年にわたる活動で知られる。実に22年ぶりの映画館復活というから、まさに地元の人々にとっては待望の快挙と言えるだろう。
シェアオフィス「ミーム唐津」。まちづくり会社やクリエイターなどが入居するほか、ビジター利用も可能
シェアオフィス「ミーム唐津」。まちづくり会社やクリエイターなどが入居するほか、ビジター利用も可能
小粒で良質で美しい「シアター演屋」(62席)では、大林宣彦監督が唐津で撮った映画の定期上映も
小粒で良質で美しい「シアター演屋」(62席)では、大林宣彦監督が唐津で撮った映画の定期上映も

ローカルとしての魅力を、最大限引き出すために

KARAEのテーマの一つに「FLOSS」がある。フレッシュ(Fresh)、ローカル(Local)、オーガニック(Organic)、シーズナル(Seasonal)、サステナブル(Sustainable)の略で、コンパクトかつ、持続可能な都市づくりのあり方を示したもの。アメリカのポートランドは、その先駆けとして知られている。

「開発にあたり、どのようなスタイルが適しているのかと考えたとき、むやみに都市化してもしようがない。しようとしたところでなれない。ならば地方だからこそ、ローカルとしての魅力を引き出し活かすビジネスモデルを考えました」

その象徴として機能するのが、唐津や九州の旬の食材をふんだんに使ったダイニング&ブックカフェ「KARAE TABLE」だ。「唐津の食や焼きもの文化の豊かさは、意外と若い人に継承されていない」ならば!と、それらをカジュアルに落とし込み、ポップに表現することに心を注いだ。

「楽しそう、おいしそう、かわいいをモットーに、食や器への興味をより多くの若い人にも持ってもらいたいと思っています」
ダイ二ング&ブックカフェ「KARAE TABLE」。コーヒーは唐津焼作家のカップを自分で選べる
ダイ二ング&ブックカフェ「KARAE TABLE」。コーヒーは唐津焼作家のカップを自分で選べる
佐賀のブランド鷄、有田鷄のスパイシーチキンと十五穀米のプレート(850円)は柔らかでジューシー
佐賀のブランド鷄、有田鷄のスパイシーチキンと十五穀米のプレート(850円)は柔らかでジューシー
この提案にさっそく動きを見せたのが、家族連れや地元の高校生たち。カフェでパンケーキを食べながら放課後のひとときを楽しんだり、コンセプトショップで文具を買い求めたり。それまでは郊外のショッピングセンターなどに流れていた人たちが、町中に戻ってきているという。

そして、もちろん唐津の玄関口として、観光客に対してもさまざまなサービスに取り組む。エントランスの案内所では、レンタカーなど旅行関連サービスの受付、ガイド付きまち歩きツアー「歩唐」の申込みなどもできる。

「駅からの利便性の良さと、徒歩30分の間に江戸と令和が同居している町中の風景。そうした資産を、より分かりやすく伝えていくことができればと思っています」
唐津駅前すぐ、アーケードのある京町商店街の角地に建てられたKARAE。好アクセスも魅力の一つ
唐津駅前すぐ、アーケードのある京町商店街の角地に建てられたKARAE。好アクセスも魅力の一つ
そうして目指すのは、文化と経済が共存していくこと。「住んでいる人も、来た人も幸せになれること。それをビジネスとして成立させることで、取組みが続いていく。そこはさらに脱皮していかないといけないところだと思います」。

伝統をしかと受け止めながら、未来へと着実に歩を進める唐津。KARAEはそのエンジンの役目になっていくに違いない。


■KARAE
https://karae.info

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