丘の上のIKUSAで
団塚氏には、3年近くかけて改築してきた心の住まい、場所がある。神奈川県のある町の丘の上にたたずむ家「IKUSA」。以前は100歳近い仙人のような老人が住んでいたそうだ。
「この丘には何か、人間にとって大切なものがある」という。
庭には桜の大木がたたずみ、窓からは朝日と夕日を望むことができる。この場所にいると、太陽と月が1周し、地球が自転していることが分かる。天空の動きも、時間の流れも感じられるこの丘で、感性を分かち合える人たちが集い、楽しみながら、自らの原点に戻れたらいいと考えているという。
「この丘には何か、人間にとって大切なものがある」という。
庭には桜の大木がたたずみ、窓からは朝日と夕日を望むことができる。この場所にいると、太陽と月が1周し、地球が自転していることが分かる。天空の動きも、時間の流れも感じられるこの丘で、感性を分かち合える人たちが集い、楽しみながら、自らの原点に戻れたらいいと考えているという。
地球がクライアント
「ハーブマン」をご存じだろうか? 大空の下に横たわるハーブマンは、人体の形をした巨大なハーブ園だ。体の各部位には、その部位に良いとされる薬草が植えられている。
ハーブマンを通して、私たちは自然と人間とのつながりを思い出す。作品を生んだ団塚氏は次のようにいう。
「薬の大本は、自生する雑草ですよね。古来、植物が僕たち人間を生かしてくれている。ハーブマンはそうした自然の恵みを、無言で伝えてくれます」
ハーブマンを通して、私たちは自然と人間とのつながりを思い出す。作品を生んだ団塚氏は次のようにいう。
「薬の大本は、自生する雑草ですよね。古来、植物が僕たち人間を生かしてくれている。ハーブマンはそうした自然の恵みを、無言で伝えてくれます」
誕生してから10年余り、ハーブマンは国内外を旅してきた。今春も、SDGsをテーマに開催される国内初の芸術祭「北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs」で、その姿を現す。傍らには薬草カフェがオープンし、ハーブマンの薬草を用いたお茶や薬膳が提供される。得た収益は今日まで、発展途上国の子どもたちの遊び場づくりに使われてきた。円環型のサステナブルプロジェクトとして、高く評価されている作品だ。
「僕は、地球がクライアントだと思っています。この作品もそうした一例で、今後はさらに、さまざまな形で自然と人間をつなげる作品を生み出していきたい。そんな思いから、自らを『風景司』と名乗ることにしました」
「僕は、地球がクライアントだと思っています。この作品もそうした一例で、今後はさらに、さまざまな形で自然と人間をつなげる作品を生み出していきたい。そんな思いから、自らを『風景司』と名乗ることにしました」
風景司として
団塚氏がランドスケープデザイナーを日本で初めて名乗ったのは、20年前にテレビ番組「情熱大陸」で取材を受けた時だ。必要に迫れて、自ら肩書をつくった。以来、その第一人者として活躍してきたが、ランドスケープデザイナーという肩書がポピュラーになった今、何かに縛られているように感じるようになったという。
ふと、日本語で対応するものはないかと探した。庭師、都市計画課、造園家、作庭家……。だが、どれも自分がしたいこと全てを包含してはいなかった。そして思いついたのが風景司という新たな肩書だ。
ふと、日本語で対応するものはないかと探した。庭師、都市計画課、造園家、作庭家……。だが、どれも自分がしたいこと全てを包含してはいなかった。そして思いついたのが風景司という新たな肩書だ。
「先祖が宮司だったこと、神事を司っていたこともあって、『司』という言葉がフィットしました」
「風景司になったからといって、今までしてきたことをやめるわけではありません。考えていることも、これまでと何も変わりません。ただ、僕はもともと彫刻家で、彫刻の仕事をスケールアップさせたくてランドスケープを手がけるようになりました。だから僕の原点はアーティストだと思っているし、興味も幅広い。庭からプロダクト、ファッションなど、自然にまつわることを今まで以上に幅広く手がけていきたい。そう思うと、これまでの肩書から自由になりたいな、と」
風景司とは、風景を司る仕事なのだという。
「風景司になったからといって、今までしてきたことをやめるわけではありません。考えていることも、これまでと何も変わりません。ただ、僕はもともと彫刻家で、彫刻の仕事をスケールアップさせたくてランドスケープを手がけるようになりました。だから僕の原点はアーティストだと思っているし、興味も幅広い。庭からプロダクト、ファッションなど、自然にまつわることを今まで以上に幅広く手がけていきたい。そう思うと、これまでの肩書から自由になりたいな、と」
風景司とは、風景を司る仕事なのだという。
「先日、改めて昔のスケッチブックを見る機会があったんですが、20代の頃に手書きで描いていたことと、今考えていることは何も変わっていませんでした。成長していないのかな?」
そう言って笑う。
「ずっと考えてきたことは、人間は自然の一部であり、地球の一部であるということです。自分はこの土地に、この場所に帰属していて、この場所は地球の一部なんだという、そんな当たり前なことを、世の中は長い間忘れてきてしまいました。未曾有の大災害が続いて、コロナが出現して、今ようやく、人と自然の分断がさまざまな問題を引き起こしていることに気づき始めましたよね」
「僕はこれまで、ランドスケープデザインを通して自然と人間をつなげようと試みてきました。そしてこれからも、分断されてしまった両者の隔たりを埋めるために、その間の風景を司ることが僕の仕事かな、と思っています」
時間、空間、人間。どれにも付随する“間”という漢字。その“間”の風景を司りたいのだと、団塚氏はいう。これまでの作品も、土地の記憶を蘇らせて時間をつなぎ、自然を介して、空間と人とをつないできた。
そう言って笑う。
「ずっと考えてきたことは、人間は自然の一部であり、地球の一部であるということです。自分はこの土地に、この場所に帰属していて、この場所は地球の一部なんだという、そんな当たり前なことを、世の中は長い間忘れてきてしまいました。未曾有の大災害が続いて、コロナが出現して、今ようやく、人と自然の分断がさまざまな問題を引き起こしていることに気づき始めましたよね」
「僕はこれまで、ランドスケープデザインを通して自然と人間をつなげようと試みてきました。そしてこれからも、分断されてしまった両者の隔たりを埋めるために、その間の風景を司ることが僕の仕事かな、と思っています」
時間、空間、人間。どれにも付随する“間”という漢字。その“間”の風景を司りたいのだと、団塚氏はいう。これまでの作品も、土地の記憶を蘇らせて時間をつなぎ、自然を介して、空間と人とをつないできた。
「今、ソーシャルディスタンスが問われていますが、その間をどうデザインしていくのかは議論されていません。距離があるなかで、精神的に近づいていくためには何が必要なのかを考えることが大事だと思います」
それは水たまりだったり、水の音だったり、木漏れ日だったり。自然の要素が人と人の間を取り持つことで、心地よい会話が生まれるかもしれない。椅子そのものに木の影を彫り、椅子から見る風景、ここで感じ取れることなどをコンセプトに織り込んだら、座る人たちの距離が近づくかもしれない。
それは水たまりだったり、水の音だったり、木漏れ日だったり。自然の要素が人と人の間を取り持つことで、心地よい会話が生まれるかもしれない。椅子そのものに木の影を彫り、椅子から見る風景、ここで感じ取れることなどをコンセプトに織り込んだら、座る人たちの距離が近づくかもしれない。
そしてどんなデザインにも、風が吹いたり、光が射したり、時とともに変化する余地を残した状態、状況をつくりたいのだと団塚氏はいう。自然そのものが、移ろうものだから、というのがその理由だ。
自然が教えてくれる
団塚氏は、大分県佐伯市の大入島で、波の音を聞きながら生まれ育った。学校から戻ると一人で山に駆け登り、海を見下ろし、空を眺めて、虫の音に耳を澄ませていたという。
「そんな子どもの頃の原風景、原体験が、これまでの作風に影響を与えてきたし、それはこれからも変わらないと思う。自然が僕の師です。自然を見ていれば、答えはいくらでもあります。木は木でもそれぞれ違うし、葉も一枚一枚、香りも形も葉脈も違う。多様性が当たり前であることは、自然を見ていたら分かります。子どもも、自然の中に解き放つのがいいと思います。自ずと吸収して学びますから」
日本人は本来、そのことをよく知っているはずだという。DNAに刻まれているはずだと。自然界ほど調和に満ちた世界はない。自然を眺め、摂理を知れば、全ての答えがそこにあるのだと団塚氏は教えてくれる。
「『Return to nature』。自然に還っていく。土に還る。そういうデザインやアートが、これから求められていくんじゃないかな。全てが有機的に溶け合って、人間は自然界の一部だったという原点に戻る。そんな時代に突入したのではないでしょうか」
「そんな子どもの頃の原風景、原体験が、これまでの作風に影響を与えてきたし、それはこれからも変わらないと思う。自然が僕の師です。自然を見ていれば、答えはいくらでもあります。木は木でもそれぞれ違うし、葉も一枚一枚、香りも形も葉脈も違う。多様性が当たり前であることは、自然を見ていたら分かります。子どもも、自然の中に解き放つのがいいと思います。自ずと吸収して学びますから」
日本人は本来、そのことをよく知っているはずだという。DNAに刻まれているはずだと。自然界ほど調和に満ちた世界はない。自然を眺め、摂理を知れば、全ての答えがそこにあるのだと団塚氏は教えてくれる。
「『Return to nature』。自然に還っていく。土に還る。そういうデザインやアートが、これから求められていくんじゃないかな。全てが有機的に溶け合って、人間は自然界の一部だったという原点に戻る。そんな時代に突入したのではないでしょうか」
アーティストとして
氏が手がけてきたランドスケープの作品は、どれもデザインを超えたコンセプチュアルアートのような印象をまとう。
「僕にとってのアートとは、鑑賞者に内在する感覚や感動を引き出すためのデバイスのようなものです。視点を変えたり、何かを喚起させる装置のようなもの。それはつまり、時間軸や空間的な位置付け、人間が介在することで成立するもので、それらが一つにつながるための作品です」
「僕にとってのアートとは、鑑賞者に内在する感覚や感動を引き出すためのデバイスのようなものです。視点を変えたり、何かを喚起させる装置のようなもの。それはつまり、時間軸や空間的な位置付け、人間が介在することで成立するもので、それらが一つにつながるための作品です」
ランドスケープデザイナーとして、アーティストとして、そして氏がこれからつないでいく全ての有り様を包括する風景司としての在り方を、未来を見据えて思い描く団塚氏。
「地球のために何ができるのかを日々考えながら、自分の直感や本能、自分の魂が喜ぶことにもっと応えていってもいいのかな、と思っています」
アースケイプ
http://www.earthscape.co.jp
北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs
2021年4月29日(木祝)〜5月9日(日)
https://art-sdgs.jp
「地球のために何ができるのかを日々考えながら、自分の直感や本能、自分の魂が喜ぶことにもっと応えていってもいいのかな、と思っています」
アースケイプ
http://www.earthscape.co.jp
北九州未来創造芸術祭 ART for SDGs
2021年4月29日(木祝)〜5月9日(日)
https://art-sdgs.jp