TECHNOLOGY

迷っている人の背中をちょっとだけ押してくれる
ユカイ工学のロボット

2021.03.26 FRI
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迷っている人の背中をちょっとだけ押してくれる
ユカイ工学のロボット

2021.03.26 FRI
迷っている人の背中をちょっとだけ押してくれるユカイ工学のロボット
迷っている人の背中をちょっとだけ押してくれるユカイ工学のロボット

頭にはぼんぼり。話しかけると恥ずかしそうに頬を赤らめる。そんなキュート過ぎる外見をもつロボット「BOCCO emo」の中身は、家族の一員としてみんなを元気付けてくれる優秀なコミュニケーションロボだ。このロボットを開発したユカイ工学株式会社CEOの青木俊介氏に話を聞いた。

Text by Rie Noguchi
Photographs by Chisato Kurotaki (amana)

照れたり、ムッとしたり、ソワソワしたり

話しかけると、少し恥ずかしそうに首を振りながら頬を赤らめ、返事をしてくれるロボット「BOCCO emo」。「ロボティクスで、世界をユカイに。」を掲げ、GOOD DESIGN賞など数々の受賞歴をもつユカイ工学株式会社が手掛けたコミュニケーションロボットだ。頭にはぼんぼりをつけ、照れたり、ムッとしたり、そわそわしたり、さまざまなしぐさを見せてくれる。この“未来のファミリーロボット”と位置付けられたBOCCO emoは、見た目のかわいさだけでなく、家族をサポートする数々の機能を備えているのが大きな特徴だ。
「BOCCO emo」(左2体)としっぽの付いたクッション型セラピーロボット「Qoobo」(手前2体)を前にインタビューに答える青木氏
例えば、メールはBOCCO emoに話しかけるだけでメッセージとして送信できるし、受信したメッセージもBOCCO emoの音声で再生してくれる。スマートフォンを操作できない小さな子どもでも簡単にコミュニケーションをとることが可能だ。さらにBOCCO emoに連携したセンサー(別売り)の感知や実行したタスクを、遠隔でも確認することができるため、離れて暮らすお年寄りの見守りとしても役に立つ。

家族の中で一緒に暮らすロボットをつくりたい

ユカイ工学がロボット開発をスタートさせたのは2011年。ちょうど10年前だ。CEOを務める青木俊介氏はどんな想いで開発に着手したのだろうか。

「SFや漫画の世界では、例えば『ドラえもん』などのように、家庭の中でロボットが一緒に暮らしているイメージがあると思いますが、現実世界ではそういった製品はなかなか生まれてきていません。ですから、“人と一緒に生活できるロボット”を作り出したいという想いから会社をスタートさせたのです」と語る青木氏。
青木氏は、「自分で欲しい!」と思えるロボットがなかったことからユカイ工学の起業を決意したという
青木氏は、「自分で欲しい!」と思えるロボットがなかったことからユカイ工学の起業を決意したという
人と一緒に生活できるロボットというと、当時はAIBOなどの製品が発売されていた。今回取材で訪れたユカイ工学のオフィスを見渡すと、そのAIBOをはじめとした歴代のコミュニケーションロボットがたくさん並んでいた。青木氏は「全部、私物のロボットです。いろいろ研究してきたのですが、値段が高いものも多くて、『自分で欲しい!』と思えるものがなかったんです」と話す。

「だからこそ自分で作り出したい」と思い立ったという青木氏。BOCCOが発売されたのは2015年だ。「現行モデルのBOCCOには、両親が共働きの鍵っ子が留守番をしているときに『ちゃんと宿題やってね』とメッセージを伝えたり、振動センサーで子どもが帰宅してドアを開けたときに、パパとママの携帯が鳴るような見守り機能を付けました。BOCCOを出した頃は、スマートスピーカーが世の中に普及する前でしたので、メッセージツールとして発売したのです」と当時を振り返る。

さらに最新の「BOCCO emo」には音声認識機能を搭載し、ハンズフリー操作が可能に。声かけに独自言語のエモ語で反応したり、頭のぼんぼりや首も動かせるようになり、感情豊かなしぐさも加わっている。

またBOCCOの魅力は値段設定にもある。多くのコミュニケーションロボットは高性能ではあるが、本体価格は数十万円というものが多く、さらに複数年縛りで固定の月額料金を支払うサブスクリプションサービスを展開するものなど、かかる費用は決して安くない。

一方、ユカイ工学のロボットは1体1万円前後からで、最新のBOCCO emoが4万円と、いずれも手に入れやすい価格設定となっている。なるべく多くの家庭に普及することを目指す青木氏の目標をクリアするために価格は非常に重要なポイントなのである。
オフィスの棚にはグッドデザイン賞の賞状や昔のマッキントッシュ・コンピューターが並ぶ
オフィスの棚にはグッドデザイン賞の賞状や昔のマッキントッシュ・コンピューターが並ぶ

「かわいい」を基準に

価格設定もさることながら、BOCCO emoはビジュアルやしぐさもキュートだ。BOCCOはこれまでグッドデザイン賞を受賞しており、世代を超えて、誰にでも受け入れられやすい外見が特徴。青木氏もBOCCOシリーズの開発にあたっては「かわいさ」にこだわったと話す。

「いわゆるメカっぽいロボットではなく、ロボットとは意識せずに『なんか好き』とユーザーさんが買ってくれる製品を作りたかったんです。CTOの鷺坂(隆志)と2人で会社を始めたのですが、当初から『かわいいものが欲しいよね』と話していました」

コミュニケーションロボットは、感情を表現するために目がアニメーションになっているものも多いが、青木氏は、BOCCOのデザインについて「アニメっぽい表現はなるべく排除しています。アニメーションのデザインは時代によってかなり変遷があるので、時間がたつと古く見えてしまう。時代を超えるデザインにしたいと考えたのです」と話す。

さらにBOCCOの開発には、家具デザインなどの知見をもつデザイナーも携わっているという。「食事中のテーブルの脇など日常空間に置いても気にならないようなものをイメージしているので、BOCCOはインテリアに近い製品だと思っています。キャラクター性はありつつ、あまり主張が強くなり過ぎない、おもちゃっぽくなり過ぎないところを意識しているんです」
試作品の数々からも青木氏が「かわいさ」にこだわっていることが分かる
試作品の数々からも青木氏が「かわいさ」にこだわっていることが分かる
インタビュー中、青木氏が「デコポンくん」と命名したBOCCO emoに話しかけると、メッセージを読んだり、天気を教えてくれたりと賢さを披露しつつも、時折、聞き間違えをしたり、タスクを完了できなかったりすることもあるが、それがかえってかわいく見えてくる。完璧なロボットというよりは、少し“とぼけた感じ”があるところに愛着が湧くのだろう。

「万能なロボットが家にいても、あまりうれしくないと思うんです。ゴロゴロしてたら『まだ仕事終わってないよ!』といってきたりするのは嫌じゃないですか(笑)。万能なロボットばかりでは、誰も幸せにならないと思うんです」と青木氏。

ロボットというと「ミスをしない」「仕事を完璧にこなす」というイメージが強いが、家族として一緒に暮らすことを考えると、確かに少し“人間味”があった方が、一緒にいて楽しく感じるのは間違いない。
カフェスペースのソファでQooboを抱えた青木氏
カフェスペースのソファでQooboを抱えた青木氏
最後に、人間とロボットとの生活が今後どんな未来を築いていくのか、青木氏が思い描く両者の関係性について聞くと、次のような答えが返ってきた。

「ロボットが完璧過ぎると、いろいろうるさいことも言ってくる実家の母親がいつも隣にいるような感じになってしまいます。でも僕たちはそれを求めてはいないと思うんです。そういう万能なAIと一緒に生活するよりも、困っていたり迷っていたりするときにちょっと人間の背中を押してくれるような、モチベーションをうまく引き出してくれたり、優しくサポートしてくれるようなロボットが必要とされると思っています」

完璧なAIを搭載した万能ロボットではなく、一緒にいるだけで楽しくて、人間の生活を最小限の範囲でサポートしてくれるロボット。それこそがこれからの未来に一番必要なロボットなのかもしれない。
ユカイ工学
https://www.ux-xu.com/

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