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TECHNOLOGY

バイオ3Dプリンティング──実現迫る臓器印刷技術

2021.02.01 MON
バイオ3Dプリンティング──実現迫る臓器印刷技術

昨今、さまざまな分野に応用されている3Dプリンターの技術だが、今特に注目を集めているのが再生医療分野における「バイオ3Dプリンティング」だ。本コラムでは、同技術に関する研究開発の現状を踏まえつつ、それが実現するであろう近い将来の医療について考察する。
※写真はTEDカンファレンスで講演するアンソニー・アタラ医師。バイオ3Dプリンターで“印刷”した臓器を披露している

Text by Nobuyuki Hayashi
Photographs by James Duncan Davidson / TED

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バイオ3Dプリンティングは何がすごいのか

今から10年前。東日本大震災直前の3月、世界中の素晴らしいアイデアを持った人々が未来への展望を語り合う「TEDカンファレンス」で衝撃のデモンストレーションが行われた。

医師のAnthony Atala(アンソニー・アタラ)が「腎臓を印刷する試み」と題した講演を行い、実際に壇上で印刷された臓器を手に取って見せたのだ。

「印刷」と聞くと、首をかしげる人もいるかもしれないが、いわゆる3Dプリンターでの立体印刷のことだ。通常、3Dプリンターでは樹脂やナイロンの粒を噴出して立体をつくるが、このデモではその代わりに細胞を噴出して臓器をつくったのだ。

再生医療の世界でも今、最も熱い注目を集める「バイオ3Dプリンティング」と呼ばれる技術が、医学の世界の外に知られた瞬間だった。

一方、この講演を見て歯痒い思いをしていた人たちも少なくない。佐賀大学の中山功一教授もその一人だ。彼は前年の2010年、まさにこの分野で起業をし、サイフューズ社を立ち上げたところだった。当時、彼以外にも世界中で多くの研究者が、このバイオ3Dプリンティングの研究を進めていた。
アンソニー・アタラ医師がTEDカンファレンスで紹介したバイオ3Dプリンター
アンソニー・アタラ医師がTEDカンファレンスで紹介したバイオ3Dプリンター
バイオ3Dプリンティングは何がすごいのか。現在、事故や病気などで自分の臓器が使えなくなると、ほかの部位の似た臓器を移植したり、大きな臓器では、事故などで亡くなった人の臓器を提供してもらい移植を受けたりする必要がある。しかし、亡くなった人の臓器はそうそう都合よく手に入るものではないし、場合によっては体質に合わず拒否反応などが出る可能性もある。

バイオ3Dプリンティングは、こうした課題をクリアしてくれる技術として注目を集めているのだ。今後、iPS細胞の研究などがうまく進めば、今よりも若い状態の臓器をつくり出せる可能性すらある。

生物の身体の必要な部位だけをつくり出せるバイオ3Dプリンティングの応用は移植だけではない。

変わったところでは、バイオ3Dプリンティングの技術を使って食用肉をつくるといった研究をしている人たちもいる。

また、医療目的で、急速に注目を集めているのは、人工的につくった身体の部位に、薬を与え、その効果や副作用を見る創薬への応用だ。この分野の急速な成長を受け、バイオ3Dプリンター用に素材となるゲルを提供している会社がIPO(新規株式公開)をしてしまったほどだという。

印刷した臓器を世界で初めて人体に移植した実績を持つサイフューズ社

一方で、人体移植のためのバイオ3Dプリンティングの技術の進歩はかなりペースが遅い。

10年前、冒頭で紹介したTEDの動画を、筆者が中山功一さんに紹介したところ、最初は先を越して注目を集めたことにショックを受けていた中山氏が、「でも、この臓器はおそらくしばらくすると形が崩れる」と解説をしてくれた。

3Dプリンターで噴出して重ねただけの細胞は、まだ固まっておらずドロドロのゼリーのような状態。しばらくの間なら形を保てるがだんだんと崩れてしまって、人体への移植などには使えない。薬を試すくらいであれば、細胞がそこまで立体的な構造を保つ必要はない。昨今の創薬への応用が広がらない裏事情の一つだろう。
サイフェーズ社のバイオ3Dプリンターで印刷された臓器(血管) 画像提供:サイフェーズ社
サイフェーズ社のバイオ3Dプリンターで印刷された臓器(血管) 画像提供:サイフェーズ社
一方、中山氏らが研究している剣山方式のバイオ3Dプリンティングは、剣山のような極めて細い針の山に細胞を刺しながら臓器を形づくる。出来上がった臓器がある程度、形として固まったら剣山を抜いて、穴が埋まるのを待つ、という方式。崩れない立体臓器をつくれるという大きな強みがある。

ただバイオ3Dプリンターで印刷するだけでなく、印刷した臓器(血管)を実際に人体に移植したという点では世界初の実績を持っている。

2020年秋には、京都大学医学部と中山氏らが起こしたバイオ3Dプリンティングのベンチャー企業、サイフューズ社らの協業で指先などの末梢神経の再生に世界で初めて成功。

まもなく手指の末梢神経損傷患者に対する医師主導治験も開始するという。
サイフェーズ社のバイオ3Dプリンターにより臓器を印刷する映像
冒頭でも紹介したようにバイオ3Dプリンティングは、再生医療の中でも特に熱い分野であり、世界には異なる方式でこれに挑む研究者らが他にも大勢いるし、今後、どこがこの分野をリードするかは誰にもわからない。

彼らが凌ぎを削ることで、バイオ3Dプリンティングが実用化され、亡くなった人からの臓器提供を待つ必要のない世界がすぐそこまできていることに期待を感じずにはいられない。

ちなみに、すべての基礎となっている3Dプリンターという技術革新は、元々1980年、日本の名古屋市工業研究所にて小玉秀男という日本人によって発明されている。彼が生み出した光造形法という3Dプリントの方法が、その後、歯科技工師の間で広まったことを考えると、一人一人で異なる体型や体質に合わせて個別生産できる3Dプリンターの技術は、元々、医療であったり移植であったりに向いていたのかもしれない。
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