ART / DESIGN

「NEUT Magazine」の平山潤は小さな声をいかにして届けるのか 後編 |ムラカミカイエ Beyond the Box

2021.01.11 MON
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「NEUT Magazine」の平山潤は小さな声をいかにして届けるのか 後編 |ムラカミカイエ Beyond the Box

2021.01.11 MON
「NEUT Magazine」の平山潤は小さな声をいかにして届けるのか 後編 |ムラカミカイエ Beyond the Box
「NEUT Magazine」の平山潤は小さな声をいかにして届けるのか 後編 |ムラカミカイエ Beyond the Box

ミレニアル世代と呼ばれる若者たちとムラカミカイエ氏との対談録。第12回は前回にひきつづきウェブメディア「NEUT Magazine」の編集長、平山潤氏を迎えた。前編に続いて語られるのは、彼らのメディアの展望や東京のこと、そして近い将来について。

Text by Satoshi Taguchi
Photographs by Daisuke Matsumoto 

サステナブルなメディアであるには

前編のインタビューでは「NEUT Magazine」が今の形になっていくまでの背景を教えてくれた。そこには平山潤くんの個人的な体験や思いがとても反映されていて、だからこそ体温を感じるメディアになっているんだということが分かる。成り立ちを淀みなく語ることができるのは、ストレートな動機とパッションがあるからではないだろうか。

これからますます、彼、あるいは彼の友だちや周囲にとって、とても大切なメディアでありプラットフォームにもなっていくことを予感させる。そのためにはもちろん、ビジネスをしていかなければならないし、そのための戦略も求められる。平山くんと「NEUT」が描く展望を、続けて聞いてみたい。
──さっきの話で「メディアは役割分担」と言っていたけど、いまの時代に大切な視点だよね。でも同時に、難しくもあるでしょう? 自分たちがやることを明確に、先鋭的にしていかないといけないから。

それぞれが得意なことをすべきですよね。僕らが意識してるのは、リプレゼンテーションできない人たちの声を届けること。大きなメディアがフォーカスできないところにいる人たちを、オルタナティブとしてフォローして彼らの声を届ける。ソーシャルな窓でありたいんです。「NEUT」はサブタイトルとして「Make extreme neutral」と掲げています。それはエクストリームだと思われている人たちにとってのプラットフォームとして機能して、普通なこととして世の中に紹介するということ。それで錯覚を起こしていくというか、普通のものだと伝えていくというか。「シティボーイ」をかっこいいと思うみたいに、「NEUT」を見て、「自分で考えて、自分から行動を起こすのっていいよね」って思ってもらいたいんです。

──最近の記事の中で、これはぜひ読んでほしいっていうのはある?

新しいところだと、BLM(Black Lives Matter)のことについて声をあげた(日高)大作くんの記事ですかね(https://neutmagazine.com/interview-daisaku-rei-hidaka)。彼は18歳で僕よりも10歳下で、高校生なのにこんなことを考えているんだという衝撃が大きかった。僕らミレニアルズから見ても、Generation Zといわれる人たちは、もっと社会問題などに対してネイティブなんだなというのを感じられると思います。あとは去年やった特集はけっこう反響が大きかったですね。性についての話ってタブー化されたりすることが多いですけれど、それをいかにオープンにヘルシーに取り上げられるかということに挑戦した記事です。

──編集部は今は2人? 「NEUT」だけで生活はできているの?(笑)

そうですね。今は僕ともう一人の体制でやっています。ミニマムなのでビジネスとして何とかキープできてる感じで(笑)。最近はプロダクションとして仕事をすることもありますね。といっても、モデルのキャスティングだったり、フォトグラファーのブッキングだったりですけれど。あとは企業とのタイアップでマネタイズしたり、もうちょっとビジネスの面でも成長していかないととは思っています。人員も増やせないしコンテンツも増やせないので。

──とはいえ、大きくビジネスを成長させたいっていうわけでもないんでしょう?

ウェブメディアってプロダクションに力を注ぐようになると、メディアパワーが落ちてしまうことがあるんですよね。ちょっと成功してくると、設備と人員にお金をかけて、一過性のトレンドみたいになってしまったり。だから僕らは広告やタイアップを貪欲に入れたいとも思っていないんです。SONY、NIKE、LUSH、Patagoniaとか、メディアとしても賛同できる企業や、価値観の合いそうな中小規模の会社と、無理なくいい関係を築いていけるといいんですけど。

──継続させることが前提にあるんだね。

そうです。メディアを長く続けながら、プロダクションとしても無理なくできることをしていく。とはいえ僕自身、「NEUT」の経営者でもありますけど、ビジネスマンとしてまだまだなので(笑)。そこはもっと考えていかなきゃいけない。精神の安定も大事にしながら、まずはサステナブルに活動していきたいですね。

──メディアで難しいのはマネタイズだよね。社会にすごく意義や価値があることを発信していたとしても、それがビジネスとしてドライブしなければ、息切れしてしまうから。

そうですね。それは毎日考えてます。経営者と編集長を両方やっていて、この媒体を良くすること、残していくこと、お金を稼ぐことが、いつも頭の中でせめぎ合っています(笑)。大変ですけれど、そういうことを考えながら、こうやって人と会うと、毎日、勉強になるというか、気づきが生まれるというか。経営者になることで、気づけることがある。視点も変わるし、背筋も伸びるし、目線も上がる。お金のことを毎日考えるのは、大事だなって思います。結局、お金がないとメディアもできなくなって、世の中に伝えるべき声を社会に発信できなくなるので。

デジタルとフィジカルはどっちも大切

──今年はコロナ禍もあったし、いろいろ考え方も変わってくると思うけど、潤くんの周りではどんなことが起きているんだろう?

ソーシャルディスタンシングとかテレワークとか、ヴァーチャルでつながることが言われましたが、だからこそ、ますます実際に会うことを大事にするようになりましたね。それと似たような流れで、カルチャーシーンの同世代は雑誌でもレコードでもそうですけれど、物質的なものに回帰しているとも思います。でも今は決してそればっかりにならないというか。それこそニュートラルかもしれません。フィジカルもデジタルも両方使う。タブロイド版のZine(※)を作って2000円で売りながら、PDFでも400円くらいで売ったりしたり。どちらも許容して、それぞれの好きなところを見極めていく感じがあります。

──なるほど。デジタルネイティブならではの思考のユニークさだよね。

だからというわけではないけれど、「NEUT」は今年初めて雑誌を作ってみようと思っています。去年は「Be Inspired!」の記事をアーカイブした本を作ったんですけど(持ってきました)、ウェブにあって紙にないもの、紙にあってウェブにないものというコンセプトだったんです(http://neutmagazine.com/feature/printed-web-magazine/ )。だからすべてのページにQRコードを入れていて、スマホがなければ記事が読めないようになっていて。その代わり、紙の重さを際立たせたり、NEUT ORANGEという色を作ってもらったり、香りをつけたり。ウェブではできないけれど、紙ならできることを目一杯楽しむつもりで作ったんです。展示と関係者用だけに10部だけ。

──すごい立派なモノだね!(笑)存在感がすごい。面白いなあ。雑誌を作るとなるとまた違うんだよね?

そうですね。「NEUT」の2020年のイヤーブックを雑誌で作りたいと思っています。今年、みんながどんなことを考えたのかを保存しておけるような。例えば、あってほしくないけれど、数年後か数十年後にまた何かが起きて、家にずっといなければいけないとき、誰かの家の本棚にこの雑誌があれば、この時にこんな奴らがいたなとか、こんなこと考えてたなとか、思い出したり想像することができる。僕らが今年、家にこもって昔の本や雑誌を読んだりしたみたいに。それを「NEUT」でも作ってほしいと思ってくれる人たちに届けたいんですよね。初めて作るので、ドキドキしますけど。

──ほかにもたくさんアイデアがありそうだね。これからどういうことをしていきたい?

まずは今、一緒にやってくれているライターやフォトグラファーに、もっと働ける場を作りたいですね。もっとギャラを払えるようになりたいし。あとはみんなが集まれる場所を持ちたい。ずっと言ってるのは、キオスクをやりたいっていうのがあります。インディペンデントな雑誌が並んでるコーナーがあったり、性にまつわるグッズが隣に置いてあったり、オーガニックフードを売っていたり。ソーシャルな視点というか、「NEUT」が集めたものだけを売ってるショップをやりたいと思っていて。そこにワーキングスペースやポップアップスペースもあれば、人が集まってきて、さらに何か新しいことが起きたりするかもしれない。僕らはまだ自分たちだけのオフィスもしっかり構えられていないので、そういう場所を作れたらいいなって思っています。


〈対談を終えて〉
「アンサングヒーロー」という言葉がある。歌われることのないヒーロー、つまり目立って賛美されることもない陰の殊勲者。平山潤くんの話を聞いていると、そんな言葉が頭に浮かんだ。というのも、こんなニュースに触れたからだ。米国発の某音楽ストリーミングサービスでは、再生される曲の99.4%がトップ10%のアーティストによって独占されている。社会の多くには、ほんのひと握りのスーパーリッチなアーティストの音や声しか届いていないという現実。さらにポピュリズムの進化とともにその富の集中やセレブ化は過度に進み、社会の分断はより深まっていく。

だからこそ、いま僕らは残りの0.6%を担う90%のアーティストの声に耳を傾ける必要がある。現在社会に潜むリアルな声を、次の時代を動かす声を発するヒーローは、すぐ近くにいるはずだ。問題は、それに気づくことができるかどうかなのかもしれない。彼が「NEUT Magazine」でやっている試みは、そんな偏ったパラダイムをシフトさせる可能性もあると思う。等身大のヒーローの言葉には、それくらいエンパシーを生む力がある。ぜひ、多くの人に読んで欲しい。
(※)個人が趣味で制作する印刷物や冊子。昨今、若年層を中心に「作る」「読む」の両面で注目を集めている

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