TECHNOLOGY

AIで幕を開ける「写真史」新時代

2020.11.27 FRI
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AIで幕を開ける「写真史」新時代

2020.11.27 FRI
AIで幕を開ける「写真史」新時代
AIで幕を開ける「写真史」新時代

AI技術の進化により、簡単に写真の加工を行えるようになった昨今。写真というメディアはいかなる方向に進むのか。手軽に写真加工ができる最新アプリを紹介しつつ、写真のあり方について考察する。
※「Focos」というアプリで被写界深度データを可視化したところ。後から被写体への照明のあたり方などを加工できる

Text by Nobuyuki Hayashi

誰でも職人的な画像処理が瞬間的にできるさまざまなアプリ

今、写真の概念が大きく変わろうとしている。それを実感させるアプリが最近、立て続けに登場している。

「Remini」というスマートフォン用アプリは昔撮ったピンボケ写真を、最新カメラで撮ったようなシャープで鮮明な写真に変えてくれる。

昔、フィルムカメラで撮った白黒写真なども、一度、スマートフォンのカメラで撮影して取り込めば鮮明にできるだけでなく、カラー化までも可能だ。
白黒写真もスマートフォンのカメラで撮影しReminiに取り込むことで鮮明な画像に加工できる©Remini
白黒写真もスマートフォンのカメラで撮影しReminiに取り込むことで鮮明な画像に加工できる©Remini
パソコン用の「Sharpen AI」というアプリを使っても、ブレやボケで不鮮明な写真を驚くほどシャープに加工できる。

「Luminar」という写真加工アプリでは、悪天候時に撮った写真の空を満天の星空に変えたり、ムードを出すために霧を加えて幻想的な雰囲気にしたりといった加工が、ほぼワンクリックでできてしまう。

現実とも非現実とも区別がつかない「超現実」の写真は、今から30年前にAdobe Photoshopというアプリが登場したことで一気に世の中に広まったもので、決して新しくはない。

では、ここ1、2年で何が変わったのかというと、写真加工がAI処理(正確には「機械学習」という技術)で自動化され、プロでなくても簡単にほぼワンクリックの操作で超現実写真をつくれるようになったことだ。

Adobe Photoshopで、超現実的な写真をつくるには、被写体を背景と切り分ける切り抜き作業が必要で、加工そのものにも知識や技が不可欠とされていた。

しかし、最近のAIベースのアプリでは、そうした職人ともいえる人々の手を借りなくても、AIが自動的に切り抜きを行い、加工したい部分だけをワンタッチで加工できるのだ。このため、まったくスキルを持たないアマチュアでも、自分のスマートフォンやパソコン上で驚くような超現実の写真を簡単につくりだせるようになってしまった。

ここ4、5年のAIの進化で、映像表現が劇的に進歩していることは、この連載でもたびたび伝えてきた。AIが有名画家の画風を真似て肖像画を描く話や、本物と見分けがつかない偽映像を生み出している話も紹介した。

これらの記事で紹介したのは研究中の技術であったり、大企業が高性能コンピューターを駆使してつくったりしたものだった。しかし、この1、2年でパソコンやスマートフォンの中枢であるプロセッサが機械学習処理に最適化され、ちょっと前のパソコンやスマートフォンでは、それなりに時間のかかっていたAI画像加工が瞬間的にできるようになってきたのだ。

「超現実写真」という新たなる媒体に何を求めることになるのか

そのすごい威力は、特殊なアプリを使わずとも写真を撮るだけで実感できる。

皆さんも、友人との集まりで写真を撮り合ったときなどに、2019年以降に出た最新スマートフォンで撮った場合と、2018年以前のスマートフォンで撮った場合とでは、同じように撮影したにもかかわらず写真に歴然とした差があり、驚いた経験があるのではないだろうか。

被写体が反射した光がレンズを通り撮像素子に記録される──この基本原理が変わることはないが、最新のスマートフォンのカメラでは、一度、シャッターを切った瞬間に、撮影条件を変えた写真を10枚近く撮影し、それぞれの写真の一番いいところを瞬時に判別。それらをうまくつなぎ合わせて1枚の写真に加工しているのだ(それも一瞬の間に)。

こうして仕上がった写真は、シロウト目には「見て感じた通りの風景」に見えるかもしれない。しかし、経験を積んだカメラマンなら「加工なしでこんな写真が撮れるはずがない」と驚く写真であることが多い。それもそのはず、これらの写真はスマートフォンの中で、瞬時に合成加工されたものなのだ。

例えば夕陽を背景にした記念撮影。

肉眼では太陽も立っている人の顔もハッキリ見えるが、カメラでは明るすぎる太陽と人の両方には露出を合わせられない。このため太陽の輪郭を捉えようとすると人が真っ暗に、人を捉えようとすると逆に空が真っ白になってしまう。

これに対して、最新スマートフォンのカメラであれば、シャッターを切った瞬間に太陽に露出を合わせた写真と人の顔に露出を合わせた写真を撮り、ディテールが明確な部分だけをうまく合成して、すべてのディテールがはっきりした1枚のきれいな写真に加工してしまう。

こんなことができる要因の一つには、スマートフォンのプロセッサが写真に何が写っているかを識別したり、人間の目と同じように被写体と背景を切り分けたりできることがある。たとえばiPhoneのポートレートモードでは、二つのカメラを使って撮影。被写体と背景との位置関係を「被写界深度」データとして持っている。「Focos」というアプリでは、それを利用して後から被写体への照明のあたり方などを加工できる。

試しにSiriやGoogleアシスタントといったスマートフォンの音声アシスタントに「食べ物の写真を見せて」や「旅行中の写真を見せて」と頼んでみてほしい。音声アシスタントが、それと思しき写真を一覧表示してくれるはずだ。

昨今、細身に撮れる写真や美肌加工、目を大きくする加工やメイクをした顔、さらには異性っぽく見える顔や老け顔などを合成してくれる自撮りアプリがたくさん出てきているのも、スマートフォンのOSそのものが人の身体や顔のパーツを認識してくれるようになり、そうした画像加工がより少ない手間で簡単に実現できるようになったからだ。

こうした写真加工アプリの爆発的進化は、これからさらに勢いを増すはずだ。

それはさながらAI時代の「写真」のあり方を模索する行為のようにも見えなくはない。

19世紀、銀塩写真が登場したことで、それまで正確な描写を良しとしてきた美術の世界に変化が起き、その後の印象派に始まり、キュビスムやシュールレアリスムといった新しい絵画の表現手法が誕生。その一部は写真そのものの表現にも大きな変化をもたらすことになった。

それでは本格的なAI時代を迎える21世紀の今、撮影した写真を自分が望むかたちに自由自在に加工できる「超現実写真」という媒体に、人々は何を求めることになるのだろうか。

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ご回答いただきありがとうございました。

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