ART / DESIGN

上勝町ゼロ・ウェイストセンターが示す
ごみを出さない持続型社会

2020.10.19 MON
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上勝町ゼロ・ウェイストセンターが示す
ごみを出さない持続型社会

2020.10.19 MON
上勝町ゼロ・ウェイストセンターが示すごみを出さない持続型社会
上勝町ゼロ・ウェイストセンターが示すごみを出さない持続型社会

徳島市から車でおよそ1時間、棚田や段々畑など豊かな自然にあふれる徳島県上勝町。人口1,500人に満たないこの町に誕生した「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」は、ごみ問題を通して、未来について考えるきっかけを与えてくれるスポットだ。

Text by Hitomi Miyao

ゴミ問題に対するコンセプターとして、ゼロ・ウェイストの町に誕生した「WHY」

2003年に自治体として日本で初めてごみゼロを目標に掲げる「ゼロ・ウェイスト(zero=0、waste=廃棄物)宣言」を行い、ごみを極力出さない持続型社会を実践する徳島県上勝町。この町にはごみ収集サービスがないため、生ごみは各家庭でコンポストを利用し、資源ごみは住民たちが集積所に持ち寄って45種類以上に分別することでリサイクル率80%超を達成している。

その取り組みは「ゼロ・ウェイストの町」「SDGs未来都市」として世界中から注目を集め、多くの視察者や見学者が訪れるという。そんな町に2020年5月30日(ごみゼロの日)、体験型の環境施設「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」が誕生した。

WHYは、資源ごみの分別場「ゴミステーション」のほか、ゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」、リサイクル施設「くるくるショップ」、ラーニングセンター兼交流ホール「セミナールーム」、ワークスペース「サテライトオフィス&ラボ」からなる複合施設。施設を運営する株式会社ビッグ アイ カンパニー CEOの大塚桃奈氏、全体のブランディングやクリエイティブプロダクションなどを手がける株式会社トランジットジェネラルオフィスCCOの岡田光氏に話を聞いた。

「この施設の役割は、大きく二つ。一つは、上勝町の住民たちがごみの分別のために日々訪れる資源ごみの分別所。もう一つは、視察者や学生など外部からの訪問者を受け入れて、ごみ問題にまつわる情報発信や研究、教育などを行う学びの場です」(大塚氏)

「上勝町のゼロ・ウェイスト宣言の根底にあるのは、過疎問題です。集落としての機能を維持することが難しくなったとき、この町はごみ焼却場を新たに建設するのではなく、リサイクルしてごみの排出量を減らす方向にシフトしました。でも、ごみを減らしたからといって過疎化に歯止めがかかるわけではありません。そこで上勝町を持続可能なものにするため、外部の人を呼び込むことができる仕組みを持たせた施設としてWHYの構想がスタートしたのです」(岡田氏)
ビッグ アイ カンパニー CEO大塚桃奈氏
トランジットジェネラルオフィスCCO岡田光氏
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WHY立ち上げの構想が生まれたのは2011年のこと。町や町民に施設の必要性を伝え、賛同してもらうため、実に8年もの時間を費やしたのだという。町民のための施設であり、外部の人に町をアピールする場所でもあるからこそ、建設にあたっては、建材もリユース&リサイクルにこだわった。

「町の古民家を取り壊した際に出た窓枠やタンスを再利用した壁面、かつて町の主幹産業だった林業跡地の杉林から伐採した丸太など、上勝産のものを積極的に活用しました。例えばガラス瓶や陶器の破片などを建設材として、農機具や建具の取っ手をシャンデリアとして再利用していますが、これらも元は町の不用品です。また、施工は地元の業者を積極的に活用するなど、建設時にも地域経済の活性化や地産地消を意識しました」(大塚氏)
壁面は、本来は廃棄されていた上勝町の古民家の建具約700枚で構成。町のシンボルにふさわしいあしらいだ
壁面は、本来は廃棄されていた上勝町の古民家の建具約700枚で構成。町のシンボルにふさわしいあしらいだ

ホテルやセミナールームなど、来訪者のための施設が充実する

ごみ問題への取り組みや、ごみに対する意識改革を目的に、さまざまな機能を備えたWHY。それぞれの施設には、きちんと役割分担があるという。

「HOTEL WHY」がコンセプトとして掲げるのは“ゼロ・ウェイストアクション”。宿泊中に出るごみを分別してごみの行き先を知るウェイスト・セパレーションや、宿泊者が客室で利用するせっけんのセルフ切り分け、サービスのコーヒー豆の量り分けなど、宿泊者自身に行動を促すシステムが面白い。

こうしたごみの削減につながるアクションを通じて、私たちの暮らしがいかにごみと密接で、意識を変えるだけでごみを減らすことができるかを実感することができる。また、トレッキングやレイクカヤックなど、上勝町ならではの自然を楽しむフィールドアクティビティプログラムも豊富だ。
全4室のメゾネットタイプで、最大4名が宿泊可能。全部屋フォレストビューで緑を感じることができる
全4室のメゾネットタイプで、最大4名が宿泊可能。全部屋フォレストビューで緑を感じることができる
全4室のメゾネットタイプで、最大4名が宿泊可能。全部屋フォレストビューで緑を感じることができる
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「くるくるショップ」は、住民たちが直接持ち込んだ不要な日用品や、ごみの中から発見されたまだ使えるものが並べられたスペース。ここにあるものは誰もが自由に持ち帰ることができ、いわば無料のリサイクルショップになっている。
不要な日用雑貨や家具などが、メンテナンスのうえ陳列されている。床には陶器の破片が練り込んである
不要な日用雑貨や家具などが、メンテナンスのうえ陳列されている。床には陶器の破片が練り込んである
そして「セミナールーム」と「サテライトオフィス&ラボ」は、ワークショップや企業研修、コワーキングスペースなどを目的にしたもの。上勝町を訪れる視察者やビジネス・教育関係者がごみ問題を学ぶほか、町民たちの多目的スペースとしても活用されているという。

「これらのスペースは、国内外の自治体や企業、教育機関など、上勝町に視察に来たビジネスマンの方に活用してもらえるよう設けました。ごみ問題は経済問題と密接です。家庭のごみだけでなく企業による経済活動で出されるごみを減らすとインパクトが大きいので、各企業が SDGsに積極的に取り組む今だからこそ、そういった方面の方々にぜひ利用してもらいたいと考えています」(岡田氏)
研修やワークショップなどを行う「セミナールーム」。家具はトランジットの旧オフィスのものを再利用した
研修やワークショップなどを行う「セミナールーム」。家具はトランジットの旧オフィスのものを再利用した
「将来的には、修学旅行先として全国の生徒さんたちにここへ訪れてほしいと思っています。ごみ問題に向き合うことになるのは、私たち若い世代です。だからこそ学生の頃から環境問題やごみ問題を解決するための方法の一つとして、上勝町の活動を知ってもらうことが大切だと考えています」(大塚氏)

上勝町のゼロ・ウェイストに対する取り組みをさまざまな形で体感できるWHY。例えホテルステイや自然を満喫するためだけに訪れたとしても、ここでの経験が貴重なものになることは必至だ。ぜひこの場所で新しい暮らし方に必要なヒントを体験してほしい。
上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)
https://why-kamikatsu.jp

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