JOURNEY

水槽の森「ネイチャーアクアリウム」──
創り育てる自然の美

2020.10.07 WED
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水槽の森「ネイチャーアクアリウム」──
創り育てる自然の美

2020.10.07 WED
水槽の森「ネイチャーアクアリウム」── 創り育てる自然の美
水槽の森「ネイチャーアクアリウム」── 創り育てる自然の美

水槽の中に自然を三次元で表現する“ネイチャーアクアリウム”は、水草育成器具の製造を手掛ける「ADA」(アクアデザインアマノ)の創始者、天野尚氏が提唱し確立されたスタイル。数々のネイチャーアクアリウムを制作、また後進指導もしている同社の水景クリエイター、本間裕介氏にその魅力を聞いた。

Edit & Text by Tamako Naoe (lefthands)
Photographs Courtesy of Aqua design Amano, Aqua design Amano/Takashi Amano(Top画像)

ネイチャーアクアリウムとは?

ネイチャーアクアリウムとは、水槽の中に水草、魚、微生物のバランスの取れた環境を再現したもの。水槽内では、水草と魚の間での酸素と二酸化炭素のサイクルや、微生物が魚の排せつ物を分解し、それが水草の栄養素になるサイクルが繰り返され、自然さながらの生態系が形作られる。水槽の中にサステイナブルな世界が広がっているのだ。

水草や石、流木などを用いた水槽の中だけでレイアウトが完結する純粋な“水景”からスタートした後、「ネイチャービオトープ」「オープンアクアリウム」「アクアテラリウム(水草ウォール)」といったように水中だけでなく水上にも展開し、新しい作品が生み出されている。

記事トップの作品は天野尚氏の自宅にある4mの水槽(非公開)。ネイチャーアクアリウムの創始者、天野尚氏の作品で、2001年に制作されたこの水景は、自宅の庭とつながるようにデザインされており、水槽内には庭と同じ種類の石が使用されている。夏に窓を開け放ったときの水槽から庭までのパノラマ風景は圧巻。写真撮影も天野氏によるものだ。
水上部分をメインに水の循環をテーマにしたアクアテラリウム「水はめぐる」。本間氏の作品
水上部分をメインに水の循環をテーマにしたアクアテラリウム「水はめぐる」。本間氏の作品
ポルトガルのリスボン海洋水族館には、天野氏が創った幅40mにも及ぶ巨大水槽のネイチャーアクアリウムがあり、世界各国からの来場者が後を絶たない。国内では、東京のすみだ水族館に自然水景の大型作品が展示されている。

ADAの水景クリエイター

ADAにおいては、かつて水景の制作を前社長の天野尚氏だけが行っていたが、天野氏が他界した頃から本間氏も手掛けるようになった。現在では、本間氏を含む5名が水景クリエイターとして活動している。

本間氏が水景クリエイターになるきっかけは、ネイチャーアクアリウムが所狭しと展示されていた、ADAの前身である店舗を訪れたことだった。水草が光り輝く水景の美しさに、たちまち魅了されたという。その店舗でアルバイトを始め、高校卒業後の春から店員として働くことになった。天野氏の水景制作と撮影の助手を務めるうちに、氏の自然に対する考え方や表現方法に対する憧れが増し、自分もいつか同じような仕事ができるようになりたいと思い至ったという。
天野氏の撮影助手を務めていた本間氏。圧倒される景色だけでなく、危険と隣り合わせの思い出も
天野氏の撮影助手を務めていた本間氏。圧倒される景色だけでなく、危険と隣り合わせの思い出も
ADAのネイチャークリエイション部では、主にネイチャーアクアリウムの制作およびメンテナンスを行っている。本間氏は水景の制作の他、ADAで発行しているネイチャーアクアリウム情報誌「アクア・ジャーナル」の編集や撮影も担当している。他にADAのギャラリーやリスボンの海洋水族館、すみだ水族館のネイチャーアクアリウムなど、外部メンテナンス先での部下へのメンテナンス指導、提携する専門学校の講師も務め、後進の教育にも携わる。

水景クリエイターによるネイチャーアクアリウムの制作

水景制作の必須要素やルールについて聞くと、本間氏はこう答えてくれた。「基本的には決まったルールはありません。飼育する生き物のことを考えることと、自然から学ぶということから外れていなければ、自由に創っていいと思っています。私が大切にしていることは、クリエイター自身が楽しんで創るという考え方です。楽しんで創っている作品は、一目見れば必ずそれが伝わると思っています」。
本間氏の作品「秘境の川底」は、流木の造形からインスピレーションを得て制作したもの
たくさんの種類の水草と魚たちを組み合わせることで、生命感溢れるメルヘンチックな世界を表現した
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水景の制作は、基本的にそれぞれのクリエイターが自分の創りたい作品を創る。ただ、「アクア・ジャーナル」の企画やイベント時は、内容に応じてコンセプトを話し合い、水景の方向性を決めてから制作に当たる場合も。クリエイター同士、新しい水草の種類や新しい表現方法などを共有し、常に業界の流行をリードしていくことを意識している。「ただ、クリエイター同士もどこかでお互いをライバル視しているので、あえて言わない場合もあると思います」と、チームのリーダーである本間氏は言い添えた。
水景のコンセプトや方向性について、5名の水景クリエイターが集まって意見交換する 
水景のコンセプトや方向性について、5名の水景クリエイターが集まって意見交換する 

ネイチャーアクアリウムを楽しむポイント

「生き生きと育った水草の中を魚たちが気持ちよく泳いでいれば、後は自由に楽しむこと。光合成をする水草たちの美しい姿を楽しんでいただきたいです」と本間氏は語る。
約半年で完成を迎えた。水草の群生美に焦点を置いたオーソドックスなネイチャーアクアリウム
約半年で完成を迎えた。水草の群生美に焦点を置いたオーソドックスなネイチャーアクアリウム
初心者が始めるのなら60cm水槽がお薦め。器具も豊富にそろっているので始めやすい。もっと小さい水槽の方が簡単なように思うかもしれないが、水量が少ないとそれだけ早く水が汚れてしまうので、ある程度の水量がある方がメンテナンスが楽だという。

水草にはさまざまな種類があるが、ADAでは初心者でも簡単に楽しめる「佗び草」という商品を販売している。佗び草は根が張った状態で販売されているので、植える手間もなく水に沈めるだけで使える。そのままガラスの器などでも楽しむこともできる便利な商品だ。

他にも「BIOみずくさの森」という商品は、水草が寒天培地に育った状態で販売されているので、寒天培地を洗い流すだけで手軽に植えることができる。それぞれ種類も豊富なので、気軽に始められる。
植栽直後 半年後の完成形をイメージしながら植栽している 
植栽直後 半年後の完成形をイメージしながら植栽している 
また本間氏が薦めるガラス製の「パレングラス」は、その名のとおり、CO2を花粉のように水槽内に添加するアイテム。水草の光合成により酸素が放出される様子を容易に見ることができ、ネイチャーアクアリウムの醍醐味を存分に味わえる。

大きなサイズの水槽に躊躇してしまうようなら、インテリア性が高く小さいサイズも豊富にそろう「ネオグラス エア」で、水草のある暮らしを手軽に始めてみてもいいだろう。ネイチャーアクアリウムの創り方は、ADAの公式サイトや公式YouTubeチャンネルで詳しく説明されている他、ADAの製品を取り扱う全国の特約販売店でも相談に乗ってもらえる。
20cm角のネオグラス エアに佗び草ハンガーを使い、佗び草エキノMIXを水上育成。メダカやベタと一緒に 
20cm角のネオグラス エアに佗び草ハンガーを使い、佗び草エキノMIXを水上育成。メダカやベタと一緒に 
ネイチャーアクアリウムは家の中で楽しむインドアホビーと思われがちだが、水槽内で表現するアイデアを自然から学び表現することから、自然環境観察が欠かせない。バランスの取れた自然環境は見て美しいだけでなく、長い時間をかけて創られた森や川の流れ、石の苔の付き方などから多くの発見や学びを得ることができる。

また写真を撮ることで、水槽と同じスクエアの中に奥行きを作ったり、迫力を出したりと構図の勉強にもなる。本間氏の「自然から学び、自然を創る」という言葉の通り、アウトドアとインドアを行き来する、とても活動の幅が広いホビーなのだ。
道無き道を進み、森の中で自然を感じながらの撮影。レイアウトのイメージが湧いてくるという
着生植物で覆われた森の倒木。このバランスがレイアウトに活かされる©︎Aqua design Amano/Yusuke Homma
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作品としてのネイチャーアクアリウム

本間氏が作品を評価する場合、まずは、魚や水草の色や種類が合っているかということも見るが、その魚や水草に見合った水流や水質、光の当たり方など環境が適正かについても注意を払うという。

次に構図。良いレイアウトは構図に流れがあり、遠くから見ても引きつける力がある。特に流木や石の配置のバランス、迫力の有無、空間の使い方、制作者の意図が伝わっているか、さらに細かい部分に不自然なところがないかを見て評価している。こうしたポイントを踏まえて作品を創ってみるのも面白いはずだ。

毎年開催されているADA主催の「世界水草レイアウトコンテスト(IAPLC)」では、世界中から素晴らしい作品が集まり、多様な水景を見せてくれる。過去のグランプリ作品は、それぞれに美しい世界を創造・展開しており、新しい旅に誘われているかのように楽しむことができる。
「世界水草レイアウトコンテスト2020」のグランプリ作品「Eden」。制作はSiak Wee Yeo氏(マレーシア)
「世界水草レイアウトコンテスト2020」のグランプリ作品「Eden」。制作はSiak Wee Yeo氏(マレーシア)

作品を通じて伝えたい「水草の美しさ」と「地球環境の重要性」

最後に、本間氏が「ネイチャーアクアリウム」に託す思いを語ってくれた。

「ネイチャーアクアリウムは、単に水草を植えただけの水槽ではありません。私たちが住む地球環境の仕組みや緑の重要性を知ることができる、とても奥深いホビーです。小さなガラス箱の中に創られた小さな世界には、自然と人に対する広く深い思いが詰まっています。

ネイチャーアクアリウムのコンセプトの一つに長期維持があります。水草の性質を知り、どう成長していくかを考え、その水草に合った環境に植栽してあげることが重要です。魚も同様です。また、水草から放出される酸素はとても神秘的。水槽の中で水草が光合成を行い、輝いている姿を見ることで私たちは癒やされ、豊かな心を持つようになるんだと思います。

水草を育て、そこにすむ魚たちの環境を創り、楽しむことで、自然や水辺環境に興味を持つ人たちが増えていくことを願っています」
「ドイツでセミナーを開催したとき、その熱狂ぶりを肌で感じた」と語る本間氏 
「ドイツでセミナーを開催したとき、その熱狂ぶりを肌で感じた」と語る本間氏 
さらに、今後の活動についても聞いてみた。

「ドイツでは、アクアリウムやペットは家族の一員で生活の一部として、人間と同じように扱われていることにとても感動しました。また、アクアリウムの展示会に小学校や保育園の子どもたちが来場し、それをきっかけに将来アクアリウムを趣味としたり、仕事とするようになっていく仕組みができていることを知り、日本はまだまだ遅れているなと感じました。

これからも、水草の美しさや水辺の重要性を水族館や公共事業などで子どもたちに伝え、アート的な要素を持つホビーとして、幅広い年代の方に興味を持ってもらえるよう、イベントやSNSで情報を発信していきたいと考えています。

個人的には真っ暗な場所にネイチャーアクアリウムを自然音とともに展示し、ただそれだけを鑑賞するアート空間など手掛けてみたいと思っています」

美しい作品として鑑賞するだけでなく、サステイナブルアートとして創り育てることもできるネイチャーアクアリウム。これからも美しい自然環境を再現した作品が、世界中の人を魅了していくだろう。
1993年よりADAに勤務する水景クリエーターのリーダー、本間裕介氏
1993年よりADAに勤務する水景クリエーターのリーダー、本間裕介氏
アクアデザインアマノ(ADA)
https://www.adana.co.jp

ADA view YouTube公式チャンネル
https://www.youtube.com/user/aquadesignamano

世界水草レイアウトコンテスト
http://jp.iaplc.com

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ご回答いただきありがとうございました。

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