ART / DESIGN

若手クリエイティブチームANCRの挑戦

2020.07.06 MON
ART / DESIGN

若手クリエイティブチームANCRの挑戦

2020.07.06 MON
若手クリエイティブチームANCRの挑戦
若手クリエイティブチームANCRの挑戦

現役美大生が立ち上げたクリエイター集団ANCRは、新しいワークスタイルと既成概念にとらわれない発想で大手企業とコラボレーションを多数実現。彼らが学生と社会人の顔を持ちながら活躍できる理由について聞いた。

Text by Sotaro Yamada
Photographs by Ryosuke Misawa
Edit by Mine Kan

固定観念を打ち砕き、まだ見ぬ化学反応を

今、若者とタッグを組みたいと考える企業が多い。“大人”にはない新鮮なアイデアやクリエイティブを探求している企業にとって、ミレニアルズたちの柔軟な発想は、新しいビジネスを生むチャンスとなる可能性を秘めているのだ。そんな企業の需要に対し、呼応するように若手クリエイター集団が乱立しているなか、競合に勝ち続け、多くの一流企業とのコラボレーションを実現しているクリエイティブチームがある。

彼ら、ANCR(アンクル)は、「常識への挑戦」をテーマに現役美大生が設立したクリエイティブ集団。社会の常識にとらわれないアイデア力でこれまで名だたる企業とのコラボレーションを実現してきた。なぜ彼らが学生という立場ながら、企業からビジネスパートナーとして認められたのか。そこには彼らならではのクリエイティブと仕事に対するマインドがあった。

アートを落とし込んだ空間設計

もともとANCRは、イラストレーターとして活動していた福島颯人氏が武蔵野美術大学2年生のときに立ち上げたクリエイティブチーム。現在は建築家やアーティストなどが加わり、8名のメンバーで構成されている。

これまでに、「THE Red-Bull AMBASSADOR EVENT」やお寺で開催されたイベント「煩悩 #BornNow」、DMMグループの「原宿HASSYADAI CAFE」など多くの空間ディレクションを手掛けてきたANCR。彼らのクリエイティブの強みはどこにあるのだろうか。それは、この会社の理念でもある「常識への挑戦」をテーマとしたビジネスモデルや空間設計にある。

福島氏「MONTBLANC銀座本店からお話をいただいたのは、敷居が高いと思われているブランドイメージを刷新したいという依頼でした。そこで僕らは身の回りにいる若手クリエイターを起用したイベントを提案しました。最前線のシーンで活躍するDJやVJといったストリートアーティストと音楽イベントを行い、クライアントや既存の顧客へ、アーティストを交えたインタラクティブなコミュニケーションを行うことで、これまで彼らの文脈になかった価値観をつくり出しました。結果、ブランドのターゲット層より若い世代からの購買も増加し、新たな顧客を取り入れることに成功しました」
万年筆でのドローイングを液晶に落とし込んだライブパフォーマンス(MONTBLANC銀座本店)
万年筆でのドローイングを液晶に落とし込んだライブパフォーマンス(MONTBLANC銀座本店)
「煩悩 #BornNow」では照明やVJ、レーザーによる空間演出とアートワークを担当
「煩悩 #BornNow」では照明やVJ、レーザーによる空間演出とアートワークを担当
2019年7月には、解体予定の物件と、才能あるクリエイターの活動拠点をサポートするマッチングサービス「RELABEL(リラベル)』をスタート。創作環境に悩んでいる若手クリエイターと、取り壊し物件の短期利用者を求める不動産をマッチングさせ、賃料は一律ではなく彼らへのヒアリングを通して自由な価格を設定。今では、若手アーティストのみならず、カフェやバー、建築士など、これまで金銭や立地の問題で自分の挑戦をカタチにできなかった多くのミレニアルズが利用しているという。

福島氏「不自由さを払拭してほしいという思いもあり、場合によっては0円で貸し出すこともあります。RELABELを始めたとき、社会にできあがっている“当たり前”の流れに挑戦していくことが大切なんじゃないかと思ったんです。それが自分たちの持つ“らしさ”を表現することにつながっていくし、利用してくれるクリエイターたちもきっと同じような思いを持って活動していると思います」
利用者の出入りが自由な「RELABEL」では、毎日、多種多様なジャンルの人々の交流がある
利用者の出入りが自由な「RELABEL」では、毎日、多種多様なジャンルの人々の交流がある

クリエイティビティを加速させる、常識にとらわれない働き方

アウトプットだけではなく、働き方においても彼らは「常識への挑戦」を実践している。ANCRというひとつの会社に縛られているのではなく、全員が複数の活動領域を持ち、それらを横断するような働き方をしているのだ。たとえば、CDO(Chief Design Officer)を務める小尾昌平氏は、福島氏と同じく武蔵美術大学で建築を専攻する大学4年生でありながら、設計事務所にも勤め、さらには陶芸家としての顔も持つ。
左から、アートディレクターの目黒水海氏、代表の福島氏
左から、アートディレクターの目黒水海氏、代表の福島氏
小尾氏「最近ようやく建築の仕事が落ち着いて、本格的にANCRにジョインしました。学生だと友人や知り合いベースでの仕事しかありませんが、法人化後のANCRは企業やビジネスパーソンを相手にいろんな条件下で仕事をするので学びも深く面白いですね」

CFOの沼田裕輝氏は東京大学経済学部の3年生でありながら、医療のサービスデザイン会社でCOOも務め、2019年7月には福島氏らと組み、デザインコンサルファーム「PARC(パルク)」を設立、つまり3社の起業、運営に携わっている。
左からCFOの沼田氏、CDOの小尾氏
左からCFOの沼田氏、CDOの小尾氏
代表の福島氏は22歳、沼田氏は21歳。最年長でCOOの溝端友輔氏は27歳。みな学生のうちから仕事を始め、かつそれぞれANCR以外でも仕事を請け負っている。このフレキシブルさが、彼らの行動領域を広げているのだろう。溝端氏によれば、そのことがクライアントファーストを実現しやすくしているのだという。「一つの企業だけに属するとその企業理念に合った仕事しかできなくなる。ANCRの理念に合う企業にはANCRとして仕事を受け、そうではない企業は個人や別の所属している企業でやる。学生、経営者、社員、個人事業主、アーティストという多面性を持つ僕らだからできるのかもしれません」と溝端氏は話す。

会社という概念のアップデート

さらに驚くべきことに、代表の福島氏は大学卒業後に就職を予定しているのだという。「内定を獲得したフルフレックス制の会社で働きながら、ANCRでは経験できないビジネススキルを学び、ANCRに還元して会社をさらに成長させたいんです。もちろんそのことも会社に話しています」

このように、働き方としても“常識への挑戦”をしているANCRのメンバーではあるが、全員が複数の領域に足を踏み入れて働くのは非常にタフなことだろう。相当忙しいのではないか、という単純な疑問も浮かぶ。この4月からANCRにジョインしたアートディレクタ―の目黒水海氏は「会社の仲間は友人でもあり、クライアントが友人になることもあります。なので食事をしていてもオンかオフなのか明確に区別するのは難しい」と話す。
分け隔てないコミュニケーションが新しいワークスタイルを生む
分け隔てないコミュニケーションが新しいワークスタイルを生む
働き方の多様化にともない、テレワークの導入が進みつつある昨今。ANCRでも出社義務のないフルリモート制を採用している。しかし、テレワークには勤務内容や評価制度などまだまだ課題が多いのも事実で、彼らはどのように管理しているのだろうか。「管理する必要はないですよ。集まれるときに集まればいい。なぜならお互いに友人として敬意と愛情を抱いていて、仕事に対するモチベーションを共有しているからです。好きな友人と好きな仕事をしていて、サボるなんて発想はないですね」と福島氏は語る。

チームが「仲間」であることはスタートアップ企業にはよくあることかもしれないが、ANCRは全員がフリーランスでの経験・肩書を持ち、自身の専門性を極めていることで、案件ごとに一人一人がリーダーシップを発揮できる場が確立されている。全員が先頭を切れる環境が、ビジネスにおける創造力を拡張しているのではないだろうか。彼らを見ていると、「会社」の概念自体がアップデートされつつあると感じる。

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