コンセプトは「職人に弟子入り」できる宿
日本一の木彫りの町として知られる富山県南砺市の井波地区は、この地を象徴する浄土真宗の名刹・瑞泉寺の歴史と共に木彫刻が発展してきた。人口わずか8,000人の町には200人を超える彫刻師と彫刻家が暮らし、制作活動を行っている。2018年には、「木彫刻のまち・井波」の歴史的魅力を語るストーリー『宮大工の鑿(のみ)一丁から生まれた木彫刻美術館・井波』が、日本遺産に認定された。
この町で「職人に弟子入りできる宿」をコンセプトに、ユニークな宿泊施設を運営しているのが、株式会社コラレアルチザンジャパン代表取締役で建築家の山川智嗣氏だ。山川氏は中国・上海の設計事務所で研鑽を積み、2015年に帰国。モノづくりの現場が好きで、職人のいる町で暮らしたい、という思いから辿り着いたのがこの井波だった。
「それまで仕事をしていた中国では、現場で職人と一緒にゼロからイチを作ることが多かったんです。それに比べて東京はマーケットが成熟していて、すべてが出来上がってしまっているように感じました。富山に帰省したときに訪れた井波は職人が近くにいて、とても魅力的に映りました」
この町で「職人に弟子入りできる宿」をコンセプトに、ユニークな宿泊施設を運営しているのが、株式会社コラレアルチザンジャパン代表取締役で建築家の山川智嗣氏だ。山川氏は中国・上海の設計事務所で研鑽を積み、2015年に帰国。モノづくりの現場が好きで、職人のいる町で暮らしたい、という思いから辿り着いたのがこの井波だった。
「それまで仕事をしていた中国では、現場で職人と一緒にゼロからイチを作ることが多かったんです。それに比べて東京はマーケットが成熟していて、すべてが出来上がってしまっているように感じました。富山に帰省したときに訪れた井波は職人が近くにいて、とても魅力的に映りました」

地元の若手職人の素晴らしさを知ってもらうプラットフォームを作りたい
工芸体験と宿泊を結びつけるというアイデアは木彫刻家、田中孝明氏との出会いがきっかけとなり、大きく前進していく。
「井波には若く素晴らしい職人がいる、ということに衝撃を受けました。宿を使って海外の人にもその存在を知ってもらいたい。そのプラットフォームを作りたいと思いました。そこで、職人に弟子入りできる宿はできないか、と田中さんに相談したのがBED AND CRAFTのはじまりです」
「井波には若く素晴らしい職人がいる、ということに衝撃を受けました。宿を使って海外の人にもその存在を知ってもらいたい。そのプラットフォームを作りたいと思いました。そこで、職人に弟子入りできる宿はできないか、と田中さんに相談したのがBED AND CRAFTのはじまりです」

これまでに「TATEGU-YA」、「TAЁ」の2軒の宿泊施設を手掛け、宿泊人数は3年間で1,000名を達成。その半数以上が外国人客というから驚きだ。
「本当に来て欲しい人に来てもらいたいので、広告はほとんど打っていませんし、地元のフリーペーパーや雑誌への掲載はお断りしているんです」と山川氏。では、そのBED AND CRAFTが外国人観光客を魅了する理由はどこにあるのだろうか?
「井波は観光地ではなく木彫刻の産業地。だから、日本の原風景が残っている土地そのものに魅力があるんです。お客様は口を揃えて、日本にこんなところがあったのか、と感動してくれています」
「本当に来て欲しい人に来てもらいたいので、広告はほとんど打っていませんし、地元のフリーペーパーや雑誌への掲載はお断りしているんです」と山川氏。では、そのBED AND CRAFTが外国人観光客を魅了する理由はどこにあるのだろうか?
「井波は観光地ではなく木彫刻の産業地。だから、日本の原風景が残っている土地そのものに魅力があるんです。お客様は口を揃えて、日本にこんなところがあったのか、と感動してくれています」

また、設立当初から導入している「マイギャラリー制度」もその魅力のひとつだ。
「宿泊施設そのものが作家専用のギャラリーのように作品を発表する場になっていて、宿泊料の一部が作品レンタル料として作家に還元される仕組みです。展示作品はもちろん購入可能で、リピーターのお客様も毎回違う作品に出会うことができます」
「宿泊施設そのものが作家専用のギャラリーのように作品を発表する場になっていて、宿泊料の一部が作品レンタル料として作家に還元される仕組みです。展示作品はもちろん購入可能で、リピーターのお客様も毎回違う作品に出会うことができます」
手仕事の美に触れるぜいたくなひととき
宿泊客は、オプションで職人の手ほどきを受けながら木彫りの豆皿やスプーンなどを作る工芸体験に参加が可能。これもBED AND CRAFTならではの特長だ。
「工芸体験は持続可能な価格として、最初は6000円で設定していました。日本人客には高すぎると、その価値がなかなか理解してもらえなかった。でも、外国人客にとっては3時間も職人を拘束してものづくりができる経験はとてもぜいたくで、安すぎると。正反対の反応でしたね。10,000円に価格を改定した結果、海外のお客様がほとんどになりました。でも、それでいいと思いましたし、職人の意識も変わりましたね。一生懸命、英語で話そうと努力したり、新たな出会いが作風に少し影響しているように思います」と山川氏は語る。
「TenNE」の内装デザインをプロデュースした仏師・石原良定氏の工房では、豆皿を作る工芸ワークショップを開催。定員は2名〜5名までで事前予約が必要だ。彫刻刀やノミを使用するため、10歳以上を対象にしている。蓮の花や六角形、ひし形など、数種類の木材から1枚をセレクト。石原氏の指導を受けながら、約3時間でオリジナルの木の豆皿が完成する。
「工芸体験は持続可能な価格として、最初は6000円で設定していました。日本人客には高すぎると、その価値がなかなか理解してもらえなかった。でも、外国人客にとっては3時間も職人を拘束してものづくりができる経験はとてもぜいたくで、安すぎると。正反対の反応でしたね。10,000円に価格を改定した結果、海外のお客様がほとんどになりました。でも、それでいいと思いましたし、職人の意識も変わりましたね。一生懸命、英語で話そうと努力したり、新たな出会いが作風に少し影響しているように思います」と山川氏は語る。
「TenNE」の内装デザインをプロデュースした仏師・石原良定氏の工房では、豆皿を作る工芸ワークショップを開催。定員は2名〜5名までで事前予約が必要だ。彫刻刀やノミを使用するため、10歳以上を対象にしている。蓮の花や六角形、ひし形など、数種類の木材から1枚をセレクト。石原氏の指導を受けながら、約3時間でオリジナルの木の豆皿が完成する。

「お客様のほとんどが木彫刻をやったことがない人ばかり。家族連れや女性二人、外国人の方も多いですね」。大きな仏像作品も手がける石原氏の腕はたくましく、一見強そうな印象だが、ワークショップがはじまると、優しい口調でひとつひとつ丁寧に教えてくれる。

「丸刀で表面を削って深さを出したり、裏面はノミを木槌で叩いて削ったり。ふだんできない体験ができるのがとても楽しいと、喜んでいただいています」
自らの工芸体験を通してモノづくりへの理解が深まり、職人技のすごさを改めて実感する。熟練した職人と密に話をしながら、一対一の関係を築いていくことが伝統工芸の新たな価値を生み出しているのだ。
このような理由で、BED AND CRAFTの魅力にいち早く気付いたのは、映画監督やインテリアデザイナーなど、クリエイティブな仕事に携わる外国人客だった。
「外国人客の方々が、この町にすごくインスピレーションを受けた、とレビューサイトで発信してくれました。それを見て次のお客様へとつながっていきました。宿の動画を撮影し、YouTubeで発信してくれた映像作家もいます」
このような理由で、BED AND CRAFTの魅力にいち早く気付いたのは、映画監督やインテリアデザイナーなど、クリエイティブな仕事に携わる外国人客だった。
「外国人客の方々が、この町にすごくインスピレーションを受けた、とレビューサイトで発信してくれました。それを見て次のお客様へとつながっていきました。宿の動画を撮影し、YouTubeで発信してくれた映像作家もいます」
地域の人に楽しんでもらうためには何が必要か
宿泊客が自ら町を散策できるようにと、3年前に山川氏が製作したスマートフォン用アプリは、地元の人とのコミュニケーションツールとしても役立っている。
「レストランへの地図やメニュー、情報など、自分たちが体験して納得した情報だけをアプリに落とし込みました。今では地元の人たちもダウンロードしてくれて、外国人客と見せ合って会話できるようになりました。完璧な英語を話さなくても、少し話そうとするだけで喜んでもらえると、彼らの意識が自然に変わっていったようです」
また、ラウンジの奥にある「nomiカフェ」は、地域の人たちの集いの場として重宝されている。「ありがたいことに、カフェは地元率がとても高いです。いつもすっぴんでふだん着のおばちゃんたちがちょっとお洒落して来てくれるのが可愛らしくて。16席ありますが、昼も夜もいつも満席ですよ」。
「レストランへの地図やメニュー、情報など、自分たちが体験して納得した情報だけをアプリに落とし込みました。今では地元の人たちもダウンロードしてくれて、外国人客と見せ合って会話できるようになりました。完璧な英語を話さなくても、少し話そうとするだけで喜んでもらえると、彼らの意識が自然に変わっていったようです」
また、ラウンジの奥にある「nomiカフェ」は、地域の人たちの集いの場として重宝されている。「ありがたいことに、カフェは地元率がとても高いです。いつもすっぴんでふだん着のおばちゃんたちがちょっとお洒落して来てくれるのが可愛らしくて。16席ありますが、昼も夜もいつも満席ですよ」。
町のスケールに合った進化を遂げていきたい
これまでの山川氏の活動に賛同し、井波という町に魅了された新たなスポンサーが現れた。この秋、新たに加わった3つの宿「KIN-NAKA」「MITU」「TenNE」のプロデュースを後押ししたのが、共同経営者である沖縄ツーリスト株式会社の代表取締役会長、東良和氏だ。
かつて料亭だった古民家は、3つの個性が光る宿泊施設として生まれ変わった。木彫家・前川大地氏が「KIN-NAKA」、陶芸家・前川わと氏が「MITU」、仏師・石原氏が「TenNE」と、地元で活躍する3人の工芸作家がそれぞれの空間の内装監修と作品展示を担当し、山川氏が総合プロデュースした。
かつて料亭だった古民家は、3つの個性が光る宿泊施設として生まれ変わった。木彫家・前川大地氏が「KIN-NAKA」、陶芸家・前川わと氏が「MITU」、仏師・石原氏が「TenNE」と、地元で活躍する3人の工芸作家がそれぞれの空間の内装監修と作品展示を担当し、山川氏が総合プロデュースした。
外国人客の長期滞在が増えたことで、すべての宿にキッチンとバスを完備。これまでの経験を踏まえ、特に防音に配慮した設計を心がけたという。
「これまでのスタイルは一棟貸しでしたが、この宿は大きすぎるので、縦に3分割してメゾネット式に作ることを提案しました。それぞれが独立した3つの宿ですが、真ん中にコネクティングルームを作り、同じグループであれば互いに行き来できるように工夫しました」
「これまでのスタイルは一棟貸しでしたが、この宿は大きすぎるので、縦に3分割してメゾネット式に作ることを提案しました。それぞれが独立した3つの宿ですが、真ん中にコネクティングルームを作り、同じグループであれば互いに行き来できるように工夫しました」
快進撃を続ける山川氏に、今後の展望を聞いてみた。
「僕たちはまちづくりをしているという感覚はまったくないんです。純粋に、町の人が健やかに楽しく過ごしていくには何が必要か?それを仲間と話し合って、ひとつひとつ作り上げていくのが楽しい」
地域に寄り添うことで土着性を高め、旅の価値を高める。井波の伝統に触れ、町や人の印象が余韻となって心に刻まれる。
https://bedandcraft.com/
「僕たちはまちづくりをしているという感覚はまったくないんです。純粋に、町の人が健やかに楽しく過ごしていくには何が必要か?それを仲間と話し合って、ひとつひとつ作り上げていくのが楽しい」
地域に寄り添うことで土着性を高め、旅の価値を高める。井波の伝統に触れ、町や人の印象が余韻となって心に刻まれる。
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