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東京2020オリンピックマラソン日本代表内定
服部勇馬選手 1年延期となった本番への胸中を語る

2020.06.05 FRI
東京2020オリンピックマラソン日本代表内定 服部勇馬選手 1年延期となった本番への胸中を語る

2019年9月のMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)で東京2020マラソン日本代表に内定した服部勇馬選手。3月のある日、自らが所属するトヨタ自動車・レクサス田原工場でインタビューが実現した。その後、東京2020オリンピックの延期が正式に決定し、代表内定が維持されることになったのをうけ、再取材にも答えてくれた。競技に向き合うアスリートとして、レクサス生産工場の従業員として、服部選手の今に迫る。

Text by Kazuhiro Nanyo
Photographs by Atsuki Kawano

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レクサスRCを愛する実業団ランナー

箱根駅伝での活躍を通じて、大学陸上を代表するランナーとなった服部勇馬選手。プロランナーの選択肢もあったはずだが、あえて実業団ランナーとしてトヨタ自動車とレクサス生産工場の一員として、陸上以外の時間も自らに課す道を選んだ。東京2020オリンピックマラソン日本代表の座を手にした今も、田原工場工務部の一員として日々の勤務をこなす。

「仕事は、従業員研修の事前準備、研修修了後の受講者アンケート集計やフィードバックなど、運営に関わることを担当しています」
服部選手が籍を置く田原工場工務部で“チャンピオンカー”と呼ばれたレクサスRC Fとともに
服部選手が籍を置く田原工場工務部で“チャンピオンカー”と呼ばれたレクサスRC Fとともに
普段のトレーニングは、朝6時から始めて始業前に15㎞ほど走る。日中は仕事に従事し、夕方からは再びトレーニング。1日30㎞ほど、月間900~1000㎞ほど走り込む。愛車は、まだ乗り始めて半年のレクサス「RC300h」だ。

「RCを選んだのは、田原工場で生産しているモデルという点が大きいですね。私の所属している工務部では当時“チャンピオンカー”と呼ばれて、手掛ける車種の中でも花形の存在が「RC F」だったんです。カッコいいなぁ、自分が乗るならRCだなぁ、と思って。シンプルに、カッコよさと速さに惹かれました」

「田原工場で身近に感じたのはもちろんですが、レクサスのモノづくりやディテールに対するこだわり、一台の車として出来上がってくるまでのストーリーを知ったからこそ、こういう車に乗りたいと確信しました」

運転も「かなり好き」だが、絶対的な速さを求めるより、むしろ燃費を気にするという。
ドライバーズシートに収まると車好きとしての側面をのぞかせる
ドライバーズシートに収まると車好きとしての側面をのぞかせる
「自分でステアリングを握る時は、速さより効率の良さ、エフィシェンシーを求めます。どうすれば自分の運転で燃費がよくなるか? そこはランニングエコノミーと同じで、強く意識してしまうところですね(笑)」

以前乗っていたプリウスは燃費が優れていたので、RCに乗り替えてからも車をキレイに運転し、燃費がよく走らせることを意識するようになったという。

では、マラソンを走っている際に自らの体を操るように、車と対話している感覚はあるのだろうか?

「車も僕も……走るものですね(笑)。大事に、キレイに走らせたい、というのはあります。どちらも自分の体として、同じように大切にしていることは確かです」

けがと壁を打ち破って代表に

2019年9月のMGCで東京2020オリンピックマラソン日本代表に内定したとはいえ、そこに至る道のりは平坦ではなかった。箱根駅伝をはじめ大学陸上での輝かしいキャリアを引っ提げてマラソンに転向したものの、デビューレースとなるはずだった2015年の東京マラソンは右足首を痛めて欠場。翌年のフルマラソン初挑戦では、35㎞地点まで日本人トップを走りながら、終盤で失速するという辛い経験をした。

「当時はトラックやハーフのタイムを伸ばして、スピードを突き詰める方向で練習をしていて、疲労骨折などの故障を経験しました。初マラソンの時は、35km付近までは3分/kmのペースを維持したけれど、ラスト7km強で1kmあたり7秒以上、遅れてしまいました。42.195km、約2時間10分をしっかり走り切る力がなかったんです」

マラソンの終盤で、これまでにない疲労や失速に襲われるのは、ランナーならば一度は経験したことがあるだろう。

「自分自身を過大評価したせいか、力量に対して前半のペースが速過ぎたんです。このぐらいのペースで最後までいけるはず、と。でもそこが難しいところで、練習で自信をつけて、いいイメージをもってスタートラインに立つわけですから、ついハイペースになってしまうんです」
実業団アスリートとして田原工場に勤務しながら、オリンピックでのメダル獲得を目指す
実業団アスリートとして田原工場に勤務しながら、オリンピックでのメダル獲得を目指す
長らく陸上長距離のトップランナーでいながら、サラリと過去の自分を省みる謙虚さと、その背後にある自信がうかがえる。それゆえ、練習の質へのこだわりは、やはり常人離れしていた。

「約2時間10分、体を動かし続けるトレーニングに着手しましたが、ただ時間を費やすようなアプローチでは練習効果が期待できない。ジョグとレースでの走り方を、できるだけ統一する意識で臨みました」

今でこそマラソンの土台作りの重要さを知ったという服部選手だが、それは単に体幹や筋力の強化を指しているのではない。

「練習の70~80パーセントを割くほどジョグを重視しました。基本動作やフォームを体に覚えさせ、35kmまではこう動かす、ラスト7kmはこう動かすというイメージを作り上げ、その結果、本番でも同じ感覚で走ることができるようになりました」

フルマラソンで初優勝し、自己ベストの2時間7分27秒を記録した福岡国際マラソンでは、5㎞ごとのラップタイムはほぼ15分、終盤の35-40㎞区間では14分40秒ものハイペースで刻んだ。オリンピック本番さながらの暑いレースとなった昨年のMGCでは、ラスト数百メートルで大迫傑選手を抜き去り、代表2枠目を勝ち取った。安定感を身につけたと同時に、レース終盤の追い込みを自らの強みにしたのだ。
  • 意外にも練習ではゆったりとしたペースでのジョグを重視。体の使い方をイメージしながら走るという
  • 練習はクロスカントリーロードと呼ばれる木のチップを埋め込んだ1kmの周回路や一般道路で月間900〜1,000km走り込む
ペースメーカーのいないオリンピック本番では、記録を更新するような“速いレース”より、サバイバル的な展開を制する“強いレース”が求められるだろう。自分でレースを組み立てて、35㎞付近から先でギアを上げる感覚について聞いた。

「ギアを上げるというより、そのままのリズムで出力を上げて、自分の体が使ってほしいところを使う感覚ですね」

だが同じペースでフォームが保ちづらくなって、例えば重心が下がってきた時、どのように出力を上げるのだろうか?

「僕の場合、ハムストリングという裏腿部分の筋肉を、疲労していても、あえてもう一度使います。体にここを使わなきゃいけないと思わせることで、スピードが保てるんです。上半身ですか? 上半身は固まったら終わりなので、上下の連動も、腕の振りも、レース中はずっと柔軟に続けることを心がけます」

ちなみに今、練習で心がけていることは、「脚の上げ下げをなるべく真っ直ぐ、進行方向に対してブレないように動かすこと。筋トレで鍛えるというよりは、股関節の使い方を意識するという感じです」とのこと。それは車でいう直進安定性ですね、と応えると、服部選手は笑った。

一人で走っているわけではない

「マラソンは大体3ヵ月かけて準備するのですが、妥協せずにやってきたんだから大丈夫だという思いが、最後の最後に競り合いになった時にこみ上げてくるんです。だから、普段から妥協してはいけないし、日頃の練習や行動の一つ一つが最後に線となってつながる。いい意味でも悪い意味でもつながってくるので、日々の取り組み方は大事だと思っています」

練習以外での行動やルーティンについてはどうなのか、具体的に聞いた。

「例えば食事は、中身やカロリーの話ではなく、残さずにいただく。罪悪感のようなもの、マイナス要素を後に残さないためです」
「"頑張ってね"と気軽に声をかけてくれる同僚たちの期待に応えたくて、自分もまた頑張れるんです」
「"頑張ってね"と気軽に声をかけてくれる同僚たちの期待に応えたくて、自分もまた頑張れるんです」
普段の昼食は、同僚と社員食堂で食べている。入社以来ずっと勤務する田原工場の、モノづくりの現場ゆえの大家族的な雰囲気が、気に入っているという。

「自分も含め、従業員全員の距離が近いんです。“頑張ってね”とか、気軽に声をかけてくれますし、そうした期待に応えたくて自分もまた頑張れる。だから、一人で走っている感覚では、全然ないんです」

けがで走れなかった時期があったからこそ、「工場のいろいろな人が“大丈夫か?”“調子はどう?”と、気軽に声をかけてくれた。結果が出ない間も近くで見守ってくれた人たちを、大事にしたい、そういう気持ちがあります」

自分やライバルに打ち勝つためだけでなく、何を糧に走っているか、深く理解しているアスリート。それこそがレクサスを駆りながら、そこで成長し続ける実業団ランナー、服部勇馬選手の「らしさ」なのだ。

“より強く、より速く”のために最善を尽くす

このインタビューの後、東京2020オリンピックが1年延期されることが正式にアナウンスされた。再度、服部選手に現在の心境を聞いたところ、予想に反して、彼は落ち着いていた。

「こうしたかたちで延期が決まって感じたことは、やはり走ることに向き合える日常や環境が、当たり前に与えられたものではないこと。それらを用意してくれる人たちや会社、地域への感謝の念を新たにしました」

同時に、この1年間を無駄にしたくない、モチベーションが下がるとかそういった変化はまったくない、と言う。

「マラソンのことだけいえば、練習できる期間が増えた分、これまで以上にスピードへのアプローチ、高速に対応する余裕を追求したい。2時間5分を目指す取り組みですね」

ただ競技大会が開催できない今、一つだけ気になることはある。

「対相手との競り合いを考えると、試合勘や判断力が鈍らないか、心配ですね。こればかりは、調整試合などを重ねて積むところですから」

それでも置かれた条件は誰もが同じ、そう前置きしながら服部勇馬選手はこう続ける。

「“より強く、より速く”のために、今の状況の中で最善を尽くすことは、延期されたからといって変わるわけじゃないです」

ブレずに前を向き続けること、確かにそれはマラソンだけの話ではないのだ。
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