CAR

選ばれし匠によるレクサスのモノづくり
その真髄に触れるべく田原工場に訪ねた

2020.05.11 MON
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選ばれし匠によるレクサスのモノづくり
その真髄に触れるべく田原工場に訪ねた

2020.05.11 MON
選ばれし匠によるレクサスのモノづくり その真髄に触れるべく田原工場に訪ねた
選ばれし匠によるレクサスのモノづくり その真髄に触れるべく田原工場に訪ねた

レクサスというクルマのクオリティは、コンセプトやデザイン、開発の工程と同様に、モノづくりの現場である工場の仕事によって決定づけられる。レクサスの各モデルも、量産車である以上、工場で自動的に大量生産されるかと思いきや、必ずしもそうではない。レクサスというハイエンドなプロダクトは、人の手が大きな役割を担っているのだ。匠の技とノウハウが継承される現場を目撃すべく、愛知県田原市にある田原工場を訪ねた。

Text by Kazuhiro Nanyo
Photographs by Atsuki Kawano

大量生産というイメージをいい意味で裏切られた

レクサスの生産拠点の一つである田原工場では、フラッグシップモデルの「LS」をはじめ、「RC」に「RC F」「IS」といったスポーツモデル、さらにSUVクロスオーバーでは「NX」に加え「GX」という輸出モデルを生産している。
愛知県田原市にある田原工場。東京ドーム80個分の広さを誇り、年間約30万台が生産されている
愛知県田原市にある田原工場。東京ドーム80個分の広さを誇り、年間約30万台が生産されている
デザインや車両開発などの段階を終え、生産へのゴーサインが出されたニューモデルを、プリプロダクションという試作段階を経て、可能な限り設計に忠実に量産する。生産ロボットによる自動化が進んだラインの流れ作業によって、効率よく大量生産されている一方で、選ばれし匠の技とノウハウが大きな役割を担っているのだ。

ところで、今回訪れた田原工場内の生産ラインは、大きく7つの部門に分かれている。プレス、ボデー、塗装、成形、エンジン、組立、検査という7つの部門には、各工程を責任者としてまとめる「工長」と、改善や特命業務に携わるチーフエキスパート(以下「CX」という)がいる。
エンジン部門でCXを務める後藤 実氏。いわば“機械操作の職人”だ
検査部門の工長である菅沼 克章氏。“検査の職人”を自認する
プレス部門で工長を務める飯田 貴紳氏。自らを“金型職人”だという
塗装部門でCXの元村 和範氏。“手吹き職人”であり、“人財育成の職人”でもあると語る
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田原工場の従業員約8,000人のうち、レクサス匠技能認定制度で頂点を極めたレクサス技能師は僅か9人のみである。

彼らの案内によって目にした、各部門それぞれの工程の仕事内容とは、自動化と最新のオートメーション化が進んだ、大量生産の現場である工場、というステレオタイプなイメージとは程遠いものだった。
エントランスロビーにはレクサスLSやRC Fなど、田原工場で造られるモデルが展示されている
エントランスロビーにはレクサスLSやRC Fなど、田原工場で造られるモデルが展示されている

限りなく大きい0.5mmの差

「工場はそもそも、夏に伸びるんです。これはレクサス工場に限らず、他メーカーさんも多かれ少なかれ直面している課題です」と、車体部の夏目敏弘工長は述べた。“工場が伸びる”つまり、暑い夏に熱膨張で鉄道のレールにゆがみが出るのと同様に、建物の梁(はり)が伸びるというのだ。すると、工作機械やブース類など生産オペレーションを行う基準を確認するため、梁にぶら下げられた分銅が、ほんの数mm動くのだそうだ。工作機械類は工場内で正確な位置に設置されてはいるが、実は自然環境という要素の前では、厳密に固定するのが難しいのだ。
ボデー部門の夏目 敏弘 工長
ボデー部門の夏目 敏弘 工長
「それらをコントロールしながら、機械を操り、正確な寸法で打ち抜かれたボデーパネルを組み付けていくのです。最終的な公差を最小限に追い込むのがレクサスの基準です。一般的な工場と比べ、0.5mmほど違います」

たった0.5mmの差のようだが、それを実現するためには、まったくアプローチが違うという。例えば、公差によりネジ穴が真円でなく楕円になれば正確な寸法は出ない。すると、合わせ目など見た目の質感に差が生じるのはもちろん、サスペンションの取り付け位置など、高速域でのパフォーマンスにも直結しかねないのだ。
手のひらの感覚を研ぎ澄まし、ボデーの合わせ目やエッジのラインをチェックする
手のひらの感覚を研ぎ澄まし、ボデーの合わせ目やエッジのラインをチェックする
「最近では、LSのドアやボンネットはアルミパネルなので、後から修正が効かないですからね」

アルミ製のエンジンブロックやサスペンション・ストラット部を製造するエンジン製造部の原 伸行工長も同様のことを語る。

「金型に離型剤を吹きかけ、そこに溶かしたアルミを流し込むのですが、機械で造るとはいえ一つとして同じパーツはありません。それを公差の中に収めるのは人間の仕事なのです」
エンジン部門の原 伸行 工長
エンジン部門の原 伸行 工長

最後の決め手は人間の手と目

公差とは、量産において一つひとつのプロダクトの個体差を、どのくらいまで許容できるのかを示す指標だ。例えば、これを最小化するためにボデー部門の技能者は、手のひらの感覚を鍛えるべく、朝夕、生産ラインに入る前と出た後に「手感チェック」を行っている。ボデーの段差や、すき間について、目測や指先の感触で確かめた値を記入し、その後、計測機器により答え合わせをする。数ミクロンの差を、目と手の感覚だけで確かめるエクササイズだ。
ボデーの段差や、すき間を手にひらで正確にチェックするため、始業前に必ず訓練用の器具で感覚を確認する
ボデーの段差や、すき間を手にひらで正確にチェックするため、始業前に必ず訓練用の器具で感覚を確認する
「生産ライン上は本番ですから、そこに立って作業する以上、失敗は許されない。だからラインの外で練習を重ねるのです」と、夏目工長は語る。

他の工程でも同じように、「専門技能道場」と呼ばれるスペースが設けられている。例えば、組立部門の専門技能道場では、規定トルクでナットを正しい位置にキチンと絞めつける、といった作業を修練することができる。

塗装部門では、バンパーの複雑なエッジや凹凸面に対し、できるだけ直角に吹き付けて均一に塗料がのるよう練習する。もちろん吹付塗装の作業自体はロボットアームにとって替わられているが、肝心のロボットアームが再現すべき元の動きは、人間が手で行うしかないからだ。
4層で構成された塗装面の上から2層目のクリアを水砥ぎするロボット。匠の繊細な手の動きを再現している
4層で構成された塗装面の上から2層目のクリアを水砥ぎするロボット。匠の繊細な手の動きを再現している
「AIがボデー形状をスキャンして、どう研いでいくかを判断するなんて、まだ先の話です。複雑なボデー面を2~3ミクロンの範囲で均等に研磨するには、押す圧や手首の柔らかい動きまで、正確に人間の動きをコピーできないと再現は不可能です」

塗装部門の田中修CXもそう語る。レクサスの奥行きある艶めいたボデーの質感は、4層で構成された塗装面の、上から2層目の第1クリアを水砥ぎすることで実現する。これは、一般的な車には施されない工程だ。
塗装部門の田中 修CX
塗装部門の田中 修CX
田原工場の各工程には、ロボットアームなどの機械設備が自動化されているが、それは人間の手・匠の技を繰り返し再現しているに過ぎない。人間の手ができない動きは、ロボットにもできないのだ。そして、ロボットの自動化による仕事の出来・不出来は、人間の目や手で確かめるしかない。そこを見逃すと、数ミクロン単位とはいえ摩耗やズレによって、レクサスゆえの極めて厳しい公差におさめることが不可能になる。
塗装にムラがないかドアの裏側までチェックする
塗装にムラがないかドアの裏側までチェックする
「エンジンのクランクシャフトのジャーナルピン(ピストンやエンジンの軸につながる箇所)にバリ(加工時に生じる不要な突起)があると、高回転の負荷によってエンジンが焼きつく可能性がありますからね」

エンジン部門の坂本裕二工長はそう語りながら、自ら内視鏡をV6ユニットに差し込んで、内部の状態を確かめた。

ボデーにしろ、エンジンのような摩擦と摺動のある機械部分にしろ、極めて高い精度や小さい公差を実現しているがゆえに、レクサスならではの質感や精緻感が得られているのだ。
エンジン部門の坂本 裕二 工長
エンジン部門の坂本 裕二 工長
内視鏡でエンジン内部の仕上がりをチェックする坂本工長
内視鏡でエンジン内部の仕上がりをチェックする坂本工長

匠の技は用いるだけでなく伝えてこそ本物

レクサス技能師は、異口同音にこうも語る。

「実際に作業するとなると若手メンバーには負けます。我々も昔とった杵柄で、何日か練習してラインに立てば、感覚を取り戻せるとは思いますけど、技を競うのではなく“人財”を育成するのが、我々の重要な役割の一つですから」

つまり、工長やCXは、プレーヤーではなく、コーチや監督として現場に立っている。あるいは伝統芸能の名跡のように、次の世代に自らの匠の技を伝えることが、彼らの仕事の大きな部分を占めるのだ。だからこそ彼らは“人材”ではなく“人財”と呼び、育成や研修に大きな時間を割く。
ガラスルーフの取り付け。ボデーとガラス面がフラットにならないと風切り音や空力の乱れにつながるため細心の注意が払われる
ガラスルーフの取り付け。ボデーとガラス面がフラットにならないと風切り音や空力の乱れにつながるため細心の注意が払われる
完成車について、ボデーの塗装面の仕上げ状態を見極めるためライトを照射し確認する検査工程の技能者
完成車について、ボデーの塗装面の仕上げ状態を見極めるためライトを照射し確認する検査工程の技能者
彼ら自身、田原工場○○部門・○代目工長(またはCX)という看板を、上の世代から引き継いだ熟練の匠である。最新の自動化テクノロジーを備えた工作機械と向き合いながら、匠の技を次の世代へと伝える伝道師なのだ。彼らには、工場においてプロダクトの価値を生んでいるのは、人間であるという自負がある。

組立部門の谷野 幸雄工長は、こうも述べる。

「限られたタクトタイムの中で正確に作業を遂行して、次の工程へと渡すこと。それは一見、簡単なルーティンのようですが、“ルーティンに挑む”ことこそが生産の本質。日常や慣れに呑み込まれては、凡庸なものしか出来上がらないのです」

車でありながら、ただの車ではない。そんなレクサスのAMAZINGな側面と、その背後にあるCRAFTEDな思想は、こうして日々、育まれているのだ。
組立部門の谷野 幸雄 工長
組立部門の谷野 幸雄 工長

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