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CRAFTSMANSHIP

「中屋万年筆」──
手作りの伝統的な職人技で生み出される革新的な万年筆

2020.04.08 WED
「中屋万年筆」──手作りの伝統的な職人技で生み出される革新的な万年筆

創業100年を超える老舗メーカーにルーツを持つ「中屋万年筆」。長い歴史によって培われた職人技はさることながら、輪島の漆器職人とも協業し、工芸品のように美しい万年筆を作り出しているのが特徴だ。いち早くインターネット販売に注力し、海外で人気を博してきた同社は、伝統を受け継ぎつつ、どのように発展していくのだろうか。

Text by lefthands
Photographs by Isamu Ito(lefthands)

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1919年創業の「プラチナ万年筆」の屋号を引き継ぐ「中屋万年筆」

万年筆の高級ブランドというと、モンブランやパーカーなど、外国産のものを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、海外で注目を集める万年筆ブランドが日本にも存在する。それが「中屋万年筆」だ。

同社の万年筆は、エボナイトという伝統的な素材を使って、職人が一つひとつ手作りしている。なかには、蒔絵(まきえ)や沈金(ちんぎん)といった伝統的な漆器装飾の技術を用いて、精巧な細工を施したシリーズもあり、工芸品としての価値が高いのも特徴だ。

デザインのイメージを伝えることでオーダーメイドすることも可能なため、自分だけの一本を作ることもできる。
漆を塗ったエボナイトが美しい。ボディの長さは、長い順にロング、ポータブル、ピッコロの3種類を用意
漆を塗ったエボナイトが美しい。ボディの長さは、長い順にロング、ポータブル、ピッコロの3種類を用意
中屋万年筆の創業は1999年で、昨年20周年を迎えた。100年以上の歴史を持つブランドが多い万年筆の会社としては、新参であるかのようにみえる。

しかし、同社のルーツは、実は1919年創業の伝統を誇る日本の老舗メーカー「プラチナ万年筆」にある。プラチナ万年筆の代表である中田俊也氏が独立して立ち上げたのが中屋万年筆であり、中屋という屋号はプラチナ万年筆の前身「中屋製作所」に由来しているのだ。

海外人気のきっかけは、ネット通販と手厚い心配りにあった

長い伝統によって培われてきた技術を引き継ぐ中屋万年筆は、意外にも立ち上げ当初からインターネットでの通信販売に力を入れてきたという。

さらに、英語版のホームページを用意したことにより、いち早く海外の顧客を獲得することに成功した。国内よりも先に海外で人気を博した、いわゆる逆輸入型の展開もユニークといえるだろう。

海外で注目を浴びるようになったきっかけは、万年筆ユーザーが交流するアメリカの老舗SNS「Pentrace」に取り上げられたことだという。同社では前金制を採っているため、あるアメリカ人カリグラファーからオーダーを受けた際、顧客が不安にならないよう工程ごとに状況をメールで報告したのだそうだ。

そういった心遣いと、実際に届いた万年筆の出来栄えに非常に感銘を受けたユーザーは、美しいカリグラフィとともに、メールでのやり取りを「Pentrace」で紹介した。それを機に、アメリカを中心に海外ユーザーが一気に増えたのだそうだ。
漢字は画数が多いため、日本の万年筆はペン先が細い。この特性に引かれる海外の顧客も多いそうだ
漢字は画数が多いため、日本の万年筆はペン先が細い。この特性に引かれる海外の顧客も多いそうだ

エボナイトへのこだわり

中屋の万年筆に多く使われているエボナイトという素材は、硫黄とゴムの化合物だ。弾力があり、肌触りも独特で、何よりインクの酸に強い。そういった性質から、現在のようにプラスチック製の万年筆が一般的になる以前は、エボナイトが主な素材だった。

「中屋万年筆の事務所がある上野には、もともとプラチナ万年筆の工場があり、昔は大勢の職人たちがずらっと並んでろくろを回してエボナイトの万年筆を作っていました」と、同社のペンデザイナーである吉田紳一氏は語る。

しかし、手汗などの水分や紫外線によって変色してしまうという弱点もある。そのため、日本ではエボナイトの万年筆に漆を塗るというのが仕上げの一つとしてあった。
カリグラフィ用と超極細から超極太まで9種のペン先見本。実演販売で大勢の人が触るため変色具合が異なる
カリグラフィ用と超極細から超極太まで9種のペン先見本。実演販売で大勢の人が触るため変色具合が異なる
プラスチック製の万年筆が主流の今もなお、中屋万年筆がエボナイトを用いた手作りにこだわるのはなぜだろうか。その理由は、創業のきっかけにもなった中田俊也氏のある思いだった。
ペン先を調整する一連の工程。まず機械でペン芯を熱するペン芯に合わせてペン先を曲げるためだ
ペン先を調整する一連の工程。まず機械でペン芯を熱する。ペン芯に合わせてペン先を曲げるためだ
ルーペでペン先の開き具合と左右の段差を確認している様子
ルーペでペン先の開き具合と左右の段差を確認している様子
ペン先の開きを微調整している。それによってインクの出る量が変わる
ペン先の開きを微調整している。それによってインクの出る量が変わる
最終的に砥石で研磨して整える。ユーザーへの心配りは、職人の手作業による微細な調整にも表れている
最終的に砥石で研磨して整える。ユーザーへの心配りは、職人の手作業による微細な調整にも表れている

万年筆市場の今後に適応するためにこそ、伝統を引き継ぐ

中田氏が中屋万年筆を立ち上げた理由のひとつは、プラチナ万年筆を定年退職していく職人が培ってきた技術を継承するためだったという。彼らを招き入れ、熟練の技を発揮してもらうことにより、万年筆作りの伝統が中屋の若い世代にも受け継がれるのだ。
プラチナ万年筆出身のペンデザイナー、吉田氏
プラチナ万年筆出身のペンデザイナー、吉田氏
さらに、縮小傾向にある万年筆市場で生き残るために、手作りの伝統的な製法を採ることで付加価値を追求する必要があると感じたのも、中屋万年筆を創業した理由だ。

「今は万年筆のマーケットが縮小しており、従来のように大量生産によって部品のコストを下げるやり方では立ち行かなくなっています。そこで、少量生産でも事業が成立するよう製品に付加価値を付け、お客さまに納得してもらえるものを作ろうと考えたのです」と吉田氏。

そういった試みのなかで、中屋万年筆は輪島の職人に出会ったのだった。

挑戦的な漆器職人とのコラボレーション

まだ日本での知名度がそれほど高くなかった2002年頃、材料のエボナイト製の部品だけ販売してほしいという問い合わせが同社に届いたという。蒔絵を試してみたいという漆器職人からだった。

「蒔絵の万年筆自体は昔から各社が手掛けていて、珍しいものではありませんでした。ですが、出来上がって送られてきたものは塗りが非常に精巧で、これまで見たことのないような仕上がりでした」

それを機に、中屋万年筆は輪島の漆器職人とコラボレーションすることに。
漆塗りの様子
漆塗りの様子
「漆器職人は挑戦的な方が多く、率先して実験的なことを行っています。というのも、漆器の生産量は減少する傾向にあり、以前なら印籠のような小さいものに施していた精巧な細工が、今ではなかなか日の目をみることが少なくなっているのです」

そうした状況において、漆器職人たちは中屋の万年筆に活路を見いだしたのだ。
万年筆は筒状になっており、一度に全面を見渡せないため、いい訓練になるそうだ
万年筆は筒状になっており、一度に全面を見渡せないため、いい訓練になるそうだ
漆塗りの技術を用いた万年筆は、今では中屋万年筆の代表商品と呼ぶべき存在となっている。蒔絵や沈金だけでなく、炭粉(たんぷん)仕上げや螺鈿(らでん)などの細工が施されているものもある。
あえてツヤを出さない渋い表面仕上げが魅力の炭粉仕上げ(上)と、文字どおり宝石のような輝きを放つ螺鈿(下)
あえてツヤを出さない渋い表面仕上げが魅力の炭粉仕上げ(上)と、文字どおり宝石のような輝きを放つ螺鈿(下)
万年筆に装飾を施す際、通常であれば金をまくのだが、漆を盛り上げる炭粉という技法を用いる場合は、あえてツヤのない状態で仕上げているのが特徴だ。

一方の螺鈿とは、貝の破片をはめ込む技法だ。貝はそれぞれ光る方向が異なるため、色が散らばらないよう、一枚一枚微調整して方向をそろえながら貼りつけているのだという。

「NAKAYA FOUNTAIN PEN」の海外での実演販売

先述のとおり、中屋万年筆はインターネット通販がメインだが、文房具店や百貨店での実演販売も行っている。
細かいヒアリングのうえ、書き方の癖に合わせて調整してもらえる。ネット通販でも同様のケアを行っている
細かいヒアリングのうえ、書き方の癖に合わせて調整してもらえる。ネット通販でも同様のケアを行っている
また、海外でも一部の店舗で取り扱いがあるほか、実演販売も行なっており、同社の商品は「NAKAYA FOUNTAIN PEN」として世界中にその名を知られる。特にシンガポールでは3年に一度のペースで実演販売を開催していることもあり、愛用者が多いという。

2018年にはスイスで、そして2019年にはオランダとベルギーで、実演販売を成功させた「中屋万年筆」。海外で高い評価を受ける秘密は、日本の伝統技術を受け継ぎつつも、ただ守るだけでなく、柔軟な発想で応用する挑戦的な姿勢にあるのだろう。

中屋万年筆
https://www.nakaya.org/
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