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出版社というくくりで本を紹介する書店「POST」

2020.03.13 FRI
出版社というくくりで本を紹介する書店「POST」

東京・恵比寿の閑静な住宅街に店舗を構える書店「POST」。アート、写真、建築、デザインなどさまざまなジャンルの本を取り扱うこの書店の特徴は、出版社というくくりでセレクトし、一定期間で本を入れ替えるスタイルにある。代表の中島佑介氏に話を聞き、その魅力に迫った。

Text & Edit by lefthands
Photographs by Takao Ohta

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「新しい本のあり方に出会った」

東京・恵比寿は恵比寿ガーデンプレイスをはじめとして、さまざまな人や文化が交差する街である一方、少し歩いて駅前の喧騒から離れると、閑静な住宅街が連なるという顔も持っている。そんな恵比寿の南側に位置するエリアは、近年、高級ブランドが次々にブティックを構えるなど、感度の高い人々の注目を集める場所となっている。

この地にある書店「POST」は、アートやファッション、写真、建築、デザインなど扱うジャンルが多岐にわたり、国内外問わず多くの客がやってくる。注目すべき特徴は、本を出版社というくくりでセレクトしている点だ。2、3カ月程度で本を入れ替えており、書棚が大きく様変わりするスタイルとなっている。
本を出版社というくくりでセレクトし、2、3カ月程度で本を入れ替えており、書棚が大きく様変わりするスタイルとなっている。
また、POSTでは「Dover Street Market Ginza」をはじめとした他店舗の本のセレクトやディストリビューション、ディスプレイに至るまでを請け負っており、中島氏はさまざまな場所で、本を通した人々の交流を育んでいる。そんな氏に、コンセプトや狙いについて話を聞き、POSTの魅力に迫った。
POST代表の中島佑介氏
POST代表の中島佑介氏
書店を開くことになった経緯について尋ねたところ、もともと接客に対して関心が高かったと語る中島氏。きっかけには、中学生の頃に姉のフリーマーケットの手伝いをした経験があるという。「接客によって人の価値観に影響を与えられることに魅力を感じたんです」

やがて大学に進学し、どのような業界に進もうか考えるようになったが、ファッションやアートなど関心が多岐にわたり、ジャンルを絞ることができなかった。本を扱うことを決めたのは、実は本が好きだからという理由ではないという。

「本はさまざまなジャンルのものが出ているので、本を扱えば自分の好奇心を満たせることに気づいたんです」

それから、東京・外苑前のワタリウム美術館内にある書店「on Sundays」でアルバイトをするようになる。アンディ・ウォーホルやヨーゼフ・ボイスなど、現代アートを紹介してきた同美術館にあって、「on Sundays」も洋書を中心にエッジの効いたセレクトをしていた。特に、本自体がひとつの表現になっているアートブックに中島氏は魅せられた。「新しい本のあり方に出会った」と氏は語る。

そのなかでも、中島氏にとっての特別な一冊は、1960年代以降にドイツで開催されたアーティストブックをまとめた展覧会の図録だという。

「そこに載っているアーティストブックが、本の概念を覆すようなものばかりだったんです。オブジェのようだったり、サイズが極端に大きかったり、手で描かれたドローイングと組み合わされていたりと、自由な本のあり方を知りました」
氏にとって特別な一冊となった『Die Bücher der Künstler』
氏にとって特別な一冊となった『Die Bücher der Künstler』
そういったアーティストブックを中心に扱う書店を始めようという目標を持った氏は、大学卒業と同時に、海外に買い付けに行き、2005年に古書を扱う書店「limArt」を開くことになる。古書を扱うことにしたのは、懐古主義が理由ではなく、むしろ当時古書が新鮮だったからだという。

「コンセプチュアルアートの作家たちが、美術館とは違った発表の場として本を活用できるということに気づいたのが、1960年代の頃でした。また本にすることによって、遠く隔てたさまざまな場所に容易に自分の作品を届けることができるという利点もあります。流通させるために作られた本とは違って、表現の手段として作られた本は、規格も製本の仕方も自由で、面白いものが多いんです」

出版社というくくりによって見えてくるもの

日本では見たことのないような本を中心に扱いたいと思い、7年ほど海外で買い付けを行っていた中島氏。その際、アーティストの名前にこだわらずに、自分が本当に面白いと思ったものをセレクトするようにしていた。結果的に、自分自身の好みの作品をラインアップすることになったが、それでいいのだろうかと疑問を持つようになったと氏は語る。

自分の関心の外にあるジャンルも扱えるようにするための方法を探していた際に、転機が訪れた。Wonderwall代表のインテリアデザイナー、片山正通氏から、氏がインテリアデザインを手掛ける商業施設「代々木VILLAGE by kurkku」内で書店を開かないかと声がかかったのだ。こうして2011年に誕生した「POST」は、2013年に恵比寿に移転し、現在に至る。では、出版社というくくりで本を紹介する形式はいかにして生まれたのだろうか。

「『代々木VILLAGE by kurkku』では、配送用のコンテナを使った売り場になっていて、スペースが小さかったため、扱える本の数に限りがあったんです。そこで、一定期間で本が全部入れ替わるようにすれば面白いのではと思い立ちました」

出版社単位で取り扱いを入れ替えるというアイデアは、古書の買い付けでの経験が活きているという。「60年代のこの出版社に面白い本があるというように、出版社がキーワードになって面白い本が見つかることが多かったんです」と中島氏。

「普段、皆さんが本を買う際に、出版社は気にしないと思います。ですが、アーティストの名前で本を探すように、出版社で探すことによって、これまでとは違った本との出会いが生まれるのではないかと思ったんです」

出版社ごとに本をまとめることによって、各社の特徴が見えてくると氏は述べる。内容や本のデザインだけでなく、アーティストとの関係性や作り手としての哲学すら浮かび上がってくるというのだ。
出版社単位で取り扱いを入れ替えるというアイデアは、古書の買い付けでの経験が活きているという。

表現としての本が持つ可能性

日本と海外で大きく異なるのは、流通の際に取次を通すかどうかだと中島氏は語る。日本では基本的に、出版社が本を全国の書店に流通させるために取次を通す必要があるのに対して、ヨーロッパではそれがない。書店が責任を持って仕入れをするため、極端に大きかったり厚かったりする本や汚れやすい本といったものも流通できることから、本の多様性が担保されていると中島氏は分析する。
POSTも海外の出版社と直接取引をしており、作り手のスタンスが感じられることがメリットだという
POSTも海外の出版社と直接取引をしており、作り手のスタンスが感じられることがメリットだという
「日本でも状況は変わってきていて、特にアートブックに関しては、個人や小規模で作っている出版社は取次を通さずに直接書店と取引している場合もあります。また、ブックフェアに出展したり、オンラインショップで販売することもできるようになったので、自由度は高まっていると思います」

また、インターネットの発達によって、それまで本が担っていた何かを調べたり情報を届けたりする役割は、ネットが取って代わるようになった。結果として出版不況と呼ばれる事態になったが、出版社も紙に印刷して本にすることの意義をそれぞれ考えるようになったという。
出版不況と呼ばれる事態になったが、出版社も紙に印刷して本にすることの意義をそれぞれ考えるようになったという。
3次元的な存在だからこそできる表現を追求した本が徐々に増えてきたのは、2000年代後半だという。一般の人たちも表現としての本に関心を持つようになり、アートブックを購入するという価値観が徐々に芽生えてきたのではないかと氏は分析する。

「3次元的に物質を伴うことによって、本は記録されている情報以上の表現になり得ると思います。例えば、手に取って本を読んでいるとき、意識している以上の情報が伝わっているものです。手に当たる角が硬いかどうか、本を見たときに想像する重さよりも重いか軽いか、あるいは肌触り。そのように物質を伴うことで伝わる要素に意識を置いて作られた本は、電子書籍では代用できないはずです」

逆に、電子書籍であっても紙であっても、同じ情報しか伝わらない本は電子書籍で出版すればいいのではないかと氏は述べる。「電子書籍にするか紙の本にするか、作り手の側がしっかりと選択していかなくてはいけない時代になるのではないでしょうか」
POSTでは、接客も大事にしていると中島氏は語る。
POSTでは、接客も大事にしていると中島氏は語る。好みを聞いてお薦めの本を紹介するということはインターネットのリコメンド機能などでも可能だが、作り手の思いや情熱を伝えるのは接客というコミュニケーションを介してこそできることだからだ。訪れる人々との交流によって価値観を共有できることこそ、物質を伴う本を取り扱うPOSTが持つ魅力だ。

新しい本との出会いを体験しに、POSTを訪ねてみてはいかがだろうか。
「POST」
「POST」:
東京都渋谷区恵比寿南2-10-3
Tel. 03-3713-8670
営業時間:12:00-20:00
定休日:月曜日
http://post-books.info
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