VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

CRAFTSMANSHIP

手製本の技術を守り、人々に伝えていく「美篶堂」

2020.01.31 FRI
手製本の技術を守り、人々に伝えていく「美篶堂」

長野県伊那市にある「美篶堂(みすずどう)」は、現在では珍しい職人の手仕事で製本を行う会社だ。その技術を活かし、独創的なオリジナル商品も展開している。「本づくり学校」で技術を伝えたり、手製本に親しんでもらうために行っている事業に込めた思いを聞いた。

Text & Edit by lefthands
Photographs by Isamu Ito(lefthands)

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職人が手仕事で製本するからこそできること

日本アルプスの木曽山脈や赤石山脈を望む、長野県伊那市。諏訪湖を水源とする名流、天竜川に接するこの地には、美篶(みすず)という地域がある。文字どおり美しい地名の「みすず」は、信濃の枕詞として万葉集でもうたわれている。

そんな地に工場を構える「美篶堂」は、手製本を行っている希少な会社だ。手製本というのは、職人の手仕事でなされる製本のことで、特殊な素材やつくりの紙を用いて本を仕立てることができる。
中央アルプスと呼ばれる木曽山脈を望む緩やかな丘に美篶堂の工場がある
中央アルプスと呼ばれる木曽山脈を望む緩やかな丘に美篶堂の工場がある
一般的に、本づくりには束見本(つかみほん)と呼ばれる白紙の本文紙で製本する工程がある。実際の書籍で用いる紙で製本することにより、厚さを測ることができるのだ。この束見本のみ手作業で製本する会社は今でもあるそうだが、実際の書籍も手製本で仕立てるのはあまりないという。

そのため、特装本や、特殊な仕様の製本といった類いの依頼が全国から寄せられてくる。同社専務の上島真一氏は以下のように語る。

「美篶堂においても、裁断機やプレス機などの機械を使った工程があり、全てを手作業で行っているわけではありません。また、大量部数の場合は、外注して機械でとじることもあります。

それでも、機械で対応できる工程は機械を使って単価を下げつつ、要所で手作業を加えるので、現在主流となっている機械での製本では対応できないようなオーダーに応えることができます」
前工場長で現在は専務を務める上島真一氏
前工場長で現在は専務を務める上島真一氏
美篶堂が手製本を手がけた書籍の例としては、2018年に出版された杉本さなえ氏の『Close Your Ears / 耳をとじて』がある。東京・高円寺の絵本書店「えほんやるすばんばんするかいしゃ」から出版されたこの本は、異例のペースで重版出来(じゅうはんしゅったい)となっているという。
墨汁の墨と朱色の2色のみで描く杉本さなえ氏。2016〜2017年頃の作品27点を収録している
墨汁の墨と朱色の2色のみで描く杉本さなえ氏。2016〜2017年頃の作品27点を収録している
また2019年2月には、詩人、谷川俊太郎氏の『私たちの文字』を手がけ、話題を集めた。iPhoneやMacでおなじみの書体「ヒラギノ」をデザインした、書体設計士の鳥海修氏が、谷川氏のために仮名書体「朝靄」をつくり、それにインスピレーションを得て、谷川氏が詩を書き下ろしたという内容の詩集だ。

製本技術を活かしたクリエイティブなオリジナル商品

美篶堂は、もともと1983年に江戸川区で創業した会社だ。創業者の上島松男親方が修業していた会社の工場を借り受けるかたちで独立した。親方は手製本が主流だった時代を知る最後の世代だ。

その後、1991年に美篶の工場を増築した。東京生まれの親方だが、戦時中に疎開し育ったのが美篶のため、この地を選んだという。現在では東京の工場を閉じ、この美篶の工場で全ての作業を行っている。
1983年に江戸川区で創業。現在では東京の工場を閉じ、この美篶の工場で全ての作業を行っている。
創業以来、しばらくは印刷紙の商社や印刷会社の下請けをこなしていたが、現在、代表取締役を務めている上島明子氏が1997年に家業を継いだのが転機となったという。それまで服飾雑貨店で商品企画をしていたキャリアを活かして、オリジナル商品を開発するようになったのだ。その狙いについて、上島明子氏は以下のように語る。

「職人の技術を常に磨き続けるために、そして製本技術を人々に楽しんでもらうために、自分たちのオリジナル商品を始めました」

そんな美篶堂が展開するオリジナル商品の第1作は、グラデーションが見事なブロックメモ。同じ意匠のノートとともに、海外美術館のミュージアムショップで販売されたこともあるという。実用性以上に、オブジェとしての魅力にあふれた逸品だ。
現在展開しているのは、左の「虹色」と右の「霞」という2シリーズ
現在展開しているのは、左の「虹色」と右の「霞」という2シリーズ
そして、ブロックメモと並ぶ代表作が「アコーディオンアルバム」。経本や御朱印帳で用いられる松葉とじという技術を応用しており、本文を広げるとアコーディオンのように見える。このように蛇腹状に本を仕立てる技術は、先述した谷川氏の詩集『私たちの文字』においても用いられている。
工場長を務める小泉 翔氏
工場長を務める小泉 翔氏
アルバムに付き物の悩みとして、ポストカードや写真を大量に挟むと、膨らんで閉じられなくなってしまうということがある。「アコーディオンアルバム」は、ひもで結ぶようにしてその問題を解決しているのだ。もちろんノートとしても使えるので、使う人の自由な発想で楽しんでほしいという。
  • 大まかな工程は以下のとおり。まず二つ折りの本文紙同士を貼り合わせる。糊付けは7〜8mm幅という繊細さだ
  • 本文紙を裁断機にかける。この裁断機とプレス機が、主に美篶堂で用いられている機械だ
  • 本文紙を表紙と貼り合わせ、見返しをつくったあと、プレス機にかけて乾燥させる
  • 糊が定着したら、重しをのせて一晩おいて完成。美篶は通年湿度が程よく、本をつくるのに適しているという

手製本の魅力を人々に伝えていくために

手製本の技術を守り、伝えていくための活動として、美篶堂が行っているのが「本づくり学校」だ。神奈川県横浜市都筑区のNPO法人「五つのパン」とともに開講している。基礎科と応用科があり、各1年間のコースで、計2年で修了となる。今年で7期目を迎え、これまで100人ほどが受講したという。

基礎科では、編集やデザイン、さらには活版印刷といった本づくりの一連の工程について学ぶことができる。修了展までに自分自身の本を1冊仕立て、作品を展示することを目標にしている。応用科に進むと、より難しい製本技術を学べるだけでなく、人にレクチャーするための講師指導もカリキュラムに含まれている。今後は、インストラクターを養成するコースの開講も予定しているという。
基礎科は秋季、応用科は冬季に美篶での1泊2日の合宿があり、受講生は集中的に製本技術を学ぶことができる
基礎科は秋季、応用科は冬季に美篶での1泊2日の合宿があり、受講生は集中的に製本技術を学ぶことができる
また、美篶堂では手製本の技術を紹介する書籍をいくつか刊行しており、製本キットも販売しているので、自宅でも本づくりにチャレンジすることができる。

オリジナル商品や製本キット、そして製本を担当した書籍などはオンラインショップで販売しているほか、工場でも木・金曜日の午後と第1土曜日に直売している。第1土曜日には工場長の小泉 翔氏が製本に関しての相談も受け付けており、訪れる人と直接交流できる場となっている。SNSなどで積極的に発信しているということもあり、松本などの近隣だけでなく、東京や名古屋をはじめとして全国各地から人々が訪れるという。
  • 工場の直売スペースの様子
  • 本キットは工場だけでなくオンラインショップでも販売している
工場長の小泉氏は、美篶堂のこれからについて、以下のように思いを語ってくれた。

「工場で作業しているだけでは見えてこないことがあるので、書籍の作家や編集者の方々、お客様と積極的に交流していきたいです。そして、手作業で製本しているといってもイメージしにくいと思いますので、どのようにつくっているのかお客様に見てもらい、親しみを持っていただきたいですね」

伝統を守りつつ、その技を活かして新たな挑戦を続け、そして技術を人々に伝える美篶堂。多くの人々との交流によって、手製本の伝統は未来へと受け継がれていくことだろう。
手作業で製本している
「美篶堂」:
長野県伊那市美篶6768-2
Tel. 0265-76-7772
Fax. 0265-76-7733
商品販売:毎週木・金曜日(13:00~17:00)
商品販売・製本相談:第1土曜日(11:00~17:00)
http://www.misuzudo-b.com/index.html

「美篶堂オンラインショップ」:
http://misuzudo.shop13.makeshop.jp
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