レクサスとコスタリカの共通点
1989年1月、北米国際オートショー(通称デトロイトモーターショー)で、まったく新しいプレミアムセグメントのフルサイズセダンがデビューした。初代「LS」である。それは同時に、日本発のラグジュアリーブランド、レクサスが誕生した瞬間でもあった。
あれから今年でちょうど30年。そのアニバーサリーを祝うとともに、これまでの歩みを振り返るべく、レクサスは中米コスタリカの高級リゾート地であるパパガヨ半島を舞台に、「LEXUS MILESTONES」と題したイベントを開催。世界中からモータージャーナリストやメディアが駆けつけた。
あれから今年でちょうど30年。そのアニバーサリーを祝うとともに、これまでの歩みを振り返るべく、レクサスは中米コスタリカの高級リゾート地であるパパガヨ半島を舞台に、「LEXUS MILESTONES」と題したイベントを開催。世界中からモータージャーナリストやメディアが駆けつけた。

美しい海や深いジャングルといった、多種多様な生態系を育む豊かな自然に囲まれたコスタリカは、エコツーリズムが発展しており、レクサスの顧客層である世界各地の富裕層からも注目を集めている。なぜレクサスはこの地でブランド30周年のイベントを開催したのか。実は、コスタリカは環境保護やそのためのテクノロジー開発を推進する環境先進国であり、こうした地球環境や限りある天然資源の保護に尽力する姿勢が、同じ思いでハイブリッド・テクノロジーの先駆者となったレクサスと通じるからなのだという。
実際レクサスは、2005年に初となるハイブリッドモデル「RX 400h」を導入。以来、150万台のハイブリッド車を世に送り出してきた。現在はハイブリッドのみならず、PHV(プラグ・イン・ハイブリッド)、EV(電気自動車)、FCV(フューエルセル・ビークル)などの開発を進めており、2025年には全モデルに電動車を設定すると発表している。
実際レクサスは、2005年に初となるハイブリッドモデル「RX 400h」を導入。以来、150万台のハイブリッド車を世に送り出してきた。現在はハイブリッドのみならず、PHV(プラグ・イン・ハイブリッド)、EV(電気自動車)、FCV(フューエルセル・ビークル)などの開発を進めており、2025年には全モデルに電動車を設定すると発表している。

初代LSの新しい価値を実現させた「YETの思想」
イベントは、レクサス30年の歴史をAR(拡張現実)による映像で振り返るプレゼンテーションでスタートした。そもそも、トヨタにおいてまったく新しいラグジュアリーブランドを生み出すという構想が浮上したのは、1983年のことだった。
当時、米国における輸入自動車メーカーとしてトップシェアを誇っていた同社だが、顧客がより社会的成功をおさめた時に選択肢となるモデルをラインナップしていなかった。メルセデスやBMW、そしてキャデラックといった欧米の高級車ブランドと肩を並べるラグジュアリーカーを投入する必要性が、米国市場を中心に高まったのだ。
「我々には、今こそ、より偉大なものが必要なのです」。当時、米国トヨタ副社長兼COOであったノーマン・リーン氏は、日本の上層部に宛て、こんなメッセージを送ったという。
当時、米国における輸入自動車メーカーとしてトップシェアを誇っていた同社だが、顧客がより社会的成功をおさめた時に選択肢となるモデルをラインナップしていなかった。メルセデスやBMW、そしてキャデラックといった欧米の高級車ブランドと肩を並べるラグジュアリーカーを投入する必要性が、米国市場を中心に高まったのだ。
「我々には、今こそ、より偉大なものが必要なのです」。当時、米国トヨタ副社長兼COOであったノーマン・リーン氏は、日本の上層部に宛て、こんなメッセージを送ったという。

そうした状況を受け、ついに豊田英二社長(当時)は、「他に類を見ない世界最高の自動車を作り上げる」ことを決定。新たなるラグジュアリーカーを生み出すプロジェクトが始動した。フラッグシップの頭文字をとり“サークルF”と名づけられた同プロジェクトには、15人のチームメンバーが選出された。1984年初頭のことである。
チームを率いた鈴木一郎チーフエンジニアは、当時の高級車としては世界最高レベルともいえる技術目標を設定した。最高速度250km/h、燃費22.5mpg(マイル・パー・ガロン)、空気抵抗値0.28、そして100km/h走行時の騒音58〜59デシベル──この目標値はチームメンバーが驚愕するほど達成が困難なもので、彼らの中には実現に懐疑的な者さえいたという。
チームを率いた鈴木一郎チーフエンジニアは、当時の高級車としては世界最高レベルともいえる技術目標を設定した。最高速度250km/h、燃費22.5mpg(マイル・パー・ガロン)、空気抵抗値0.28、そして100km/h走行時の騒音58〜59デシベル──この目標値はチームメンバーが驚愕するほど達成が困難なもので、彼らの中には実現に懐疑的な者さえいたという。

開発には延べ1400人のエンジニアが携わり、450ものプロトタイプが作製され、地球100周分の距離に相当する2700万マイルを超えるロードテストが敢行された。こうした地道な開発により、鈴木チーフエンジニア自身が“とてつもなく高い”と語った目標は遂に達成され、89年に初代LSがデビューすることになった。
「我々は、レクサスがラグジュアリーカーを発明し直したことを見いだしたのです」。初代LSプロトタイプの性能試験を実施したアメリカの自動車試験会社代表はそう語ったという。初代LSの優れた静粛性と卓越した品質は、当時の基準では圧倒的なレベルに達しており、欧米の競合メーカーに衝撃を与えるほどだったのだ。
「我々は、レクサスがラグジュアリーカーを発明し直したことを見いだしたのです」。初代LSプロトタイプの性能試験を実施したアメリカの自動車試験会社代表はそう語ったという。初代LSの優れた静粛性と卓越した品質は、当時の基準では圧倒的なレベルに達しており、欧米の競合メーカーに衝撃を与えるほどだったのだ。

世界を驚かせた初代LSの新しい価値を実現させたのは、鈴木チーフエンジニアによって培われた「YETの思想」── 一見して相反する性能をともに実現させていくという考え方 ──だった。具体的には、「高速域の優れたハンドリング─快適性」「速度─燃費性能」「静粛性─軽量化」「エレガントなスタイリング─空力性能」「温かみのある内装─機能性」といった、一般的に相反すると考えられる要件を、たゆまぬ努力により両立させていくことである。この思想は、現在もレクサスの開発陣にとって、デザインや設計における指針となっているという。

「LS」「RX」「SC」など、レクサスブランドを象徴する新旧モデルが一堂に会す
LEXUS MILESTONESでは、この「LS400」をはじめ、「RX」「SC」「GS」など、レクサスブランドを象徴する旧モデルが一堂に会した。さらに「LS500」や「LC500」をはじめとする最新モデルも用意され、新旧各車の比較試乗が実施されたのだ。
初代LSが現役だったころ、筆者はまだ学生だったから、同車のステアリングを握るのは今回が初めてとなる。運転席のドアを開けドライバーズシートに収まると、まず驚くのは、やはり質感の高さだった。ドアを閉めたときのボディから伝わる音や感触、シートの座り心地、レザーをはじめとする内装の状態など、30年前の車であることが信じられないほどに高いクオリティが保たれているのだ。この優れた耐久性に、レクサスの車づくりの一端を垣間見た気がした。
エンジンをかけて走り出すと、静粛性は現在の水準に照らし合わせても十分なレベルであり、当時としては圧倒的な静けさを誇っていたことが分かる。例えば、100km/h前後で走行中に耳をこらしても、エンジンや駆動系、そして路面からのノイズが極めて低く抑えられている。乗り心地もなめらかで素晴らしい。バランスのとれた安心感のある上質なドライブフィールは、現在のレクサスの礎となっていることを感じさせるものだ。
洗練されたラグジュアリー・クロスオーバーの草分けとして1998年にデビューした初代RX300(1999年型)、レクサス初のハイブリッド車となるRX400h(2006年型)、そしてレクサスにおけるクーペモデルの草分けであるSC400(1996年型)にも試乗できた。そのいずれもが、初代LSに通じる上質感や静粛性の高さ、そして重厚な乗り味を備えていることに、深く感心させられたのだった。
伝承される初代LSのDNA
一方、最新モデルのステアリングを握ると、やはりLCの登場がレクサスにとっていかに画期的な出来事だったかを理解できる。官能的とさえ表現できる内外のデザインや、運転することの楽しさを実感させてくれる気持ちのいいパワートレーン、そして車と一体化するような感覚が得られる、すっきりとしたハンドリングなど、レクサスの車づくりが、新たなる時代を迎えたことを感じさせるのだ。
例えば、今年マイナーチェンジを受け、走りやデザインがブラッシュアップされた新型RXにも試乗したのだが、クーペとSUVというようにジャンルは違えど、同様のテイストが歴然と息づいているのだ。
「ブランドがスタートしてからの10年はアイデンティティの確立期でした。次の10年はブランドの個性を伸ばし、その次の10年はブランドとして取り組むべきことを見つけ、それに突き進みました。この直近の10年が、LCをはじめとする昨今のレクサス車に結実しています。そして今後の10年は、挑戦の時だと考えています」
「ブランドがスタートしてからの10年はアイデンティティの確立期でした。次の10年はブランドの個性を伸ばし、その次の10年はブランドとして取り組むべきことを見つけ、それに突き進みました。この直近の10年が、LCをはじめとする昨今のレクサス車に結実しています。そして今後の10年は、挑戦の時だと考えています」
レクサスの開発部門を統括するLEXUS INTERNATIONAL EXECUTIVE VICE PRESIDENTの佐藤恒治氏は、イベント会場で30年の歴史についてそう振り返った。
CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)という言葉に象徴されるように、現在、車は100年に一度といわれる変革期を迎えている。すでにレクサスも、電動化をはじめとする新たな挑戦をスタートさせている。しかし佐藤氏が、「レクサスのコアバリューは圧倒的な静粛性と、極めて優れた乗り心地、そして造りの良さです」と語るように、今後デビューするレクサス車にも、初代LSのDNAは伝承されていくことだろう。
CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)という言葉に象徴されるように、現在、車は100年に一度といわれる変革期を迎えている。すでにレクサスも、電動化をはじめとする新たな挑戦をスタートさせている。しかし佐藤氏が、「レクサスのコアバリューは圧倒的な静粛性と、極めて優れた乗り心地、そして造りの良さです」と語るように、今後デビューするレクサス車にも、初代LSのDNAは伝承されていくことだろう。