ART / DESIGN

“ジビエ革”が切り開く、サステイナブルなものづくり。下町のレザーブランド「Six coup de foudre」の挑戦

2019.12.11 WED
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“ジビエ革”が切り開く、サステイナブルなものづくり。下町のレザーブランド「Six coup de foudre」の挑戦

2019.12.11 WED
“ジビエ革”が切り開く、サステイナブルなものづくり。下町のレザーブランド「Six coup de foudre」の挑戦
“ジビエ革”が切り開く、サステイナブルなものづくり。下町のレザーブランド「Six coup de foudre」の挑戦

鹿やイノシシ、熊といった希少な野生鳥獣の皮を“ジビエ革”と名付け、サステイナブルでエシカルなレザーアイテムを生み出している「Six coup de foudre(シス クー・ド・フードル)」。国内だけでなくパリなど海外のセレクトショップでも取り扱われ、コアなファンを獲得している注目のブランドだ。ジビエ革に着目した理由や、ものづくりへのこだわり、今後の展望などを代表の高見澤篤氏に聞いた。

Text by Sachiyo Kamata
Photographs by Sachiko Horasawa(CROSSOVER)
Edit by Hitomi Miyao

廃棄されている皮を革として生まれ変わらせる。

ここ数年、日本各地の里山では野生鳥獣による農作物被害が深刻化している。狩猟による害獣駆除が進められ、外食産業を中心にジビエ料理も普及してきたが、肉をとった後の皮はどうするかというと、ほとんどが捨てられているのが現実だ。

「駆除された野生鳥獣のうち、食肉として活用されているのは20%程度。皮はその20%のうちわずか0.2%ほどしか活用されていません。残りは産業廃棄物として処分されているのが現状です。

捨てられている皮をなめして“革”として活用すれば、猟師さんの収入源になるし、サステナビリティや地域活性化の観点からも将来性があると考えています」

そう語るのは、料理人のための道具街として知られる東京・合羽橋にアトリエを構えるレザーブランド「Six coup de foudre(シス クー・ド・フードル)」代表の高見澤篤氏。ブランド名は、フランス語で“一目ぼれ”を意味するほか、単語の発音から“死す(Six)・食う(coup)・フード(foudre)”=肉を食べる際の副産物である革を大切に使うという思いも込められている。
「独学でスタートしたレザー作りでしたが、なめし工場の方に紹介してもらって縫製工場で学びました」
「独学でスタートしたレザー作りでしたが、なめし工場の方に紹介してもらって縫製工場で学びました」
スタイリストや舞台衣装制作を経て同ブランドを立ち上げた高見澤氏は、2008年から“ジビエ革”を使ったものづくりをスタート。きっかけは、知り合いの猟師が放ったあるひと言だった。

「その猟師さんからは、レザーバッグのパーツとして使う鹿の角や熊の爪を仕入れていましたが、あるとき、『皮はどうしているんですか?』と聞いたら、『捨てちゃうんだよ』と。なんとか活用できないかと思って、猟師さんから皮を買い取り、知り合いのタンナー(なめし業者)さんになめしてもらったら、とても味のあるいい革になったんです。もっとたくさんの人にこの革の存在を知ってもらいたいと思って“ジビエ革”と名付けました」

当時は“ジビエ”という言葉すら浸透していなかったが、農林水産省が害獣駆除とジビエ利用の推進に力を入れるようになると、ジビエ革の注目度もアップ。高見澤氏は北海道から九州まで、全国各地の猟師とつながりを持つようになり、さまざまな野生鳥獣の皮を仕入れるようになった。

傷痕は野生の証。命を無駄なく使い切る

「Six coup de foudre」で現在使用しているジビエ革は、イノシシ、熊、鹿、サメの4種類。猟師から仕入れた皮を環境に対し負荷の少ない植物タンニングでなめし、服やバッグ、小物など、さまざまなレザーアイテムに仕上げている。家畜と比べてジビエ革は個体差が大きく、産地や狩猟時期、剝ぎ方、なめし方によっても革の表情は異なるという。

「厳しい自然の中を生きてきたので傷もたくさんあるし、部位によっては狩猟の際の銃痕や皮を剝ぐ際についたナイフ痕も目立ちます。

最近は、肉だけでなく皮も資源になるという認識が広まってきたので、猟師さんたちも丁寧に剝いでくれるようになりましたけど、やはり避けられない傷もある。

均一性がなく扱いにくいといえばそれまでですが、生まれ育った環境が違えば表情が違うのは当然のことだし、傷痕は野生の証しでもある。欠点ではなく個性だと捉えています」
同じ動物の皮でも、生息地域によって質感が異なる。右は、皮を剝ぐ際にできたナイフ痕を生かしたもの
同じ動物の皮でも、生息地域によって質感が異なる。右は、皮を剝ぐ際にできたナイフ痕を生かしたもの
傷痕をそのまま活かしたアウトドア用の革皿やパッチワークでアクセントをつけたバッグ、ハギレを縫い合わせた小銭入れ、熊の爪をトップにあしらったペンダント……。これらの作品からは「命を無駄なく使い切る」という高見澤氏の意思が感じられる。
革をプレート状に成形した革皿や、熊の爪や毛を生かしたペンダントなど、自由な発想でものづくりに取り組む
革をプレート状に成形した革皿や、熊の爪や毛を生かしたペンダントなど、自由な発想でものづくりに取り組む
「死生観というと大げさですけど、動物の命をいただくというのはどういうことなのかを考え、そこから生まれたコンセプトをデザインに落とし込んでいます。

例えば、ハギレを縫い合わせるときは、縫い代をそれぞれ2mmずつとって、合わせて4mmになるようにしているんですが、これは“死(4)を縫い合わせて幸せになる”というコンセプトに基づいています」

背景を知ることで、ものを買うときの選択肢が増える。

2018年には、アトリエに併設してギャラリーショップ「と革」をオープンした。コンセプトは「革を通じて世の中を考える」。自身のブランドを軸に、国内外の作家や地域からサステイナブルなアイテムをセレクトし、ジビエ革のワークショップや展示会なども開催している。
合羽橋という場所をアトリエ兼ショップに選んだ理由は「料理道具の町で、ジビエ革との関連性が深いから」
合羽橋という場所をアトリエ兼ショップに選んだ理由は「料理道具の町で、ジビエ革との関連性が深いから」
「ショップでは、ジビエ革も家畜の革も分け隔てなく並べています。家畜の革も飼育方法がいろいろあるので、そういうところにも目を向けてもらいたいし、ジビエ革だから買うということではなく、一目ぼれでいいなと思ったものを買ってもらいたいんです。

ただ、お客さんには、その革がどこで生まれ育ったものなのか、どういう工程を経て出来上がったものなのか、ものづくりの背景をできる限り伝えるようにしています。傷や穴のある革にも価値があると知ることで、ものを買うときの選択肢が一つ増えたらいいなと思います」

ジビエ革を使ったものづくりをはじめて約10年。卸し先は海外30店、国内12店に増え、注文が相次ぐようになった。今後の展望について尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「昨年、仕事の傍ら養護学校で革の縫製を教えていたんです。それをきっかけに、簡単な作業を定期的にお願いするようになりました。

僕の活動やデパートでの出店などを見に来てくれて『自分たちが関わったものがこんなふうに売られているんだ!』というのがモチベーションにつながっているようで、ゆくゆくは製作も手伝ってもらいたいと思っています。

福祉というとおこがましいですが、こうした取り組みも“革を通じて世の中を考える”ことにつながるんじゃないかな、と。

ジビエ革を使ってものづくりをする作家は増えているし、猟師さんだけでなく、シェフやパーマカルチャーに携わる人たちとのつながりもできてきました。いろいろな技術やアイデア、文化が組み合わされば、ジビエ革の可能性はもっと広がっていくと思います」
極力少ない縫い代で革を縫い合わせる特殊なミシンを使うことも。革を無駄なく効率よく活用できる
極力少ない縫い代で革を縫い合わせる特殊なミシンを使うことも。革を無駄なく効率よく活用できる
極力少ない縫い代で革を縫い合わせる特殊なミシンを使うことも。革を無駄なく効率よく活用できる
森が育む命に思いをはせ、貴重な資源を無駄なく使い切る──。「Six coup de foudre」の自然の恵みを活かすものづくりは、今後もさまざまな人や土地とつながりながら、サステイナブルの未来を切り開いていくだろう。

Six coup de foudre
http://www.six-clothing.com

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