こちらの記事は音声でもお楽しみいただけます。
COLLABORATED WITH
J-WAVE 81.3FM
日本の伝統工芸をアップデートする「DESIGNING OUT」
この10月に17回目を迎えた「DINING OUT with LEXUS」。舞台となったのは石川県輪島市。能登半島の北部に位置し、江戸中期から続く漆産業が盛んな地域として知られている。今回はこの地で、地場産業や伝統工芸などのプロダクトに焦点を当てることで、地域の価値を再発見する「DESIGNING OUT Vol.2」も同時に開催された。

レクサスはこれまでにも、さまざまなかたちで伝統工芸や職人を支援する活動を行ってきた。地域から世界へ、地元の特色や技術を活かして新しいモノづくりに挑む日本の若き匠たちをサポートする「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」もその一つ。今年で3年目を迎え、コラボレーターには建築家の隈研吾氏を招聘。今回の「DESIGNING OUT Vol.2」でも隈氏はクリエイティブプロデューサーとして参画した。
輪島の伝統工芸といえば、地名にもある通り「輪島塗」が地場産業として根付いている。陶磁器を英語で「china」と呼ぶのに対し、漆器は「japan」と称する事もあるように、日本を代表する工芸品として高い評価を獲得している。漆塗りされたものは非常に耐久性が高く、丁寧に手入れをすることで100年以上その美しさと品格を保つことができるとされる。
輪島の伝統工芸といえば、地名にもある通り「輪島塗」が地場産業として根付いている。陶磁器を英語で「china」と呼ぶのに対し、漆器は「japan」と称する事もあるように、日本を代表する工芸品として高い評価を獲得している。漆塗りされたものは非常に耐久性が高く、丁寧に手入れをすることで100年以上その美しさと品格を保つことができるとされる。

輪島塗が世界的に知られる一方で、現代の伝統工芸産業が抱える課題もある。社会や消費者の価値観の変化、後継者不足など理由はさまざまではあるが、日本の伝統工芸産業の多くは衰勢の傾向にある。生産額の推移を見ると、1991年の180億円をピークに年々減少し、2018年には約38億円まで落ち込み、職人の数も半減していることから、輪島塗もその例外ではない。
輪島塗は一つの器が出来るまでに数カ月から1年程度かかるとされている。昨今のテクノロジーの進化によって効率化が求められる時代において、一見非効率ともとれる手法で作られる輪島塗の価値はどこにあるのか。国の重要無形文化財にも指定され、1000年とも言われる輪島塗の歴史を隈氏はひも解きながら、その意味を見つめ直していった。
輪島塗は一つの器が出来るまでに数カ月から1年程度かかるとされている。昨今のテクノロジーの進化によって効率化が求められる時代において、一見非効率ともとれる手法で作られる輪島塗の価値はどこにあるのか。国の重要無形文化財にも指定され、1000年とも言われる輪島塗の歴史を隈氏はひも解きながら、その意味を見つめ直していった。
手間を惜しむことなく、美を追求していく
輪島塗の魅力は何といっても、塗りの美しさにある。漆に輪島特産の珪藻土を粉末状にした「地の粉」を混ぜ合わせることで、高い強度と優美さが生まれ、朱や黒の漆をまとった器の肌は一点の淀みのない表情を見せる。
さらに欠けやすい器の縁や高台に布を貼り付ける「布着せ」を行うことでさらに強度を高めていくのだが、仕上がった器の縁が平滑であることを考えると、いかに漆が厚く重ねられていることか分かるだろう。
日常的に使用されるものの多くはシンプルなデザインに仕上げられているが、実は塗りの工程だけで36、完成までには124もの工程を経て作られているという。
さらに欠けやすい器の縁や高台に布を貼り付ける「布着せ」を行うことでさらに強度を高めていくのだが、仕上がった器の縁が平滑であることを考えると、いかに漆が厚く重ねられていることか分かるだろう。
日常的に使用されるものの多くはシンプルなデザインに仕上げられているが、実は塗りの工程だけで36、完成までには124もの工程を経て作られているという。

さらに輪島塗の特徴は工程ごとに完全な分業制になっていること。塗師屋(ぬしや)と呼ばれる漆芸プロデューサーが受注すると、まず「木地師」の職人がオーダーされたかたちに削り出していき、そこから「下地師」「研ぎ師」「上塗り師」「呂色(ろいろ)師」「蒔絵(まきえ)師」「沈金(ちんきん)師」という順で各職人へと手渡されていき、ようやく一つの器が完成する。

“過程”をデザインした6客の器
隈氏は「DESIGNING OUT Vol.2」で新たな器を作るため、2019年5月に輪島に入り漆文化を学び、職人たちの作業を見つめることで構想を練っていった。そこから度重なる調整を加えて10月に出来上がったのが6客の器だ。
隈氏が目をつけたのは、輪島塗が作られるその過程である。原木から削り出した状態の「木地の器」から始まり、強度を上げるための「布着せの器」、堅牢性を高める「下地の器」と続き、仕上げとなる「加飾の器」へと器が出来上がるまでの工程を見事に表現した。
隈氏が目をつけたのは、輪島塗が作られるその過程である。原木から削り出した状態の「木地の器」から始まり、強度を上げるための「布着せの器」、堅牢性を高める「下地の器」と続き、仕上げとなる「加飾の器」へと器が出来上がるまでの工程を見事に表現した。

通常、制作過程にある器は未完成品であり、世に出されることはない。しかし、輪島塗は全ての工程において職人たちの確かな技術と手間が惜しみなく注がれており、それによって器としての高い完成度を誇っている。隈氏は輪島塗ならではの美しさを表現するとともに、日の目を浴びにくい制作過程に着目することで、職人への強いリスペクトを作品に反映させたのだ。


今回のコーディネーターを務めた塗師屋の中室耕二郎氏も「いままでの輪島塗にはなかった視点です。たとえ思いついたとしても、これまでの文化にない表現をすることは難しいという現実もあります。しかし、今回は隈さんからの依頼だということもあり、職人たちは新たなる輪島塗の可能性に挑戦してくれました」と話す。
6客のなかでも、その真髄を感じされるのは波紋を描いた「加飾の器」だろう。丁寧に磨き込まれ、何層にも塗られた漆は吸い込まれそうなほどに奥深い漆黒の世界を見せる。そして驚くべきは、器の縁部分に光る一筋の金の環。これは沈金と呼ばれる技術を用い、掘りこんだ溝に金を流し込んだもので、職人による手彫りだという。
木地の成形も人の手によるものなので、真円ではなく若干のゆがみがある。そこに旋盤などの機械で溝を掘っていくと、波うつ山の頂点を正確に捉えることができない。一つひとつの器の特徴を感じ取りながら、寸分の狂いもなく円を掘り起こすのは人の手にしか成し得ない技巧と言える。間近で目を凝らして見ても線は揺らぐことなく、そして始点と終点のつなぎ部分も全く分からないほど美しい円を描いているのだ。
6客のなかでも、その真髄を感じされるのは波紋を描いた「加飾の器」だろう。丁寧に磨き込まれ、何層にも塗られた漆は吸い込まれそうなほどに奥深い漆黒の世界を見せる。そして驚くべきは、器の縁部分に光る一筋の金の環。これは沈金と呼ばれる技術を用い、掘りこんだ溝に金を流し込んだもので、職人による手彫りだという。
木地の成形も人の手によるものなので、真円ではなく若干のゆがみがある。そこに旋盤などの機械で溝を掘っていくと、波うつ山の頂点を正確に捉えることができない。一つひとつの器の特徴を感じ取りながら、寸分の狂いもなく円を掘り起こすのは人の手にしか成し得ない技巧と言える。間近で目を凝らして見ても線は揺らぐことなく、そして始点と終点のつなぎ部分も全く分からないほど美しい円を描いているのだ。

未来へと続く輪島塗の文化
こうしたことが可能なのは、完全分業制がとられているからに他ならない。「自分の仕事が次の職人へと渡るので、中途半端な仕事をするわけにはいきませんし、粗があった場合どの職人によるものなのか分かってしまいます。ですので、職人としての意地を見せるために長い歴史をかけて技術を高めてきたんです」と中室氏は語る。
こうして数々の手間と技術によってようやく仕上げられた器は確かな存在感を放ち、眺めているだけで職人たちのかける熱い思いを感じ取ることができる。社会が成熟し“機能を満たすモノ”が世の中にあふれる時代になったいま、本当に必要なのはこうした人の心に訴えかける“意味のあるモノ”ではないだろうか。
レクサスが提案する「CRAFTED」の思想もまた、日本の美意識を独自の視点で捉え、匠の技と最先端テクノロジーを活かして心揺さぶる体験を生み出してきた。モノの価値が問われる現代だからこそ、職人や匠たちが培ってきた技術を金額の多寡で価値付けしていくのではなく、サステイナブルな社会を形成していくための本質的な価値として未来へと伝えていかなければならない。
伝統は守られるだけでなく、時代とともに革新されるからこそ文化として残り続け、次代へと引き継がれていく。隈氏による器が輪島塗の歴史を更新し、新たなステージへと導いていくに違いない。
こうして数々の手間と技術によってようやく仕上げられた器は確かな存在感を放ち、眺めているだけで職人たちのかける熱い思いを感じ取ることができる。社会が成熟し“機能を満たすモノ”が世の中にあふれる時代になったいま、本当に必要なのはこうした人の心に訴えかける“意味のあるモノ”ではないだろうか。
レクサスが提案する「CRAFTED」の思想もまた、日本の美意識を独自の視点で捉え、匠の技と最先端テクノロジーを活かして心揺さぶる体験を生み出してきた。モノの価値が問われる現代だからこそ、職人や匠たちが培ってきた技術を金額の多寡で価値付けしていくのではなく、サステイナブルな社会を形成していくための本質的な価値として未来へと伝えていかなければならない。
伝統は守られるだけでなく、時代とともに革新されるからこそ文化として残り続け、次代へと引き継がれていく。隈氏による器が輪島塗の歴史を更新し、新たなステージへと導いていくに違いない。
■TAKUMI CRAFT CONNECTION by LEXUS NEW TAKUMI PROJECT ▶︎KYOTO
2016年に開始された「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」を通じて47都道府県の匠、約150名が生み出した作品を一堂に公開するほか、匠とトップクリエイターとのコラボレーションによって創作される新たな作品によるインスタレーション、匠と京都の交わりをテーマとした展示などからなる、「日本の匠の未来」に触れていただくクラフトの祭典。
開催日:2019年 11月29日~12月1日
会場:JAPAN connection 京都新聞ビル 地下1階 (map)
CREATORS connection 平安神宮 額殿 (map)
KYOTO connection 両足院(建仁寺山内)(map)