ART / DESIGN

イギリスで活躍するセラミックアーティスト、
ヒトミホソノの作品のざわめき

2019.10.14 MON
ART / DESIGN

イギリスで活躍するセラミックアーティスト、
ヒトミホソノの作品のざわめき

2019.10.14 MON
イギリスで活躍するセラミックアーティスト、ヒトミホソノの作品のざわめき
イギリスで活躍するセラミックアーティスト、ヒトミホソノの作品のざわめき

魅力的な被写体との出合いを求め、世界中を飛び回り続けている写真家、在本彌生。彼女が印象深い出合いを自らの作品と文章で綴る連載。今回は、イギリスの大英博物館に作品が所蔵されるなど、世界的に活躍するセラミックアーティスト、細野仁美氏に会うべくロンドンに赴いた。

Text & Photographs by Yayoi Arimoto

枯れることを知らない、生命を宿したセラミックの植物

ロンドンを拠点に活動するヒトミホソノに会いに行った。彼女とは初対面なので少し緊張しながらアトリエの呼び鈴を鳴らした。「遠い所から来てくださってどうもありがとうございます」。そんな丁寧な言葉とともに、彼女は私たちを柔らかな笑顔で迎えてくれた。

作品やメディアで紹介されている情報を通してしか彼女のことを知らなかっただけに勝手に想像を巡らせていたが、ご本人を目の前にしたらなんとも清々しい印象の女性だ。彼女の作品が生まれる現場に対面できることに興奮気味だったし、少し緊張もしていた私だったが、彼女の優しく心遣いのある振る舞いが気持ちを解放してくれた。私は彼女の仕事ぶりを間近で見て、写真に捉えるという幸運に恵まれたのだ。
作成中の壺の内部は花で埋め尽くされていた。内側に胸がすくような底なしの世界が広がっているのが面白い
作成中の壺の内部は花で埋め尽くされていた。内側に胸がすくような底なしの世界が広がっているのが面白い
ヒトミホソノの作業ノートを拝見。何度も試作を重ねて完成させる作品は、細かいテストと分析の賜物でもある
ヒトミホソノの作業ノートを拝見。何度も試作を重ねて完成させる作品は、細かいテストと分析の賜物でもある
ヒトミホソノが作り上げる作品のほとんどが植物のモチーフとともにある。美しいフォルムの器の、内にも外にも植物がうごめいている。自然をモチーフにした表現は人の感情に訴えかける力が強いものだが、ヒトミホソノの作品の中にある植物たちは、繁殖力とでもいおうか、独特のざわめきがあり、それが彼女の作り上げるものの持つ魔力だろう。極精密に作られたほぼ実物大の花や葉が、器の形を支えてそこにあるようにさえ見える。

私たちが訪れる前にすでに仕事を始めていた彼女に、しばらく作業の様子を見せてもらうことにした。白っぽい粘土の塊を彼女が触っていくと、実物大の花びらに変化して、トレイに一枚一枚並べられていく。イギリスの土が、彼女の手を介して極精密なセラミックの植物世界に生まれ変わっていく。
実物大ほどの花のパーツが一つ一つ彼女の手で作り上げられ行儀よくトレイに並べられる。脱色された花の造形
実物大ほどの花のパーツが一つ一つ彼女の手で作り上げられ行儀よくトレイに並べられる。脱色された花の造形
仕事をする彼女の手元を見ていると、みるみるうちに粘土に植物の命が吹き込まれていくよう
仕事をする彼女の手元を見ていると、みるみるうちに粘土に植物の命が吹き込まれていくよう
数日前に完成したという作品が窯の中でひっそりと息を潜めている。シダの葉が器の縁から上へ上へと這い上がっていて、縄文式土器の炎が立ち昇るイメージにも連なるように見えてくる。その白い器の内側から隅々に至るまで巡っているシダの葉、焼き締められて永遠に凝固されたはずの土が、生きた植物に見えてしまうからすごい。この葉の生命力は枯れることなど知らないようだ。
焼成を終えたばかりの作品がアトリエの窯の中にたたずむ。植物と焼物のハイブリッドがそこに誕生していた
焼成を終えたばかりの作品がアトリエの窯の中にたたずむ。植物と焼物のハイブリッドがそこに誕生していた

ウェッジウッドとのコラボレーション

ヒトミホソノの作品は、イギリスの大英博物館にも2点収蔵されているほどで、彼女の作品は近年注目され続けているが、つい最近まで同じく大英博物館で開催されていた「マンガ展」(https://www.britishmuseum.org/whats_on/exhibitions/manga.aspx)でも、普段とは違った作風のマンガをモチーフにした作品が展示されていた。
こちらもできたばかりの作品。平たい皿の内部にいまにも溢れ出そうな勢いの花々
こちらもできたばかりの作品。平たい皿の内部にいまにも溢れ出そうな勢いの花々
手のひらに乗るくらいの鞠のようなケース。有機的な輪郭が心地よい。唯一であることの凄み、気品を放っている
手のひらに乗るくらいの鞠のようなケース。有機的な輪郭が心地よい。唯一であることの凄み、気品を放っている
この度イギリスの代表的な陶磁器ブランド「ウェッジウッド」がヒトミホソノとのコラボレーション作品を完成させ、今秋日本に上陸するという。ウェッジウッドは18世紀から積極的に外部デザイナーとのコラボレーションをしてきたが、アーティスト・イン・レジデンスという形をとって、一人のアーティストがベテランの職人たちとの連携で作品を作り上げたのは初めてのケースだ。ウェッジウッドの代表作、ジャスパーを元にヒトミホソノが手がけた作品など数点が各地で公開されるので、ぜひとも注目したい。(https://www.wedgwood.jp/hitomihosono/

イギリスのストーク・オン・トレントにあるウェッジウッドの工房で、このプロジェクトに関わった職人たちにも話を聞いたが、彼女の妥協のないリサーチとテスト、共同作業には彼らも大いに共感したようだった。大きな仕事を一緒に成し遂げた喜びは今も冷めやらない様子だ。テストピースを私に見せながら、当時の「細か過ぎて終わりがないようにさえ感じられた」という作業についての苦労話を聞かされた。
彼女が使う道具の数々。自分の使いやすいように手作りされたものもある
彼女が使う道具の数々。自分の使いやすいように手作りされたものもある
ウェッジウッドの職人が見せてくれた、ヒトミホソノコレクションのパーツのテストピース。微妙な色を求め細かい指示が
ウェッジウッドの職人が見せてくれた、ヒトミホソノコレクションのパーツのテストピース。微妙な色を求め細かい指示が
難しい仕事ほど情熱が込められているというもの。職人たちの自信と誇りのある笑顔は本物だった。ヒトミホソノとの仕事は、彼らにとってもかけがえのない、忘れがたいものとなった。
Touka (透花) Vaseを手にした職人曰く「非常に難しい作業だったが一番印象に残った大好きな作品」
Touka (透花) Vaseを手にした職人曰く「非常に難しい作業だったが一番印象に残った大好きな作品」
ヒトミホソノのウェッジウッド作品についての問い合わせ先
ウェッジウッド 
Tel.03-6380-8159

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ご回答いただきありがとうございました。

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