VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

EXPERIENCE

イギリス陶磁器の歴史を支える町
ストーク・オン・トレント

2019.10.11 FRI
イギリス陶磁器の歴史を支える町 ストーク・オン・トレント

魅力的な被写体との出合いを求め、世界中を飛び回り続けている写真家、在本彌生。彼女が印象深い出合いを自らの作品と文章で綴る連載。第9回では、イギリス陶磁器の一大生産地として世界に知られ、ウェッジウッドやロイヤルドルトンなど世界的陶磁器ブランドの本拠地でもあるストーク・オン・トレントを訪ねた。

Text & Photographs by Yayoi Arimoto

SHARE

この記事をシェアする

「英国陶磁器」の発展に大きく貢献したジョサイア・ウェッジウッド

東京から飛行機を乗り継ぎ、夕刻にマンチェスターに到着。そこから車を走らせること一時間強で、スタッフォードシャーのストーク・オン・トレントにたどり着いた。

陽射しが西に傾いた時間、車の外を流れる景色は、イメージするイギリスの田園風景そのものだ。しっとりと靄に包まれた緑の丘、煉瓦造りの家々、庭先の木々や花々まで絵画のように整然としてる。
のどかな風情の漂う運河に囲まれたストーク・オン・トレント
のどかな風情の漂う運河に囲まれたこの町、ストーク・オン・トレントは、イギリス陶磁器の一大生産地として世界に知られる場所。ウェッジウッド、ロイヤルドルトンなどの陶磁器メーカーの本拠地でもある。

石炭の産出地で、また陶器をつくるのに適した良質な土に恵まれていたので、18世紀以降イギリス国内のみならず、世界各国に向けて「英国陶磁器」を飛躍的に広めた。この発展にある人物が大きく貢献しているという。
陶器職人ジョサイア・ウェッジウッドの銅像
その人物、ジョサイア・ウェッジウッドはこの土地の陶器職人の家に、13人きょうだいの末っ子として生まれ、10代のはじめから器を作り始めた。非常に勉強家で研究熱心だったと言われている彼だが、ウェッジウッド美術館に展示されているおびただしい数のテストピースの集積からは、熱意を超えた執念すら伝わってくる。ジョサイアはこの仕事に心底のめり込んでいたのだ。若くして天然痘にかかり右足が不自由になったことも、工房で作業に打ち込む仕事に没頭するきっかけになったのだろうと想像する。陶工として培った技術的な知識と独自の発想で、陶磁器の進化や新しい道を常に模索していった。
ウェッジウッド社の陶磁器
1759年に29歳でウェッジウッド社を設立してから、ジョサイアは実業家としての才能を大いに発揮していく。彼が切り開いていった道は、そのまま当時の陶磁器産業の発展に重ね見ることができる。あまりにも多才で、ひとりの人物が一時代で築いた功績としては偉大すぎるほどなのだ。

発明家として、窯の温度を測るための高温温度計を発明し(陶磁器を焼く作業を、より正確なものにする)、画期的だった受注販売を開始、ロンドンの町中にショールームを作り成功させ(在庫のだぶつきを回避できて効率的である上に、広告効果もある)、運河を開き、工場から町への輸送コストを削減、その上ワレものである商品が輸送中に受けるダメージも劇的に減らした。
立体的なレリーフを陶器にあしらったジャスパー
立体的なレリーフを陶器にあしらったジャスパー
質の良い陶磁器、繊細で彩りに溢れたデザイン……シャーロット妃に愛されたクリームウェア、カメオのような立体的なレリーフを陶器にあしらったジャスパーなど、ウェッジウッド社の代表作はロングセラーが多いが、それはジョサイアの商品ブランディングのセンスによるところも大きいのかもしれない。あんな器を私も使ってみたい、欲しいな、と思わせる、彼は消費者心理を深く理解していたのだろう。

ウェッジウッドの美術館で関心を持ったもの

ストーク・オン・トレントに来たなら、ウェッジウッド社の工場に併設されたワールド・オブ・ウェッジウッド(https://www.worldofwedgwood.com/)の中にある美術館に、是非立ち寄りたい。展示されているアーカイブの陶磁器の面白さ、時代とともに大きく変化するデザインの変遷を一望できるのはもちろんのこと、ジョサイアの築き上げたものづくりへの姿勢、一つの形、色、デザインにたどり着くまでの過程を見ることができる。各国の王室から発注を受けた器から、使いやすさと求めやすさを追求した量産品に至るまで、独自のアイデアと哲学を持って作り上げられてきたことがわかる。
カメオ風の小さな焼き物
展示の中で一つ、私が関心を持ったものがある。食器ではない。メダル、あるいはピンバッジのように見えるカメオ風の小さな焼き物だ。両手両足を鎖につながれた黒人のプロフィールと「AM I NOT A MAN AND BROTHER」の一行が記されている。

これはジョサイアが作った奴隷解放のメダリオンで、奴隷制度廃止運動のムードが高まっていた当時、無償で配布したという。これを手にした顧客たちが帽子につけたり、ペンダントにしたりして身に着けることで、またそれを見る人が増えることで、人々に奴隷解放への意識を向けさせようという、アイディアマンのジョサイアならではのやり方だ。
ジョサイアが作った奴隷解放のメダリオン
器好きの人であれば鑑賞に半日は必要な美術館なので、途中で一息入れたければ、ティーサロンでアフタヌーンティーを挟むのもいい。この頃はモダンなスタイルのアフタヌーンティーも町では流行りのようだが、ここではオーソドックスなスタイルながら、味の確かなものが提供されている。丁寧に作られたサンドイッチや香ばしいスコーン、果実のケーキを、ゆっくりと紅茶とともに楽しみたい。
ティーサロンのアフタヌーンティー
ティーサロンのアフタヌーンティー
この町で「The Upper House」(https://www.theupperhouse.com/)に一泊するのもお勧めだ。丘の上に佇む煉瓦造りの邸宅は、かつてウェッジウッド家の人々が暮らしたという家。今はオーナーも変わり、大変居心地の良い小さなホテルになっている。各部屋の造りもイギリスの田舎の邸宅そのものの風情を残していて、窓の外には手入れのいきとどいた緑の広大な庭が広がる。時差ぼけで早すぎる朝に目覚めたので、起き抜けに静かな庭を散歩した。季節の花もみずみずしく、おいしい空気を体にいっぱいに取り込んだら、気持ちもすっきり、朝食がひときわ楽しめた。
丘の上に佇む煉瓦造りの邸宅「The Upper House」
丘の上に佇む煉瓦造りの邸宅「The Upper House」
ところで、今年はウェッジウッド260周年。それを記念して限定モデルが発売される。ウェッジウッドの代表的なパターン、ワイルドストロベリーシリーズにゴールドの葉と蝶のデザインが加わって、ますます華やかに。
ウェッジウッドの代表的なパターン、ワイルドストロベリーシリーズにゴールドの葉と蝶のデザイン
1870年代後半にウェッジウッドのデザイナートーマス・アレンにより作られたコロンビアゴールドのシリーズは22金があしらわれ、この秋登場する。260周年の記念バックスタンプの刻印入り。
トーマス・アレンにより作られたコロンビアゴールドのシリーズは22金があしらわれた陶磁器
取材協力:フィスカースジャパン

この記事はいかがでしたか?

不満

やや不満

普通

やや満足

満足

不満

やや
不満

普通

やや
満足

満足

評価する

ご回答いただき
ありがとうございました。

記事一覧へ

BACKNUMBER 写真家は旅をする

    FOLLOW US

    Mail News

    レクサスの最新情報をお届けしています。
    VISIONARYの記事情報も配信中。

    Twitter

    VISIONARYの最新記事や過去の人気記事を投稿します。

    配信通知

    VISIONARYの最新記事をプッシュ通知でお届けします。

    RELATED

    関連リンク

    RECOMMENDED

    あなたへのおすすめ

    よく読まれている記事RANKING
    今週の編集部
    おすすめ記事
    PICKUP
      よく読まれている記事RANKING
      今週の編集部
      おすすめ記事
      PICKUP
        FOLLOW USVISIONARYの最新情報をお届けします。
        • Mail News
        • Twitter
        • 配信通知