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CULTURE

“1冊の本”からさまざまな人々の交流を生む本屋──
森岡書店

2019.10.04 FRI
“1冊の本”からさまざまな人々の交流を生む本屋──森岡書店

東京・銀座の歴史的建造物「鈴木ビル」に居を構える「森岡書店」。“1冊の本を売る本屋”というコンセプトは、海外メディアからも注目を集めている。店主の森岡督行氏に話を聞き、その秘密に迫った。

Text by lefthands
Photographs by Yoko Ohata

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著者と読者が直接交流できる場

インターネット通販や電子書籍が浸透したことにより、書店業界は業態の見直しを迫られている。在庫量や取り寄せの早さではインターネット通販に分があるため、例えば選書で工夫を図るなど、リアル店舗ならではの長所が何なのかを検討している書店も多い。

1500円の入場料を設定し、無料でドリンクを利用できる喫茶室を併設することで、本を選ぶという体験に1日中没頭できるような空間作りを行っている東京・六本木の「文喫」が、その好例だ。

そんななか、東京・銀座の築90年を数える鈴木ビルに居を構える「森岡書店」は、“1冊の本を売る本屋”という独自のコンセプトを掲げている。銀座のメインストリートである銀座通りから離れた場所にあるにもかかわらず、連日多くの人々を引きつける秘訣を、店主の森岡督行氏に聞いた。
森岡氏は「文喫」への企画協力も行っている
森岡氏は「文喫」への企画協力も行っている
コンセプトの通り、森岡書店では取り扱う本は常に1冊のみ。ただし、1〜2週間程度の会期を定めており、会期ごとに選書が変わるため店舗そのものが全く違う顔を見せる。

工芸や写真、料理など、取り上げる本のジャンルは多岐にわたっている。森岡氏自身が選定して著者に依頼する場合もあるが、著者や編集者、デザイナーから提案が来ることも多いという。

また、取り扱う本は“1冊”のみだが、その本に関連する物事の展示・販売も行っているのが特徴だ。
取材時は、たなかれいこ氏のレシピ本の会期中。書籍内で紹介されている三年番茶や塩なども販売されていた
取材時は、たなかれいこ氏のレシピ本の会期中。書籍内で紹介されている三年番茶や塩なども販売されていた
取材時は、たなかれいこ氏のレシピ本の会期中。書籍内で紹介されている三年番茶や塩なども販売されていた
森岡書店の場としての機能はそれだけではない。会期中に著者のトークイベントが催されることもあり、書籍にまつわるエピソードなどが披露されている。また、著者が店番をすることもあり、自ら本を販売したりサインをしたりと、読者と著者が直接交流できる場所ともなっている。

海外からも注目を集める、極小に向かうコンセプト

驚くべきことに、森岡書店を訪れるのは日本人だけでなく、海外からの観光客も多いという。ユニークなコンセプトが海外からも注目を集めているのだ。

「NYタイムスやガーディアン、新華社通信、中国中央電視台など、たくさんの海外メディアで取り上げていただいています。そういった反響を受けて、今年の6月には中国の深圳で3週間限定のポップアップストアを開催しました」

「日本の文化を表しているという評価をいただくことがあります」と語る森岡氏。その要因について、以下のように分析している。

「赤瀬川原平さんが、『千利休 無言の前衛』という本で以下のような内容を書いています —— 安土桃山時代、千利休の故郷である境港には、世界中から交易品が押し寄せた。当時の人たちにとってそれらは重厚長大なものであって、同じ土俵ではかなわないと考えた利休は、わびさびに向かっていったのではないか。

高層ビルに代表される、大きいものを良しとする現代にも、同じことが当てはまるのではないでしょうか。そのようななかで、わびさびに通じるものを、極小に向かっていくコンセプトから感じていただいているのだと思います」

では、森岡氏はいかにして“1冊の本を売る本屋”という発想に至ったのだろうか。

消えていくものに価値がある

実は、銀座の店舗は森岡書店としては2号店に当たる。神保町の老舗古書店から独立した氏が第1号店を構えたのは、茅場町だった。そこでは現在のような業態ではなく、ギャラリーを兼ねた書店として営業していた。しかし、当時すでに“1冊の本を売る本屋”というコンセプトが芽生えていたという。

「新刊の記念イベントで大勢の方々に集まっていただけるのを見て、1冊のためだけにお客様がお越しになるということに気づいたのです。それで、次の10年をどうするか考えた際に、1冊の本だけを売るというアイデアが思い浮かびました」

森岡氏にとって大きな転機となったのは、デザイン・イノベーション・ファームであるtakram design engineeringの渡邉康太郎氏の紹介で、スマイルズ代表の遠山正道氏の前でプレゼンをする機会を得たことだ。「Soup Stock Tokyo」などを展開するスマイルズからの出資と融資を得て、アイデアを実現することとなった。
takram design engineeringの渡邉氏がデザインしたロゴマーク
takram design engineeringの渡邉氏がデザインしたロゴマーク
森岡書店の特徴としてもう一つ興味深いのは、アーカイブを残さないことだ。さらに、ツイッターなどのSNSでも最低限の告知が行われるだけで、展示やイベントの内容はあまり詳細には明らかにされない。

その理由について、森岡氏はこう語る。

「現代には体験、食など、ものとして残らない代わりに、心が豊かになるものに価値を見いだすという考え方があると思います。ここに来ていただかないと分からない、そして来ていただいたらあとは記憶になる。そのような消えていくものにこそ価値があると思い、アーカイブは残さないと決めたのです。そうそう、会期の1週間というのは、花見をイメージしています」
「どんな展示でも調和するように、5坪ほどの店内は縦横を黄金比にしています」と笑みをたたえる森岡氏
「どんな展示でも調和するように、5坪ほどの店内は縦横を黄金比にしています」と笑みをたたえる森岡氏

ネットとリアルの相互関係

森岡書店の盛況ぶりは先述の通りだが、森岡氏は現状に満足することなく、次々に新しいアイデアの具現化を図っている。

注目すべきは、2017年に開設したオンライン上のコミュニティ「森岡書店 総合研究所」だ。これは“空間のない森岡書店のようなもの”というコンセプトを持ち、参加者同士で意見を交換しながら交流する場となっている。スタッフが日報を配信するだけでなく、時には参加者が自身の構想しているアイデアを披露して、それを全員で検討してアドバイスを送るといったコミュニケーションも生まれているという。

「これまでも、私や著者の方とお客様との間の交流はありましたが、もしもお客様同士の関係がより深まれば、そこから何か生まれるのではないかと考えました。そこで、お客様同士の交流の場として誕生したのが『総合研究所』です」

「総合研究所」の活動はネット上に限らない。店舗で月1回の茶話会を開催するほか、美術館や骨董市を訪れる企画も頻繁に開催しているという。

“1冊の本を売る”ことによって、さまざまな人々の交流を生む場となっている森岡書店は、実店舗を超え、ネット上でのコミュニケーションも生んでいる。それでも、森岡書店というリアルな場としての側面を大切にしていきたいと森岡氏は語る。
昔懐かしい黒電話とiPadが並ぶ光景。新旧の調和という面では、森岡書店のコンセプトに通じるものがある
昔懐かしい黒電話とiPadが並ぶ光景。新旧の調和という面では、森岡書店のコンセプトに通じるものがある
「森岡書店のある鈴木ビルは、『日本工房』の後身の『国際報道工藝』が入居していた場所でもあります。世界的な写真家である土門拳さんをはじめ、日本を代表するクリエイターがここに集まって、戦後の出版界を牽引していった。そのような歴史あるこの建物で、本を紹介していくことに意義があると思うので、これからも続けていきたいですね」

「森岡書店」:
東京都中央区銀座1-28-15 鈴木ビル1F
Tel. 03-3535-5020
https://twitter.com/morioka_ginza

「森岡書店 総合研究所」:
https://soken.moriokashoten.com
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