JOURNEY

常識をアップデートせよ。本田直之が語る、
食の先端から見えてきた価値基準の捉え方

2019.09.04 WED
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常識をアップデートせよ。本田直之が語る、
食の先端から見えてきた価値基準の捉え方

2019.09.04 WED
常識をアップデートせよ。本田直之が語る、食の先端から見えてきた価値基準の捉え方
常識をアップデートせよ。本田直之が語る、食の先端から見えてきた価値基準の捉え方

ビジネスパートナーとの接待や会食、家族や仲間との食事など、レストラン選びをする際につい「いつもの店」を選んではいないだろうか。革新の時代を迎え、社会の常識が日々変わっていく中で、食のシーンも同じように進化が著しい。そこで、究極の美食家、本田直之氏に、伝統を重んじながらも旧来的な価値観にとらわれない、次なる食の未来を切り開くレストランをピックアップしてもらった。固定のレストランリストに加えて、新たなる食の価値を体験しよう。

Text by Kiyoshi Shimizu(lefthands)
Edit by Keisuke Tajiri
Photograph by Ismu Ito(Portrait)

時代を先行く4店のレストラン

アメリカのグルメ雑誌『サブール』にて「世界ベストフードシティー」に選出されたこともある東京。ミシュラン一つ星以上を獲得している店の数はパリやニューヨークを超え、いまや世界の美食の中心といっても過言ではない。アワードやランキング、レイティングからブログまで、情報もあふれている。だからこそ、進化し続ける美食の最前線を体験し、新しいなじみの店を見つけるためには、食のリテラシーを持っていなければならないのも事実。さもなければ、いつまでたっても“いちげんさん”のままで終わってしまう。

そこで登場するのが、世界62カ国220都市を周り、三つ星店から屋台まで食を極めた本田直之氏。レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役という実業家としての顔を持ちながら、食に関する書籍を多数手掛け、世界中のトップシェフとも親交が深い本田氏に、東京と鎌倉でいま行くべき注目の店を紹介していただきながら、料理人との付き合い方も教えていただいた。

和食の先物買いなら、この店 ──「山﨑」

和食の先物買いなら、この店──「山﨑」
2018年8月にオープンして、すぐにミシュラン一つ星を獲得した話題の店。31歳の若き店主、山﨑史朗氏は赤坂の名店「もりかわ」で修業した後に20代で一度独立を果たした。

「でも、納得いかなかった。そこで店を閉めて修業し直すのです。この決断力がすごい。しかも和食ではなく、銀座の「チウネ(CHIUnE)」(イノベーティブ・フュージョン)、京都の「アカ (aca 1°)」(スペイン料理)と全くジャンルの異なる料理を極めた名店で研鑽を積んだのです。この経験が料理人としての幅を広げたのでしょう」と本田氏は話す。

新境地を開拓し、「山﨑」では和食を軸としながらも、名物のスッポンの炭火焼きから、締めのTKG(卵かけご飯)までオリジナリティー溢れる料理を提供。

「ソムリエの資格を持つ彼のセレクトする日本酒も素晴らしい。ワインやシャンパンも充実しています。老舗の中には、今ではあまり好んで飲まれない、昔ながらの日本酒しかない店も多いけど、料理とお酒のペアリングは重要です」
 今回、本記事のために注目の4店をピックアップしてくれた本田氏
今回、本記事のために注目の4店をピックアップしてくれた本田氏
レストランの中でも特に和食や寿司には名店・老舗と呼ばれる店が多く、なじみの店にしか通わない人も少なくないだろう。

「若い料理人を初めから拒む人もいますが、もったいないと思います。昔とは異なり、今は修業先でも若いスタッフにどんどん料理を作らせていますから、センスのある人は短期間で伸びていきます。欧米には20代のトップシェフがたくさんいて、彼らの料理を年輩のご夫婦が楽しんでいる姿をよく目にします。レストランを楽しむコツの一つは先物買いです。気に入った若い料理人がいたら足しげく通い、いいお客さんを紹介してあげましょう。店の成長を見守るのが楽しくなります」

港区西麻布1-15-3 西麻布UOUビル 1F
Tel.03-6812-9848
営業時間:17:30〜20:30(入店)
定休日:月曜日

観光の途中に鎌倉の一軒家で中華 ──「イチリン ハナレ」

観光の途中に鎌倉の一軒家で中華──「イチリン ハナレ」
築地の人気店「東京チャイニーズ 一凜」の齋藤宏文氏が2017年4月、鎌倉の住宅街にオープンした店。フランスの外交官夫妻の邸宅だった古民家を全面改装した趣のある空間に引かれ来店する人も多い。

「個室もありますがメインダイニングでシェフの仕事を見ながら食べるのもいいですよ」と、3部屋をつなげた長く広々としたカウンターでの食事を本田氏は勧める。築地の店はカジュアルな四川料理がメインだが、鎌倉ではやや高級感を加えたコースが基本。

「定番のよだれ鶏とそのタレにつけて食べる餃子、白子入り麻婆豆腐、そして地元の山海の幸を使った料理と、どの皿もそれほど辛くはなく優しい味わいを楽しめます。

合わせるのは幅広いラインナップの紹興酒。料理によって数種類を飲み分けるデギュスタシオンも用意されています。そしてお茶もまたおいしいのです。中華はお酒なしでも意外といけるのだと気付かされました」と、ドライバーにとっても楽しめる内容となっている。

「観光地として有名な鎌倉は、近年食もかなり充実してきました。美食と名刹の日帰り旅行にぜひお出掛けください。ディナーの後に宿泊するなら、江戸時代から住み継がれてきた古民家をフルリノベーションした、一晩2組限定の宿『鎌倉古今』がいいですよ」

神奈川県鎌倉市扇ガ谷2-17-6
Tel. 050-5232-9490(予約専用)
営業時間:11:30〜13:00(L.O.)
     17:30〜 22:00(L.O.)
定休日:月曜日

「鎌倉古今」
神奈川県鎌倉市二階堂836
Tel. 0467-81-4435
https://www.kamakura-cocon.jp/

東京で京都の風情を感じる ──「御料理 宮坂」

東京で京都の風情を感じる ──「御料理 宮坂」
根津美術館から西麻布に抜ける閑静な住宅街にたたずむミシュラン二つ星の和食店。路地を歩いて店に向かっていると何とも風情があり、“京都にいるみたい”と感じながら店内へと足を踏み入れる。店主の宮坂展央氏は京都の三つ星店で10年間修業し2015年に独立。

「その所作が本当に美しく、余分な物を削ぎ落としたミニマルな設えとともに、“この人、この店なら間違いない”と安心させてくれます。料理はまさに正統派。全国の生産者や築地から仕入れた最上の食材に日本料理本来の調理を施し、味や風味を引き出してくれます。特に八寸の美しさには感動します」

また、コース料理の最後に必ず振る舞われる白米は、厳選した滋賀の米を毎日玄米から精米し、土鍋でじっくりと炊き上げたもので、こちらもまた素晴らしいという。

「この店は写真撮影がNGでネットにも情報があまり出ていませんから、流行に乗った方がさっと来てさっと引いていくということがありません。落ち着いて食事が楽しめる知られざる名店です」と本田氏。

今ではネットからいろんな情報が探せるようになったが、昔は店構えから、料理、店主の人柄、値段まで事前情報がないのが当たり前だった。「ネット情報やインスタ映えを否定はしませんが、スマホをバッグに入れて食事する時間を大切にしたいですね」

港区南青山4-26-12 ボ アード青山 B1F
Tel.03-6805-0058
営業時間:18:00〜19:00(入店)
定休日:日曜日
http://www.miya-saka.tokyo

フランスの三つ星が監修する唯一の国外店 ──「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」

フランスの三つ星が監修する唯一の国外店 ――「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」
本田氏がフランスで一番好きなレストランだと話すのが、親子三代、50年以上にわたって三つ星を維持している「トロワグロ」。創業の地ロアンヌから車で20分ほどのウーシュに移転した新しい店は古い納屋を改築した質素な外観だが、店内はモダンで、厨房にも最先端の機器を揃えている。

「料理は伝統的なのだけれど、進化している。かといってモダンフレンチでもない。伝統は進化するものであるということを実践しているのが『トロワグロ』なんです。

この名店の3代目オーナーシェフであるミッシェル・トロワグロ氏が監修する、フランス国外で唯一のレストランが日本にある、『キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ』。トロワグロ氏の薫陶を受けたギヨーム・ブラカヴァル氏が料理を任されています。日本の食材を巧みに取り入れた彼のフレンチも本店同様、伝統を重んじつつも進化し続けています」

料理の世界は「伝統」という言葉で一括りにされることが多い。しかし、伝統とは決して昔のままをよしとすることではない。

「100年前とは食材も、調理法も、そして何より食べる人のレベルが上がっています。その進化の積み重ねが伝統になっていくのです」

新宿区西新宿2-7-2 ハイアット リージェンシー 東京 1F
Tel.03-3348-1234(ホテル代表)
営業時間:12:00〜13:30(L.O.)
     18:00〜20:00(L.O.)
定休日:火・水曜日(祝日を除く)
http://www.troisgros.jp
本田直之著書の本
今回、注目の4店を紹介してくれた本田氏。国内外で年間600軒以上の店を食べ歩いているが、常連になりたいと思う店には必ず哲学があるという。

「食材選びから、調理方法、コース内容、内装のこだわりなど全てに共感できたら、ついつい応援したくなってしまう。もちろん、おいしいことが前提です。そして大切なのが、伝統的なスタイルや技法ばかりに注力するのでなく、時代の動きを読みながら新たな食への可能性に挑戦している料理人であることです。惚れた料理人が通っている店にも出掛けます。料理人同士で嘘はつけませんから、本物の店に出会えるんです」

ネット情報によって誰もがいい店にアクセスできるようになったのは素晴らしいことだが、だからこそ、たくさんの情報の中から自分に合ったものを正しく判断をしなければならない時代。

「老舗だから、予約が取れないから、点数が高いからいい店、という時代ではなくなっているのです。体験を重ねていくことで自分の中で価値基準をつくる――これは食にかぎらずどのジャンルでもこれから求められることだと思いますよ」

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