ART / DESIGN

国産ウイスキーの雄「イチローズモルト」。
世界が評価する秩父発のベンチャーウイスキー

2019.08.28 WED
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国産ウイスキーの雄「イチローズモルト」。
世界が評価する秩父発のベンチャーウイスキー

2019.08.28 WED
国産ウイスキーの雄「イチローズモルト」。世界が評価する秩父発のベンチャーウイスキー
国産ウイスキーの雄「イチローズモルト」。世界が評価する秩父発のベンチャーウイスキー

世界の名だたるコンクールで受賞を重ねている国産ウイスキーといえば、肥土伊知郎氏創業の「ベンチャーウイスキー」が秩父蒸溜所で製造する「イチローズモルト」だ。最低3年間熟成された原酒を用いるなど、こだわり抜いて製造される「イチローズモルト」の誕生からこれからの展開を、アンバサダーの吉川由美氏に伺った。

Text by lefthands
Photographs by Isamu Ito(lefthands)

世界に認められるジャパニーズウイスキー

2010年代に入って、国産ウイスキーのプレミア化が加速している。その要因として大きいのは、ジャパニーズウイスキーが世界のコンクールで次々に受賞を重ねていることだ。海外のファンから注目を集めた結果、日本でもハイボールブームが巻き起こり、ジャパニーズウイスキーは国内外の双方から買い手が殺到することとなった。

「竹鶴」のニッカウヰスキーや「山崎」のサントリーなど、大手ブランドの活躍が目覚ましいなかで、2004年に肥土伊知郎氏が創業した「ベンチャーウイスキー」という、文字どおりのベンチャー企業をご存知だろうか。

彼らが埼玉県秩父にある蒸溜所で製造するのは、「イチローズモルト」というブランド。世界でも権威のあるウイスキーコンクール「ワールド・ウイスキー・アワード」にて、「ワールドベスト・ブレンデッドウイスキー・リミテッドリリース」(2018年・2019年)と「シングルカスクシングルモルトウイスキー」(2017年)という2つの部門において、3年連続で世界最高賞を受賞しているのだ。
秩父蒸溜所にはコンテストの賞状が並ぶ。蒸溜所は一般公開していないが、年1回2月にオープンデイがある
秩父蒸溜所にはコンテストの賞状が並ぶ。蒸溜所は一般公開していないが、年1回2月にオープンデイがある
輝かしい功績とは裏腹に、ベンチャーウイスキーの歩みは苦境からの再起がきっかけであった。もともと、肥土氏の実家は1625年(寛永2年)に秩父で創業した酒蔵だった。肥土氏の祖父の時代に本社を羽生市に移し、日本酒だけでなくリキュールも造り始めることとなる。特に、1946年設立の「羽生蒸溜所」で製造していたウイスキーは、通から愛される逸品だった。

そんな中、父の代での日本酒への大規模な投資が仇となり、また国内のウイスキー消費量の低下もあり、酒造は2004年に経営譲渡の憂き目にあう。このとき羽生蒸溜所で廃棄されかけた400本のウイスキー樽をもとに、肥土氏が同年に創業したのがベンチャーウイスキーであった。2008年に秩父蒸溜所が稼働開始するまでは、祖父と父が残した羽生蒸溜所の原酒をボトリングして販売していた。ラベルにトランプのデザインが施された同シリーズは「カードシリーズ」として、現在は幻のコレクターアイテムとなっている。

最低3年熟成させなければならない、という決まりがあるスコッチ(スコットランドのウイスキー)と同様に、「イチローズモルト」も最低3年は熟成させた原酒を用いており、蒸溜所創業から3年後の2011年に最初のシングルモルト(注:大麦麦芽のみを使用し、かつ一つの蒸留所で造られたウイスキーのみをボトリングしたもの)である「秩父・ザ・ファースト」が発売となった。そこから「イチローズモルト」の快進撃が始まったのだ。
秩父の大自然に囲まれた秩父蒸溜所。昔から酒造りが盛んなこの地の水や土壌はウイスキー造りにも適していた
秩父の大自然に囲まれた秩父蒸溜所。昔から酒造りが盛んなこの地の水や土壌はウイスキー造りにも適していた

こだわり抜いた製造工程

秩父蒸溜所の製造工程で特徴的なものをいくつかご紹介しよう。ウイスキーの製造は、まず原料の大麦麦芽を粉状にし、熱湯を加えて麦汁にする工程から始まる。現在、秩父蒸溜所では主に海外産のものを輸入して用いている。最近では、地元秩父の契約農家が栽培する大麦麦芽も10%程度使用しているという。
①ウイスキーの原料となる大麦麦芽。水に浸して発芽した大麦を乾燥させたものだ
②砕いた麦芽をふるいにかけて、粉砕比率を確かめる
③糖化という工程の様子。麦芽の酵素がデンプンを分解し糖分に変える
④発酵中は二酸化炭素の泡が上部に浮かぶため、吹きこぼれないようプロペラで泡取りしている
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次に、発酵槽で4日間発酵させるのだが、ミズナラの木桶を用いているのが特徴だ。日本原産のミズナラを熟成樽に使用する製法は国内外の他の蒸溜所でも採用されているが、発酵槽に用いるのは世界でも秩父蒸溜所だけ。アンバサダーの吉川氏によると「発酵を促す乳酸菌は、木材の種類によって棲みつく種類が異なり、ミズナラには通常のものとは異なる種類の乳酸菌が棲みついていると考えられている」という。
それも手伝って、「イチローズモルト」は独特のフルーティーな香りになるのだ。
ミズナラの木桶が並ぶ様は壮観
ミズナラの木桶が並ぶ様は壮観
①4日間の発酵後に行われる蒸溜では、スコットランドのフォーサイス社製の蒸溜釜が使われている
②蒸溜の際、20分を目安に香りの良さが変わるポイントがある。目安が近くなったら何度かに分けて確認する
③その時々の状況によって仕上がりが異なるため、職人の経験と勘に基づいた目視確認も重要となる
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発酵、蒸溜の後、原酒は熟成庫で最低3年間熟成されることとなる。主に、バーボンやシェリーに用いられていた樽を海外から取り寄せて使っている。樽にもともと入っていた酒の種類によって、出来上がるウイスキーの味や香りが変化する。同蒸溜所ではバーボン樽が全体の50%を占めているという。
①味のばらつきを抑えるため、ボトル詰め前に樽でなじませる。樽の卵型は自然な対流を促し、味をまろやかにする
②真っ暗な熟成庫のなかに、いくつもの貴重な原酒樽が置かれている
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前述のミズナラの樽も熟成に用いられているが、ミズナラは日本でしか伐採できないため、樽に加工するのも国内の会社に発注する必要がある。しかし、昨今では樽作り専門の会社が少なくなっているという。埼玉県内でも羽生市に樽工場があったが、オーナーの高齢化に伴い閉鎖となってしまったという。

「その際、工場で使われていた機械を引き取り、元オーナーに技術指導を依頼して、自分たちで樽を作るノウハウを引き継ぎました。それ以来、秩父蒸溜所では樽製作も行っています」

そうしたこだわりの末に造られるミズナラ樽の原酒がブレンドされたウイスキーは、「イチローズモルト ミズナラウッドリザーブ(MWR)」などの銘柄としてリリースされている。
「リーフシリーズ」と呼ばれる、「イチローズモルト」のなかでも定番の銘柄。「MWR」は右から2番目
「リーフシリーズ」と呼ばれる、「イチローズモルト」のなかでも定番の銘柄。「MWR」は右から2番目

第二蒸溜所という新たな挑戦

昨今のウイスキーブームに加え、海外で受賞を重ねたことにより、「イチローズモルト」の人気も上昇している。そういった国内外の急激な消費量増加に直面しても、量とクオリティのバランスを取りながら、ブームに流されないよう注意しているという。

「海外原酒を輸入し、秩父で追加熟成させて、秩父蒸溜所の原酒とブレンドするブレンデッドウイスキー造りは、秩父の原酒のみを用いるシングルモルトよりも必然的に生産量が多くなります。創業当初から注力しているブレンデッドウイスキーをまず手にとってもらい、そこから年に数回発表するシングルモルトにも興味を持っていただければと思います」

需要の高まりへのもう一つの対応は、第二蒸溜所の新設だ。秩父蒸溜所から車で1〜2分の場所に準備中で、2019年秋からの本格稼働を目指している。両蒸溜所の大きな違いは、蒸溜工程にあるという。

「現在稼働している第一蒸溜所は、蒸気による間接加熱で蒸溜を行っています。一方、第二蒸溜所では直火による直接加熱を採用するので、さらに力強い印象の味に仕上がると思います」

現在、直接加熱を採用する蒸溜所が減少しているなかで、1950〜60年代のスコッチ造りの原点に回帰する意味合いもあるという。

吉川氏がもう一つ目標として挙げてくれたのは、「地元秩父のブランド構築への貢献」だ。「秩父でいいものを造り続けることが恩返しになる」と言うとおり、地元にこだわったウイスキー造りを続けるベンチャーウイスキー。秩父産の大麦麦芽を100%使用したウイスキーが楽しめる日も、いつかやってくるかもしれない。
吉川氏自身も「ワールドウイスキー・ブランドアンバサダー・オブ・ザ・イヤー2019」を受賞している
吉川氏自身も「ワールドウイスキー・ブランドアンバサダー・オブ・ザ・イヤー2019」を受賞している
「今までサントリーやニッカウヰスキーなどの大手が続けてきた日本のウイスキー造りを引き継いで、品質の良い日本産ウイスキーを発信していければと思っています」
秩父の蒸溜所として地元にこだわるベンチャーウイスキーの挑戦は、第二幕が始まろうとしている
秩父の蒸溜所として地元にこだわるベンチャーウイスキーの挑戦は、第二幕が始まろうとしている

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