VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

TECHNOLOGY

これまで世界になかった選択肢を──
Spiberの挑戦

2019.08.21 WED
これまで世界になかった選択肢を──Spiberの挑戦

“夢の繊維”と呼ばれながら、量産化についてはあのNASAでさえ研究に頓挫したという、人工合成のクモの糸。世界で初めて量産化する技術を確立した、Spiberの関山和秀代表に話を聞いた。

Text by Aoi Ishikura(See Visions)
Photographs by Nozomi Takahashi
Edit by Hitomi Miyao

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不可能といわれた“夢の繊維”の量産化技術を確立

人工合成クモ糸素材「QMONOS®」をはじめとした、人工構造タンパク質を生産するSpiber。本社は山形県鶴岡市にあり、慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)から生まれたバイオベンチャー企業である。

天然のクモの糸は重さあたりの強靭性が鋼鉄の340倍、炭素繊維の15倍といわれ、重さに対する強度は地球上でも類を見ないほどだという。さらにクモの糸は「フィブロイン」と呼ばれるタンパク質からできており、環境にも優しい素材として注目されてきた。

しかし、その人工合成化、量産化についてはNASAが研究に頓挫したほど難易度が高い。Spiberが人工的にクモの糸を生成し、量産化する技術を確立したのは、2013年のことだった。
鶴岡サイエンスパークの一角にあるSpiber本社。慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)に隣接する
鶴岡サイエンスパークの一角にあるSpiber本社。慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)に隣接する

無限の探索空間から、未知の素晴らしい素材を探す旅

「タンパク質の組み合わせには、無数のパターンがあります。その無限の探索空間の中には、生物がまだたどり着いていない未知の素晴らしい機能を持っている材料が、おそらく無数に眠っているはずです。にもかかわらず、これまではそこにアクセスする手段がなかったわけです」と話すのは、Spiber代表の関山和秀氏。
「20種類のアミノ酸の配列を変えることで、ウールやカシミア、人間の髪などさまざまなものになります」
「20種類のアミノ酸の配列を変えることで、ウールやカシミア、人間の髪などさまざまなものになります」
生物の進化のプロセスが、DNAの変異と自然淘汰によって起こるのは周知の事実だが、Spiberではまさにこの進化のプロセスにも似た作業を行っている。アミノ酸配列と遺伝子配列を解析して新しいタンパク質の分子をデザインし、その遺伝子を合成し、微生物を使った発酵培養によって人工タンパク質を製造する。この一連の作業を自社内だけで行えるのが、Spiberをこの分野における世界のリーディングカンパニーたらしめている理由だ。

「クモの糸は、自然界では1億〜2億年をかけてようやく獲得された材料です。今、Spiberがやろうとしていることは、自然界では何億年もかかるようなプロセスを、数年、数カ月といった短期間で無限のバリエーションの中から抽出すること。

これまで、実際に進化のプロセスのようなことを人為的に行うには、さまざまな要素や技術が足りませんでした。それを一つひとつ自分たちで開発して、ピースを埋めるように作っていったのが、我々Spiberの成り立ちです。

ここ10年のバイオテクノロジーの進歩や、コンピューターサイエンス、AI、ロボティックスなどの技術が成熟してきたおかげで、ようやくそういったことが可能になりつつある。我々はその最前線にいるわけです」

世界に今までなかった選択肢を生み出す

Spiberが開発する構造タンパク質は、主な原料を石油に頼ることなく、植物資源をベースに微生物による発酵プロセスで生産されている。独自技術により多種多様な素材への加工が可能なため、自動車などの輸送機器やアパレル産業をはじめ、将来的には建築の構造部材や内装、医療用のゲル、糸、フィルムなど、さまざまな分野での製品化が期待されている。

なかでも注力しているのは、自動車とアパレル産業。その理由は、産業規模が大きいからだという。

「自動車やアパレルは、全産業のなかでも最大規模です。そういった産業に対して、我々が新しい材料を開発し、大規模に使っていただくことができれば、地球規模で大きなインパクトが出るわけです。そうした産業に、我々はまず注力すべきだと考えています」
自動車では、ドアパネルの一部や、シート内のクッション材などへの実用化に取り組む
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石油などに頼らない持続可能な素材として、アパレル業界からも注目を集める
石油などに頼らない持続可能な素材として、アパレル業界からも注目を集める
「世界が石油などの枯渇性資源に頼り続けている限り、いま地球上で起こっているさまざまな問題の芽を摘みとることはできないでしょう。テクノロジーによって循環可能な資源を使い、材料を作ることができるようになったら、そうした課題をクリアできるかもしれない。ミッションとしては人類や地球に役に立つことを実験して実践する、Spiberはそのための箱なんです」
ウィッグ用の人工毛髪は、本物の毛髪のような風合いでカラーリングなども可能だという
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人生は短い。だから地球に少しでもプラスの影響を与えるように

常に地球規模のビジョンを持ってミッションを描く関山氏のなかには、脈々と流れる哲学的な思想がある。

「中学3年の頃、『自分が生きていることって、あまり意味がないな』って思ってしまったんです。人類の歴史、宇宙全体の歴史から考えたら、人生はあまりに短い。つまるところ幸せな状態で生きていられないのであれば、そもそも生きる意味がないのではないかと思ってしまって。どうすれば一番幸せな状態で生きていけるのか、そのために最も合理的な行動をしていくべきだと思ったんです」

天啓のようなひらめきを胸に、中高時代、自分の人生で何をすべきかを模索するなか、慶應義塾大学環境情報学部教授の冨田勝氏の講演を聞いたのが人生の転機となった。

「2000年、僕が高校3年生で冨田さんに出会ったとき、鶴岡のサイエンスパーク構想を語っていました。コンピューターサイエンスを融合した新しいテクノロジーが、環境問題、食糧問題、エネルギー問題を解決していくのに重要なキーテクノロジーになるという構想です。世界でも最先端の研究所が、2001年に鶴岡市にできる、と。しかも大学1年生から研究に携わることができると。もともと文系だったのですが、絶対にここに行きたい! と思い、一生懸命受験勉強をしたんです」

自分の描く未来に向かって着実に進んでいるように見える関山氏は、現在36歳。最速かつ最短のルートを通っているように思えるが、本人はいたって平静そのもの。「むしろ普通の人より時間がかかっていると思いますよ」と笑う。

「必ず社会で必要とされる技術は何なのか、とある課題を絶対に解決できる技術はどんなものなのか、ということについては常に考えています。Spiberが現在研究開発を行っている人工構造タンパク質以外にも、取り組み始めているアイデアはたくさんあります。限られた資源のなかで、そこに参加している人たちがどうやってうまくやっていくか。70億人以上いる人たち─バックグラウンドがまったく異なる人たち─がみんなで幸せに生きていくにはどうしたらいいのか、そのための仕組みづくりをもっと推し進めていきたいですね」

Spiber
https://www.spiber.jp
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