VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

CRAFTSMANSHIP

京都「染司よしおか」を訪ね、
日本の伝統色に触れる

2019.08.14 WED
京都「染司よしおか」を訪ね、日本の伝統色に触れる

自然の植物から抽出した色だけで染め上げる「染司よしおか」。その色彩は、化学染料にはない絶妙なニュアンスを醸し、ハッとするほど鮮やかだ。古代から伝わる染色法とはどのようなものなのか? 京都の工房を訪ね、5代目当主・吉岡幸雄氏に話を聞いた。

Edit by Shigekazu Ohno(lefthands)
Text by Kaori Kawake(lefthands)
Photographs by Takao Ohta

SHARE

この記事をシェアする

こちらの記事は音声でもお楽しみいただけます。

COLLABORATED WITH

秘めたるところから生まれる色彩

「染司よしおか」は江戸時代から続く染屋。かつては伏水とも評された名水の地、京都市伏見区に工房を構える。

その5代目当主である吉岡幸雄氏は、今もなお植物染を生業とする稀少な染師の一人。昔ながらの手法によって生み出される日本の鮮やかな伝統色は、国内外から注目を集めている。
日本の伝統色の研究者としての一面も持つ吉岡氏。講演などを通じて、植物染の奥行きの深さと美しさを伝える
日本の伝統色の研究者としての一面も持つ吉岡氏。講演などを通じて、植物染の奥行きの深さと美しさを伝える
植物染というと、色の濃い花房や葉などから色を抽出していると考える方も多いだろう。しかし染色材料には、根や草などの意外な部分が使われているのだ。

「秘めたるところから色が出る」とは吉岡氏の弁。

例えば、軒先に植えられた緑の葉に白い花を咲かせた紫草。ネーミングに紫という単語はあるものの、一見すると紫の染材になるとは思えない。しかし、実は根に紫色の色素があり、乾燥させた根を袋に入れ、よく揉み込んでいくと紫の染液が出てくるという。
籠に盛られた染色材料。吉岡氏自ら生産地を訪ね、現地で見定めて仕入れている
籠に盛られた染色材料。吉岡氏自ら生産地を訪ね、現地で見定めて仕入れている
また色彩は一つの染料から作るものばかりではない。例えば、緑は藍で染めた後に、黄の染料を重ねていくのだという。
刈安を煮出すと黄の染液となる
刈安を煮出すと黄の染液となる
さらに、染めにおいて大事になるのが灰。見せてくれたのは、燻製された梅だ。いわゆる発色剤、定着剤の役割を果たし、仕上げに使うと、含まれているクエン酸によって色が輝きを増すという。
24時間かけて燻製された梅。熱湯でふやかして使う
24時間かけて燻製された梅。熱湯でふやかして使う
こういった染色の知識を、奈良時代の日本人はすでに持っていたというから驚きだ。「染司よしおか」の庭には大きな釜があり、灰も自分たちの手で時間をかけて作っている。

「安易なものを得たら、安易なものしかできない」というのが氏の持論。使う材料には一切の妥協を許さない。植物染は、天然の布や染材などの調達から始まるのだ。

根気と決断力が色を左右する

材料が揃ったら、いよいよ染めの作業。今回は氏が自ら、藍染めを実演してくれた。

使用するのは、発酵が進み表面に泡が出ている「藍が立った」状態の染液。
藍の葉とアルカリ性の石灰、酒などを入れて発酵させるため、仕込みには2週間ほどかかる
藍の葉とアルカリ性の石灰、酒などを入れて発酵させるため、仕込みには2週間ほどかかる
泡の膜を避け、いよいよ地下水に浸した麻を染液へと入れていく。手を使い、ゆっくりと丁寧に生地を揺らし続ける。
ムラにならないよう、手を止めずに根気よくが大切
ムラにならないよう、手を止めずに根気よくが大切
5分経ったら染液から取り出し、余分な色素を洗い流す。頃合いを見て、また染液に浸す。目指す色合いになるまで、ひたすらその作業を繰り返すのだ。
  • 最初はグリーンのような色だが、繰り返すうちに綺麗な藍色へと変わる
  • 最初はグリーンのような色だが、繰り返すうちに綺麗な藍色へと変わる
「色は一度入ると元には戻せないため、色の状態を見極めながら進めることが大事です。根気と同時に決断力も必要になりますね」

植物染には、マニュアルと呼ばれるものはないという。「すべては失敗と経験から学ぶしかない」と工房で働く染色職人は皆口を揃える。なぜなら、使う繊維、作業時の気温や湿度、時間などの条件が変わると色の表れ方が変わってしまうからだ。不確定要素が多いため、自らの感覚を頼りに臨機応変に対応するほかないという。

日本の鮮やかな伝統色を未来へつなぐ

今年73歳を迎えた吉岡氏は、早稲田大学第一文学部文芸学科を卒業後、美術図書出版「紫紅社」を設立し、美術図書の編集長を務めるとともに、美術展覧会などの企画や監修、さらには広告のアートディレクターとしても活躍していた。

転機が訪れたのは、42歳のとき。

「仕事も順調だった最中、親父が急に亡くなってしまったんです。とにかくやるしかない……という想いで5代目当主を継ぐ決意をし、人生を一からやり直しました」
「もう一踏ん張りするしかない」と、今もなお究極の色を追い求める吉岡氏
「もう一踏ん張りするしかない」と、今もなお究極の色を追い求める吉岡氏
それから、長年にわたり父のもとで修業を積んでいた染師と二人三脚で、日本の伝統色の再現に取り組み続けてきた吉岡氏。

編集者として、法隆寺や正倉院に残る美しい染織物や、世界の染織品を数多く見てきていた氏は、染めの仕事に携わるにあたり「自分も昔の植物染の職人のように鮮やかな色を出したい」と考えたという。

「日本文化は、ときに侘び寂びと表現されることがありますが、鮮やかな色彩こそが日本の伝統色です」
茜色に染められた絹。「染屋の濡れ色」と言って、濡れているときが一番美しく感じるのだという
茜色に染められた絹。「染屋の濡れ色」と言って、濡れているときが一番美しく感じるのだという
それが、氏が今も古くから伝わる植物染にこだわる理由だ。「継続が文化となる」と、その文化を絶やさぬよう努力を重ねている。

しかし、地球環境の変化に伴い、納得のいく染色材料を手に入れるのが難しくなってきていると氏は警鐘を鳴らす。

「自然環境の中で生き残ってきた植物からは、力強い色が出ます。しかし、人間が地球に手を加えすぎたことで、今は大地が弱ってしまいました。だから、欲しい材料を手に入れるのが非常に難しくなっています。再び、植物を豊かにする大地になってほしいですね」

時期によって手に入る材料も異なるため、自分の足を使って各地に植物を探しにいくことも多いという。

追い求める伝統色の再現に向け、時間と労力は惜しまない。手間と時間をかけて生み出される「染司よしおか」の色彩からは、日本の美しい季節が感じ取れた。

染司よしおか
https://www.textiles-yoshioka.com
記事一覧へ

RECOMMENDED

あなたへのおすすめ

RANKINGランキング
Daily
Weekly
PICKUP今週の編集部おすすめ記事

    RELATED

    関連リンク

    FOLLOW US

    Mail News

    レクサスの最新情報をお届けしています。
    VISIONARYの記事情報も配信中。

    Twitter

    VISIONARYの最新記事や過去の人気記事を投稿します。

    配信通知

    VISIONARYの最新記事をプッシュ通知でお届けします。

    RANKINGランキング
    Daily
    Weekly
    PICKUP今週の編集部おすすめ記事
      FOLLOW USVISIONARYの最新情報をお届けします。
      • Mail News
      • Twitter
      • 配信通知