VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

EXPERIENCE

グラフィックデザイナーにとっての聖地──
富山県美術館

2019.08.09 FRI
グラフィックデザイナーにとっての聖地──富山県美術館

ノンフィクション作家であり、美術評論家でもある野地秩嘉氏が、車で訪れたい美術館を全国から厳選して紹介する連載「車でしか行けない美術館」。第13回は、目前に運河、遠くには立山連峰を望む絶景のロケーションにあり、20世紀美術とポスターのコレクションで人気の富山県美術館を訪ねた。

Text by Tsuneyoshi Noji
Photographs by Atsuki Kwano

SHARE

この記事をシェアする

こちらの記事は音声でもお楽しみいただけます。

COLLABORATED WITH

水が美しい町にたたずむ美術館

運河と水の景色、日本海の波涛(はとう)を見て、感受性を高めておく。すると美術館に行ってから、さらに感動することができる。感受性は自ら鍛えるものだ。

さて、富山県美術館がオープンしたのは2017年。ただ、前身の富山県立近代美術館は1981年に開館している。富山県立近代美術館は20世紀美術とポスターのコレクションで知られる館だった。
  • 目前には富岩運河環水公園を、遠方には立山連峰を望む
  • ガラス張りのファサードが印象的な建物は建築家内藤廣氏によるもの
富山県美術館の雪山行二館長は館のコンセプトについて、次のように述べている。

「当館は、ピカソ、ミロ、シャガール、デュシャン、ポロック、ジャスパー・ジョーンズ、アンディ・ウォーホル、フランシス・ベーコンの作品など、20世紀美術については国内屈指のコレクションを誇っていますが、これまでは多くの人に広く親しまれてきたとは言えません。

新しい美術館では『見る』はもとより、『創る』『学ぶ』『遊ぶ』『楽しむ』『発表する』などをいっそう充実させることによって、より多くの人にアートを体感していただき、市民、県民、美術愛好家の交流の場となってほしいと願っています」
ジャクソン・ポロック「無題」1946年 富山県美術館所蔵
ジャクソン・ポロック「無題」1946年 富山県美術館所蔵
実際、富山県美術館に行ってみると、「遊んでもらおう」「楽しんでもらおう」という工夫がされている。

たとえば、展示室に入るには入場料がいるけれど、館内の廊下に展示されている彫刻を見たり、図書スペースへの入場(または利用)するのは無料だ。屋上の公園、アトリエなども無料で入っていくことができる。

特に屋上庭園にはさまざまな遊具があり、しかも眺めが美しいので、保育園や幼稚園の子どもたちが大勢、やってくる。
  • 屋上庭園にはさまざまな遊具があり、子どもたちの遊び場となっている
  • 屋上庭園にはさまざまな遊具があり、子どもたちの遊び場となっている
  • 屋上庭園にはさまざまな遊具があり、子どもたちの遊び場となっている
  • 屋上庭園にはさまざまな遊具があり、子どもたちの遊び場となっている
展示室にいても、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてきたりする。これまでの美術館では「静粛に」と子どもたちを叱りつけたのだろうが、この美術館では作品を静かに鑑賞する人とはしゃぐ子どもたちが同居している。

美術館の外には、子どもたちが興味深そうに眺めていた屋外彫刻がふたつあった。ひとつは三沢厚彦の彫刻「ANIMALS」。

「森からふらっと遊びに来て、あまりの居心地の良さに、ここに居ついてしまった」というクマの像である。1基ではなく、大きなクマ、小さなクマと合計4つのクマ像が同館の屋外、および館内の廊下にある。
  • 三沢厚彦(作品手前より)「ANIMALS 2017-03-B、01-B、02-B」2017年 ブロンズ
  • 屋内にも巨大なクマの彫刻が展示されている。三沢厚彦「ANIMALS 2017-01」2017年 富山県美術館所蔵
もうひとつの彫刻は男女がベンチに腰かけている像で、イギリスの彫刻家、リン・チャドウィックの作品「座る男と女」。この像があるのは美術館の敷地内に流れる、いたち川の川べりだ。具象彫刻ではないものの、いかにも男女のカップルが川べりに腰かけ、夕涼みを楽しんでいるように見える。ただ、冬の間は雪のなかで寒そうにしているのだろうけれど。
リン・チャドウィック「座る男と女」1989年 ブロンズ 富山県美術館所蔵
リン・チャドウィック「座る男と女」1989年 ブロンズ 富山県美術館所蔵

20世紀美術と椅子

同館で見落としてはいけないのが20世紀美術、そして椅子とポスターのコレクションだ。展示替えされることもあるが、常設展示されている作品だ。20世紀美術は館長の言葉にもある著名美術家たちの作品だ。教科書に載っている美術作品に出会うことができる。

椅子はただ展示してあるだけではない。いくつかの椅子は腰かけることができる。見た目のデザインの美しさだけでなく、座り心地も体感することができる。

椅子のような実際に使われる道具は座ってみないと、その良さが分からない。そういう意味で富山県美術館の学芸員は入場者の気持ちに寄り添って企画を考えている。並んでいる椅子も名品ばかりだ。
巨匠といわれるデザイナーたちによる約170種類の名作チェアがコレクションされている
巨匠といわれるデザイナーたちによる約170種類の名作チェアがコレクションされている
チャールズ・イームズがデザインしたイームズチェア、チャールズ・レニー・マッキントッシュによるラダーバックチェア……。名前は知らなくとも、誰もがどこかで見たことのあるデザインだ。

また、フランク・ロイド・ライト、アントニオ・ガウディ、ル・コルビュジエといった建築家がデザインした椅子もある。たとえば、ガウディがデザインした椅子はバルセロナにあるサグラダ・ファミリア教会の外形の曲線に似ている。

イームズのような工芸及び工業デザイナーの椅子は用途に寄り添ったもので、デザイン自体は個性的なものではない。一方、ガウディやコルビュジエの椅子は装飾的だ。建築家は椅子に対して、「自らの個性を強調しよう」と考えてしまうのだろうか。

ポスターには絵画と同じくらい力がある

くり返すが、同美術館の前身、富山県立近代美術館はグラフィックデザイン、特にポスターに力を入れてきた。今も続く「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」が始まったのは85年である。そして、館の熱意にこたえて、日本を代表するグラフィックデザイナーたちが富山を訪れて、オリジナルのポスターを制作したり、講演、レクチャーなどを行ってきた。グラフィックデザイナーにとって、富山県美術館はある種の聖地となっている。
  • 富山県美術館のでは総計1万3000点を超えるポスターコレクションを誇る
  • 富山県美術館のでは総計1万3000点を超えるポスターコレクションを誇る
  • 富山県美術館のでは総計1万3000点を超えるポスターコレクションを誇る
学芸課の副主幹、稲塚展子さんはポスターと美術館の関係について、こう語る。

「ポスタートリエンナーレの第1回展が1985年、つづく1987年、当館の前身にあたる館で亀倉雄策、田中一光、福田繁雄、永井一正という第一人者、4人による展覧会が開かれました。

その頃はまだ『ポスターとは町なかで貼られているもの』という印象の制作物でした。それを美術館のなかで展示しようと決めたのです。美術館にポスターを展示して、町で眺めるのと違う視線で見れば、誰もが絵画と同じくらい力がある作品だと分かる。そういうコンセプトでポスターの展示を始めたところ、大成功でした。

ポスタートリエンナーレには海外からも観客がやってきますし、これまで展示したポスターのコレクションに関心を持って見に来る方も大勢、いらっしゃいます」

稲塚さんは富山県美術館への移転新築後からポスター、グラフィックデザインの展示を担当しているだけあって、大いなる熱意で仕事をしている。

確かに、同館はじめ、いくつかの館が本格的にとり上げるまで「ポスターやグラフィックデザインはちゃんとした美術館が展観する作品ではない」と考える人もいたのである。

しかし、富山の人々の努力で今やポスターは人気のある展示作品となった。

では、ポスターはどういう気持ちで眺めればいいのだろうか。ポスターの見方とはどんなものか。それもまた稲塚さんが教えてくれた。
亀倉雄策氏が手掛けた東京オリンピックのポスター。富山県美術館所蔵
亀倉雄策氏が手掛けた東京オリンピックのポスター。富山県美術館所蔵
「ポスターの見方? ですね。ポスターは一枚の紙に載せて届けられるメッセージです。手紙だと思って見るのはどうでしょう。たとえば海外のポスターには読めない文字が載っています。それでも知らない国、知らない世界からのメッセージを、言葉を超えて視覚で伝えてくれるのがポスターだ。そう私は考えています」

あらためて展示してあった東欧のポスターを眺めてみた。読めない文字は読めないのだけれど、何を伝えようとしているかはデザインでつかめる。

ポスターの目的とは美しさの追求ではなく、人をハッとさせること、振り向かせることだと思った。ポスターが持つ力とは表現にいかに強い存在感を持たせるかではないか。

富山県美術館の宝物

富山県美術館における最高の作品は屋上から眺めることができる。

屋上に上がって外を見れば目の前に雪をかぶった立山連峰がある。雄山、剣岳など北アルプスの3000メートル級の山々が屏風のように並んでいる。絶景という言葉は立山連峰のためにあると言ってもいい。

7月から9月にかけては山の雪は少ない。稜線がひときわ白いのは10月から6月だ。ただ、不思議なのは剣岳だ。山頂が剣のようにとがっていることもあり、雪が積もりにくく、また風で飛ばされてしまうのだろう。雪が残っている部分が少ない。
ワンタンメンとチャーハン。いずれも懐かしい素朴な味わいが魅力
ワンタンメンとチャーハン。いずれも懐かしい素朴な味わいが魅力
美術館で作品を見る。その後、屋上から立山連峰を眺め。非常に清々しい気分になる。そうして、満足した後で、地元の中華料理店「柳の下 末弘軒 本店」に立ち寄ってワンタンメンを食べる。淡雪のようなうすい皮のワンタンを食べ、透明なスープを飲み干すと、さらに清々しい気分になる。
昭和6年に屋台からスタート。以来、地元の人々に愛されつづけてきた
昭和6年に屋台からスタート。以来、地元の人々に愛されつづけてきた
富山県美術館
富山県富山市木場町3-20
Tel.076-431-2711
開館時間 : 9:30〜18:00(入館は17:30まで)
※屋上庭園「オノマトペの屋上」は8:00〜22:00(入館は21:30まで)
休館日 : 水曜日(祝日は除く)、祝日の翌日、年末年始
※屋上庭園「オノマトペの屋上」は12月1日〜3月15日まで冬期休園
https://tad-toyama.jp/

柳の下 末弘軒 本店
富山県富山市総曲輪4-6-9
Tel.076-421-7019
営業時間 : 11:00〜20:00(L.O.)
※火曜日は15:00まで
定休日:水曜日、第3火曜日
記事一覧へ

BACKNUMBER 車でしか行けない美術館

    RECOMMENDED

    あなたへのおすすめ

    RANKINGランキング
    Daily
    Weekly
    PICKUP今週の編集部おすすめ記事

      RELATED

      関連リンク

      FOLLOW US

      Mail News

      レクサスの最新情報をお届けしています。
      VISIONARYの記事情報も配信中。

      Twitter

      VISIONARYの最新記事や過去の人気記事を投稿します。

      配信通知

      VISIONARYの最新記事をプッシュ通知でお届けします。

      RANKINGランキング
      Daily
      Weekly
      PICKUP今週の編集部おすすめ記事
        FOLLOW USVISIONARYの最新情報をお届けします。
        • Mail News
        • Twitter
        • 配信通知