JOURNEY

ステイファンディングで町興しに取り組む、
地域貢献型ホテル「商店街ホテル 講 大津百町」

2019.08.07 WED
JOURNEY

ステイファンディングで町興しに取り組む、
地域貢献型ホテル「商店街ホテル 講 大津百町」

2019.08.07 WED
ステイファンディングで町興しに取り組む、地域貢献型ホテル「商店街ホテル 講 大津百町」
ステイファンディングで町興しに取り組む、地域貢献型ホテル「商店街ホテル 講 大津百町」

滋賀県大津市内の商店街に点在する町家をリノベーションしたホテル「商店街ホテル 講 大津百町」。宿泊することで町を活性化させる、ステイファンディングというこれまでにない試みに取り組んでいる。その仕組みや根底にある想いに迫った。

Text by Hitomi Miyao 
Photographs by Akira Yamaguchi

築100年超の町家を、もう100年生き続けるホテルに

かつて東海道五十三次最大の宿場町として栄えた、滋賀県大津。3つのアーケードを中心とした商店街があり、築100年以上の歴史を誇る町家が多く残る。そんな町家をリノベーションして開業した「商店街ホテル 講 大津百町」は、ステイファンディングという新しい取り組みを取り入れた地域貢献型のホテルだ。

「東海道の最終地点であり、宿場町として栄えた大津。この町の魅力のひとつが、その名残を感じさせる美しい町家がたくさん残っていることです。ですが近年の高齢化に伴い、維持や改装に費用がかかる町家は取り壊されることが多くなっていました。時代とともに少なくなりつつある町家のある風景を、よりよい形で存続させることはできないかとオープンしたのがこのホテルです」

そう語るのは、「商店街ホテル 講 大津百町」のマネージャー小川恭呼氏だ。
「どの棟も、空き家になっていた町家をフルリノベーション。それぞれに雰囲気が異なります」
「どの棟も、空き家になっていた町家をフルリノベーション。それぞれに雰囲気が異なります」
全部で7棟からなる「商店街ホテル 講 大津百町」は、フロントやラウンジ機能を併設した部屋割りタイプの「近江屋」や「茶屋」のほか、一棟貸しタイプの「鈴屋」、「糀屋」、「鍵屋」、「丸屋」が商店街を中心に点在。琵琶湖ならではの淡水魚専門店や蕎麦店などの商店に挟まれた棟もあり、ホテルでありながら地元の人たちが日々の暮らしを営む町に調和しているのが印象的だ。
商店街内にたたずむ「鈴屋」。一棟貸しタイプはミニキッチン併設で、商店街で購入した食材を調理することも可能
商店街内にたたずむ「鈴屋」。一棟貸しタイプはミニキッチン併設で、商店街で購入した食材を調理することも可能
商店街の喧騒をBGMに憩いのひとときを過ごせる「丸屋」のダイニングスペース
商店街の喧騒をBGMに憩いのひとときを過ごせる「丸屋」のダイニングスペース
オーナーは滋賀県を拠点にする工務店の谷口工務店、運営するのは新潟県の温泉宿「里山十帖」などの運営で知られる株式会社 自遊人。すべての建物は、谷口工務店が工務店ならではの強みを活かしてフルリノベーション。元の骨組みや外装以外はほぼスケルトンにし、耐熱補強や断熱、防音などを施すことで、快適で今後100年以上使い続けられるような現代の町家づくりにこだわった。北欧家具を取り入れたインテリアや庭園は、町家の雰囲気を活かしつつモダンに昇華し、リラックスして滞在できるよう工夫されている。
旧東海道沿いに位置する「茶屋」のジュニアスイートには、「エッグチェア」や「スワンチェア」を設置
旧東海道沿いに位置する「茶屋」のジュニアスイートには、「エッグチェア」や「スワンチェア」を設置
ラウンジスペースは宿泊客なら24時間自由に利用できる。町家と北欧家具がマッチした空間が印象的
ラウンジスペースは宿泊客なら24時間自由に利用できる。町家と北欧家具がマッチした空間が印象的

泊まることで町を活性化させる、ステイファンディングという考え方

町が存続できるような仕組みを取り入れているのは、ホテルの建物だけではない。「商店街ホテル 講 大津百町」が提案するのは、宿泊を町への投資と捉え、泊まることで地域が活性化するステイファンディングという試みだ。

「地域に貢献し活性化につなげたいという想いから、ホテル内にはレストランを併設していません。コンセプトは、“街に泊まって、食べて、飲んで、買って”。宿泊するだけでなく、町を思い思いに散策していただき、商店街で買う、食べる、飲むを体験してもらいたい、というのが私たちの願いです」

そのため、コンシェルジュが近隣にあるお勧めの店を紹介したり、30分程度の商店街ツアーを随時開催して商店とのコミュニケーションを促したりなど、町との関わりを深めることができる取り組みも盛んだ。商店街には歴史ある店構えや、伝統のある店など見どころも多く、店主たちとの交流が楽しめるのも魅力のひとつになっている。

「ホテルで提供するものも、地域とのつながりを感じられるものにこだわっています。宿泊者専用ラウンジで提供するお茶請けのクッキーは、商店街にある『中川誠盛堂茶舗』の朝宮茶を練り込んだ自家製。また希望者に向けた有料の朝食では、かつて宮内省御用達だった商店街の老舗『八百与』の漬物を使用しています」

このほか、出版事業を手がける自遊人ならではの試みとして、オリジナルで制作する大津のガイドブックもある。宿泊者に配布されるこの冊子は、自遊人の代表である岩佐十良氏がこの一帯を歩き、自身の目で選んだお勧めを15店舗掲載。読み応えのある内容になっている。
「商店街ホテル 講 大津町」周辺マップやガイドブックは近隣の散策にぴったり。琵琶湖までも歩ける距離だ
「商店街ホテル 講 大津町」周辺マップやガイドブックは近隣の散策にぴったり。琵琶湖までも歩ける距離だ
菱屋町商店街、丸屋町商店街、長等商店街の3つが連なるアーケードには、昔ながらの風景が残る
菱屋町商店街、丸屋町商店街、長等商店街の3つが連なるアーケードには、昔ながらの風景が残る
さらに、宿泊料から1名1泊につき150円を地域のための寄付金として充当。このお金は大津市の商店街を取りまとめる大津市商店街連盟に寄付され、連携しながら使い道を決めていくのだという。地域はもちろん、寄付をした宿泊客にも還元されるような使い道を考えているそうだ。かつて日本各地に風習としてあった「講」という相互扶助組織さながら、みんなの力を結集し、還元していく資金。どんな形で活かされていくのか楽しみだ。

「このほか、スタートしたばかりですが、宿泊客以外の方に向けたオープンなイベントなども少しずつ開催中です。このホテルをメディアのように媒介として商店街を活性化し、いろいろなことが広がっていけばいいなと思っています」

商店街という地元の人たちを中心にしていたコミュニティに、観光客という新風を吹き込む「商店街ホテル 講 大津百町」。それによって商店街だけでなく地域までもが活性化し、新たな形へと発展していく……。それもまた、新しい地方再生の形なのかもしれない。

商店街ホテル 講 大津百町
http://hotel-koo.com/

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