ART / DESIGN

ゴミゼロを掲げるブリュワリー&レストラン「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」

2019.07.29 MON
ART / DESIGN

ゴミゼロを掲げるブリュワリー&レストラン「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」

2019.07.29 MON
ゴミゼロを掲げるブリュワリー&レストラン「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」
ゴミゼロを掲げるブリュワリー&レストラン「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」

「ゼロ・ウェイスト宣言」でゴミゼロを標榜し、SDGs(注)の未来都市にも認定されている徳島県上勝町。この町の課題を解決すべく、その理念を実践するブリュワリー&レストランの活動に迫る。

Text by Hitomi Miyao 
Photographs by Akira Yamaguchi

ゴミを出さない仕組みを追求した、発信型施設

徳島県の中心部から車で1時間ほど。豊かな森林に囲まれた上勝町の山あいに、一際目をひくスタイリッシュな建築がある。建物の壁に「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」と書かれたこの場所は、クラフトビールの醸造所とビールを楽しむことができるレストラン、日用品や雑貨を扱うジェネラルストアを備えた複合施設だ。

この施設が面白いのは、ゴミゼロを掲げる自治体として世界的にも注目を浴びる町にあるだけに、随所でその理念を実践していること。
上勝町の建物で使用されていた窓枠をリサイクルしたブリュワリーの窓。不ぞろいさがアクセントになっている
上勝町の建物で使用されていた窓枠をリサイクルしたブリュワリーの窓。不ぞろいさがアクセントになっている
「定番のビール『KAMIKATZ LEUVEN WHITE』は、上勝の特産である柚香という柑橘を香りづけに使用していますが、果汁を搾った廃棄対象の皮を活用しているため、ゴミの削減に一役買っています。また、クラフトビールを造る過程でできた麦芽粕は、お菓子やグラノーラなどに再利用しています」

そう話すのは、代表の田中達也氏。このほか、生ビールのテイクアウト用に繰り返し使用できるリターナブルボトルを採用したり、建物の材料に古材や廃材を利用したりするなど、「リデュース」「リユース」「リサイクル」の3Rを推進している。
「生産、流通、販売の全過程で過剰な梱包や包装をなくし、ゴミを削減することを意識しています」と田中氏
生ビールのテイクアウト用に繰り返し使用できるリターナブルボトル
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この町の魅力を最大限に伝え、人を呼ぶためにできること

実は田中さん、クラフトビールはおろか飲食業も未経験だった。本業は徳島市にある衛生検査コンサルティング会社で、完全なる異業種参入だ。きっかけは、上勝町の前町長から「この町で何かやってもらえないか」と声を掛けられたことだったという。

町の人のためになる事業をやりたいと、最初に始めたのは「上勝百貨店」という小売店。コンビニもない上勝町の人に向けて、調味料や乾物、生活雑貨をはじめとする日用品を量り売りする店だった。利用客が容器を持参し、必要な分だけ購入できるシステムを採用した。
上勝百貨店は、現在ジェネラルストアとしてリニューアル。食料品やクラフトビールの量り売りに対応している
上勝百貨店は、現在ジェネラルストアとしてリニューアル。食料品やクラフトビールの量り売りに対応している
「過剰包装の問題はよく取り沙汰されていますが、日用品も例外ではありません。しかもこの町の人たちは、ゴミの分別が大変だから、ゴミをできるだけ少なくしたいんです。利用者からはすごく好評でしたが、お客さんが近所の人に限定されるうえ、そもそも限界集落で人口が少ないため安定的な売り上げにつながりづらく、採算ベースに乗せるのに苦労しました」
上勝町をはじめ、地元徳島県産の新鮮な食材を使ったフードも提供。自家製ベーコンやソーセージが好評だ
上勝町をはじめ、地元徳島県産の新鮮な食材を使ったフードも提供。自家製ベーコンやソーセージが好評だ
「ビジネスとして存続するには、この町だけで完結させるのではなく、外に目を向けないとダメだと思いました。観光のように交流人口を増やして、そこでお金を生む仕組み──わざわざこの町に行きたいと思わせるものがいいのではないかと考えました」

ゼロ・ウェイストを体現するブリュワリー&レストラン

あれこれ思案した揚げ句、一番のアピールポイントになると行き着いたのが、この町が標榜し、実践しているゴミゼロへの取り組みだったという。

「でも真面目に啓蒙してもしょうがない。楽しくて、何度でも足を運びたくなるものは何なのか? そう考えたとき、この大自然のなかで造りたての生ビールとバーベキューを楽しむことができたら最高じゃないかと思ったんです。しかも土地のものを使って、ゴミをなるべく出さない仕組みづくりを取り入れた施設だったら、この町のことやゴミゼロへの取り組みを多くの人に知ってもらうことができます」
出来たてのフレッシュなクラフトビールを常時3種類ほど提供。このほか瓶ビールも販売している
出来たてのフレッシュなクラフトビールを常時3種類ほど提供。このほか瓶ビールも販売している
時は2012〜2013年頃、ちょうどクラフトビールが盛り上がりを見せ始めたタイミングだった。たまたま交流があったトランジットジェネラルオフィス代表の中村貞裕氏や建築家の中村拓志氏など、東京の知人たちに相談すると、すぐさまバックアップしてくれたという。

「若い世代が面白いと思ってくれるようなことをやらないと、絶対に続かない。だからこそ、リスクを負ってでもやりたかったし、それを外に向けてきちんと発信したかった。結果、ゼロ・ウェイストの町にふさわしいディレクションやボトルなどのデザイン、建築……。どれをとっても素晴らしいものになりました」

なかでも、上勝町にあった家屋の廃材やゴミ集積所にあった家具などを最大限活用し、できる限りゴミを出さない方法で作られた建物は、町のシンボルのような存在になっている。クラフトビールにおいて最も重要でビールの味を決めるブリュワーも無事に見つかり、構想から1年もかかることなく2015年5月30日、ゴミゼロの日にオープンした。

「グランドオープン前の内覧会では、町の人たちにお披露目しました。町の人たちに理解してもらえないと、意味がないですから。最初は新しいことに抵抗していた人たちも、上勝町の廃材を活用した建物に理解を示してくれたりして、うれしかったですね」

知ってもらうことで広がる、課題解決の可能性

現在は、店から少し離れた場所にもう1棟ブリュワリーを建設し、OEMのクラフトビールなどを完全受注で生産する拠点を設け、事業も拡大している。クラフトビールの製造を発注する企業やメーカーも、上勝町やRISE & WINの理念に共感してくれているところばかりだという。

2016年には東京・東麻布に上勝町の魅力を発信するべく、ビアバー「KAMIKATZ TAPROOM」をオープン。こちらも上勝町の廃材や古家具などを使った内装で、ビールだけでなく徳島県産のフードも楽しむことができる。
キャンピングカーはインテリアにもこだわり、リラックスできる空間に仕上げた
キャンピングカーはインテリアにもこだわり、リラックスできる空間に仕上げた
そして2019年春には、RISE & WINに併設するかたちで1日1組限定の宿泊施設を開業した。キャンピングカーとゲル型のテントで、オープンエアのバスタブも完備している。

「移動手段が車しかない山間部にある店なので、これまでドライバーの方はビールを飲むことができませんでした。ここに泊まれば気にせず飲むことができるし、青空の下でバーベキューを楽しむことができます。ビールを飲んで、星空の下で風呂に入って、泊まって……、この場所に少しでも長く滞在してほしいという思いで実現しました」
貸し切り型キャンプサイトのような感覚で、上勝町とRISE & WINの魅力を体感できるのが売り
貸し切り型キャンプサイトのような感覚で、上勝町とRISE & WINの魅力を体感できるのが売り
RISE & WINを媒介にして上勝町のことを知ってもらうことが、巡り巡ってゴミを減らすことにつながっていくはず、と語る田中さん。実際、この場所をきっかけに東京や徳島市などから移住する若い世代も出てきているという。

「この町が抱えている少子高齢化やゴミの問題は、いずれは日本全国の自治体でも起こり得る課題だと思っています。そのためにも、ひとつの解決策としてRISE & WINの存在を広く知ってもらいたい。町の新しいゴミステーションが完成する2020年春に向けて、まだまだやるべきことはたくさんありますが、キャッチーに伝えていくこと、発信していくこと、仕掛けていくことの重要さを実感しています」

(注)2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成される。


RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store
https://www.kamikatz.jp

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