ART / DESIGN

世界中の旅先で手に入れた絵葉書

2019.07.19 FRI
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世界中の旅先で手に入れた絵葉書

2019.07.19 FRI
世界中の旅先で手に入れた絵葉書
世界中の旅先で手に入れた絵葉書

取材のため世界の各地を旅してきた中村孝則氏が、現地に着いて真っ先に買うのが絵葉書だという。本コラムでは、旅の達人である中村氏だからこそ知る、絵葉書の意外な利用法について記す。

Text by Takanori Nakamura
Photographs by Masahiro Okamura

頼もしい旅の相棒になる絵葉書

海外出張にでかけたときに、いつも真っ先に買うものがある。それは絵葉書なのであった。空港のキオスクや街の土産もの店を物色しては、とりあえず目についた絵葉書を片っ端から手に入れるのだ。

なあんだ絵葉書か、もったいぶって書くほどのことか。と思われるだろうが、絵葉書は本来の目的のほかにも色々な使い方があるので、読者の皆さまに、あらためてオススメしたいのだ。

まずは空港でキャッシングした高額紙幣をチップ用に細かくできるうえ、絵葉書の値段で現地の物価感を知ることもできる。店員さんたちとのやりとりは、現地の人たちとの意思疎通のウォーミングアップにもなる。

絵葉書というのは、大抵の場合はその街なりエリアのベストスポットの、しかも最高の気象条件の風景の写真が印刷されている。いわゆるインスタ映えではないが、私の場合は、ほぼ取材で旅をしているので、絵葉書はロケ場所の格好の資料というわけだ。

同行するカメラマンがいる場合は、彼らと絵葉書の写真を読み解くのが、最初の大切な仕事である。その場所を撮影するアングルやタイミングを推察することもできるし、絵葉書そのものからは、現地の印刷レベルやデザイン、タイポグラフィの好みなども参考にしたりする。

現地のタクシーでは、絵葉書を手渡して、「この場所に連れていってほしい」と道案内に使うこともしばしば。時に、「いまそこは洪水で行かれない」とか、「この時間は渋滞がひどいよ」とか、ナマの最新情報を得ることもあった。

そうした情報は、得てしてガイドブックにも記載されていないから、その絵葉書に直接書き込めば、資料整理の貴重な旅メモにもなる。一枚100円たらずの絵葉書は、私にとって旅の頼もしい相棒なのである。

もちろん、絵葉書なのだから文章を綴って、実際に郵送することも忘れない。たいがいは、旅や取材の終盤くらいだが、ホテルやカフェで時間を作っては、不義理をしているお詫びやら、不精していた礼状なんかを、旅先からの絵葉書で許してもらおうという魂胆である。ちょっとズルい気もするのだけど。

それらはホテルのチェックアウトの際に、あまった小銭などを郵送代に上乗せし、スタッフに投函をお願いするのである。無事に届くかどうかは、その国の郵便事情にもよるが、昨年末にモスクワから送った絵葉書は、なんと3ヵ月もかかって届いたそうだ。エアメールと書いているにもかかわらず、どうやらその絵葉書は、鉄道や船を経由して届いたそうである。

まあ、そういう小さなハプニングも、絵葉書の愉しさと解釈すべきなのだろう。そして、これは「どれだけ自分好きなの?」と訝しがられるが、ときたま自分宛てにも絵葉書を書く。

世界最南端の郵便局から自分に宛てた絵葉書

中村氏が世界最南端の郵便局から自分に宛てた絵葉書
かれこれ10年以上前になるだろうか。南極の取材で世界最南端の郵便局に立ち寄ったことがある。

その郵便局名は、Port Lockroy(ポート・ロックロイ)という。南緯64度49分、西経63度31分。Goudier Island(ゴーディエル・アイランド) という、直径100メートルあまりの南極半島の小さな島の中に、その郵便局はある。

この郵便局は、もともと1904年から英国海軍が南極観測のために設置した基地であったのだが、1944年2月13日から、英国の正式な郵便局として運営をはじめている。現在は、南極観光の人気スポットとして、あるいは世界中の郵便マニアの間では、知られた存在である。

その郵便局の島は、あまりに小さくてクルーズ船が停泊できるような桟橋もない。船からは、ゾディアック(フランス製の軍用ボート)に乗り換えて、ようやく上陸するのだが、それも天候次第なのである。

幸運にも上陸を果たした私の目に飛び込んできたのは、小さな木造平屋の郵便局の入り口に群れをなすペンギンたちであった。そこは彼らの営巣地でもあるという。大げさではなくて、ペンギンをかき分けながら局内に辿り着いた。

その郵便局では、そこでしか買えない初日カバーや記念切手、もちろん絵葉書も購入した。そして、その場で実家や友人宛てに数枚をポスト投函した。

待てよ、本当に日本に届くのだろうか? 少なからず疑念を抱いた私は、自分宛てにも一通投函することにした。自分宛てに絵葉書を送るのは、この時が初めてであったが、はたして帰国して2ヵ月後。無事に東京の事務所にその絵葉書は届いたのであった。今では大切な旅の思い出になっている。それ以来、自分宛てに絵葉書を送るようになったというわけだ。

ちなみに、旅先で残った絵葉書は、残らず持ち帰っている。コレクションなんて大それたものではなくて、原稿の校正に使うのである。写真の確認はもちろんだが、現地名の正式な表記やデータのすり合わせに重宝するからである。実は、この原稿も、その絵葉書のデータを参考に書き下ろしたものである。

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ご回答いただきありがとうございました。

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