VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

CULTURE

庄内を世界一幸せなまちにする。
ヤマガタデザインが取り組む「本物」のまちづくり

2019.07.05 FRI
庄内を世界一幸せなまちにする。ヤマガタデザインが取り組む「本物」のまちづくり

ホテル、児童施設、農業、人材育成……。民間企業でありながら、完全地域主導のプロジェクトを多数手掛ける「ヤマガタデザイン」。多岐にわたる活動の全容と、その原動力に迫る。

Text by Aoi Ishikura(See Visions)
Photographs by Nozomi Takahashi
Edit by Hitomi Miyao

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「14ヘクタールの未整備地」という課題が民間主導のまちづくり会社を生んだ

鳥海山や出羽三山が裾野を引く、山形県庄内地方。美しく広がる水田の真ん中に、「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」(以下、スイデンテラス)はある。“山形庄内の魅力を体感する、田んぼに浮かぶホテル”をコンセプトにつくられたこのホテルの設計を手掛けたのは、建築家の坂 茂氏。木造の施設は平らな板を組み合わせた折板構造になっており、構造が意匠になった大スパンの建築だ。

客室は全143室。人気の「スイデンビュー」の部屋からは、四季折々の庄内の田園風景が楽しめる。庄内地域をより深く知ることができるライブラリーや、山形の地酒や食べ物、手工芸品などを扱うショップもあり、地域の魅力を発信する拠点となっている。館内には100パーセント源泉掛け流しの温泉と、その横にはフィットネスジムも完備。レストラン「FARMER'S DINING IRODORI」は、海の幸・山の幸豊富な食の都・庄内の食を楽しみながら、好天なら目の前に月山を眺めることができる、絶好のロケーションが魅力だ。
春夏には青々とした田んぼ、秋には黄金色の稲穂、冬は飛来する白鳥と、一年を通して見事な借景を楽しめる
春夏には青々とした田んぼ、秋には黄金色の稲穂、冬は飛来する白鳥と、一年を通して見事な借景を楽しめる
木造の折板構造や、紙管を採用するなど、坂 茂氏らしい特徴を随所に感じるホテル共用部
木造の折板構造や、紙管を採用するなど、坂 茂氏らしい特徴を随所に感じるホテル共用部
このホテルの運営をはじめ、さまざまな角度で山形県鶴岡市をはじめとする庄内地域のまちづくりを手掛けるのが、「ヤマガタデザイン」。創業者で代表取締役を務める山中大介氏は大手不動産デベロッパーを経て、2014年、鶴岡にあるバイオベンチャー「Spiber」に入社。その後2カ月で、サイエンスパークのまちづくりエリアの開発に取り組むべく、「ヤマガタデザイン」を立ち上げた。

山中氏がこの地に移住したとき、サイエンスパーク内には14ヘクタールもの土地が未整備のまま残されていた。鶴岡市は1999年、市内の約21ヘクタールの未整備地を活用した「サイエンスパーク構想」を発表。2001年に慶應義塾大学先端生命科学研究所の誘致に成功し、行政主導で開発を進めてきたものの、そのうちの14ヘクタールは使いきれないまま取り残されていた状態だった。
「この広大な土地を活かして庄内に人を呼ぶ仕組みを考えて生まれたのが、スイデンテラスです」
「この広大な土地を活かして庄内に人を呼ぶ仕組みを考えて生まれたのが、スイデンテラスです」
「ここで暮らすうち、地域の人にサイエンスパークを『自分ごと』として受け止めてもらい、サイエンスパークと地域が交流できる仕組みづくりが必要だと考えるようになりました。この広大な未整備地を使って、庄内をわざわざ訪れたくなる魅力ある場所にしようと構想したのが、スイデンテラスと児童施設『キッズドームソライ』です」

子どもたちの天性を重視し、個性を伸ばす「アソビバ+ツクルバ=ソライ」

スイデンテラスの隣にあるのが、児童遊戯施設キッズドームソライ。雪深い庄内地方の特性に合わせた全天候型のドーム形状で、設計はスイデンテラスと同じく坂 茂氏によるもの。大空間で体を動かして遊ぶことができる「アソビバ」と、子どものためのアトリエ「ツクルバ」からなり、一角にはサイエンスパーク内の企業が中心となった企業主導型保育所の園舎も入っている。
山形県産のスギやカラマツを使ったドーム状の大屋根が印象的な「キッズドームソライ」
山形県産のスギやカラマツを使ったドーム状の大屋根が印象的な「キッズドームソライ」
「アソビバの遊具の設計は、僕がスケッチしたものを元にデザインしてもらったものです。特定の遊具を置かないことにより、子どもたちが自由な発想で遊びを作り出す仕組みを考えました。もう一方のツクルバは、約1000種類の素材と約200種類の道具を置く、巨大なアトリエさながらの施設です」

ツクルバでは、工作、アート、クラフト、アクセサリー作り、木工、デジタル工作ができて、レーザーカッターや3Dプリンターも完備されているというから驚きだ。
登ったり、滑ったり、自由に遊べる傾斜が印象的な「アソビバ」。地元の木材を使用している
登ったり、滑ったり、自由に遊べる傾斜が印象的な「アソビバ」。地元の木材を使用している
「ツクルバ」では、地元企業の協力により、廃材や端材などの提供も受けているという
「ツクルバ」では、地元企業の協力により、廃材や端材などの提供も受けているという

次世代へ希望をつなぐ持続可能な農業を、庄内から

サイエンスパーク内で2つの施設を手掛ける一方、今ヤマガタデザインが最も注力しているのが、農業関連事業だ。

生産においては、ミックスベビーリーフ、ミニトマトを中心に、「IRODORI FARM」というブランドで地域の農協やスーパーに卸しを行っており、売れ行きも好調。スイデンテラスのレストランでも提供しているという。
味が濃いミックスベビーリーフは、地元の人気レストランなどにも卸し、好評を博しているのだとか
味が濃いミックスベビーリーフは、地元の人気レストランなどにも卸し、好評を博しているのだとか
「きっかけは、冬場にも提供できる地元産の野菜を作りたいと思ったことです。持続可能な農法を求めて、化学肥料や化学農薬に依存することなく地域の有機物の循環だけで土を作る『有機資源循環農法』によって生産しています。今後、ハウスや作物を増やしながら、2021年には収穫量1,000トンに到達するのを目標にしています」

生産だけでなく、人材育成にも力を入れている。鶴岡市でも深刻な農業人材の育成と確保を目的に、行政・JA・大学とヤマガタデザインが連携。2020年春には、有機農業と有機農業の経営に必要なすべてを学ぶ2年制の農業学校を開校する予定だという。また、水田の雑草を防ぐ自走式ロボットの開発など、有機農業のためのハードウエア開発にも挑戦中だ。

ヤマガタデザインの可能性を山形の人が広げてくれた

宿泊・料飲事業、子育て事業、農業のほか、地元に人材を集める人材紹介業など幅広い事業を手掛ける「ヤマガタデザイン」。2019年4月現在、正社員が52名、パート・アルバイトを入れると110名ほどを雇用する。ビジネスの規模もさることながら、正社員の半数はIターン、Uターンだというから、ヤマガタデザインの存在自体が移住検討要素となり、庄内地域の魅力を増幅させていることがうかがえる。

ヤマガタデザインの社員となる数少ない要件は「この場所に住むこと」だと山中氏。

「地元の企業40社が、弊社に出資してくださっています。社会課題の本質を現場でとらえ、その課題を解決するための合理的な事業をデザインし、地域が持続・自走する仕組みを創出することが僕たちのミッションです。そこには、“地方で生きる当事者”という認識が重要。地元の人たちが地域の未来のためにリスクをとって、本気でまちづくりに取り組んだら、誇張なしに何でもできると思います」
今後は漁業、林業、エネルギー事業に取り組むことを決定している。「すべて、庄内に必要なことです」
今後は漁業、林業、エネルギー事業に取り組むことを決定している。「すべて、庄内に必要なことです」
東京出身の山中氏は、「よそ者としてどう振る舞うかよりも、課題に対してどう向き合い、地域を良くする覚悟を持って継続できるか否かで地域の信頼を得られるかが決まる」と言う。なぜなら、この地域に「本当に必要なこと」は誰もノーと言えないからだ。課題の本質を捉えることができれば、誰とでも対等に会話できる。そういった事業をデザインするのがヤマガタデザインなのだ。

こうした「本物」たる行動を続けることで、協力者を地域の内外に増やしていく。事業を立ち上げて5年、理解者が非常に増えたと実感しているという。

「当初、『ヤマガタデザインは、サイエンスパークの14ヘクタールをなんとかするための箱だ』と地域の人たちに説明していたのですが、『そんな寂しいことを言うな』『君たちは庄内のまちづくり会社だ』などと言ってくれる人が出てきました。そう表現していただくと、それに応えたいと思うじゃないですか。事業を始めたころは、まさか自分たちが農業を手掛けるなんて思ってもみませんでした。僕らの価値を広げる表現をしてくれた、地域の人たちによって支えられているんです」

山中氏がいつも口にする言葉がある。「庄内を世界一幸せなまちにする」と。

「実はそれには下の句がありまして、『なぜなら自分が住んでいるから』。なんでも自分ごとでやるということ。地域を良くするという覚悟が“本物”たる所以になるのだと思っています」
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