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名門オーデマ ピゲの挑戦──
高級時計はジェンダーを超えられるか

2019.06.14 FRI
名門オーデマ ピゲの挑戦──高級時計はジェンダーを超えられるか

高級時計のデザインでは、この10年あまり「クラシックへの回帰」が最大のトレンドだ。毎年、過去の名作を忠実に復刻したモデルが登場し、人気を博している。しかし、2019年1月、このトレンドに真正面から挑戦する新作が登場した。名門オーデマ ピゲの26年ぶりとなる新コレクションだ。

Text by Yasuhito Shibuya
Photographs by S.I.H.H. Audemars Piguet, Yasuhito Shibuya

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古き良きデザインは時代を超えて

どんなカテゴリーであれ、時を経てもなお色褪せない価値をもつものがある。音楽の世界では、たとえばクラシックや、1950年代〜60年代に流行したポピュラー音楽、オールディーズと呼ばれるジャンルがその一例だ。それらは、時代を超えて多くの人に愛され続けている。

高級時計に目を向けると、特にデザインに関しては、オールディーズと同年代への回帰が最大にして最強のトレンドだ。音楽同様に時計の世界でも、1950年代〜60年代にかけて名作が続々と登場した。そのスタイルやサイズが最新の技術で復刻され、過去の名作を知る時計愛好家はもちろん、初めて目にした人々をも魅了し、大きな成功を収めている。

世界を驚かせた26年ぶりの新コレクション

しかし、2019年1月にスイス・ジュネーブで開催されたS.I.H.H.(サロン・インターナショナル・オート・オルロジュリ)で、こうした過去のデザインへ回帰するトレンドとは正反対の、まったく新しいデザインをまとった腕時計が登場した。名門オーデマ ピゲが、実に26年ぶりに発表した新コレクション「CODE 11.59(コード イレブン フィフティーナイン)バイ オーデマ ピゲ」だ。
左からクロノグラフ、スケルトンのトゥールビヨンモデル、トゥールビヨンモデル、オートマティック(自動巻き)3針モデル
左からクロノグラフ、スケルトンのトゥールビヨンモデル、トゥールビヨンモデル、オートマティック(自動巻き)3針モデル
たとえばケースサイズ。昔のように小さめのサイズが主流になっており、メンズではかつて一般的だった直径36mmサイズに回帰するモデルもある。レディースでは30mm以下のモデルも珍しくない。一方、今回の新作は41mmのケースサイズが採用されたのだ。

この新作に、世界中からジュネーブに集まった時計ジャーナリスト、バイヤーたちは当惑し、ネット上も含めて、賛否両論、侃々諤々の議論が巻き起こった。

「男女兼用で41mmというのは、今どきあり得ないサイズだ」、「ケースから浮かせた、あんな奇妙なデザインのラグ(ケース上下のベルトやブレスレットを結合する部分)は前代未聞だ」、「横から見ると文字盤が歪んで見える、デュアルカーブの風防をなぜ採用するのか、まったく理解できない」といった声があがったのだ。

ちなみに、新コレクションのラインナップは、同社が得意とする複雑時計のトゥールビヨンモデルから、クロノグラフ、シンプルなオートマティック(自動巻き)の3針モデルまで、全13リファレンス。ケースはピンクゴールド、あるいはホワイトゴールド製。価格はクロノグラフが445万円、3針が280万円(いずれも税別)と、オーデマ ピゲとしては特に高価なわけではない。(ちなみに複雑時計の価格は要問合せ、となっている。)

時計界の前衛としてのオーデマ ピゲ

冒頭でも述べたが、オーデマ ピゲはスイス時計の世界では名門中の名門。だが、伝統に安住することなく大胆な挑戦を繰り返してきた前衛的な存在でもある。その好例が1972年に発表された「ロイヤル オーク」。高級時計で初めてステンレススティールをケースやブレスレットに採用した同モデル。今日では一般的となったラグジュアリー・スポーツウォッチの元祖ともいえる存在であり、世代を超えた人気を誇る。

だが、ロイヤル オークも発表当初の評価は散々なものだった。“高級時計=ゴールドケース”という常識に、真っ向から挑戦したからだ。それでもオーデマ ピゲはこのモデルを作り続け、今では誰もが憧れる、時計史に残る名作に育て上げた。

同社のこのチャレンジ精神は当時も現在も変わらない。しばらく前から掲げているタグラインは、「TO BREAK THE RULES, YOU MUST FIRST MASTER THEM.(型を極める。型を壊すために)」。既存のルールを壊し、新しい世界を提示することを表している。オーデマ ピゲは昔も今も、時計界の前衛であり改革者なのだ。

時計界初の「ジェンダーレス」ウォッチ!?

ケースはピンクゴールド、ホワイトゴールドの2種類となる
ケースはピンクゴールド、ホワイトゴールドの2種類となる
実は筆者も、この新作に当惑したジャーナリストの一人だ。しかし、プレスカンファレンスに出席し、同社のフランソワ−アンリ・ベナミアスCEOによるプレゼンテーションを受け、さらに時計の実物に触れて、当惑は驚きに変わった。

プレゼンテーションで、他の時計ジャーナリストがどう感じたかは分からない。だが映し出された映像と、CEOのスピーチから伝わるメッセージは、筆者にとっては明快だった。
オーデマ ピゲのフランソワ−アンリ・ベナミアスCEO。アルマーニなどを経て2013年から現職
オーデマ ピゲのフランソワ−アンリ・ベナミアスCEO。アルマーニなどを経て2013年から現職
「この腕時計は新しい“コンテンポラリー・クラシック”ともいえるモデルです。直径41mmのサイズですが、革新的な構造のケースとラグにより、男女を問わず誰もが快適に着けられます。

「モデル名の11.59という数字は、新しい日が、新しい時間が始まるまさにその直前を意味しています。この時計から、我々の新しい時計の歴史が、皆さんの新しい歴史がスタートするのです」。ベナミアス氏は力強くこう語った。

さらに同席するスタッフから、出席者を驚かせる衝撃的な発表が続いた。

「このコレクションは従来の『ジュール オーデマ』コレクションに代わるものです。つまりジュール オーデマ コレクションは製品ラインナップから姿を消すことになります」

ジュール オーデマは、オーデマ ピゲの中でも最もクラシックな、まさに同社の“オールディーズ”に相当するコレクションだ。オーデマ ピゲはこの新作で、自身の“オールディーズ”なデザインを自ら封印したのである。これは今の時計界では驚くべき、常識破りの挑戦だ。

それにしても、オーデマ ピゲはこのコレクションで、なぜケースのサイズを直径41mmのワンサイズにしたのだろうか。これはフランソワ−アンリ・ベナミアスCEOが時計業界に入る以前、ファッションの世界で活躍してきたことを考えれば理解できる。

ファッションの世界では今、男女というジェンダー(性差)を前提にしてデザインしない「ジェンダーレス化」が、大きなトレンドになっている。男女でコレクションを分けることの是非すら議論されるほどだ。

ケース径41mmで、男女を問わず着けられる腕時計。これは、時計業界に身を置く人にはない発想だろう。彼がCEOとして初めて発表したこのコレクション「CODE 11.59バイ オーデマ ピゲ」は、おそらく、高級時計の世界で史上初めてジェンダーを超えるというコンセプトで企画された、「時計界初のジェンダーレス」ウォッチなのである。
デュアルカーブするサファイアクリスタル風防(左)と、ケースからフローティングマウントされたこのラグ(右)が特徴
デュアルカーブするサファイアクリスタル風防(左)と、ケースからフローティングマウントされたこのラグ(右)が特徴
そう考えると、デュアルカーブを持つサファイアクリスタルの風防を採用したことも納得できる。正面から見る限り、文字盤はごく普通で時刻も読み取りやすい。だが時計を斜めに傾けた瞬間、ドラマが起こる。文字盤と風防の間で光が反射しながら、時計全体がジュエリーのように煌めくのだ。現代の腕時計は“時を知る道具”ではなく、“時を輝かせるアクセサリー”だ。

とはいえ、オーデマ ピゲはこの新作が「ジェンダーレスなアクセサリーである」とまでは明言していない。これはあくまで筆者の個人的な見解だ。

だがこの時計を知れば知るほど、確信は深まるばかりだ。
あなたは賛否、どちらだろうか。
BREAK THE RULES by Audemars Piguet
なおこのコレクションの世界観は、日本で制作した最新式のプロジェクションマッピングによるデジタルアートで体験できる(同社の特設サイト「BREAK THE RULES by Audemars Piguet」URL:www.breaktherules-ap.com/ から予約可能)。これも時計界では過去に例のない試みだ。

オーデマ ピゲ
https://www.audemarspiguet.com/ja/
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